債権譲渡と相殺
2025/09/03
自動車用の精密部品を製造するA社は、自動車メーカーB社に本件モーター用の部品を納品していた。Aが2022年に締結した基本契約書には月間の総販売数量が定められていたが、これを目指すBは、この数量をAから購入する義務はないことが明記されていた。また、Bは希望する数量の20日前までに発注すること、Aはこれに応ずること、Bは納品から40日後に代金をAに支払うこととされていた。2025年4月1日、Aは、C銀行から融資を受けるに際し、同日から2025年9月30日までの間にAがBに対して取得する部品代金債権をC銀行のために譲渡したが、この段階ではBへの通知は行われなかった。Bは、2025年7月1日、Aの要請に応じ、返済期限を同年10月1日として800万円をAに貸し付けた(債権②)。2025年9月1日、AはCに対する残額の支払を怠り、融資契約時のCとの約定に従い、個人信用情報の利用停止を怠った。Cは同日、Aの代理人としてBに債権譲渡を通知し、BがAに対して負う代金債務も今後はCに弁済するよう求めた。2025年12月1日時点のAのBに対する代金債権は、7月5日発注・同月25日納入分300万円(債権③)、8月5日発注・同月25日納入分400万円(債権④)、9月5日発注・同月25日納入分200万円(債権⑤)である。ただし、9月5日に発注された部品には不適合があり、AがBの求めに応じて10月1日に代替品を納入したが、この際にBのスポーツカーの製造に遅れが生じ、それは、納車が遅れた顧客への対応として準備されたペナルティ100万円に相当するようAに求めている(債権⑥)。なお、債権発生日は共通である。Bは、Cからの請求に対し、債権譲渡・相殺のいずれの主張をして対抗することができるか。参考判例① 最判昭和50・12・8民集 29巻11号 1864頁② 最判平成24・5・28民集 66巻7号 3123頁解説1 「債権譲渡と相殺」における弁済期の先後債権譲渡は、譲渡人と譲受人との間の契約によって行われ、譲渡される債権の債務者のこれに関する与り知らない。しかし、債務者は、自身の与り知らない債権譲渡によって不利益を被るようなことがあってはならないはずである。そこで、債務者は、債権譲渡が対抗要件を備えた時点までに譲渡人に対して生じた事由があれば、これをもって譲受人に対抗することができるとされている(468条1項)。そして民法は、この一般的な抗弁の対抗に関する規定に加えて、相殺に関する規定を別に設けている。すなわち、債務者は、対抗要件具備時より前に譲渡人に対する債権を取得していれば、これを自働債権とし、譲渡された債権を受働債権とする相殺をもって譲受人に対抗することができる (469条1項)。民法 468条1項の規律は 2017年民法改正の前から存在していたが(旧468条2項参照)、民法 469条1項は新設の条文である。2017年民法改正の前は、「債務者が譲渡人に対して有する債権をもってする相殺を譲受人に対抗しうるのはどのような場合か」という「債権譲渡と相殺」の問題について、「差押えと相殺」の問題 (→本編32) と同様に学説の対立があった。つまり、判例は、債権譲渡の債務者が対抗要件具備された債権の債権者が請求してきた場合、これを待っていた債務者は、この債権とされた債権の弁済期の前後を問わず、債務者は相殺をもって譲受人に対抗しうるとする。これに対して判例は、債権譲渡の債務者が対抗要件より前に自働債権を取得されたというだけでは足りず、自働債権の弁済期が受働債権(譲渡された債権)の弁済期よりも先に到来することが必要であるとしていた。判例は、無制限説と同じ結論に至ったものがあったが (参考判例①)、これは譲渡人が譲渡人の吸収合併であるという特殊な事案についての判例法であって、その射程は広くないとの理解が一般的であった。2017年民法改正は、「差押えと相殺」に関して、従来の判例・無制限説 (45・6・24民集34巻6号947頁) の立場である無制限説を明文化するに至った (511条)。そして、これと合わせて2017年民法改正では、「債権譲渡と相殺」に関しても無制限説の立場を採用した。すなわち、民法469条1項は自働債権・受働債権の弁済期の先後にはふれず、対抗要件の具備時期を問題とするのみである。本問で自働債権となるべき債権②をBが取得したのは、Cへの譲渡が債権者対抗要件を備えた時(9月1日)より前の7月1日であり、これは民法469条1項の要件を満たす。そして、債権②の弁済期が10月1日であるのに対し、(代金債務の弁済期は納品40日後なので)債権③は9月3日、債権④は10月4日にそれぞれ弁済期が到来するが、両債権は自働債権と受働債権の弁済期の先後を問わないので、Bは債権③のみならず債権④をも受働債権として相殺権をこれに拠り、これをCに対抗することができる。なお、債務者が対抗要件を備えた9月1日との関係では、債権⑤はかかる発生日はまだ行われておらず、債権②と債権⑤の対立は生じていなかったものと考えられる。しかし、両者の対立はどのような場面で生じ、それは、債務者がCへの相殺の意思表示をする時点(10月以降の制度)で、債権②と債権⑤の両債権をともに対抗する時点である(前述のとおり、債権④は債権②との対立は生じないので、このような場面でBがこれを行うことによってCに対抗できる)。2 「債務者が履行を拒むことを明確にしたとき」の意義と機能次に、Bとしては、債権⑥(100万円)の損害賠も自働債権とし、これもCに対抗して譲渡を拒みたいところであろう。しかし、債権⑥は、9月25日に納入された部品の不具合に伴う損害賠償請求権 (564条・415条)であり、債権譲渡の債務者が対抗要件のとき(9月1日)より前に債権を有していたとはいいがたい。そうだとすると、民法469条1項による限り、このような相殺は認められないことになりそうである。しかし民法は、債務者が対抗要件具備時より後に譲渡人に対する債権を取得した場合であっても、その自働債権が対抗要件具備時より前の原因に基づいて生じたものであれば、なおもこれを自働債権とする相殺をもって譲受人に対抗できる。を認識するものである (469条2項1号)。これは「差押えと相殺」に関する民法 511条2項と同じ規律である。そこで問題は、ここでいう「前の原因」とは何を指すのであろうか。2017年民法改正は民法 511条2項および 469条2項1号を設けるに当たって念頭に置かれていたのは、たとえば、委託を受けた保証人が求償権を行使して行う場合について弁済すべきとされた後に、この保証人が保証債務を履行し、主債務者に対して求償権を取得したというケースである。参考判例②は、(当然ではあるものの) 主債務者の債権に保証人が期待した事後求償権は債務者の財産で構成されており、これらの安定性は、このような相殺を差押え・債権譲渡の局面でも可能にするものであると説明されている。つまりここでは、差押え・譲渡より前に存在する保証契約が、自働債権である事後求償権の「前の原因」に当たると考えられているわけである。本稿では、本問の債権⑥の「前の原因」として考えられるものは何か。候補としては、2022年にAとBとの間で締結された基本契約がありうる。つまり、2025年9月5日に発注された部品の売買はこの基本契約に基づくものであり、⑥債権はこのときの性質について発生したと捉えるのである。仮にこのような理解が成り立つならば、債権⑥は、2025年9月1日の対抗要件具備時よりも「前の原因」である2022年の基本契約に基づいて生じた債権となり、これを自働債権とする相殺をCに対抗しうることになる。しかし、本問のように相殺するには難しい。まず、①基本契約を⑥の前提と捉えようにも、AとBとの間の基本契約では、当事者の間で、月々の発注がどのように行われるか、個々の発注に対する基本契約における様々なレギュレーションがあり、個々の発注にかかる債権・債務が基本契約から直接派生するとは限らない (→本巻36参照)。債権⑥においては受注生産の約束や品質が定められており、買主がその都度購入する義務を負わされているようであれば、発注・受注が基本契約そのものの義務の履行にすぎないとみて、これにかかる債権・債務の発生原因もこの基本契約に期することも可能であろう。しかし、本問の基本契約ではBに一定数量の購入義務は課せられておらず、Bは譲渡を認識したことも個別の売買契約 (個別契約) が結ばれ、代金債務をはじめとする債権・債務はこの個別契約に基づいて発生したと解するのがより自然であるように思われる。る。