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根保証

A会社(以下、「A」という)は「甲弁当」の名で配達と持帰りを中心とした弁当の生産・販売を業とする会社であり、その調理に際して、弁当を生産するための食材を仕入れるためにB会社(以下、「B」という)と食材の供給を受ける基本契約を締結した(2024年4月)。その際に、BはAが代金を支払わないときのために、継続的に供給される食材の代金の支払のために保証人を2人立てることを求めたことから、Aの経営者である代表取締役Cは、Bと連帯保証人となるとともに、地元でスナックを経営している友人Dに依頼をして連帯保証人になってもらった(書面あり、また、民法465条の10の情報の提供も適切になされている)。B・C間の連帯保証契約は、A・B間の食材の供給によって生じる代金債務を、保証期間を定めずしかも保証の限度額なしに連帯保証するものであった。Dは、Dがスナックの常連であることもあり、Cに頼まれCに同行して連帯保証人になったのであった。B・D間の連帯保証契約は、保証期間の定めはないが、1000万円の極度額が定められている。Bとの取引が開始して1年間は、Aの営業は順調であったが、2025年10月に、Aが新たに支店を開きそこでの食材をBに注文をするようになり、A・B間の取引量がそれ以前の2倍になった。その後、競合する弁当店の相次ぐ出店、Aの実績が次期に悪化していった。そのため、Cは増資を受け入れるためにキアラから金を借りた。Aの代金の支払債務が目標に、2025年12月頃から次第にBへの代金の支払が滞りがちになっていった。AのBへの代金債務(月曜日が休日の場合には翌日)にBの口座に振り込むことになっていたが、2026年2月末にCはBに資金を工面しますので決済期を至急してほしいと伝達するようになった。しかし、同年9月頃から再び代金の支払が滞るようになり、Bは保証しないでいるのでというCと保証人外のDから何回も言われ続けた。両者の確執が続いていたにもかかわらず取引を継続してきた。しかし、過去の一部代金分が思い出されたように振り込まれるという状況になり、Bは、Aに対して、このまま代金の支払遅滞の続くようでは食材の供給はストップせざるをえないと通知し、この措置によりその取引も継続し、2027年2月末には未払代金総額が700万円にまで達していた。2027年3月からは、BはAへの食材の提供を停止したため、店を閉めたものと再開できていない。Bは、同年4月にA・C・Dに対して未払代金700万円と遅延損害金の支払を求める訴訟を提起した。Bの請求は認められるか。本問の検討に際しては、①Dの保証債務は既に消滅している(2026年10月に、Bに対して保証人としての辞任したい旨の申入れをしたが、Bがこれを拒絶していた場合)、②A・B間の供給契約に既に2年間の約定があったが、これが更新されて上記のような状況に至っている場合、および、同年11月分のBのAに対する金員債権のうち100万円分を、BがCにより偶発的に譲渡されている場合を備えよ(AではEのA・G・Cに対する請求)。参考判例① 大判大正14・10・28民集4巻656頁② 大判昭9・2・27民集13巻215頁③ 最判昭39・12・18民集18巻10号2179頁④ 最判平成9・11・13判時1633号61頁⑤ 最判平成24・12・14民集66巻12号3559頁序説1. 根保証(継続的保証)の意義と民法の適用範囲(1) 根保証(継続的保証)の意義根保証条文はないものの、個人の債務ごとに対する個別保証に対し、根抵当権の版のように、主たる債務を一定の基準で定めるところ将来の不特定多数の債務を保証する場合も、継続的保証と呼ばれてきた。②目的、民法465条の2において、根保証契約という用語が正式に採用されている(民法465条の2の用語の定義)。根保証契約、このようないわゆる「個人根保証」において定められている限定根保証と、このような限定のない本問のような事例の包括根保証とがある。狭義の根保証と継続的保証の区別については5で説明する。(2) 2004年民法改正および2017年民法改正根保証については、2004年の民法改正により貸金等の個人根保証について規制が設けられている(旧465条の3以下)。