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ネットトラブルの被害回復はほぼ不可能という現状

(1) 被害回復の実情と困難性本書の第一弾に当たる『インターネット・SNSトラブルの法務対応』において、繰り返し強調していたことであるが、ネットトラブル(本書では、ネットへの投稿で情報流出等を起因とする法的トラブルを一括して、こう呼ぶこととする)は、被害回復が非常に困難である。その理由の詳細は、本章で触れるが、要するに、加害者を見つけることは大変だし、見つけられても、「被害額に戻せ」とはいえず、金銭が請求できるだけである。加えて、その金銭も結局十分な金額ではなく、そして、しばしば勝訴判決は絵に描いた餅となる。『インターネット・SNSトラブルの法務対応』をお読みになった方の多くは、「ネットトラブルは、被害が大きいだけではなくて、起きてしまった後に解決することも大変である」と実感されたのではないかと思う。これは、まさに本書の企画のきっかけになった視点である。筆者の弁護士としての経験を踏まえると(これは他の事件についてもさる程いえることであるが)、ネットトラブルの被害者が、被害前の状態に回復する程度の賠償を得ることは非常に困難である。筆者は、ネットトラブルの加害者(なお、請求を受けているだけなので、必ずしも不法行為をしたと確定しているわけではない)側の弁護も多数行っているが、多くの事案で、「この賠償額(判決)だと、相手方は弁護士費用の回収もできていないだろう」と感じているというのが実情である。ネットトラブル予防の重要性と本書の内容被害回復が難しい以上は、予防をすることが重要である。本書では、ネットトラブルの予防法、具体的には、情報流出にはどのような原因があるか、誹謗中傷の早期発見、あるいは、それを誘発・炎上させないための心得、ルール作りについて解説する。また、ルールを作ることと守らせることは別の問題である。そこで、研修の実施方法やコツについても解説をする。なお、『インターネット・SNSトラブルの法務対応』でも触れたが、研修を実施すること、そして、その証拠を作ることは、裁判で「勝つ」ための武器にもなる。発生後は再発防止が重要になるが、その具体的な方策、加害者対応についても解説する。特に、情報漏えいと異なり、誹謗中傷であれば、社外に「加害者」がいる。インターネット上の誹謗中傷の加害者というのは、非常に取扱いの難しい存在である。気をつけないと、返り討ちに遭うことさえある。この点を踏まえて解説を行う。また、それに先立ち、本章では、ネットトラブルの予防の重要性を実感していただくために、被害回復が困難な理論的、実務的な問題を取り上げる。昨今、ネット上の誹謗中傷が話題になっているが、加害者の責任が強調される中で、あたかも、誹謗中傷の賠償金が容易に100万円、200万円といった金額に上るとの誤解も生じているようである。筆者は、相談を受ける中で、「報道にあったように、100万円くらいとれるのか?」と尋ねられることがしばしばある。また、同じような案件を取り扱う弁護士同士で情報交換をすると、やはり、そういう期待を抱く被害者が増えている、ということはよく話題に上る。もちろん、実際はそう簡単に100万円、200万円といった賠償金を得ることはできない。また、それ以前の問題(障害)も多数あるから、特に強調しておきたい。また、この視点、つまり被害回復の困難性について理解を深めることは、研修の実施においても重要かつ有益な視点である。人間、大変な問題であるということを実感しないと、真剣にはなれないからである。したがって、本書においては、あえて、予防法の中身に入る前に、この点について詳しく説明する。なぜ予防が大事なのか。それは被害が大きく、被害回復が困難だからであるが、それはどうしてなのか。理論上、さらには事実上の問題について解説したい。