また、⑤の債権についても、売買目的物の契約不適合に基づく損害賠償請求権の「前の原因」としては売買契約があれば足りるのか、それとも目的物の引渡しや不適合の発見まで対抗要件具備時より前にある必要かの点に関して議論の余地があり、単純に「前の原因」を「前の原因」とみることができるのかの定めかではない。3 同一の契約に基づいて生じた債権間の相殺2でみたように、債権⑥については、民法 469条2号に基づく相殺をCに対抗することはできないと考えうる。しかし同項2号は、1号に該当しなくても、自働債権と受働債権が同一の契約など対価関係にある場合に、相殺の利益について譲受人に対抗することができるとしており、無制限説の利益要件が満たされたものである。債権発生の基礎となる契約がすでに締結されている場合で、この契約が自働債権の「前の原因」とされて1号の対象になる中で、2号の適用対象となるのは、自働債権・受働債権の発生原因となる契約の締結が対抗要件具備に後れる場合、すなわち将来債権譲渡の場合に限定される。この規定も2017年民法改正で新設されたものであるが、「差押えと相殺」については同様の規定は設けられておらず、「債権譲渡と相殺」に固有のルールとなっている。これは、将来債権譲渡の促進された後も、譲渡人とその間の取引関係を維持・継続するインセンティブを債務者に与えるため、「差押えと相殺」の規律よりもさらに広く債務者の相殺への期待を保護しようとしたものである。このケースでは自働債権と受働債権の発生原因もともに存在しており、両者が牽連関係が認められるため、債務者の相殺期待を保護することに値するといってよいといえる(従って、「差押えと相殺」の局面でもこのような相殺の期待を電話をもって相殺できるという判例がある)。本稿では、債権⑥と債権⑤はともに9月5日にかかる売買契約に基づいて生じたものであることができる。2で述べたのに対して、2022年に締結された基本契約は、個々の債務の発生・債権の発生原因とはいえないものの、Aの売買契約は、将来継続的取引が対抗要件具備された9月1日より前に締結されている。そして、民法469条2項2号により、Bは債権⑥と債権⑤との相殺をもってCに対抗し、債権⑤の残額100万円についてもCの請求を拒むことができると考える。ところで、売主に基づいて引き渡された目的物が契約の内容に適合しない場合には、買主はその不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができるとされている (563条)。本問でも、9月25日に納入された部品の不具合があったものをBがB銀行として認めず、その分の返金をAに請求している。Bがこれを請求していれば、債権・債務の双方が対立関係になるため、この場合にBが代金の減額を請求できる。しかし、本問でBは代金減額請求権を行使せずに代替品の給付を請求しており、Aはこれに応じている。したがって、ここでBが求める請求はあくまで履行遅滞に基づく損害賠償 (564・415条)であり、代金債務は当初の全額で残ったままで損害賠償請求権との対立が生じるため、相殺の可否がやはり問題となるのである。4 関連する問題A・B間で継続的供給契約が締結されていた場合に、Cがこの契約の存在につき善意または重過失であれば、BはCの代金請求を拒むことができる (466条)。しかし、BがCに対して代金を弁済しない場合にも、Cは依然として善意だから相殺期待の経過により、Bは譲渡制限特約をCに主張し得なくなる (同条4項)。また、Aについて破産手続開始の決定があった場合にも、BはCから請求されれば代金の供給義務を負う (466条の3)。これらの場合において、BがAに対して取得し得た債権をもって相殺することができるかどうかについて、自動車の特殊な取得に関する特則が設けられている (469条3項、問題1参照)。本問の承諾をBからとったCへの債権譲渡をBが承諾していたらどうか。2017年改正民法 468条1項は、債務者が異議をとどめない承諾をした場合には、譲渡人に抗弁し得た事由があってもこれをもって譲受人に対抗することができなくなると規定していた。これによれば、Bの承諾が異議をとどめずになされると、BはCに対して相殺の主張もできないことになる。しかし異議をとどめない承諾の制度はかねてその妥当性が疑問視されていたところ、2017年改正民法はこれを廃止した (旧468条1項は削除され、旧468条2項の規律が1項に繰り上がった)。よって、Bは譲渡を承諾したとしても、相殺の抗弁を放棄する旨の意思表示をしない限り、Cに対する相殺の主張を封じられることはない (関連問題参照)。【関連問題】(1) 本問において、A・B間の売買基本契約には、AがBに対する代金債権を譲渡する際にはBの承諾を要する旨の条項があった。CはAから債権譲渡担保の設定を受けた際、この条項の存在を知っていた。Cは、2025年9月1日、Aの代理人としてBに債権譲渡を通知したが、Bはこれに対して譲渡を承諾しなかった。同年10月1日、BはAから債権②の弁済を受けた後、同年12月1日、BはAからの再度の要請に応じ、返済期限を同年12月1日として900万円をAに貸し付けた (債権⑦)。同年11月10日、BはCと協議の上、債権⑤・⑥をCに弁済するようにBに求めたが、期限内 (同年12月1日) ではBには応じないで、Cが改めて債権⑤・⑥・⑦を自分に弁済するよう求めたとき、Bは債務を相殺債権とする相殺をもってこれを拒むことができるか。(2) 本問において、2025年9月1日、CはAの代理人としてBに債権譲渡を通知するとともに、BがCに対して有していた抗弁を放棄するように求めた。Bは、債権譲渡がすでに押さえられたと誤解し、この求めに応じて、「AのBに対する債権がCに譲渡されたことを承諾し、以後Cに対して相殺など一切の抗弁を主張しません」と記した書面をCに交付した。その後、債権が未だ未済であることに気づいたBは、債権②と債権④・⑤・⑥との相殺をもってCに対抗することができるか。参考条文民法230条 (小粥太郎) / Before / After 274頁 (田中田) / 岩川 58頁(白石 大)
『Law Practice 民法Ⅱ【債権編】〔第5版〕』 千葉恵美子・潮見佳男・片山直也編者・2022年10月15日
ISBN978-4-7857-2992-9
集合債権譲渡担保
2025/09/03
2020年4月1日、株式会社Aは、B銀行から5000万円を借り入れるに当たって、「2020年4月1日から2025年3月31日までの間に、Aが所有する甲建物の賃貸により取得する賃料債権を担保のためBに譲渡する」という内容の譲渡担保設定契約をBと結んだ。これについては同日付で債権譲渡登記が行われている。ところで、この時点で、甲建物(B名義のオフィスビル)の2・3階はC社、4・5階はD社がそれぞれ賃借していたが、これら2社に対して譲渡担保設定の旨の通知は行われず、C・Dは引き続き(C・Dとも月額200万円)をAに支払っていた。2021年5月1日、Aは新たにE社と甲建物の1階部分の賃貸借契約を締結し(賃料月額100万円)、同日Eは甲建物に入居した。2022年10月1日、Aは甲建物をF社に売却し、所有権移転登記も同日に行われた。C・D・Eはそれ以降はFに賃料を支払うようになったが、Dの賃借期間は2023年5月31日に満了し、同月7月1日、代わってG社がFと新たに賃貸借契約を締結して甲建物の4・5階部分に入居した(賃料月額150万円)。2024年4月1日、Aは2回目の手形不渡を出して事実上倒産したので、BはAに対し借りた5000万円を回収するため、C・D・E・Gに対して債権譲渡登記の登記事項証明書を交付して譲渡担保を承知し、以後Bに賃料を支払うよう求めた。これに対してC、E、Gが要求に応じ引き続いて賃料を支払う一方、C・D・E・GはBとFのいずれに賃料を支払うべきか。[参考判例](1) 最判平成11・1・29民集53巻1号151頁(2) 最判平成13・11・22民集55巻6号1056頁(3) 最判平成10・3・24民集52巻2号399頁[解説]1 集合債権譲渡担保の有効性近年、複数の債権(集合債権)をまとめて譲渡担保に供することによって、多数の債権が行う取引が急増しつつある。ここでいう「集合債権」とは、多くの場合、複数の債務者に対する債権を含み、さらには発生済みの債権のみならず将来発生する債権をも含むものである。そこで、このような集合債権を目的とする譲渡担保の有効性がまず問題となる。集合債権譲渡は、その契約の締結日に譲渡の対象の債権が発生していることを要しない(466条の6第1項)。