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弁論主義

XはYに600万円貸したが、Yが弁済しないので、支払請求訴訟を提起した。Yは債務を弁済したと主張して争ったが、Aの証人尋問の結果、X・Y間の消費貸借契約は、Yの野球賭博の資金とすることを目的としており、そのことを両者が認識していたことが明らかになった。裁判所は、公序良俗違反を理由にX・Y間の契約を無効として、Xの請求を棄却することができるか。●参考判例●① 最判昭和36・4・27民集15巻4号901頁② 大判昭和13・3・30民集17巻578頁●解説●1 弁論主義の適用範囲弁論主義の第1テーゼによれば、裁判所は当事者の主張しない事実を判決の基礎とすることはできないが、通説によれば、これが適用される事実は主要事実である[→問題27]。主要事実は、訴訟物である権利の発生、変更、消滅という法律効果の判断に直接に必要な事実をいい(主要事実と間接事実の具体については、→問題29)、通常は法律要件事実と一致する。ただし、法律要件が、具体的事実ではなく、具体的事実に近づいてなされる一定の規範的評価を示す概念によって定められている場合がある。過失(民709条)、正当事由(借地借家28条)、権利濫用(民1条3項)、信義則(同条2項)、そして本問で問題となった公序良俗違反(同法90条)などがその例である。これらの規範的評価を含む概念は、一般条項ないしは規範的要件とよばれる。民法、公序良俗等を指し、過失、正当事由等はまとまらず、以下では、とくに断がない限り、このような広い意味で一般条項という文字を用いる。一般条項が問題となる場合に、弁論主義が適用され、その結果、当事者が主張しない限り裁判所が判断をすることのできない主要事実は、一般条項そのものであるのか、あるいは、それを基礎付ける具体的事実なのかが問題となる。これが問題となる具体的な場面としては以下のものが考えられる。第1に、当事者が一般条項を主張し、それを基礎付ける具体的事実をも主張している場合である。第2に、当事者が一般条項については主張しているにもかかわらず、それを基礎付ける具体的な事実を主張していない場合である。第1の場合で、一般条項も具体的も主張しているのであれば、当事者の主張の事実は存在するが、具体的まである場合も、ここに分類できる。第3に、当事者が具体的事実のみを主張しているが、上位概念である一般条項そのものについては主張していない場合である。そして、第4に、当事者が一般条項も具体的事実も主張していない場合である。いずれの場合においても、証拠調べの結果、一般条項を基礎付ける具体的事実の存在が明らかになったとして、裁判所が一般条項を認定することは弁論主義の第1テーゼに違反しないか。第1の場合には、主要事実=一般条項そのもののみの主張によっては、弁論主義違反はない。これに対して、第2、第3の場面においては、具体的事実を捉えるかによって結論が異なってくる。また、一般条項には公序良俗という強いものから弱いものまで、多様なものが含まれることを考えると、第3と第4の場面の扱いについては、一般条項の性質に応じた考慮が必要となる2 一般条項と主要事実一般条項が主要事実かという問題は、第2の場面を念頭に置いて論じられることが多い。通説を軸に考えてみよう。例えば、甲は自ら運転する自動車に対し乙がした行為に基づく損害賠償請求訴訟を提起し、運転者の過失を主張したとしよう。運転者が一定速度を超えて自転車をはねた行為があるときに運転者の結果、スピード違反はわかることであり、わからなかった場合は、相殺、スピード違反はわかる、わかることがあるであろうか。従来の通説は、一般条項そのものが主要事実であり、それを基礎付ける具体的事実を間接事実と解していた。この見解によれば、当事者は、過失の事実の主張をしていれば足り、スピード違反や脇見運転といった事実にすぎないので、当事者が主張していれば証拠調べの結果からこれらの事実を認定することは可能である。