東京都、神奈川県、埼玉県、大阪府、滋賀県で離婚・男女問題にお悩みなら
受付/月〜土10:00〜19:00 定休日/日曜・祝日
お問い合わせ
ラインお問い合わせ

共同不法行為

甲川の下流域で畑作を営むXは、甲川から分岐する水路から自己の水田に水を引き利用していた。ある年、甲川の上流にA・B・Yからなる三工場が設置されて、各工場はそれぞれ有害物質を含む廃水を甲川に流し始めた。物質Aには植物の成長を過剰に促進する成分が含まれていた。A・B・Yの各工場が操業を開始して迎えた最初の夏、Xの水田の稲は異常に成長し、自らの重量に耐え切れず次々に倒れてしまった。これにより、Xは水田から米を収穫することができず、1000万円の損害が生じた。この場合に、XはYに対して損害賠償を求めることができるか。また、これに対してYはどのような主張をすることができるか。なお、Xの調べでは、A・Bの各工場は、Aが原料Bに添加し、Cが関与した物質を最終的にYが加工してある製品を製造するという関係にあり、相互にパイプラインでつながれて一体的に操業していた場合(2) A・B・Yの各工場は、たまたま同じ時期に建設されたというだけで、操業については相互にまったく関係がなかった場合●参考判例●① 津地裁四日市支部判決昭和47・7・24判時672号30頁② 大阪地判平成3・3・29判時1393号22頁③ 大阪地判平成7・7・5判時1538号17頁④ 最判昭和55・3・17民集75巻5号1359頁●解説●1 複数加害者と不法行為本問の公害汚染や大気汚染は公害問題の典型の1つであるが、このようなタイプの公害には、複数の原因者が関与するが、各行為の寄与する割合が不明な場合も少なくない。すなわち、不法行為の観点からすると、複数原因という点に特徴がある。この場合、原因物質を排出する行為者が数多いゆえに、各々の排出行為は単独では被害の全額を惹起するほどのものではないこともあり、個々の加害行為と損害の間の個別的な因果関係を証明するのは非常に難しくなる。もっとも、複数の行為者をまとめて把握できるなら、それらの因果関係を問題とすればよく、因果関係を証明するうえでの困難は大きく軽減する。さて、損害の惹起に複数の行為者が関与する場合に関して、民法は719条を用意している。これは、ⓐ狭義の共同不法行為(719条1項前段)、ⓑ加害者不明の共同不法行為(同項後段)、ⓒ教唆・幇助(同条2項)について、連帯責任という効果を定めるものである。なお、民法719条にいう「連帯」とは、改正民法466条以下の規定のある連帯債務ではなく、不真正連帯債務であるとされてきた。しかし、今日の民法改正では、不真正連帯債務に係る判例の規律を連帯債務の規定に取り込み(兎脱等)、また、連帯債務と異なると法令の規定がある(436条)を受けた、連帯債務規定の適用の通説にのっとるのが合理的である。もっとも、共同不法行為者の求償については、改正民法442条1項を適用しない解釈もありうる(一歩一歩119頁)。2 民法719条1項前段の要件―共同の項(1) 客観的共同説かつての支配的見解は、民法719条1項前段について、「共同行為者各自の行為が客観的に関連し共同して違法に損害を加えた場合において、各自の行為がそれぞれ独立に不法行為の要件を備えるときは、各自が右違法な結果についてその賠償の責に任ずべきもの」と解していた(東判昭和43・4・23民集22巻4号964頁)。これによると、狭義の共同不法行為は、民法709条の不法行為が複数成立する場合を含み、両条にはない「共同」という要件は、複数の行為者が関連して損害が発生したという行為者間の客観的な関連性だけで満たされることになる(客観的共同説)。他方、同一の加害者について複数の請求権が認められる場合に基づく不法行為責任の成立する場合、これらの不法行為は各自が全額について責任を負うと考えられている。結局、客観的共同説によれば、小問(1)(2)いずれも民法719条1項前段が適用される。XはA・B・Yのいずれに対しても損害の全額を求めることができる。なお、民法719条の成立要件のうち客観的関連性は、各行為に全部惹起力がある場合に小さく、それぞれの寄与率が明確でない場合に認められることがある。(2) 批判的見解しかし、客観的共同説を定めるような理解では、要件・効果のいずれにおいても、民法709条とは別に民法719条を定めた意味がないことになる。そこで、近時は、民法709条では対応できない場面を規律するために民法719条があるとさえ、そうした特別の責任を負わせる根拠を共同行為に求める見解が支配的である。しかし、この点については、行為者の主観的な要素を重視する見解(主観的共同説)のほか、各自が他の行為を利用し、他方で自己の行為が他人に利用されるのを認識する意思を問題に関係にある場合には(共通の意思がある場合に、小問(2)のようなコンビナートの場合もこれに該当する)、共同の意思疎通があるわけではない。ここで、各行為者の責任を個別に評価することも重要である。しかし、そこで主観的要素を重視せず、客観的要素を重視して、複数の加害行為が、場所的・時間的に近接しているなど社会通念上、一体の機会と認めることができる程度に一体性があればよい(主観的要件が緩和された一体的行為論)とする。(3) 一体的行為における独自性主観的・客観的関連性を重視する見解は、一般的には、不法行為(709条)では責任が成立しない、または成立しにくい場合にこそ狭義の共同不法行為を認める必要があるとする。