これは、すでに判例が認めていたことを明文化したものである(参考判例①)、集合債権譲渡担保は、設定者(譲渡人)および他の債権者の保護の観点から、譲渡担保の目的たる債権の範囲が特定されている必要があるが、この点についても参考判例①が基準を示しており、債権の発生原因や発生期間に係る事情等のほか、将来債権の譲渡の場合にはその始期と終期を明確にすることによって特定されるとしている。本問では、債権の発生原因(甲建物の賃貸借)および存続期間(2020年4月1日から2025年3月31日まで)が指定されており、特定としては十分と解すべきことになろう。ところで、本問の集合債権譲渡担保は、その目的となる賃料債権を特定していない。DとGの名を特定していない。しかし、このような債権者が不特定である場合であっても、債権の発生原因と期間を特定するなどの方法によって、他の債権者の財産と明確に区別するような事情があれば特定性は満たされると考えるべきである。このような特約がなされた場合に、譲渡担保契約がなされた後に新たに賃借人となったEに対する賃料債権もまた、集合債権譲渡担保の目的物に含まれることになる。2 集合債権譲渡担保の対抗要件集合債権譲渡担保は、あくまで担保目的で設定されるものであり、被担保債権が不履行に陥るまでは、設定者(譲渡人)が引き続き債権から目的債権の弁済を受けることができるとされているのが通常である。しかし参考判例③は、このような場合であっても、債権は設定時から譲渡担保権者に確定的に譲渡されており、ただ、設定者と譲渡担保権者との間において、譲渡担保権者に帰属した債権の一部について、設定者が譲渡人の同意を得て、代わりに取り立てる権限を付与されているにすぎないものと解している。したがって、集合債権譲渡担保も通常の債権譲渡にほかならず、これと同じ方法によってその対抗要件(債権譲渡登記、債務者に対する通知・承諾)を具備することができるのである。本問のように債務者が不特定・多数の場合には、実際上これをいかにして満たせるかの問題となる。C・Dのように、譲渡制限設定時に存在している債務者に対しては、確定日付ある証書による通知を行うことで債務者に対する対抗要件を備えることができるとしても(467条1項・2項)、設定時にはまだ存在しない債務者に対してはどのように通知を行うべきか、他の譲受人(譲渡人の債権者)との間の対抗関係で優劣を主張しうるにすぎない(同条2項)。債務者が存在する場合には、それに同じく通知を行うのも煩雑であるし、より実際的な問題として、債権譲渡を行ったことを債務者に知れてしまうと設定者(譲渡人)の信用に悪影響が及ぶという点も無視できない。これらの問題を解決するために用意されているのが、債権譲渡登記法(動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律)が定める債権譲渡登記制度である。この登記は、譲渡人が法人であり、譲渡対象債権が金銭債権である利用可能である。この制度は、債務者の対抗要件と債権者に対する対抗要件を分離した点に大きな特徴がある。すなわち、まず譲渡対象登記を行った段階で、債権者以外の第三者に対する対抗要件が具備されるが(動産譲渡登記特4条1項)、債権者が債務者に対するためにも、登記事項証明書を債務者に通知しなければならない(同条2項、民法467条に異なり、譲受人から通知してもよい)。このような二重の効力が認められているので、債務者に通知しなくとも債権譲渡の第三者対抗要件を具備することが可能である。また、債務者に対する通知も譲渡の時にまとめてすることができる(債務の発生時期によって登記をすれば足りる)。本件における第三者に対する譲渡制限特約については、Eの新規(2022年5月1日)およびGの新規(2023年4月1日)を基準として他の利害関係人が現れたと解される。3 将来債権をめぐる利害関係の調整本問では、甲建物の賃貸借から生じる賃料債権がまとめて集合債権譲渡担保に供された後、甲建物自体が譲渡担保権者(F)に譲渡されている。このように、集合債権譲渡担保と、集合債権を生み出す財産自体の譲渡とが競合した場合に、譲渡担保権者と当該財産の譲受人のいずれが優先するかの問題となる。参考判例①は、集合債権譲渡担保の目的債権が、賃貸人の賃借人に対する賃料債権の先取特権のように当該財産の価値に内在するものではなく、賃貸人の地位の移転(→本書14章参照)を受けた譲受人は、賃料債権の所有者から当然に目的物を引き渡す義務を負うものではない。譲受人は譲渡担保権者に対し、当該財産から生じる賃料債権を対抗することができないと示した(参考判例②)。将来建物における賃料債権をめぐる利害関係人の間の調整を図る必要があり、集合債権譲渡担保の対抗力をできるだけ弱めることが考えられる。集合債権譲渡担保は対抗要件を備えることを考えると、対抗要件を備えることができないのでは、本問では、少なくともC・Dから賃料を回収することはできるはずではなくBであるという結論になる(これに対し、Gとの賃貸借契約はFが建物を取得した後になされたものであり、これについてはBから賃料の回収を受けるわけではないので、ただちにC・Dと同様に解することはできないと解される)。一方で、学説においてはこの将来債権のうちのどの範囲のものについて、債権譲渡においてはこの将来債権をめぐる問題(処分権)を有するべきかという形で問題が提起され、現在では次の3つの考え方がありうるとされている。①賃料債権の譲渡担保権者は、集合債権譲渡担保の効力を不動産譲受人に対抗することができ、譲渡担保の目的となった賃料債権はすべて譲渡担保権者に帰属するという考え方。この立場は、賃料債権の処分権は不動産の所有者から生じるという理解のもと、譲渡担保設定者(旧賃貸人)は譲渡担保設定の時点では賃料債権を所有しており、将来の賃料のすべてについて処分権限を有していたので、その処分権に基づいて設定された集合債権譲渡担保の効力が当然に優先されるべきではないかと考えるものである。②譲渡担保設定者(旧賃貸人)が締結した賃貸借契約に基づき発生する賃料債権は、譲渡担保権者に帰属するが、不動産の譲受人である新賃貸人が新たに行った賃貸借契約に基づき発生する賃料債権は、新賃貸人に帰属するという考え方。これは、賃料債権の処分権は契約上の地位に基づくものであることを前提に、譲渡担保設定者(旧賃貸人)が締結した契約から生じた賃料債権については、賃貸人の地位(契約上の地位)を承継した不動産譲受人にも譲渡担保の対抗効が及ぶ一方、不動産譲受人が自ら新たに締結した賃貸借契約に基づく発生する賃料債権については、譲渡担保設定者に処分権がなく、譲渡担保の効力が及ばないとする立場である。③集合債権譲渡担保の効力は不動産譲受人(新賃貸人)に対抗することができず、賃貸不動産の譲渡後に発生するすべての賃料債権はすべて新賃貸人に帰属するという考え方。この立場は、不動産の譲渡後に発生する賃料債権は不動産譲受人のもとで発生するため、譲渡担保設定者(旧賃貸人)はこれに対して処分権を有しないと考えるものである。この問題は、譲渡対象債権の処分権が誰について生じるのか(債権を生み出す財産の処分か、契約上の地位か)という理論的な対立があることに加えて、実際的にも、一方では不動産所有者の多様な資金調達を可能にするというメリットを、他方で不動産の所有権と活用が分離することによって生ずる弊害(不動産取引への支障や賃貸不動産の劣化)を、ともに考え合わせなければならないという難しさがある。本問において、仮に③の見解をとるならば、C・D・E・GはBに賃料を支払わなければならないことになる。これに対して②の見解をとると、C・D・EはいずれもFに賃料を支払わなければならず、結論が正反対になる。②の見解だと、譲渡担保設定者であるAと賃貸借契約を締結したC・EはBに、Aから建物を譲り受けた新たに賃貸借契約を締結したFに、それぞれ賃料を支払うべきということになろう。ところで、集合債権譲渡担保をめぐる不動産自体の譲渡とが競合する場合は、本問のような賃貸借ケースに限られない。たとえば、ある企業の特定の取引に基づく売掛債権について集合債権譲渡担保が設定された後に、その取引に係る事業が他の企業に譲渡(会社467条)されたような場合にも、事業譲渡後に発生する売掛債権が譲渡担保権者と事業の譲受人のいずれに帰属するかが問題となる(発問設題①参照)。基本的には上記①〜③と同様の考え方がここでも成り立ちうると思われるが、②の考え方をとる場合にはやや注意が必要である。事業譲渡契約においては、取引関係にすぎず基本的な取引条件を定める契約(基本契約)が締結され、これに基づいて個別の売買契約(個別契約)が繰り返し締結されるという形態がみられる(基本契約)。この場合に、事業譲渡がなされることによって移転するのは設定者(基本契約)の契約上の地位であると考えられるので、集合債権譲渡担保の効力が事業の譲受人に及ぶのは、基本契約と個別契約との結びつきの強弱という微妙な判断に委ねられることとなる。集合債権譲渡担保をめぐっては、これ以外にも、譲渡担保設定後に譲渡対象債権について譲渡制限特約が付された場合に譲渡担保権者はこの債権を取得しうるかという問題があるが(発問設題②参照)、これについては明文が設けられた(466条の6第3項)。[発問]株式会社Aは電子部品の製造を営む中小企業である。Aの技術力は世界的に高く評価されており、将来有望な小型モーターを大手メーカーにCとD社に納入している。2020年4月1日、Aは、運転資金5000万円(期間5年、弁済期2025年3月31日)をB銀行から借り入れるに当たって、「2020年4月1日から2025年3月31日までの間にAが小型モーターの販売によって取得する代金債権を担保のためにBに譲渡する」という内容の譲渡担保設定契約をBと結んだ。これについては同日付で債権譲渡登記が行われ
