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占有と相続

Aは所有する甲地(以下、「B」という)に、賃貸し、Bは甲地上に工場を建設して太陽光パネルの部品を製造していた。Bは甲の代表取締役であり、BはAの借入金会社に近い状況であった。Bの経営が軌道に乗った1992年9月頃、工場を増築したため工場の敷地が手狭となった。そこでAは兄CにBの経営者の駐車場を探していると相談したところ、甲地に隣接するC所有の乙地について「大きなため池があって、ただ同然の土地だからお前の好きにすればよい」といわれた。Aは、ため池を埋めて駐車場として整備し、同年10月から乙地の大半をBに月極めで賃貸した(30区画)。乙地の駐車場収入は、月平均30万円程度であった。2000年10月1日、Bが心筋梗塞で急死したことから、Aの1人息子で東京でサラリーマンをしていたDがBの代表取締役に就任し、Aの財産をすべて相続した。Aが死亡後、Dはめったに顔を合わせなくなり、2016年6月1日にCは病死した。2020年7月末になって、Dは、長年の世話をしていたEから乙地の明渡しを求められた。Eは、2014年10月1日にCとの間で乙地につき贈与契約を締結したこと、同年10月15日付で贈与を原因としてCからEへ移転登記がなされていること、CがAに遊休地であった乙地を無償で貸与していたと主張している。しかし、Dは、CがAに乙土地を贈与してくれたと聞いていたことや、1989年度以降、乙地の固定資産税はAが死亡後のDが負担していたことから、2020年11月、Eに対して乙地の所有権移転登記手続を求めて訴訟を提起した。現時点は2021年10月とする。●解説●1. 所有権に基づく妨害排除請求権としての所有権移転登記請求Dは、乙地の登記名義人Eに対して、乙地の所有権が自己に帰属していることを根拠に、所有権に基づく妨害排除請求権を行使して、Dへの移転登記手続を求めることになる。これに対して、Eは、乙地の所有権が自分に帰属していると主張していることから、D・E間の争いは、乙地の所有権が自分に帰属していることを相手方に主張できるかという点にある。本問では、Cが乙地の所有権をAに譲渡したと解する余地がある。しかし、Eは贈与を原因として移転登記を経由している。2. 取得時効と登記Dは相続を原因としてAの財産を包括承継しており、占有を相続した(187条)。Dは、Cの占有が開始した時点を、遅くとも1992年の10月である。非相続人の占有期間を通算すると、20年の非短期取得時効が成立するのは2012年10月10日となり、Eが完成後にCから贈与を受け、対抗要件を備えた第三者であり、Dは登記がなくとも、乙地の所有権を取得したことを主張できる。3. 長期取得時効の主張と立証責任の構造長期取得時効が成立するためには、20年間の、①所有の意思をもって、②平穏、かつ、③公然に、④他の物を占有していることが必要である(162条)。この要件のうち、今日では取得時効の対象は物の他人の物であることを要しないと判例・通説は解しており、③④については、民法196条1項によって、占有者は所有の意思をもって、善意(自分が本権者であると信じたこと)、平穏かつ公然に占有をなすものと推定されている。4. 占有の二面性:相続は新たな権原かもっとも、Aの占有が他主占有であることをDが善意・立証したときには、相続人Dは、相続により占有の性質が変容したと主張することはできない。5. 自主占有の主張と立証責任相続人が自己の占有に基づき時効取得を主張する場合、相続人が被相続人の占有が他主占有であることを知りながら占有を開始した場合、相続人固有の現実の占有に三面性が認められるわけではない。相続人が占有について外形的な支配と意思に変化はない。相続人が引き続き占有を続けている点で自主占有から他主占有への転換を認める。43 留置権の成立および効力2024年4月1日、Xは、所有の甲建物を、Yに賃貸した。XとYの間の賃貸借契約では、賃料月額25万円、賃料の支払方法は、翌月分を当月末日までに支払うこと、賃貸期間は2年間であることが合意されていた。Yは、Xとの契約締結後、ただちに甲建物の引渡しを受け、居住を開始した。その後、Yは、2025年2月分以降の賃料を支払わないので、Xが請求したところ、Yが賃料を減額してほしいというので、Xは、同月以降の賃料を月額20万円とした。しかし、Yは、同月以降の賃料を支払わないので、Xは、同月7月3日付けの催告で、同年7月15日までに、未払賃料6か月分を支払うように催告した。この催告は、内容証明郵便で、同月7日に、Yに到達した。Yからの賃料の支払がないため、XはYに対し、2025年7月31日付け書面で、賃料不払を理由に、Yとの賃貸借契約を解除する意思表示をし、この書面は、同年8月1日、Yに到達した。Yは、Xからの書面を受け取った後も、甲建物に居住し続けていた。同年8月末、台風に伴う豪雨のため、甲建物の屋根が損傷したので、Yは、A工務店に修理を依頼し、修理費用として、20万円を支払った。また、その頃、Yは、A工務店に依頼して、玄関に、システムキッチンの交換工事を行い、2025年9月20日、Yは、Aに工事費用50万円を支払った。2025年10月10日、Yは、Xに対し、甲建物の明渡しを求めて訴訟を提起した。この場合に、Yは、Xの明渡請求に対して、どのような反論をすることが考えられるか。そして、Yの反論は認められるか。●関連問題●Eが、DおよびBとCに対して土地の明渡しを求めて訴訟を提起した。本問と以下の点で異なる場合に、Eの請求は認められるか。現時点を2021年12月とする。(1) Eは、2019年10月1日にCから乙地の贈与を受け、同年10月15日付でCからEに移転登記がなされた。(2) Eは2020年12月に、乙地の回復請求訴訟を提起した。Eが訴訟を提起するまでに、AからもDからも乙地について移転登記を求められたことはなかった。(3) CがAに乙地を贈与した事実も、AがCに乙地の利用について相談した事実も立証されなかった。しかし、2002年10月頃からAが乙地を利用していることはCは知りながらも異議を述べなかったこと、乙地の固定資産税については2010年度まではCが負担しており、Aが2011年10月1日に死亡後、2011年度からはDが負担していた。●参考文献●満江春・民事法Ⅰ 281頁菊川一、第一章・二、第二章・三最判解民平成8年度91頁中田裕彦・百選Ⅰ (2015) 130頁大場浩之・百選Ⅰ 136頁