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債権質・担保価値維持義務

A株式会社は、2021年11月1日、B社から、建物の事務所部分を期間2年、賃料月額600万円(支払期限は各前月末日)で賃借し、その引渡しを受け、Bに対して敷金として合計6000万円を差し入れた。2022年11月1日、Aは、C銀行に負担する一切の債務の担保(被担保額5000万円、元本確定期日2023年10月31日)として、AがBに対して有する敷金返還請求権に質権を設定し、Bは、確定日付のある証書により本件質権の設定を承諾した。なお、2023年2月20日の時点で、Aには1億円余の銀行預金が存在していた。(1) (a) 2023年2月20日、BとDの間で、賃貸借契約を更新せずに、同年10月末日で終了させることとし、同時に敷金を1200万円に変更して、3月分以降の賃料を支払わず、敷金の差額(4800万円)の返還債権で相殺する旨の合意(本件合意ⓐ)をなした。同年6月20日、本件合意ⓐに気づいたCは、A・Bに対して、いかなる請求をなすことができるか。(2) (a) Aが、2023年2月20日、BとDの間で、同年10月末日で賃貸借契約を更新せずに終了させることとし、敷金を未払賃料に充当する旨の合意(本件合意ⓑ)をなした。同年10月31日、本件賃貸借が終了し、本件敷金6000万円のうち5000万円が本件建物の修繕費に充当された。A・B間の賃貸借契約の終了および敷金充当を知ったC(確定した被担保債権は4000万円)は、A・Bに対して、いかなる請求をなすことができるか。●解説●1. はじめに債権質は、物ではなく債権(権利)を担保目的とするゆえに、設定者は、債権を放棄するなどによって容易に担保目的である権利を消滅・変更させることができる。そこで、判例は、質権設定者に対して、設定者は、債権の担保価値を維持すべき義務(担保価値維持義務)を負うとし、債権の放棄・免除・相殺・更改等当該債権を消滅・変更させるなど担保価値を毀損する行為を行うことは、同義務違反として許されないとする。2. 担保価値維持義務設定者が、自己の所有する物(不動産・動産)ではなく、自己の権利を担保価値の目的とする場合がある。民法は、権利質について「質権は、財産権をその目的とすることができる」(362条1項)との定めを置く。具体的には、債権質、特許権、信託受益権などであるが、その他、権利を担保の目的とする例としては、地上権・永小作権への抵当権の設定、転質・転抵当などが挙げられる。これらを仮に「権利の担保」と称するならば、「権利の担保」においては、設定者が仮に「権利の担保」と称する利益を放棄するなど、設定者の意思によって、容易に担保目的である権利を放棄するなど、設定者の意思によって、担保価値が毀損されることを防止するために、権利を変更することができないこととなる。そこで、担保目的である権利を自由になしうることを前提としたうえで、担保権者に放棄を対抗できないとか、第三者の権利を害することができないとの規定(地上権・永小作権を目的とする抵当権につき398条、質権の承諾を得た場合における質権設定者の権利処分につき97条など)が置かれている。さらに、債権質や転質・転抵当については、条文は存在しないが、解釈論として、設定者は、質権者に質権を対抗できない(相殺を承認した参考判例①)、あるいは、原抵当権者は、原債務者と原抵当権を消滅させないなどとされた(これらは一般に「設定者の拘束」と呼ばれる(新田渉・「民法における権利拘束の原理」法学研究38巻1号(1965)221頁参照)。3. 建物賃貸借における敷金返還請求権の基準建物賃貸借において、敷金返還請求権は、賃貸借の終了後、建物の明渡しがなされたときに、賃貸借から生ずる一切の債務を控除した残額について発生する(最判平成22・9・6判時2096号66頁)。この敷金は、担保価値維持義務という視点から論ずることができるよう敷金返還請求権の性質を分析することが、敷金返還請求権を目的とする担保設定の法的問題を解明するうえで重要である。4. 担保価値維持義務違反の効果担保価値維持義務違反については、以下の効果が想定される。ⓐ 設定者は、被担保債権の期限の利益を喪失する(137条参照)。ⓑ 担保権者は、設定者に対して、増担保請求および代わる担保価値請求をなすことができる。ⓒ 増担保請求については、債権者の意思表示により特定の対象物件についてただちに担保権が設定される(形成権説)のではなく、債権者が債務者に対して特定の対象物件につき増担保の設定を請求したならば、債務者は承諾するかまたは協議に応じる義務を負うにとどまる(請求権説)と解されている(東京高判平成19・1・30判タ1252号252頁)。