『Law Practice 民法Ⅱ【債権編】〔第5版〕』 千葉恵美子・潮見佳男・片山直也編者・2022年10月15日
ISBN978-4-7857-2992-9
債権譲渡禁止特約
2025/09/03
金属加工業を営むA社は、取引先の自動車メーカーBに対して、継続的に供給しているエンジン用バルブの売買契約に基づく売掛債権αを有している。債権αには、売買契約締結時に交わされたAR間の取引協定書において、「Aは、Bのあらかじめ書面により承諾した場合を除いて、債権αを譲渡・質入れしてはならない」旨の特約(「本件特約」)が付されていた。その後、Aは、金融機関Cから事業資金の追加融資を受けるに当たり、Cの貸金債権を担保するために、Bに事前の承諾を得ることなく、債権αをCに譲渡し、同日債権譲渡登記ファイルに登記をした。Cは、債権αをAから譲り受けるに先立ち、A・B間の契約書の内容をチェックしており、債権αに本件特約が付されていることを知っていたが、Bから譲渡の内諾を得ているというAの説明を信じ、それ以上にBに確認しなかった。他方、Dは、Aに対してバルブの製造に必要な金属類の供給契約に基づく売掛債権γを有していた。債権γの弁済期が到来しても、Aが弁済をしなかったので、Dは、債権γの弁済に代えて債権αを譲り受け、Aは、翌日に確定日付ある証書によりDへの債権譲却をBに通知した。Dは、債権αを譲り受ける際に、A・B間の契約書の内容を確認しておらず、債権αに本件特約が付されていることを知らなかった。債権譲渡通知書を受領したBは、Aに事情を問い合わせ、このときにはじめて、Aが債権αを事前の相談なしにCおよびDに譲渡していた事実を知った。AがCから融資を受けることはAの経営上不可欠であることから、Bは、債権αをAがCへ譲渡したこともやむを得ないと判断し、Cへの譲渡を書面により承諾した。Bは、CとDのいずれに債権αを弁済すべきか、少し判断に迷ったものの、債権譲渡登記の日付がDへの債権譲渡通知の到達日時よりも早かったこともあり、Cに対して債権αを弁済した。その後、DがBに対して債権αの履行を請求した。Dの請求は認められるか。[参考判例](1) 最判昭和48・7・19民集27巻7号823頁(2) 最判昭和45・4・10民集24巻4号240頁(3) 最判平成9・6・5民集51巻5号2053頁(4) 最判平成21・3・27民集63巻3号449頁[解説]1 債権譲渡制限特約とは(1) 特約の意義債権は、財産権であり、その性質が許さない場合を除いて、自由に譲り渡すことができるのが原則である(466条1項)。債権譲渡制限特約とは、それにもかかわらず、債権の譲渡を禁止し、または債権譲渡の効力を生じさせるために債務者の承諾を要するなどの方式により、債権の有する譲渡性を制限する趣旨の意思表示を含む債権者・債務者間の特約をいう(同条2項)。預貯金債権は譲渡制限特約が付されていることが通常となっている。建設業請負契約に基づく請負人が報酬債権の処分により譲渡制限特約が付されていることが多い。特に、近時は、本問のように、売掛債権にも譲渡制限特約が明記されている。この特約の目的は債権の発生を阻害する要因として問題視されるようになっている。いずれにせよ、譲渡制限特約の効力については、主に金銭債権を念頭に置いて議論がされてきた。(2) 特約によって保護されるべき利益債権譲便制限特約は、債権者が本来有する譲渡性を制約する趣旨の意思表示を含む合意であり、譲渡されると困る何らかの事情がある債務者の利益譲を目的として交わされ、すなわち、債務者は、①(相殺)相手方を固定することにより、②将来に同一の当事者間で反対債権が発生した場合の相殺の期待権の確保、③相殺に対する期待権の確保、④A間の金銭の授受に関する債権として債権αを固定することにより、債権の一元化による事務処理の煩雑さを避けることなどを目的とするものである。譲渡制限特約の定め方は一様ではない。本件特約のようなもののほか、「債権者は一切譲渡・質入れをしてはならない」とか、「債権者は書面による債務者の承諾があれば債権を譲渡できる」といったものがある。後者の特約であれば債務者が自己の判断で譲渡を有効に譲渡することができない、という観点において共通することから、民法466条2項もこれらを譲渡制限特約として一括して規律している。2 特約の第三者に対する効力(1) 債権的効果民法466条2項は、譲渡制限特約の効力を物権的に捉えている。すなわち、債務者の財産権としての性質を重視し、その譲渡を当事者が任意に制約することはできず、特約付債権の譲受人はその意思・悪意にかかわらず、譲渡制限特約の効力を有効なものとして主張しうるとしている。譲渡制限特約の譲渡は少なくとも第三者との間においては一切影響を受けない。譲渡制限特約には経済的な効力を阻害しないという債務者の保護に必要な範囲で一定の効力が認められるにすぎないと考えられている。本問において、Cは、特約の存在を知っていても、債権αを取得し、かつCへの譲渡につき債権譲渡登記により第三者対抗要件も具備されていることから(譲渡制限特約4条1項)、その後に債権αを本件特約の存在を知らずにDが譲り受けた第三者に対抗要件を備えたとしても、Cが確定的に債権αの第一次的な権利者である。Bは、特約の存在を理由として、債権αがCに帰属している状態で、従前どおりAに対して弁済その他の債権消滅行為を行うことができる余地を確保することができれば足り、債権譲渡の譲渡が無効であるという主張までBに許すのは、特約の目的を超えた過剰な効果を与えることになるといわざるをえない。なお、当事者間で譲渡を禁止ないし制約する合意をすること自体は有効である。本問において、債務者の交替に伴ってBが負担する弁済費用が増加した場合などには、Cに債権の譲渡に伴う事務処理費用が増加したときは、BからCに請求しうる可能性がある。今の譲渡制限特約付債権の譲渡によって債務者が負担を生じる余地がないという特約の定め方を工夫して(2) 物権的効果他方、契約自由の原則を重視する場合、当事者による内容形成の自由の一環として、債権者と債務者の合意のみにより譲渡性を制約された債権を創出することができうると考えられる。この場合、意思表示による譲渡の効力は物権法上の譲渡と同視しうるので、その意思表示による譲渡の効力も譲渡制限の意思表示に反して第三者に対抗することができる」と判断した。判例は、善意の第三者についても譲渡が無効であると解することができる(参考判例①)、同項ただし書の「善意」を「無重過失」と解すべきかについて、同項の趣旨が譲渡契約の有効性と譲渡人の契約上の地位を明確に区分したものであること(物権的効果説)と解してきた(参考判例②)。よって、2017年改正民法では、Cへの譲渡は①無効であり、無効な譲渡に関する譲渡制限特約登記も法務上有効である。他方、善意のDに過失がなければ、Dへの譲渡は有効である。Dへの譲渡があることによって債務者に対する関係では、本件特約付債権も譲渡されることとなる。本件では、Dの無重過失も問題となるが、譲渡制限特約の存在につき悪意・重過失であった場合はBがDへの譲渡についても無効であると主張できることになり、第三者対抗要件の先後によるのでは(467条1項)、Dの権利が優先すると考えられる。このように第三者の保護が優先されるのは、2017年改正民法は466条の2で抗弁の付着性の観点から自己の権利の有効性を判断できるためである。3 債務者の利益保護(1) 悪意・重過失の譲受人に対する履行拒絶民法466条2項は、債権譲渡を保護する方針で、つまり譲渡制限の保護を重視する利益を立てた(2(1))。反面、債務者は弁済の相手方を譲渡人に固定することによって生じる利益を有しているから、そのような債務者の利益にどう配慮すべきか、次に問題となる。