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事務管理

Aが長期の海外旅行に出かけている最中に、台風のためAの自宅の屋根瓦が一部破損してしまった。隣人のBは、Aから「海外旅行の間によろしく頼みます」と聞かされていたので、屋根瓦が破損したのを善意でAの留守中に専門業者に連絡して修理を依頼し、その費用を立て替えて支払った。ところが、帰国して事情を知ったAが「この家は取り壊して建て替えるつもりだったのだから余計なことをしてくれなくてもよかったのに」などというので、Bは腹を立て、修理代金を支払ってもらいたいと思うようになった。Bは、Aのどのような請求をすることができるか。また、Aの立場からはどうか。[解 説]1 合意に基づかない 〈勝手な〉 他人の事務の管理民法697条以下では、他人のために事務の管理を始めた場合には、その「他人」(以下、「本人」という)の利益や意思を尊重しなければならないとされ、(697条)、その代わり自分で費用を償還できる(702条)等の法律効果を認めている。これを「事務管理」である。ただしこれは、他人の事務を管理する義務がない場合を前提としている(697条1項)。本問のようにAから「よろしく頼む」といわれてBが屋根瓦の修理を頼んでおくと、それが委任契約に基づく義務の履行として評価されるのであれば、これは事務管理の問題とならない。もっとも、本問のようにAとBとの間に明確な委任契約に基づく義務の履行としてBがAに修理代金を請求しうる関係については、委任に関する民法648条以下の規定によって処理される。また、AとBとの間に契約関係がなくとも、たとえばAが成年被後見人であるような場合にはBがAの財産を維持すべき義務があるので、やはり事務管理の問題とならない。ところで、本問のようにAの意思が明確ではない場合には、Aの意思を確認するのが可能である。しかし、Aが海外旅行中で連絡がとれないような「急迫」の事情がある場合には、BはAの意思を確認できなくても、とりあえずはAの利益を図るために屋根の修理をすることも許される。ただし、Aが帰国したときに「自分は家を取り壊す予定であったから、屋根の修理は頼んでいない」とBが善意で管理していても言われるかもしれない。法律行為ではないから、BがAの意思に反して管理しても有効である。法律行為である委任契約の場合と対比してみると面白い。事務管理は、契約とは異なり、いわゆる法律行為ではない。法律行為であると未成年者取消の適用も射程に入るが、事務管理は事実行為であることから、事務管理の当事者には、当事者の権利や義務は法律の規定(697条以下)に基づいて生じるのであり、当事者の意思に基づくわけではない。もっとも、たとえば、他人のために事務を管理した者は本人から費用を償還請求する権利がある(702条)。事務管理も義務を管理したBに費用償還請求を認める点で委任契約と共通する。ただし、委任契約と異なって、その他人のためにする意思がなくてもよいというのが通説である。しかし、意思に基づいて事務管理が生じた場合にAからBへの費用償還が生じる場合であっても、Bにとって思わぬ利益が生じるわけではない。むしろ、事務管理の時にBの立て替えた費用が客観的な利益を超えていたとしても、民法702条によって費用を償還請求できるにすぎない。求する権利が発生するのであるから、事務管理の際に費用を請求しようという意思があったか否かは(法律的には)重要ではない。これに対して裁判所は、客観的にも、当事者の意思に基づいて権利や義務を生じさせる制度であるので、事務管理とは異なるのである。本問では、当初はBはAに費用の負担を求めるつもりはなかった。しかし、これは重要ではない。BがAに対して債務を免除する旨の意思表示をした(519条)というような事情でもない限り、BはAに対して修理代金を求めることができるのである。2 事務管理の成立要件事務管理は上記のような制度なので、これは、ⓐ他人の事務を、ⓑ他人のために行うことが前提となり、また、ⓒ管理したように、ⓓ事務管理をすべき義務なく、さらに民法700条ただし書を参考に、ⓔ本人の意思や利益に明らかに反してはならないとされている。これが事務管理の成立要件である。このうちⓒについては前述したので、残りの要件について検討しよう。(1) 事務の他人性本問の場合には、BはAの家の屋根瓦を修理したのであるから、これは元来Aがするべき事務であることは客観的にも明らかである。他方、Bが自分の事務をしたときには(自分の家の修理など)、仮にBが他人の家であると誤信していたとしても、費用の請求などができないことは当然である。さらに、事務それ自体としては他人の事務か自分の事務か客観的には明らかではないときには(たとえば電線の修繕など)、(後で述べるとおり可能であるが)他人のためにする意思があったのかを事務管理の成立を認めてもよいであろう。なお、本問の場合には破損した屋根瓦の修繕はAの事務である。危険を避けるという意味もあって、この危険回避の義務はBにあるのではなく、Aにあるのであって、Bの事務でもあるといえる。しかし、だからといってAのための事務でなくなるわけではない。(2) 事務管理意思客観的には他人の事務であっても、自分の事務と誤信して管理を行った場合には「他人のため」とはいえないので事務管理は成立しない。もっとも、この場合でも、管理者が費用を支出したために本人が利益を得ているのであれば不当利得(703条以下)となる余地はありうる。ところで、前述したように、本問の場合に破損した屋根瓦がBの家の隣に建っていることからするとBという隣人であったので、この限りでBは自分のために修繕したともいえる。しかし、Bが「Aのため」の意思とAのための結果という側面を重視する。(3) 本人の意思や利益に明らかに反しないこと事務管理に当たっては本人の利益や意思を尊重すべきであり(697条)、また本人の意思や利益に反することが明らかであるときは事務管理を継続してはならない(700条ただし書)。したがって、仮にBがAの意思を無視し、本人の意思や利益に反することが明らかであるならばそもそも事務管理は成立しないと解釈されている。本問の場合、AがBに見積もりを依頼しておきながら予算がなかったので、屋根瓦の修理など「余計なこと」であったかもしれない。しかし、それが客観的に明らかであったのでなければ事務管理は成立する。3 事務管理の効果事務管理の効果については民法697条以下に定められているが、本問との関係では特に民法702条が重要である。(1) 費用償還請求権民法702条1項によれば、管理者は、本人のために有益な費用を支出したときには費用の償還を求めることができる。Bは、Aに費用の償還を求めることができる。BがCに修理代金を支払ったのなら、それを管理者として償還請求することを認められる。ただし、Aが取り壊す予定であったことをBは「有益」な費用であることを理由に償還請求できるか、この点については後述した。(2) 代弁済請求権またBがCに修理代金を未払のままであるなら、民法702条2項に基づいて、Bに代わって修理代金をCに支払うべきことを請求することができる。ただし、事務管理はAとBとの「内部」の問題なので、Cに直接請求することができるかといえば、それはできないと解されている(通説)。BがAを代理する権限を有するわけではない(後述拙稿参照)。関連問題本問においてBがC大工に屋根瓦の修理を依頼する際に、「Aから頼まれて、Aの代理人としてお願いする」といって契約をした場合、さらに、また、Bが「自分はAである」として契約をした場合に、CがAに修理代金を請求することは認められるか。参考文献平田健治・平成262頁(米沢出版)