共有物の管理・処分
A・B・C・Dは、等しい持分の割合で甲土地を共有している。なお、次の(1)〜(3)について、A・B・C・D間に特に合意はないものとする。(1) 甲土地は、A・B・C・Dが通路として使用している。①甲土地の一部が陥没して通行に支障が生じている場合に、Aは、単独で、その費用で土砂の除去などの復旧をすることができるか。②甲土地は砂利道であるため、A・B・Cは舗装したいと考えているが、Dはこれに反対している。A・B・Cは、A・B・C・D間で甲土地を舗装する旨の決定をしたうえで、甲土地を舗装し、その費用の負担をDに求めることができるか。(2) Dが亡くなった後に、以前、A・B・C・Dが協議により、Bが甲土地を農地として使用する旨の決定をしていた。ところが、最近、甲土地を駐車場として借りたいと希望するEが登場したことから、A・C・Dの賛成により、存続期間を5年と定めて甲土地をEに賃貸することに変更する旨の決定をした。A・C・Dは、この決定に基づいて、Bに対し、甲土地の使用の停止を求めることができるか。(3) Bが甲土地を売却したいと考えており、C・Dもこれに同意しているが、Aは行方不明である。甲土地の売却を円滑にするために、Bはどのような目的をとればよいか。●解説●1. 共有物の変更・管理・保存行為に関するルール共有物の管理とは、目的物を使用・収益・改良することを含む広い概念の管理を指す。 共有者間に合意があるときは、その合意によって処理される。 たとえば、共有者間にAが建物を独占使用してよいとの合意があれば、当該共有者による独占使用が違法とは認められず、他の共有者は当該共有者に対して共有物の返還請求をすることはできない。共有者間にどのような合意もない場合には、民法のルールが適用される。 民法は、共有物の管理について、①変更、②(広義の)管理、③保存行為のルールを定めている。(1) 保存行為共有物の保存行為は、各共有者が単独ですることができる(252条5項)。 共有物の修繕等、物の現状を維持するための行為がこれに当たる。 小問(1)①は、土地通路の現状を維持するための行為であるから共有物の保存行為に当たり、Aが単独ですることができる(252条5項)。 そして、修繕にかかった費用について、Aは、B・C・Dに対し、それぞれ4分の1ずつの負担を求めることも可能である(253条1項)。(2) (広義の)管理行為共有物に変更を加えるには、他の共有者の同意を得なければならない(251条1項)。 つまり、共有者全員の同意が必要である。 共有物の形状または効用の著しい変更を伴わないものを除き、共有物の管理に関する事項は、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決定することができる(252条1項前段)。(3) 変更行為共有物の管理に関する事項は、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決定することができる(252条1項前段)。 管理に含まれると解される事項は、①で述べたように、変更のうち、共有物の形状または効用の著しい変更を伴わないものである。 (狭義の)管理と共有物の性質を変更することなくその利用・改良を目的とする行為であり(103条2号参照)、共有物の賃貸借を締結することなどが典型例である。2. 「特別の影響」を及ぼすべきときA・C・Dの決定がBに「特別の影響を及ぼすべきとき」には、その決定はBの承諾を得なければならない(252条3項)。 Bの承諾を得ないA・C・Dの賛成による過半数での決定もなされず、Bはこれに従う必要はない。それでは、Bに「特別の影響を及ぼすべきとき」とは、どのような場合か。 「特別の影響を及ぼすべきとき」とは、共有物の管理に関する事項の決定が、①共有物の性質に応じて、A管理に関する決定をする必要性・合理性が高いかどうか、②共有物を使用している共有者の利益にどのような不利益が生じるかを比較して、その利益が③共有者が受けるべき利益を上回る場合をいう。 これに照らすと、小問(2)で、例えばBが農業で生計を立てており、その決定によってBが被る不利益(⑥)は極めて大きい。 変更の必要性・合理性(⑥)がよほど高い場合でない限り、Bの不利益は受忍限度を超えており、Bに「特別の影響を及ぼすべきとき」に当たるだろう。 この場合にはBの承諾が必要であるから、Bは、承諾せずに決定の効力を否定することができるが、Bが単に好まないことを理由に拒絶している場合には、特別の影響に当たるといえる(主観ではない)と解される。3. 所在等不明共有者の持分の取得・譲渡小問(3)では、Aが所在等不明共有者に当たると、甲土地の処分が妨げられる結果となる。 B・C・Dとしては、共有物分割によってAとの共有関係の解消を図ることも考えられるが(→問題Ⅲ)、そのためにはBの負担が重くなる(すべての共有者を当事者として訴えを提起しなければならない)。そこで、裁判所の関与の下で、所在等不明共有者の持分を他の共有者が取得することができる制度が設けられている。 すなわち、裁判所は、共有者の請求により、その共有者(B)に、所在等不明共有者(A)の持分を取得させる裁判をすることができる(262条の2第1項、87条参照)。 そして、持分取得の裁判によってBがAの持分を取得した場合には、Bは、Aに対し、Aの持分の時価相当額の支払を請求することができる(262条の2第4項)。 そこで、裁判所は、Bに対し、一定の期間内に、Aのための供託所が定める金銭を供託所が供託することなどを命じなければならない。●関連問題●(1) 小問(1)②において、A・Bは舗装しているが、Dは反対し、Cは土地の舗装を望む。 A・Bは、土地の舗装に賛成するため、どのような法的手段をとればよいか。(2) 小問(3)において、Bが甲の売却を、単独で、第三者であるEに約束した場合に、どのような法的手段をとればよいか。