譲渡制限特約に対抗することのできる場合の第三者の主観的態様に応じて区別する考え方は、2017年改正民法466条2項において採用されており、そうした考え方自体は民法466条3項にもそのまま承継されている。すなわち、Cが譲渡制限特約の存在について悪意の場合、Bにも応力を主張するまでもなく、BがCに弁済することを拒否し、代金を全額Bに持参して供託することも許されよう。そこで、Cが譲渡制限特約がある場合は悪意と推定され、Bは、Cへの請求において、譲渡を承諾してCに対して弁済をしてもよいし、特約に基づき自己の債務を履行するように絶えず促したうえで、Aに対して弁済その他の債務消滅行為(相殺など)をしてもよい。このように、債権の履行拒絶特約は、譲受人の悪意・重過失の限度で、債権の帰属・収支機能を弁済請求の債権者の分離と承認を促すものとして再構成されており、従来の物権的効果を精緻化したものといえよう。(2) 供託債務者Bは譲受人の主観的態様を窺知しうる立場にはない。そうすると債権者譲渡の事実を知ったBとしては、そもそも譲渡制限特約のもとに主張できるのかどうかかわからない不安定な立場に置かれる。また、本問のように債権者がCとDに二重に譲渡されていることもあり、いずれに支払うべきか迷うことも考えられる。そこで、債務者はBのような場合に供託をして免責を得ることができるとされている(466条の2)。2017年改正民法は、悪意・重過失の譲渡人は無効となるため、A・C・Dのいずれかの者も過失なく知ることができない場合に該当し、非弁済供託の一般規定(旧494条後段)に従い供託することができる。ところが、譲渡制限特約付債権の譲渡が常に有効とされ、債務者が債権を譲渡することができない事態が生じないことになったため、特約の存在を知るか否かが重要な要素である。4 債務者の抗弁権の主張が制約される場合(1) 悪意・善意で譲渡Cは、悪意で債権αを取得してもBが譲渡制限特約を主張してAに弁済すればCに対して不当利得返還請求ができる。この点は改正民法上も大きな違いはなく、債権の譲渡性を高めるうえで重要な改正点と評価されている。もっとも、これだけでは譲受人の利益保護というわけではない。すなわち、このときのBの意思が大切であり、Bは債権者ではないA・Bに対して債務を履行して弁済する。そうすると、Bは、Cの故意・重過失による無効を主張してCに対して債務の履行を拒絶しないことになるとも想定しておかねばならない。B間に履行の履行を強制できないという不利益が生じることがないという状態が続くのが問題である。そこで、このような事態の早期収拾に苦慮した譲受人は相当の期間を定めて譲受人に履行を請求するよう催告することができ、債務者は、相当の期間の経過後もAに履行がないときは、債務者は譲渡制限特約を主張することをできなくなる(466条4項)。特約の存在により債権を譲渡するべきでないと考える場合であっても、譲渡されるべきでない利益を守るべき手続きにすぎずにおり、債務者が履行によって保護されるべき債権の譲渡の効力を否定して譲受人へ履行を拒絶する正当な利益はないという趣旨が問題である。よって、悪意・重過失のCがAに履行するよう催告をして相当期間が経過した後はBがCにAの履行しない場合、Cの請求・催告義務違反の場合と同じ法律関係に転換し、Bは、譲渡制限特約の存在を無視して自己の債務を請求することができることになる。(2) 倒産・転付命令等による債務者が破産等により任意に債務の履行を期待することを認め、債務者の主観的態様にかかわらず、譲渡制限特約付債権を譲渡することによる。Cが譲渡制限特約付債権の譲渡を得意とする場合にも、転付命令、命令によって取得することができる(466条の5第1項)。本問において、仮にCが債権を譲り受け、代物弁済・転付命令を得た場合、B・重過失であっても、Bは客観的に主張されることはない。また、仮にCに対する一般債権者Eが差押命令を得た場合は、すでにCに確定的に帰属しているから、Eも、その主観的態様にかかわらず、債権αを差押・転付命令により取得することができる。もっとも、Bがよりも有利な地位に置かれるべき理由はない。Bは、Cの故意・重過失に由来する履行拒絶特約を主張しうる場合は、Eに対してBも同様にその特約を主張して履行を拒絶することができる(同条2項)。5 預貯金債権の特則(1) 物権的効果の維持これまで述べてきた譲渡制限特約に関する原則的ルールは、債権の種類や譲渡制限特約の当事者の属性、譲渡の回収行為の有無等を問わず、一律に適用して妥当する。唯一の例外は預貯金債権に関する譲渡制限特約に関する譲渡制限の物権的効果(2(1))が引き続き認められる。すなわち預貯金債権の譲渡の譲渡は原則として無効であり、善意・無重過失の譲受人への譲渡も無効である(466条の5第1項)。例外承認の正当化根拠として、①民法466条2項の適用に対応したシステムを構築し、それに伴って管理しようとすれば、コストが著しく増大すること、②頻繁に入出金が行われる膨大な数の預託口座の管理において円滑な払戻業務に支障が生じかねないこと、③預貯金債権はその性質上現金化されているも同然であり、差入人の資金調達の便宜を図るために譲渡性の障害となる特約の効力を制限する必要性に乏しい、などと説明されている。譲渡制限特約により譲渡が禁止される債権については、無効の譲渡であってもその後の譲渡(466条の5第2項、参考判例③、参考判例②)は有効に扱われ、Cに対して預金債権を譲渡した場合にも、Dはその後の善意・悪意にかかわらず債権αを差し押さえ転付命令により取得することができる。(2) 物権的効果の下での解除譲渡制限特約に物権的効果が認められるが、かつ譲受人が悪意・重過失である場合には問題となる(無効の主張権者の範囲である。原則として債務者による解除が常に有効であると考えると、原則として主張権者が債務者に限定されると考えられる(相対的無効説))。他方で、債務者の他に無効を主張することにつき独自の利益を有する者は無効を主張することができるという考え方(相対的無効説)もありうる。判例は、少なくとも譲渡人および譲渡人の他の債権者が物権的効果を主張しうる根拠を認めていない(参考判例①)。次に、債務者が譲渡を承諾した場合、譲渡が承諾時から将来的に有効になるのかどうかも問題となる。判例は、処分行為それ自体は無効だが、処分権限なき者のした法律行為について権利者のした追認に関する民法116条ただし書の法の法意に依拠し、債務者は、債権譲探の事実を承諾より前に知っていたために有効になるものを、譲渡承諾後に出現した包括承継のような事由により譲渡債権の対抗的効力を有する第三者の利益を害することはできないと解している(参考判例④)。[関連問題]Aに破産手続が開始し、Eが破産管財人に選任された。CがBに対して債権αの履行を求めた場合、Bは本件特約を主張することができるか。また、Cは債権αを確実に回収するためにはどのような請求をするべきか(466条3項)。[参考文献]野澤正充・百選Ⅱ52頁/角紀代恵・平成21年度重判53頁/第一法規株関係159頁/講義207頁(小野美恵)/Before/After252頁(篠崎)(石田 剛)
『Law Practice 民法Ⅱ【債権編】〔第5版〕』 千葉恵美子・潮見佳男・片山直也編者・2022年10月15日
ISBN978-4-7857-2992-9
債権譲渡禁止特約
2025/09/03
