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郵便に付する送達

Yによる会社の資金の支払を求めて、Xが書状のカードを利用したことによる訴訟を提起した(訴状)。電話帳記載のXの住所に訴状の送達を試みたがXは不在で成功しなかったので、Yに対し、Xが上記住所に居住しているか、および就業場所について調査し回答するよう求めた。XはR社に勤務していたが、送達が試みられていた時期には長期出張に出ていて、Rは、出張中の社員宛てに郵便物が送付された場合は転送、外国からの連絡先へ郵便局が伝達する、Xは出張前に、Yの担当者に対して、実際に勤務する場所はS社だが、郵便物はR気付で送付してほしいと要望していた。Xの現在の居住状況について具体的な調査をしないまま、Xと家族が訴状記載の住所に居住していること、Xの就業場所は不明であるが1か月で出張から戻る見込みであると判断し、R宛に訴状の付郵便送達を実施したが、X不在のため送達できず、裁判所は、その後、X欠席のまま規制的に基づく全部認容判決が言い渡され、その判決もR宛に送達された。Xの妻がこれを受領した日にXに渡さなかったため、Xは控訴せず、同判決が確定した。Xはこの判決について弁済した。Xは、Yの回答に故意または過失があるとして、①訴訟追行による財産権の侵害および訴訟費用に相当する機会を奪われたことによる精神的損害の賠償を求めて、Yに対し訴えを提起した(後訴Ⅰ)。また、Z(国)に対して、前訴で訴状の送達が違法であったために訴訟法1条2項に基づく損害賠償請求訴訟も提起した(後訴Ⅰ)。裁判所は、後訴Ⅰ、後訴Ⅱにおいてどのような判決をするべきか。●参考判例●① 最判平成10・9・10判時1661号81頁② 最判平成44・7・8民集23巻8号1407頁●解説●1 付郵便送達の要件送達は、当事者など訴訟関係人が訴訟法上の書類の内容を確実に了知する機会を保障することによって訴訟手続を保障することを目的として、法定の方式で書類を交付または交付を受ける機会を与える、裁判機関の行為である。訴状など訴訟法関係の基礎となるべき重要な書類は、送達しなければならない。このような目的から、送達は、書類を受領する交付送達を原則とする(令和4年改正102条の2)。送達場所は、原則として受送達者の住所などで、住所などが知れないときは、就業場所での送達に支障があるとき、または就業場所での受領を送達者が申し出たときは、就業場所での送達も可能である(103条1項・2項)。本問では、訴訟に関しては、Xの長期不在により住所における交付送達も補充送達(106条1項)もできなかった(判決はXの妻が受領し、補充送達がなされているが、Xとの事実上の利害を理由として、実際にはXに渡されている。このような場合には補充送達は無効とする考え方もあるが、判明は有効とはしていない。[→問題24])。なお、本問ではその問題がないため、判決(電子対応は当面は側面で送達される(令和4年改正109条、255条2項1号)。このような場合、本来は就業場所での交付送達がなされるが(103条2項)、本問では裁判官PはXの就業場所を不明と判断したため、Xの住所に宛てて書留郵便に付する送達を実施した(107条1項1号、付郵便送達)。交付送達は、送達書類を受送達者に手渡ししたり、あるいは少なくともその支配権に置くこと(差置送達、補充送達)によって効力を生ずるが、付郵便送達は、受送達者への書類の到達や了知にかかわらず、発送によって効力を生ずる(107条3項)。したがって、付郵便送達が有効であれば、本問のように実際には発信に所に送付された場合にも送達の効力が生じ、訴状等の送達により前訴は有効に係属したことになる。付郵便送達は上述のように受送達者の了知の確実性が低いので、実施要件が厳格であると同時に、実施する場合には了知の可能性を高めるために、書記官は、書留郵便に付する送達をした旨、および、送達書類については普通郵便として発送した旨を記載した(民訴規44条)。旧法の下では調査が実質的に規定されておらず受送達者に通知しなければならない(民訴規44条)。旧法の下の判例をふまえた規定であり、普通郵便等での通知が予定されている。ただし、これは受送達者の手続上の利益を考慮した調査規定と解されている。また、このような通知がなされていても、普通郵便ならば他人が処分することは容易であり、本問ならばXの妻が処分するなどしてXには到達しなかった可能性も高い。