即時取得
地形調査を営むXは、空撮による地形調査のため、2022年7月20日、高性能のドローン(無人航空機)甲をA店から定価350万円で購入し、事務所で甲を適切に保管していた。しかし、同年9月5日にBによって甲を未使用の状態で盗取された。その後、Xはただちに警察に盗難届を提出した。その後の経緯は不明であるが、数回の転売を経て、無店舗で中古機器の販売業を営むCが甲を入手した。なお、Cは甲盗難の事実をまったく知らなかった。ところで、カメラマンYは、空撮での写真集を企画し、2022年11月10日、Cから未使用の甲を代金300万円で購入し、代金全額を支払って、甲の引渡しを受けた。なお、Yは甲盗難の事実について善意・無過失であったとする。その後、Yは甲を使用して各地で空撮を重ねた。以上の状況において、警察による事件捜査の過程で、Yの有する甲が盗品であることが判明した。そこで、Xは、2024年2月10日、Yに対して甲の引渡しを請求するとともに、甲の使用利益相当額の返還を求めて訴えを提起した。Xの請求は認められるか。これに対してYは、Cに支払った代価の弁償がない限り甲の返還には応じられないし、また甲の使用利益の返還にも応じられないと主張している。Yの反論は認められるか。なお、甲と同じ機種の中古ドローンの一般的な賃料は月額25万円であり、また、甲と同機種程度の中古ドローンの適正取引価格は現在時点で100万円とする。●参考判例●大判大正10・7・6民録27輯1373頁最判平成12・6・27民集54巻5号1737頁●解説●1. 即時取得と盗品等の特則に係る制度趣旨民法は無権利者から物を譲り受けた者をも保護し、動産の取引では、前主の占有を信頼して取引した者は、例外としてその前主の権利の有無とは関係なく保護される(→本章VⅢ)。すなわち、民法192条の要件を満たせば、取引によって動産の占有を取得した者(以下、「占有者」とする)は、その動産の権利を取得する。これは動産取引の安全を考慮して動産の占有に公信力を認める制度である。ただし、即時取得が認められる場合であっても、対象となる動産が盗品や遺失物(以下、「盗品等」とする)であれば、真実の権利者(以下、「被害者等」)または「原所有者」とすべき保護をすべき要請がある。そのため、さらなる例外として、同法193条によって被害者等は善意または過失(以下、「盗難等」とする)の時より2年間は占有者に対して無償で盗品等の回復を請求しうる(関与問題)。これに加えて、占有者が盗品等を競売・公の市場または同種の物を販売する商人から善意で買い受けた場合には、同法194条が適用され、被害者等は占有者が支払った代価を弁償しなければ、その物を回復することができない。本問では、占有者Yが即時取得の要件を満たすとしても、盗難時から2年を経過していないため、被害者XはYに盗品甲の回復を請求できる。ただし、Yは同種の物を販売する商人Cから甲を善意で購入しているため、XはYに代価300万円を弁償しなければ甲の回復を請求できないことになる。以上の基本的な制度枠組みを踏まえつつ、本問を具体的に検討するに当たって、いくつかの理論的な問題がある。まず、回復請求ができる期間を2年間と、所有者Yからすると所有権が消滅するか。民法194条による代価弁償の回復請求権に対する占有者の返還請求ができるのか。さらに、盗品等の使用利益の帰属の問題もある。2. 所有権の帰属所有権の帰属が民法193条・194条に応じて2年の間に盗品等の回復請求で戻る。3. 代価弁償の要否代価弁償は、占有者が盗品等を善意で購入した場合に、所有者から回復請求をうける場合、代価の弁償を受けるまで回復を拒否できる(抗弁権)のか、あるいは、占有者が所有者に対して積極的に代価の弁償を請求できる(請求権)のかが問題となる。判例は、代価弁償請求権は、占有者が目的物の回復請求を受けた場合に、代価の弁償があるまで目的物の引渡しを拒むことができるという抗弁権である、と解している(参考判例①)。所有者は、①2年以内に、②占有者に対して、③盗品等の回復請求権を行使し、④代価の弁償をする、ことによって、目的物の回復ができる。これに対して、占有者は、いったん任意に盗品等を所有者に返還した後でも、所有者に対して代価弁償の請求をすることができるか、またはこれを請求しないならば目的物を占有者に再度返還するか、いずれかを選択せよと請求する権利を失わないとみる見解がある(請求権説)。これが現在の判例(参考判例②)である。その理由として、代価の弁償が引換給付の利益を占有者に与える趣旨(同時履行)を貫徹すべきだからとされる。また、抗弁権説に向けて、他人の財産を事実上支配するにすぎない占有者が盗品等を返還した者よりも、不法行為者から盗品等を買い受けた者の方が有利な立場に立つのは不当だと批判する。4. 使用利益の帰属・返還(1) 善意の占有者と使用利益の帰属先述のとおり、民法194条の趣旨は、善意の占有者に使用利益を認める趣旨と解する。もっとも、上述2のとおり、民法193条の無償回復の場合には、占有者に使用利益が認められるとすると、代価弁償の要否によって結論が大きく異なってしまう。(2) 使用利益と代価弁償との相殺使用利益の返還を認める見解は、代価弁償額から使用利益を控除することを認める。使用利益の返還を認める見解の中でも、使用利益と代価弁償は別個の債権であり、両者の相殺を認める(相殺説)か、使用利益と代価弁償は対価的関係にあり、いわば不当利得の調整過程とみる(利得調整説)か、に分かれる。38 共有物の管理・処分A・B・C・Dは、等しい持分の割合で甲土地を共有している。なお、次の(1)〜(3)について、A・B・C・D間に特に合意はないものとする。(1) 甲土地は、A・B・C・Dが通路として使用している。①甲土地の一部が陥没して通行に支障が生じている場合に、Aは、単独で、その費用で土砂の除去などの復旧をすることができるか。②甲土地は砂利道であるため、A・B・Cは舗装したいと考えているが、Dはこれに反対している。A・B・Cは、A・B・C・D間で甲土地を舗装する旨の決定をしたうえで、甲土地を舗装し、その費用の負担をDに求めることができるか。(2) Dが亡くなった後に、以前、A・B・C・Dが協議により、Bが甲土地を農地として使用する旨の決定をしていた。ところが、最近、甲土地を駐車場として借りたいと希望するEが登場したことから、A・C・Dの賛成により、存続期間を5年と定めて甲土地をEに賃貸することに変更する旨の決定をした。A・C・Dは、この決定に基づいて、Bに対し、甲土地の使用の停止を求めることができるか。**(3) Bが甲土地を売却したいと考えており、C・Dもこれに同意しているが、Aは行方不明である。甲土地の売却を円滑にするために、Bはどのような目的をとればよいか。●解説●1. 共有物の変更・管理・保存行為に関するルール共有物の管理(管理)とは、①の目的物を最も含む広い概念の管理を指す。