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賃貸目的物の所有権の譲渡

は、A所有の土地(以下、「本件土地」という)を、2001年5月、建物の所有目的で期間を30年として普通建物で賃借し、翌年5月に木造3階建ての家屋(以下、「本件建物」という)を建築し、Bの子Dとともに本件建物に入居した。2005年4月、Bの転勤によりDは本件建物に引越してしまい、その後BはCに本件建物を定期借地権により賃貸したが、2015年4月に賃貸借期間が満了し、再びBとDは本件建物に居住し、現在に至っている。2021年5月、AはCとの間で本件土地の売買契約を締結し、翌月にCへの移転登記が完了した。下記の設問に答えなさい。なお、各設問はそれぞれ独立している。(1) Bは、本件建物に入居後間もないころAを訪ね、あるいは長く生きられないかもしれないと思い、この建物の借地権の名義をD名義にしてしまおうと考え、2002年6月、Dに無断で本件建物のD名義の保存登記を行った。その借地権はDに帰属する。今日に至るまで、本件建物はD名義のままである。2021年11月、CがBに対し建物収去土地明渡しを求めたが、認められるか。(2) Bは本件建物に登記をしないまま今日に至っている。他方で、Cは本件土地を自己使用ではなく賃料収入目的でBより購入し、売買契約とともにAとの間で賃貸人の地位を移転する合意をしている。なお、この合意からCへの賃貸人の地位の移転についてBから承諾を得ていない。2021年7月、CはBに対し同月分の賃料の支払を求めたが、認められるか。また、Bが2021年4月分の賃料をAに支払ったが、Bの求めにより未払であったことから、Cはこの間に合わせて同月分の賃料の支払も求めたが、認められるか。●参考判例●① 最判昭和41・4・27民集20巻4号870頁② 最判昭和46・4・23民集25巻3号388頁③ 最判昭和49・3・19民集28巻2号325頁●判例●1 不動産賃貸借の対抗力小問(1)において、Aから本件土地の所有権を譲り受けたCは、その所有権に基づいて、物権的請求権の1つである返還請求権としてDに建物収去土地明渡請求を行っている。これに対して、土地の賃借人であるBは、いかなる場合にこの請求を拒否し、本件土地の利用を継続することができるのかが問題となる。賃貸借は債権であって、賃貸借の第三者には対抗することができないのが原則であるため、賃借人は新所有者に対し借地権を主張することができず、所有権に基づく返還請求を拒否することはできないはずである(売買は賃貸借を破る)。民法は、土地の賃貸借については、賃借権の登記をすることより、第三者に対抗することができることを定めている(605条)。しかし、実際にはこの登記はほとんど行われなかった。登記の申請は当事者が共同で行わなければならず(不動産登記法60条)、登記されることで賃借権が物権となって第三者に対抗されることは自己に協力しないであろう。にもかかわらず、建物の所有権を有する賃借人が自己の請求権を放棄するものとみなせる(604条)。賃借権は債権であるため、賃貸人は賃貸人に対し登記の協力は求められないと考えるべきだからである。そこで、賃借人が土地の所有者の協力がなくても賃借権に対抗力を得ることができるように、借地権について登記をした建物を有する場合にはこれを第三者に対抗することができるようになっている(借地借家法10条1項)。この登記があれば、賃借権の登記とは異なり、賃貸借の内容は明らかとならない。それでも、借地権に対抗力を認めているのは、建物の土地所有者とは別人であることがわかれば、その人が建物を所有することができる権能を有することを確認することができるからである。そして、不動産の譲受人が所有権移転登記を経由する際に、賃借人がこうした対抗要件を備えていれば、賃借権は対抗力を有し、賃貸人の地位も移転し、旧所有者との間で賃貸借契約が成立することになる。2 他人名義の建物登記による借地権の対抗力それでは、賃借人が他人名義に家屋の建物を登記した場合も借地借家法10条1項の「登記している建物を所有する」にあたり、借地権には対抗力が認められるか。借地権の対抗力を認めるには不動産登記法の要請がある一方で、借地権の対象である土地取引の安全を図る要請もあり、どのような場合にまでこの登記に当たるとするかは、両要請の調整の問題である。参考判例①は次の理由から他人名義の建物登記の対抗力を認めない。建物が①登記名義人に借地権を認めるのは、土地取引における第三者への登記による公示機能と相応すること②登記名義人が対抗力を有する。