しかも、同法改正にあっては、必ずしも貸金等債務についてのみこの新保証が適用されず、同じ信用保証でありながら、本問のような売買代金債権の根保証については適用されず、従来の判例法理が適用されることになっていた。このような問題は合理的でなく、2004年民法改正に際して最高裁判所の付随決議により貸金等債務以外の個人根保証についても、そのための2017年民法改正に際しては、民法465条の2以下をすべての個人根保証へと拡大することが意図されていたが、実現された拡大は部分的なものにとどまっている。2. 根保証人の責任の範囲(1) 包括根保証禁止2004年民法改正では貸金等根保証については、包括根保証は禁止された(旧465条の2第2項)。本問の事案は貸金等根保証ではないのでその適用がなく、したがって包括根保証も有効であった。しかし、2017年民法改正により、民法465条の2の適用は「個人根保証」一般にまで拡がった。そのため、2017年民法改正法の施行期日である2020年4月1日以降の本問事例には民法465条の2の適用になり、保証極度額を定めていないCの根保証契約は無効になる。判例も経営者を例外としていない(法人格の否認の法理が適用される事例は例外を含めない)。Dの根保証には1000万円の極度額が定まっているので、たとえこれ以上には主たる債務の額が嵩んでも、保証契約は有効となる。(2) 信義則による責任制限(③の場合その1)限定保証の場合には、本問のように1000万円と極度額が決められているため、これ以外に特別の措置は不要と考えるのであろうか。しかし、極度額が1000万円程度であればそのような考え方になるが、もし、スナック経営者にとって、1000万円はかなりの金額であろうか。しかし、極度額がない場合と同様に責任を制限すると解することもできないであろう。中間的な解決として、信義則による責任制限を求める余地はある。その際に本問で考慮されるべき事情として、2点ある。まず、A・B間の取引量が、Dが保証契約をした当初の2倍になっている。その①に、おいて、Bは、Aの信用不安を危惧しないこと、および、②Bは、Aの信用不安が生じた後にも、これを断りつつ、保証人からはずればいいと考え、保証人の情誼を逆手にとってこれに安易に取引を継続したことである。情誼的保証人に対して本来自己が負うべき債権回収のリスクを課す。そうした事情のある場合にも、信義則は保証人に対して保証の限度額を認めるべきとの考慮があるべきである。保証人の責任を認めるには、700万円を限度額の範囲内として全部の責任を認めるのは酷であり、保証契約には信義則上の考慮があるべきである。相応の責任を認める場合その23. 根保証人の終了権の有無その2)包括根保証契約は主債務を発生させる基本契約が存続する限りいつまでも存続し、根保証人が拘束されるというのは酷である。そのため、判例・学説は、相当期間経過を理由とする解除を認め、保証人は一定の予告期間をおいて自由に根保証契約を解約することができる(参考判例①)。特別の解約権の認められる原因について、信義則に根拠を求める見解もある。保証人の主債務者に対する信頼関係が害されるに至った保証人として解約権を入れき相当の理由がある場合においては、右解約により相手方が信義則上看過しえない損失をこうむることなどの特段の事情がある場合を除き、一方的にこれを解約しうる」と述べている。これまで判例により特段の解約権が認められているのは、①主たる債務者の信用不安の際に、②主たる債務者による保証人に対する背信的行為が認められたとき、③主たる債務者の地位の相続など保証人が予期しなかった事情が生じたとき、④保証人が保証契約締結の際に予想しなかったほどに保証人の責任が拡大するおそれがあるとき、⑤その他保証の継続を不当とするような事情が生じたときである。Dは、①②③④⑤のいずれかにより保証契約を解約できるであろう。そのいずれであるかにより、保証契約の効力がいつの時点で消滅するかが問題となり、したがって保証人が責任を負うべき元本の範囲も異なってくる。4. 基本契約の期間の定めと保証契約(1) 期間の定めがない場合本問におけるDの根保証契約は期間が定まっていない。民法465条の3第2項は、貸金等根保証契約に、確定日を定めないと3年経過の満了で確定することになっている。この規定は2017年民法改正で個人保証一般に拡大されなかった規定である。