金属加工業を営むA社は、取引先の自動車メーカーBに対して、継続的に供給しているエンジン用バルブの売買契約に基づく売掛債権αを有している。債権αには、売買契約締結時に交わされたAR間の取引協定書において、「Aは、Bのあらかじめ書面により承諾した場合を除いて、債権αを譲渡・質入れしてはならない」旨の特約(「本件特約」)が付されていた。その後、Aは、金融機関Cから事業資金の追加融資を受けるに当たり、Cの貸金債権を担保するために、Bに事前の承諾を得ることなく、債権αをCに譲渡し、同日債権譲渡登記ファイルに登記をした。Cは、債権αをAから譲り受けるに先立ち、A・B間の契約書の内容をチェックしており、債権αに本件特約が付されていることを知っていたが、Bから譲渡の内諾を得ているというAの説明を信じ、それ以上にBに確認しなかった。他方、Dは、Aに対してバルブの製造に必要な金属類の供給契約に基づく売掛債権γを有していた。債権γの弁済期が到来しても、Aが弁済をしなかったので、Dは、債権γの弁済に代えて債権αを譲り受け、Aは、翌日に確定日付ある証書によりDへの債権譲却をBに通知した。Dは、債権αを譲り受ける際に、A・B間の契約書の内容を確認しておらず、債権αに本件特約が付されていることを知らなかった。債権譲渡通知書を受領したBは、Aに事情を問い合わせ、このときにはじめて、Aが債権αを事前の相談なしにCおよびDに譲渡していた事実を知った。AがCから融資を受けることはAの経営上不可欠であることから、Bは、債権αをAがCへ譲渡したこともやむを得ないと判断し、Cへの譲渡を書面により承諾した。Bは、CとDのいずれに債権αを弁済すべきか、少し判断に迷ったものの、債権譲渡登記の日付がDへの債権譲渡通知の到達日時よりも早かったこともあり、Cに対して債権αを弁済した。その後、DがBに対して債権αの履行を請求した。Dの請求は認められるか。[参考判例](1) 最判昭和48・7・19民集27巻7号823頁(2) 最判昭和45・4・10民集24巻4号240頁(3) 最判平成9・6・5民集51巻5号2053頁(4) 最判平成21・3・27民集63巻3号449頁[解説]1 債権譲渡制限特約とは(1) 特約の意義債権は、財産権であり、その性質が許さない場合を除いて、自由に譲り渡すことができるのが原則である(466条1項)。債権譲渡制限特約とは、それにもかかわらず、債権の譲渡を禁止し、または債権譲渡の効力を生じさせるために債務者の承諾を要するなどの方式により、債権の有する譲渡性を制限する趣旨の意思表示を含む債権者・債務者間の特約をいう(同条2項)。預貯金債権は譲渡制限特約が付されていることが通常となっている。建設業請負契約に基づく請負人が報酬債権の処分により譲渡制限特約が付されていることが多い。特に、近時は、本問のように、売掛債権にも譲渡制限特約が明記されている。この特約の目的は債権の発生を阻害する要因として問題視されるようになっている。いずれにせよ、譲渡制限特約の効力については、主に金銭債権を念頭に置いて議論がされてきた。(2) 特約によって保護されるべき利益債権譲便制限特約は、債権者が本来有する譲渡性を制約する趣旨の意思表示を含む合意であり、譲渡されると困る何らかの事情がある債務者の利益譲を目的として交わされ、すなわち、債務者は、①(相殺)相手方を固定することにより、②将来に同一の当事者間で反対債権が発生した場合の相殺の期待権の確保、③相殺に対する期待権の確保、④A間の金銭の授受に関する債権として債権αを固定することにより、債権の一元化による事務処理の煩雑さを避けることなどを目的とするものである。譲渡制限特約の定め方は一様ではない。本件特約のようなもののほか、「債権者は一切譲渡・質入れをしてはならない」とか、「債権者は書面による債務者の承諾があれば債権を譲渡できる」といったものがある。後者の特約であれば債務者が自己の判断で譲渡を有効に譲渡することができない、という観点において共通することから、民法466条2項もこれらを譲渡制限特約として一括して規律している。2 特約の第三者に対する効力(1) 債権的効果民法466条2項は、譲渡制限特約の効力を物権的に捉えている。すなわち、債務者の財産権としての性質を重視し、その譲渡を当事者が任意に制約することはできず、特約付債権の譲受人はその意思・悪意にかかわらず、譲渡制限特約の効力を有効なものとして主張しうるとしている。譲渡制限特約の譲渡は少なくとも第三者との間においては一切影響を受けない。譲渡制限特約には経済的な効力を阻害しないという債務者の保護に必要な範囲で一定の効力が認められるにすぎないと考えられている。本問において、Cは、特約の存在を知っていても、債権αを取得し、かつCへの譲渡につき債権譲渡登記により第三者対抗要件も具備されていることから(譲渡制限特約4条1項)、その後に債権αを本件特約の存在を知らずにDが譲り受けた第三者に対抗要件を備えたとしても、Cが確定的に債権αの第一次的な権利者である。Bは、特約の存在を理由として、債権αがCに帰属している状態で、従前どおりAに対して弁済その他の債権消滅行為を行うことができる余地を確保することができれば足り、債権譲渡の譲渡が無効であるという主張までBに許すのは、特約の目的を超えた過剰な効果を与えることになるといわざるをえない。なお、当事者間で譲渡を禁止ないし制約する合意をすること自体は有効である。本問において、債務者の交替に伴ってBが負担する弁済費用が増加した場合などには、Cに債権の譲渡に伴う事務処理費用が増加したときは、BからCに請求しうる可能性がある。今の譲渡制限特約付債権の譲渡によって債務者が負担を生じる余地がないという特約の定め方を工夫して(2) 物権的効果他方、契約自由の原則を重視する場合、当事者による内容形成の自由の一環として、債権者と債務者の合意のみにより譲渡性を制約された債権を創出することができうると考えられる。この場合、意思表示による譲渡の効力は物権法上の譲渡と同視しうるので、その意思表示による譲渡の効力も譲渡制限の意思表示に反して第三者に対抗することができる」と判断した。判例は、善意の第三者についても譲渡が無効であると解することができる(参考判例①)、同項ただし書の「善意」を「無重過失」と解すべきかについて、同項の趣旨が譲渡契約の有効性と譲渡人の契約上の地位を明確に区分したものであること(物権的効果説)と解してきた(参考判例②)。よって、2017年改正民法では、Cへの譲渡は①無効であり、無効な譲渡に関する譲渡制限特約登記も法務上有効である。他方、善意のDに過失がなければ、Dへの譲渡は有効である。Dへの譲渡があることによって債務者に対する関係では、本件特約付債権も譲渡されることとなる。本件では、Dの無重過失も問題となるが、譲渡制限特約の存在につき悪意・重過失であった場合はBがDへの譲渡についても無効であると主張できることになり、第三者対抗要件の先後によるのでは(467条1項)、Dの権利が優先すると考えられる。このように第三者の保護が優先されるのは、2017年改正民法は466条の2で抗弁の付着性の観点から自己の権利の有効性を判断できるためである。3 債務者の利益保護(1) 悪意・重過失の譲受人に対する履行拒絶民法466条2項は、債権譲渡を保護する方針で、つまり譲渡制限の保護を重視する利益を立てた(2(1))。反面、債務者は弁済の相手方を譲渡人に固定することによって生じる利益を有しているから、そのような債務者の利益にどう配慮すべきか、次に問題となる。譲渡制限特約に対抗することのできる場合の第三者の主観的態様に応じて区別する考え方は、2017年改正民法466条2項において採用されており、そうした考え方自体は民法466条3項にもそのまま承継されている。すなわち、Cが譲渡制限特約の存在について悪意の場合、Bにも応力を主張するまでもなく、BがCに弁済することを拒否し、代金を全額Bに持参して供託することも許されよう。そこで、Cが譲渡制限特約がある場合は悪意と推定され、Bは、Cへの請求において、譲渡を承諾してCに対して弁済をしてもよいし、特約に基づき自己の債務を履行するように絶えず促したうえで、Aに対して弁済その他の債務消滅行為(相殺など)をしてもよい。このように、債権の履行拒絶特約は、譲受人の悪意・重過失の限度で、債権の帰属・収支機能を弁済請求の債権者の分離と承認を促すものとして再構成されており、従来の物権的効果を精緻化したものといえよう。(2) 供託債務者Bは譲受人の主観的態様を窺知しうる立場にはない。そうすると債権者譲渡の事実を知ったBとしては、そもそも譲渡制限特約のもとに主張できるのかどうかかわからない不安定な立場に置かれる。また、本問のように債権者がCとDに二重に譲渡されていることもあり、いずれに支払うべきか迷うことも考えられる。そこで、債務者はBのような場合に供託をして免責を得ることができるとされている(466条の2)。2017年改正民法は、悪意・重過失の譲渡人は無効となるため、A・C・Dのいずれかの者も過失なく知ることができない場合に該当し、非弁済供託の一般規定(旧494条後段)に従い供託することができる。ところが、譲渡制限特約付債権の譲渡が常に有効とされ、債務者が債権を譲渡することができない事態が生じないことになったため、特約の存在を知るか否かが重要な要素である。4 債務者の抗弁権の主張が制約される場合(1) 悪意・善意で譲渡Cは、悪意で債権αを取得してもBが譲渡制限特約を主張してAに弁済すればCに対して不当利得返還請求ができる。この点は改正民法上も大きな違いはなく、債権の譲渡性を高めるうえで重要な改正点と評価されている。もっとも、これだけでは譲受人の利益保護というわけではない。すなわち、このときのBの意思が大切であり、Bは債権者ではないA・Bに対して債務を履行して弁済する。そうすると、Bは、Cの故意・重過失による無効を主張してCに対して債務の履行を拒絶しないことになるとも想定しておかねばならない。