他人名義の建物登記をすることで第三者に賃借権は対抗力を有する。他人名義の建物登記では取引上の第三者には到底判別困難(借地権者)を期しえず、このような場合にまで対抗力を認めれば第三者の利益を害することになる。また、他人名義の登記は真実の権利状態と符合しない対抗力の弱い登記であり、対抗力を生じないのである。このうち建物登記が実態と異なっている場合については、一方で、登記簿により公示する土地の譲受人を保護すべきではじめて、借地権を対抗されても仕方がないといえる公示の要請もあり、判例はCの立場に沿うものといえる。不動産登記法の要求が満たされていなければこの第三者の保護の安全を守るためであり、この公示の原則からすれば、この登記に対抗力は認められないのである。しかし、参考判例②は不動産賃貸借登記の対抗力の要件である、他人名義の建物の登記を見ても建物の実際の所有者が借地権を有することを推測することはできないため、この借地権がないものと扱ってよいと考えるのである。本判決の立場はその後も維持され、判例として確立しているが、学説の多くはこれに対し、建物の登記名義が同居の家族名義の場合などにおいても借地権に対抗力を認めないとするのが有力であるが、こうした見解もまた、土地の取引の安全との考慮は登記記録に頼るべきだけでなく、現場も調査すべきとする見解に立つと考えられる。土地取引に入ろうとする者が現場を調査すれば、土地所有者以外の者が居住し、建物の所有権の帰属を、たとえその登記名義人が他人名義であったとしても、借地権のいずれの者が所有であったかの存否を推測することはできる。そのため、借地権を対抗されても取引の安全を害することにはならないと考えるのである。小問(1)において、Bは同居の家族とはいえいまだ未成年であるDの名義で建物登記を行っていたため、判例によれば、Bの借地権に対抗力は認められないことになる。ただし、事例によってはCの土地譲渡が権利濫用として認められないこともありうる。例えば、Cが本件土地をBの借地権付としてでなく購入しておきながら、建物登記がD名義であることを奇貨とし、Bを追い出して不当な利得を得ようとする場合にまで対抗できるか(借地権自体が消滅しない点に注意が必要)。最判昭和43・9・3民集22巻9号1871頁)。なお、もしBがCに建物を明け渡す場合にはD名義の登記を抹消したのちにおそらくCに建物を収去土地明渡請求は認められないであろう。D名義の登記はおそらく所有者のBの支配下にあるからDに本件建物を明け渡してもらう、賃借権が対抗要件を備えたことになるため、たとえD名義であっても、同居の家族間であれば借地権の対抗力を認めても差し支えないと解される。3 不動産賃貸人の地位の移転小問(2)において、この土地の所有権とともに賃貸人の地位も譲り受け、賃貸人としてはこの土地に表示されている登記に依拠して賃料を求めている。これに対し、Bは相手方である賃貸人の地位の移転について承諾をしていないため、Cの賃貸人であるBに賃料の支払を拒絶することができると考えられる。その上で、CはBに賃料の支払を求めることができるか。また、賃料を支払うためには、土地取引の安全からすれば、賃借人に不利益とならない限りは、土地所有権の移転に伴い賃貸人の地位も当然に移転し、債務者が交代することになり(免責的債務引受)、旧債務が消滅して履行されるかどうか分からなくなってしまうため、相手方の承諾が必要となるとみられる。ところで、上記のように不動産賃貸借において賃貸人が対抗要件を備えれば、不動産が譲渡されると、その所有権に伴って当然に賃貸人の地位も譲受人に承継され、その結果、譲受人が新賃貸人となり旧所有者は賃貸借関係から離脱する(605条の2第1項)。この場合に、譲受人が新賃貸人になるため、譲受人の承諾が必要かどうかは問題となる。これに対し、譲受人は、賃借人の同意なくして賃貸人の地位を承継させられることはできない。したがって、承諾ある転貸の場合には、賃貸借契約から生じる債務の履行を引き受けることを承諾することになる。なお、相手方の承諾は不要である(605条の3)ので、なお、債務引受人が目的物を使用収益させるなどの債務があるため、債権者である賃借人との間でその意思が大きく関わるものである。このため、免責的債務引受、とりわけ目的物が土地である場合には特に、加えて、賃貸人にとっても譲受人の資力が新しい所有者になる場合には特に、債務者が存する場合には特に、賃借人が誰に債務を弁済するかは問題になる。4 新しい不動産賃貸人の権利行使の要件不動産の譲受人が賃貸人として承継する賃貸借契約の内容は元のそれと同じものである。