当初、すべての個人根保証への適用拡大が意図されていたが、貸金等債権とは異なり、賃貸借契約の保証人には、保証人がいなくなったらといった不都合な事情が生じるからである。この結果、本問は貸金等債務ではないので、上記規定は適用にならず、期間の定めのない根保証も有効になる。また、5年を超える保証期間を定めても有効である。これは、極度額の適用が拡大されたのでその保護だけでよいと考えられたためである。(2) 基本的取引の期間の定めと更新ところが、A・B間の取引契約は2年という期間が定まっていないが、その基本たるA・B間の取引契約の期間が定まっていない。このことをどう評価すべきであろうか。この点、保証契約は、更新後の契約について保証人には責任がないものとされが(大判昭9・6・9大阪高判民集8巻42頁)、賃貸借契約の保証について、工事請負契約が更新されて契約更新後の保証について保証人は責任を負わないと判決が出されている(最判平成9・11・13判時1633号61頁)。正当事由制度が更新後の契約について保証人には責任を負わない。しかし、何か月か後に更新されることが普通と予定され、保証人もそれを覚悟しているという解釈が根強い。本問でも同様に考える余地がある。原則として、Dは更新後の債務について責任を負わず、現在の700万円の遅延している全債務について責任を負うことはないが、特段の事情をBが証明できれば更新後の債務についてDの責任が認められることになる。5. 根保証債権の取立権能⑥の場合には、未払代金債権700万円のうち、元本請求ができるのは100万円がBに譲渡されている。Bの債権者Aによる元本請求ができるのは当然であるが、根保証人Dに対しては契約しており、これが保証契約の範囲内でありうるか、これをどのように評価すべきかという根保証契約の解釈が問題となる(関連問題参照)。⑦まず、継続的契約関係にあることの保証債務であるので、主債務の成立に付随するものに対する契約を成立させることを目的とする継続的保証契約(根抵当権型)、この債務が履行されれば保証債務も随伴し、Bは保証人Dに保証債務の履行を請求できる。この場合も、契約の範囲内においてのみこの債務を保証できる(根抵当権型)、確定という概念を導入し、将来の確定の時期までを保証するにとどまる。確定という概念は裁判上認められていないので、根保証契約には適用されない。本問では、Bは保証人Dに保証債務の履行請求できるではないか。契約自由の原則からはDは保証契約の範囲でしか責任を負わないし、いずれとないし難定すべきか否かが論じられるべきである。この点、参考判例⑤は、「根保証契約を締結した当事者は、通常、主たる債務の範囲に属する個別の債務が確定すれば保証人がこれをその都度確認し、当該債務の弁済期が到来すれば、当該根保証契約に定める元本確定期日(……)前であっても、保証人に対してその保証債務の履行を求めることができるものとして契約を締結し、根保証債権が譲渡された場合には保証債務もこれに随伴して移転することを容認しているものと解するのが合理的である」として、(?)と推定した。この判旨によるとBの(?)と推定され、EはDに対して、保証債務の履行として100万円をBに請求できることになり、DがBの(?)と推定されたことを証明する必要がある。同判旨は「根保証」という用語を用いたが、上記の性質決定において根保証という概念をどのように理解すべきかは明らかでない。しかし、上記判決は、一般論を展開しているが、法人による根保証の事例である。(?)は根保証人に有利な判決であり、Bは個人根保証人Dに対して、(?)と解すべき特別事情の主張立証責任を負うと考えるべきである。関連問題(1) 本問後段において、A・B間の取引が続いている段階において、BはAの支払が滞ったならば、取引を継続したまま、C・Dに対して保証債務の履行として、代金を代わりに支払うよう請求することができるが異なるか。(2) 本問後段において、Dの根保証の限度額500万円であると事情が変更した場合、BのDに対する600万円の債権とその100万円の債権につき、BをEの債権を譲り受けたがDから300万円の支払を受けたときのBへの分配額について検討しなさい。参考文献阿部陽介・平成25年度重判77頁/斎藤由起・百選Ⅱ50頁 (中野邦之)