B間に履行の履行を強制できないという不利益が生じることがないという状態が続くのが問題である。そこで、このような事態の早期収拾に苦慮した譲受人は相当の期間を定めて譲受人に履行を請求するよう催告することができ、債務者は、相当の期間の経過後もAに履行がないときは、債務者は譲渡制限特約を主張することをできなくなる(466条4項)。特約の存在により債権を譲渡するべきでないと考える場合であっても、譲渡されるべきでない利益を守るべき手続きにすぎずにおり、債務者が履行によって保護されるべき債権の譲渡の効力を否定して譲受人へ履行を拒絶する正当な利益はないという趣旨が問題である。よって、悪意・重過失のCがAに履行するよう催告をして相当期間が経過した後はBがCにAの履行しない場合、Cの請求・催告義務違反の場合と同じ法律関係に転換し、Bは、譲渡制限特約の存在を無視して自己の債務を請求することができることになる。(2) 倒産・転付命令等による債務者が破産等により任意に債務の履行を期待することを認め、債務者の主観的態様にかかわらず、譲渡制限特約付債権を譲渡することによる。Cが譲渡制限特約付債権の譲渡を得意とする場合にも、転付命令、命令によって取得することができる(466条の5第1項)。本問において、仮にCが債権を譲り受け、代物弁済・転付命令を得た場合、B・重過失であっても、Bは客観的に主張されることはない。また、仮にCに対する一般債権者Eが差押命令を得た場合は、すでにCに確定的に帰属しているから、Eも、その主観的態様にかかわらず、債権αを差押・転付命令により取得することができる。もっとも、Bがよりも有利な地位に置かれるべき理由はない。Bは、Cの故意・重過失に由来する履行拒絶特約を主張しうる場合は、Eに対してBも同様にその特約を主張して履行を拒絶することができる(同条2項)。5 預貯金債権の特則(1) 物権的効果の維持これまで述べてきた譲渡制限特約に関する原則的ルールは、債権の種類や譲渡制限特約の当事者の属性、譲渡の回収行為の有無等を問わず、一律に適用して妥当する。唯一の例外は預貯金債権に関する譲渡制限特約に関する譲渡制限の物権的効果(2(1))が引き続き認められる。すなわち預貯金債権の譲渡の譲渡は原則として無効であり、善意・無重過失の譲受人への譲渡も無効である(466条の5第1項)。例外承認の正当化根拠として、①民法466条2項の適用に対応したシステムを構築し、それに伴って管理しようとすれば、コストが著しく増大すること、②頻繁に入出金が行われる膨大な数の預託口座の管理において円滑な払戻業務に支障が生じかねないこと、③預貯金債権はその性質上現金化されているも同然であり、差入人の資金調達の便宜を図るために譲渡性の障害となる特約の効力を制限する必要性に乏しい、などと説明されている。譲渡制限特約により譲渡が禁止される債権については、無効の譲渡であってもその後の譲渡(466条の5第2項、参考判例③、参考判例②)は有効に扱われ、Cに対して預金債権を譲渡した場合にも、Dはその後の善意・悪意にかかわらず債権αを差し押さえ転付命令により取得することができる。(2) 物権的効果の下での解除譲渡制限特約に物権的効果が認められるが、かつ譲受人が悪意・重過失である場合には問題となる(無効の主張権者の範囲である。原則として債務者による解除が常に有効であると考えると、原則として主張権者が債務者に限定されると考えられる(相対的無効説))。他方で、債務者の他に無効を主張することにつき独自の利益を有する者は無効を主張することができるという考え方(相対的無効説)もありうる。判例は、少なくとも譲渡人および譲渡人の他の債権者が物権的効果を主張しうる根拠を認めていない(参考判例①)。次に、債務者が譲渡を承諾した場合、譲渡が承諾時から将来的に有効になるのかどうかも問題となる。判例は、処分行為それ自体は無効だが、処分権限なき者のした法律行為について権利者のした追認に関する民法116条ただし書の法の法意に依拠し、債務者は、債権譲渡の事実を承諾より前に知っていたために有効になるものを、譲渡承諾後に出現した包括承継のような事由により譲渡債権の対抗的効力を有する第三者の利益を害することはできないと解している(参考判例④)。[関連問題]Aに破産手続が開始し、Eが破産管財人に選任された。CがBに対して債権αの履行を求めた場合、Bは本件特約を主張することができるか。また、Cは債権αを確実に回収するためにはどのような請求をするべきか(466条3項)。[参考文献]野澤正充・百選Ⅱ52頁/角紀代恵・平成21年度重判53頁/第一法規株関係159頁/講義207頁(小野美恵)/Before/After252頁(篠崎)(石田 剛)
『Law Practice 民法Ⅱ【債権編】〔第5版〕』 千葉恵美子・潮見佳男・片山直也編者・2022年10月15日
ISBN978-4-7857-2992-9
詐害行為取消権の効果
2025/09/03
2024年4月1日、AはBに対し、弁済期を2025年3月31日と定め300万円を貸し付けた。Bが有する唯一の財産は、2023年10月5日に死亡した父Cから相続により取得した甲土地(評価額500万円)のみであった。Bは、2024年5月15日に甲土地について相続を原因とする所有権移転登記を経由した。2024年10月15日、Bは友人のDに対し、甲土地を代金250万円で売却し、同日、その所有権移転登記を経由した。さらに、甲土地は、同年12月7日、DからEに代金300万円で売却され、同日、その旨の所有権移転登記を経由している。2025年1月20日、Aは甲土地がBからD、DからEへと売却された事実を知った。その後、関係者に事実関係を確認し、同年2月20日までは、それぞれの売買について代金の支払をまだ済ませておらず、DおよびEは、それぞれ代金の支払を済ませており、また、BがAから300万円を負担している事実、甲土地がBの有する唯一の財産であった事実、そして、甲土地の評価額が500万円であること、それぞれの売買契約当時、知っていたとのことである。Aは、BがDやEより黒い価格でCに甲土地を売却した行為について詐害行為取消権を行使したい。このとき、Aは誰に対してどのような請求ができるか。[参考判例](1) 大判明治44・3・24民録17輯117頁(2) 最判昭和49・12・12法法743号31頁[解説]1 詐害行為取消権の法的性質詐害行為取消権の行使方法およびその効果を検討するに当たっては、まず詐害行為取消権の法的な性質が問題となる。この点に関して、有名な参考判例①は、以下の5点を示し、これが2017年改正民法の基礎となった。①詐害行為の取消しは形成訴訟にしかよれない②その取消しの効果は遡及するものではない③債権者が受益者に対して返還請求権を行使し④受益者が債務者に対して反対給付の返還請求をすることも、あるいは転得者に対して第一順位で代金の支払を求めることも可能である⑤受益者は債務者に対する反対給付の返還請求権を行使し、その返還を求めることもできる。受益者が財産を費消してその財産を返還できないときは、相殺が認められること。⑥受益者から財産を取得した転得者に対しては、受益者と同様の請求が可能である。2017年改正民法は、この参考判例①の内容の多くを明文化している。すなわち、取消権者は、受益者または転得者に対して取消請求をする(返還が困難なときは価額の償還請求)とともに民法424条の6が規定する。また、債務者に被告は訴える必要はなく、訴訟告知の対象となることも民法424条の7が規定する。しかし、一方で民法は、これまでと同様に、詐害行為取消権を構成するについては、これを民法425条において、詐害行為取消権を請求する確定判決は、債務者およびそのすべての債権者に対してもその効力を有する旨を規定する。以上より、現行民法下においても、これまでと同様にAは、Dを被告として訴訟を提起することも、また、Eを被告として訴訟を提起することも認められる。また、取消債権者の債権は、詐害行為より前に原因に基づいて生じたものであればよいとされ(424条2項)、AはBがDに甲土地を売却したときから(Aは弁済期にある必要はなく)、Bの売買行為を詐害行為であるとして取消しを求めることができる。ちなみに、2017年改正民法は受益者の善意に関する立証責任に関する判例法理を想定しており(大判昭和9・11・30民集13巻2191頁)、改正民法は424条4項で、BがDに土地を売却した行為は2024年10月15日であり、無償行為であるから、B・D間の売買行為には改正民法が適用されるとしている。