そして、賃借人が対抗要件を備えていれば、賃借人の賃料の支払の義務の不履行などがない場合に、賃貸借契約に基づいて賃借人に対して対抗しうる地位にある。賃借権に対抗力があるために賃貸人の地位が当然に譲受人に移転した場合でも、譲渡の前後で重複する期間の賃料の支払義務も生じ、その義務も当然に譲受人に移転するのかが問題となる。賃借人の利益を害することがないように、賃貸人の地位は譲渡の時点で当然に譲受人に承継される。ところで、参考判例②が「賃料は、賃借人の側で譲渡の時点で発生している債務であるから、賃借人に不利益を及ぼさない限りは、譲渡の時点で当然に承継される」と判示しており、二重払いの危険を負わせることがないように、賃貸人の地位の譲渡の事実を賃借人に通知しなければ対抗できないとする(605条の2第3項、参考判例③)。判例は、2017年の民法(債権法)改正をうけて明文化したものである。本問のケースでは、新所有者になったCは、Bに対して通知をしていないため、BはCに対して賃料の支払義務を負わないことになる。はもち払う必要はない。ところで、参考判例①は、譲渡の通知は対抗要件(177条の対抗要件)ではないため、所有権移転登記を備えれば、通知がなくとも、賃貸人の地位の移転を賃借人に対抗できると考えている。これに対し、参考判例②は、賃貸人の地位の移転は、賃借人の承諾を要しない免責的債務引受であるから、賃借人に対し、通知をしなければ対抗できない(最判昭和43・12・20民集22巻13号3201頁)と判示している。こうして、新しい賃借人は所有権移転登記をすることで賃料請求権を行使できるようになるが、目的不動産の所有権を移転した登記をすれば賃借人に対抗できることになり、これまでの賃借人と新しい賃借人との関係でも、Cの賃貸借は元の賃借人のものと比べて同じく帰属し、賃貸借契約関係から離脱しており、これが果たして当然に新しい賃借人に帰属しない。これに対し、これを是認すると譲受人の新しい賃借人となるについて、小問(2)において、AはCとの間で賃貸人の地位を譲渡する旨の合意がある。これに対し、譲受人の承諾は必要ないとするのが判例である。したがって、小問(2)において、CはBにこれを通知することによって、元の賃借人との間で賃貸借関係から離脱し、新しい賃借人としてCはBにこれを通知することによって、元の賃借人との間で賃貸借関係から離脱し、新しい賃借人として他方で、賃貸人の譲渡について、新しい賃借人は必要費および有益費の償還請求権(605条の2第4項)、これらについては、賃貸人が支出した償還請求権も当然に譲受人に移転するのか、それともこれは元の賃借人に帰属したままであるか問題となる。小問(2)の場合には、CはBにこれを通知することによって、元の賃借人との間で賃貸借関係から離脱し、新しい賃借人としてCはBにこれを通知することによって、元の賃借人との間で賃貸借関係から離脱し、新しい賃借人としてなお、賃借権が対抗要件を備えていれば、賃借人の承諾を要しない免責的債務引受であるから、賃借人に対し、通知をしなければ対抗できない(最判昭和43・12・20民集22巻13号3201頁)と判示している。◆関連問題◆(1) 本問において、Bは、本件土地の賃貸借契約締結の際にAに敷金として500万円を交付した。また、本件建物について、2002年6月に、B名義の保存登記をした。その後、2021年5月に、Bは本件土地の賃貸借契約を合意解除したが、明渡しをするに際して、同年5月、本件土地はCに譲渡された。(2) 本問において、Bは、本件土地の賃貸借契約締結の際にAに敷金として500万円を交付した。その後、2021年5月、本件土地を売却するに際して、同年6月、AはBに、隣人の土地を購入するのに、本件土地を担保に融資することを画策し、その結果、Dが暫定的に本件土地をAに譲渡することに合意したため、2021年6月にはAとCとの間で売買契約を締結した。これ以降、Bは誰に賃料を支払えばよいか。また、2021年5月に、本件土地の賃貸借契約が期間満了により終了した場合に、Bは誰に対し、敷金の返還を求めればよいか。●参考文献●*判例時報『不動産取引法』(日本評論社:2011)217頁/廣田編集『新基本法コンメンタール借地借家法』(日本評論社:2020)200頁/窪田充見『民法(債権関係)改正法の概要と要点』(有斐閣:2020)120頁/中田=契約法(START UP)(有斐閣:2017)30頁/中原太郎『賃貸借契約における敷金返還債務の承継』(START UP)(有斐閣:2017)103頁/石田= (都筑満雄)