この見解によれば、上記のように、当事者がスピード違反の有無について主張・立証をしているにもかかわらず、当事者が脇見運転の事実を認めて過失を認定することも可能になる。当事者の訴訟活動とは無関係に裁判官の自由な裁量を与えることになる。そこで現在の通説は、主要事実は、裁判所の審理の対象となる、すなわち評価概念であるその存在を証明できるような具体的な事実でなければならず、証拠によって証明すべきは主要事実ではなく、それを基礎付ける具体的事実こそが主要事実であると解している。この見解によれば、当事者が主張していないわき見運転を認定し、過失があると評価することは認められない。一般条項を基礎付ける具体的事実こそ主要事実とよんで、公序良俗違反の扱いも同じではない。3 公益性の高い一般条項と主要事実本問で問題となった公序良俗違反も一般条項であり、現在の通説によれば、これを基礎付ける具体的事実が主要事実となり、弁論主義が適用される。すると、第2、第3の場面のように、当事者が具体的事実を主張していないときには、裁判所はこれを認定することができないことなりそうである。参考判例①も、「当事者が特に民法90条による無効の主張をしなくとも同条違反に該当する事実の陳述さえあれば、その有効無効の判断をなしうるものと解するを相当とする」としており、具体的事実に弁論主義が適用されると解しているように思われる。もっとも、多数説は、公序良俗違反や、権利濫用、信義則違反などについては、一般条項のうちとくに公益性が高いものであり、当事者の私的処分には委ねられていないため(一般条項の一般条項ともよばれる)、そもそも弁論主義が適用されないと指摘する。そうであると、証拠資料からこれらを基礎付ける事実を認定することができるのであれば、第4の場面のように、具体的事実についてすら当事者が主張していなくても、裁判所は一般条項を適用することまで認められる。しかしながら、この立場に立によると、当事者が具体的な事実をまったく主張していないにもかかわらず、一般条項を適用することが当事者の手続保障を害することにならないかが問題となる。例えば、公序良俗違反等を理由とする事件について相手方当事者の争う機会を奪う結果になるからである。そのため、公序良俗違反を基礎付ける事実が証拠などから出ている場合には、裁判所は釈明して、当事者による事実の主張や法的評価を促すべきであるとしつつ、当事者が釈明に応じなくても事実を認定することができるという考え方もある。また、このような種類の一般条項についても、原則としてそれを基礎付ける事実について弁論主義が適用され、当事者が主張しない場合には裁判官が釈明すべきであるとし、当事者がこれに応じなければ事実認定できないという見解や、公益に関わる公序良俗違反については弁論主義の適用は排除され、具体的事実の主張は不要だが、当事者の保護を目的とした公序良俗違反については適用が認められ、具体的事実の主張は必要であるであるという見解も主張されている。また、狭義の一般条項のうち、当事者の利益保護を目的とする権利濫用や信義則については、原則どおり、基礎となる具体的事実が弁論主義が適用されるという見解もあり、狭義の一般条項全体について、公益性の強弱に応じた個別的検討が必要という見解もみられる。(2) 本問の扱い本問で問題となった公序良俗違反は、公益性の強い一般条項であり、主要事実はこれを基礎付ける具体的な事実である。したがって、Xが公序良俗違反を主張していなくとも、これを基礎付ける具体的事実を主張している場合には、裁判所は証拠調べの結果、公序良俗違反を認定して売買契約を無効とする判断をすることはできる。仮に、Xが具体的事実の陳述もない場合、あるいは、主張した具体的事実が公序良俗違反を認定するに足りない場合であっても、Aの証人尋問の結果公序良俗違反を認めることができるので、この場合にも公序良俗違反を認定できるかどうかについては、上記のように見解は分かれているが、多数説によれば、認定できることになろう。●参考文献●大澤しのぶ・百選94頁 / 山本和彦「狭義の一般条項と弁論主義の適用」広中俊雄先生古稀祝賀・民事法秩序の生成と展開』(創文社・1996)67頁(杉山悦子)