2 書記官の資料収集における裁量とその限界付郵便送達の要件は1のとおりであるが、送達の実施は裁判所書記官の固有の職務権限に属しており、参考判例①は、要件判断のための資料収集等は書記官の裁量に委ねられるとしている。このような裁量性が認められるのは、大量の訴訟事件を効率的に処理していく要請があると考えられるが、そうであっても裁量権行使には合理性が求められるから、本問の後訴Ⅱを判断するためには、裁量権の逸脱があったかを検討する必要がある。さて、参考判例①は、本問類似の事案において、(i) Xの就業場所が不明か否かの判断は書記官の裁量に委ねられており、Yの回答書に別紙が添付されていなかった本件では資料収集方法は相当であると判断した。また、判示事項ではないが、(ii) 民事訴訟法107条1項・2項の文言から明らかなように、付郵便送達実施の要件が満たされる場合でも、実施するか否かは書記官の裁量に委ねられている。そこで、実施の判断の合理性も本問に即して検討してみよう。まず(i)について、就業場所が不明と判断されることによって受送達者の手続保障が大幅に脆弱化することを前提とすると、その判断は慎重になされるべきであり、参考判例①のように書記官の裁量権を認めるとしても、それには限界があると考えうるべきであろう(新堂・後掲513頁)。調査・資料収集の責任は書記官にあることを前提として、事業および当事者の性質、原告の保持する情報および調査能力などを考慮しつつ、特段の事情がない限り、資料収集のコストにかかわらず調査義務を肯定する方向で検討すべきものと考えられる。さらに、本問では、Yの回答書はXは出張中としながらも就業場所を不明とする矛盾した内容を含んでおり、PやYの調査先の確認等もしなかったことには、裁量権の逸脱があったということもできよう(大渕・後掲も参照)。また、(ii)についても、仮にYの回答書をそのまま基礎するとしても、Xが出張から戻る日程が明らかであること、Xの家族が住所地に居住していることから、夜間等の補充送達を試みることによって住所あてで改めての交付送達を試みるといった送達方法を採ることが、より妥当な手続裁量の行使といえるのではないだろうか。このように考えると、本問の後訴Ⅱについては、参考判例①の結論とは異なり、書記官には裁量権の範囲の逸脱があり、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償を認める余地もあるといえよう。3 原告の調査義務参考判例①は、本問の後訴Ⅰ請求①類似の請求について、X就訴により生じたと主張される損害賠償請求は、既判力のある確定判決に実質的に矛盾するとして原則として許されるが、当事者の一方の行為が著しく正義に反し、既判力による法的安定の要請を考慮してもなお容認し得ないような特別の事情がある場合に限り例外的に許される、ここで想定されているのは、参考判例③が示すように、原告の故意により被告の応訴関与を妨げたり裁判所を欺罔する等して確定判決を取得するような事案(判決の再審ともいわれる)においては、再審(による確定判決の取崩し)を経由せずに直接損害賠償請求の訴えを提起し、確定判決と矛盾する主張をすることができるという判例法理である。したがって、本問のY担当者のように少なくとも故意は認めにくい事案では、射程外と考えられる。上記のように、職権送達主義の下では調査・資料収集の責任は裁判所にあり、Yは誠実な調査義務を負うにとどまるから、本問においてはこのような判断は妥当と考えられよう。なお、参考判例①は、本問の後訴Ⅰ請求②類似の請求については、既判力ある判断と実質的に矛盾する損害賠-償請求ではないとして、原判決を破棄し差し戻した。この送達拒否に対しては、判決の結論にかかわりなく手続保障を妨げられたとの一事をもって損害賠償請求権が発生するものではないとの反対意見がある。したがって、送達拒否は勝敗にかかわりなくいわば純粋に手続に関与することに法的利益を認め、損害賠償請求権が成立し得ると考えているようである。具体的には、参考判例②の要件が満たされない場合にも、認められるのだとすれば、本問の後訴ⅠではYに対する損害賠償請求権が認められる可能性があろう。●参考文献●大渕哲也・百選80頁 / 山本和彦・私法判例リマークス20号(2000)124頁 / 新堂幸司「郵便に付する送達について」太田知行=荒川重勝編『鈴木博士生古稀記念・民事法学の新聞』(有斐閣・1993)509頁(山田・文)