共同行為によって複数の者が1つにまとめられる結果、共同行為者の1人は、他の者が惹起した行為の結果についても、自己の行為との関係なくとも責任を負う(共同とされる者の賠償範囲は、被害者との関係では、この共同とされる行為との相当因果関係で決まる)。一体的行為論はすでに狭義の共同不法行為が適用された理由はこの点にあり、共同要件の内容もこれを説明する根拠にふさわしく設定されている必要がある。他方、共同要件が満たされる場合には、複数の加害者の事例は狭義の共同不法行為の問題ではなくなる。その場合でも、複数原因者の各行為について一般的不法行為の成立を認めることができれば、独立した不法行為責任が競合することになり、複数加害者の連帯責任を導くことができる。しかし、多数の排出源によって生じた水質汚染・大気汚染を介して多数の健康被害に至った場合において、1つの排出源ではすべての被害を発生させることができない、または被害者の1人の健康被害のすべてが生じるわけではない、という事態も多い。そこで排出行為者の各自が全部の損害について責任を負うのか(そもそも因果関係が認められるのか)という点は必ずしも明らかではない。そのため、一般的不法行為は複数被害の事例への対応という点で必ずしも十分とはいえないと考えられている。3 民法719条1項後段の適用の是非そこで、複数原因者の事例については、民法719条1項後段・709条以外の対応が模索されてきた。その際に利用されたのは、同条1項後段の規定である。(1) 民法719条1項後段の適用場面―択一的競合民法719条1項後段は、択一的競合という原因競合の一事例に対応する規定である。この規定によれば、複数の者がいずれも被害者の損害をその行為で惹起しうる(すなわち、全部惹起力がある)行為を行い、そのうちのいずれの者の行為によって損害が生じたのかが不明である場合、当該行為者は連帯して損害の全部について賠償責任を負う。各行為者の行為と権利侵害・損害との因果関係に係る証明責任が転換される点で、一般不法行為の特則となる。その趣旨は、択一的競合という状況において被害者が陥った困難を救済することにあり、被害者が原因となりうる行為をした者からある程度まで絞り込めば、結果との因果関係は推定することにしている(よって、被害者によって特定された複数の行為者のほかに加害者の損害をそれぞれの行為で惹起しうる行為をした者が存在しないこと、も要件となる)。(2) 民法719条1項後段の類推適用―寄与の割合における寄与不明認定責任原因競合が生じる複数被害者の原因関係に対して、被害者保護のためのさらなる対応が図られている。すなわち、複数の者がそれぞれ全部惹起力のない行為を行った状況において、そのうち誰か一人の行為がいずれもが被害者の損害を生じさせる原因であり、かつ、この範囲の者が全体としての程度の損害を惹起した(参考)はずだがそれぞれの寄与度は不明である場合に、この範囲の者はその寄与の程度で連帯責任を負う、という対応である。想定されているのは、複数の者の行為に全部惹起力はなく、これらが重なり合ってはじめて結果が発生する。という原因競合(競合的競合)の事例である。前出の判決は、集合的競合の場合に、寄与度が判明する一定範囲の複数行為者について、①各行為者に限定した範囲で、②連帯責任を負わせる、という2つの内容をもつ。③は、本災害の全部を引き受けただけの因果性を見いだしていないにもかかわらず、全額の賠償責任を負わせる、という事態を因果関係の推定に頼らずともいえる。この点で、民法719条1項後段の発想、すなわち、個別の因果関係は不明だが一定範囲に絞られた者の行為と因果関係は認められる場合に、因果関係の立証責任を転換するという趣旨の同条後段を拡張したものとみることもできる。そもそも、大気汚染の集合的競合を扱った千葉判決は、複数の行為者に弱い関連しかない場合に、共同不法行為として当時の全部の賠償責任を認めるもので、法律構成としては、同項後段の適用(参考判例②)・類推適用(参考判例③)が用いられていた。最高裁も、近年、発展問題に掲げた事案において、同項後段の類推適用によってこのような対応を認めている(参考判例④)。設問関連Xらは建設労働者10名は、複数の建設作業に従事した際、そのそれぞれにおいて石綿粉塵に曝露し、石綿肺に罹患した。石綿建材の製造会社は、Y1・Y2・Y3を含めて10社に限定され、いずれもその製品から生ずる粉塵を吸入すると石綿肺に罹患する危険があることを表示することなく石綿含有建材を製造販売していた。Xらは、建設現場でY1~Y3を含む複数の建材メーカーが製造販売した石綿含有建材を取り扱ったため、累積的に石綿粉塵に曝露した。さらに、①Xらは建設現場でY1~Y3の製造販売した石綿含有建材を相当な回数で取り扱っており、②これによるXらの石綿粉塵の曝露量は、各自の石綿粉塵の曝露量全体のうちの5分の1程度であることは判明したが、③Xらの石綿肺の発症についてY1~Y3が個別的にどの程度の影響を与えたのかは不明であった。XはY1・Y2・Y3に対して損害賠償を求めることができるか。●参考文献●★能見善久・争点284頁/内田貴『近時の共同不法行為に関する覚書(下)』(下)株〔上〕(下)NBL1081号(2016)4頁・1082号32頁、同1086号4頁・1087号19頁(小池 渉)