不動産譲渡担保①
Aは、その所有する甲土地およびその上の乙建物において印刷業を営んでいたが、金融会社Bから、利率を月1.2パーセントづつ月末に支払い、元本の返済期限を2年後とする条件で、1000万円を借り受ける契約を結んだ。かかる契約後にただちに、AはBから1000万円の全額を領収した。他方で、Aは上記の契約と同時に、Bに対して負担する金銭債務を担保するために甲土地および乙建物をBに譲渡するという契約を結び、ただちにそれぞれに関してAからBへの所有権移転登記が経由された。この契約では、①AからBへの支払・返済が滞らない限り、Aはなお甲土地および乙建物を占有・使用することができる旨、②AがBに対する金銭債務をすべて弁済すれば、Bは上記の所有権移転登記の抹消に協力する旨、および③AからBへの支払・返済が滞る場合には、Bはただちに甲土地および乙建物の所有権をもってAに対する金銭債務の満足に充てることができる旨が約された。その後、AはBとの約定のとおりにその債務をすべて弁済した。ところが、資金繰りに困ったBは、Aから返済を受けたにもかかわらず、甲土地および乙建物をCに1200万円で売却し、それぞれに関してBからCへの所有権移転登記が経由されてしまった。そこで、AはCに対してその抹消登記手続を請求した。この請求は認められるか。●解説●1. 譲渡担保の意義と法的構成本問においては、Aがその所有権をBに譲渡しているが、これはあくまでBのAに対する債権を担保するためになされている。このように債権の担保のために財産を譲渡することを譲渡担保という。(1) 判例の見解本問のように、債権者が弁済を受けたにもかかわらず、第三者との間に譲渡したケースについて、判例は、譲渡担保権者と第三者との関係につき、第三者に対抗しえないと解している。(2) 学説学説においては、譲渡担保権設定者に物権的権利が留保されるという立場が有力である。とりわけ、債権者が担保権しか取得しないという立場に立てば、もともと所有者はAであり、Bのした担保権を被担保債権の消滅とともに消滅する以上(付合性)、Cは原則として所有権を取得し得ないことになる。また、一応債権者に所有権が移転されるものの、設定者には弁済によって所有権を回復しうるという立場に立てば、もともと所有権はBに移転されるものの、なお第三者に対抗できる。2. 当事者の実質的判断と第三者の取引の安全譲渡担保の法的構成いかんによって、設定者と第三者とのいずれが保護されるかに違いが生じる。それぞれについて、その例外は認められる。設定者に物権的権利が残らないという立場からは、設定者が登記によって自己の物的権利を主張しうる。しかし、このような事情を立法で具体的に負担であり、その意味では、譲渡担保の法的構成をどう捉えるかは、設定者と第三者との利益のいずれをより重視するか、ということになる。そして、近時の判例の多数が譲渡担保を基礎にした第三者の取引の安全と設定者の利益のいずれにより重点を置くべきかという点については、比較衡量にまつわる問題意識が表れている。●関連問題●本問において、AがBにC社などと取引し、利益を折半する約束をしていたが、Bがその約束を履行せず、その結果、Aの経営が悪化した場合に、AがBの債務不履行を理由に、AのBに対する損害賠償請求権をもって、Bに対する登記の抹消登記請求ができることを主張することができるか。●参考文献●安永正昭=「譲渡担保(2)物権」(有斐閣・1995)144頁道垣内弘人=「譲渡担保(2)物権」(有斐閣・1995)120頁古積健三郎=争点151頁水野謙=「譲渡担保(明田)から読み解く民法」(有斐閣・2017)179頁