2 受益者に対する請求詐害行為により逸出した財産が不動産であり、その不動産に何の返還を請求する場合、移転登記を経由しているときは、抹消に代わる移転登記を求めることによって、債務者への財産の返還が実現される。これに対し、返還の請求が金銭の支払または動産の引渡しを求めるものであるときは、取消債権者は受益者あるいは転得者に対し直接、自己に引渡しを求めることができると解されていた(最判昭和36・7・19民集15巻7号1876頁)。1158頁、最判昭和61・1・23民集40巻1号23頁)。この場合には受益者が受領する必要となるので、債務者に代位して受領権限がある者から、取消債権者による財産の返還の請求が適切であるとの趣旨である。民法もこの判例法理を、424条の9第1項で明文化する。また、受益者あるいは転得者が逸出財産をすでに処分してしまって財産を返還できないときは、価額賠償が認められる。この場合、詐害行為の時点の価格によって賠償すべきか、あるいは、賠償請求時の価格によって賠償すべきかについて、訴訟提起の際に価格が変動する可能性があるため、その点を明確にするため(424条の8第1項・2項後段)、受益者・転得者の善意・悪意を問わず、返還を請求することができるとされ(424条の8第1項前段・2項前段)、受益者・転得者の善意・悪意によってその内容が変わることはない。AはDを被告として、取消請求とともに、Aに対する所有権移転登記を求めることとなる。その場合、Aの被保全債権は300万円であるが、Aの被保全債権額を超える部分については注意を要する。価額賠償は500万円である。Aの被保全債権額を超える部分の支払を受け、超過の相殺処理によって自らが債務者に対する債権の満足をすることができることとされた。Dに対する価額賠償請求も自らが500万円の限度で請求をすることができ、Dはこの請求に応じなければならない。Dが自己の財産をBに返還すべきである。この点について改正法では、受益者は取消債権者の債権の額の限度で返還の義務を負うと規定している(ちなみに小問⑵は、財産分与行為も行為の目的が可分であるとして同様の基準を定めている)。したがって、AがDに請求しうる請求額は300万円である。取消請求においてDに対する請求が認容されると、B・D間の売買契約の取消しと、DがCに対して300万円を支払うべき旨の判決がなされた。この確定判決とその効力は民法425条の規定によりBおよびすべての債権者に及ぶことになる(425条)。従来、「相対的取消構成」が提唱されていたが、その結果、Bについても免責の効果が及ぶ以上、その意義は本来、Bが取得すべきものであるとして、仮にAが300万円の支払をDより受ければ、BはAに対し、その300万円をBに支払うよう請求することになる。これに対しAはBに反対する給付債権を自働債権として相殺することが想定されるのである。2017年改正民法下でも判例は相殺処理を認めているとして(最判昭和37・10・9民集16巻10号2070頁)、判例が指摘されることがあったが、当該判例の射程は相殺の成否の争点ではなかった。相殺処理の可否については相殺処理に賛成に回ったところである(中田・債権総論325頁)。これに対して、相殺処理は事実審の判断によることが妥当ではないとの理由から、相殺処理は認められないとの見解が示された(藤原審議官)。もっとも、このような形成訴訟を経れば、取消債権者が債務者に先立って自己の債権を回収することが可能となり、これは債権者平等の原則に反するとの批判がある。取消権の創設趣旨である、責任財産の保全という考え方を踏まえ、判例は相殺処理を認めないとの見解に変わり、その結果、民法425条を根拠に、債務者の財産回復請求という新たな権利を認め、他の債権者がこの返還請求権に対し、差押えあるいは製造物責任法上の責任を負うことを認めることとした(参考判例②)。詐害行為取消訴訟を提起し、物権的効果を伴わないことなどが点在している(民執166号〔2021〕30頁)。一方で、買主であるDはBに支払った代金250万円の返還請求をBに対し求めることになる。この点についての規定が、民法は、旧民法では取消権行使を認めた場合、受益者にどのような請求権が認められるか、旧民法には規定がなかった。これに対し、民法425条の2において、受益者は債務者に対し、その財産を取得するために給付した反対給付の返還を請求しうることを規定した。ここにも相対的取消構成の見直しが影響している。3 転得者に対する請求AがEを被告として訴訟提起をする場合、現物の返還が可能であるから、Aが求める訴えの内容は、2024年10月15日になされたB・D間の売買契約の取消しと、Eが甲土地の所有権登記をBに返還するように求めるものとなる。転得者に対する取消請求も、取り消される行為はあくまで債務者の行為(D・B間の売買契約)であり、受益者と転得者間の行為(D・E間の売買契約)ではないことに留意すべきである。この請求が認容されるか否かの帰趨は転得者の主観によるのであり、この点、民法425条では転得者がその行為の時において債権者を害すべき事実を知っていたときに限り取消しは効力を生じない。そのために、Eは甲土地の所有権を取得するにあたって、Bに対し、Dに代わって代金を支払ったが、Bの債権者を害することを知らなかったとしても、自己に支払った代金200万円の返還を求めることはできない。このままではDは自己の財産を失うことになるので、民法は転得者の保護を図っており、受益者・転得者の善意・悪意により請求できるか否かを決すべきとされ、また民法425条の2の規定によりEがDに求償すべきである(またはその価額の償還請求)。その場合、EはDに支払った代金300万円の返還を、Dに対し不当利得として返還請求ができる(425条の4第1項)。Eは、Bに対し、200万円の支払を求めることができる。なお、転得者に対する取消請求が認められるための要件について、民法はこれまで判例法理を重要視する必要がある。すなわち、参考判例②は、盗品の転得者が被害者から所有権に基づいて返還請求を受けた場合、盗品を占有していた期間が2年を超えていたケースにおいても、現在の転得者が悪意であれば取消権行使は可能とし、この点についても相対的な解決を指向していた。これに対し、民法424条の5は、転得者に対する取消の訴訟は、受益者に対する行為の取消を請求することができる場合で、かつ転得者が悪意であるときに限ると規定した。転得者の保護の他に公益の要素を考慮している。また、転得者となる前の善意の転得者が介在する場合はその後の転得者もそれぞれの善意の転得者として扱われる。したがって、仮にDが詐害行為の事実について善意であったとすると、たとえEが悪意であったとしても取消権行使は認められない。さらに、甲土地の所有権を登記名義人から転得した場合のその後の処理であるが、取消債権者(あるいは別に債権者)によって不動産強制競売の申立がなされることが想定される。その手続は通常民事執行法の規定によりなされるので、民事執行法と詐作行為の規定の適用を調整する必要がある。民法425条の4によれば上記のとおり300万円を請求しうるが、この債権についても債務名義をもち、その債権にもとづき民事執行法所定の要件を満たせば、競売手続において配当を受けることができる。4 その他の検討課題民法425条によりなされる判断の効力はどのような第三者の行為であろうか。とりあえずは取消判決の効力は判決の確定により生じると考えられるが、しかしながら、債務者およびその債権者間の法律関係にはなっておらず、紛争の相対的解決の原則と衝突すると民事訴訟手続において、なぜこれらの者が優先できるのかという問題が生じる。そこで、学説には司法権の拡張による解決法(訴訟の目的がもののほかは当事者以外にも及ぶもの)と民事訴訟の判例法理にも問題があり、今後の議論の深化が待たれる。さらには、取消訴訟の係属中に債務者が破産した場合に訴訟に参加する参加形態がどのようなものなのか、さらには債務者の他の債務者が原告に訴訟参加した場合などは、なぜ訴訟手続に関する検討も不可欠となる。筆者は、被告も原告も訴訟参加に関する判例法理との間には矛盾が生じる。他に、債務者による訴訟参加を考えているが、この点についても今後の議論の展開が期待される。[関連問題](1) 水面下ではBの詐害行為は甲土地の転売屋であったが、事実関係を整えて、Bは2023年10月1日、Bに対し、弁済期を2024年10月15日と定め250万円を貸し付けた債権者であったとする。B・Dは、同年10月15日、Dに対する金銭債務の弁済に代えてBが所有する甲土地を代物弁済とすることに合意し、同日、Dへの所有権移転登記を経由した。仮に、この代物弁済行為が民法424条の3に規定する要件を満たし、詐害行為取消請求が認容された場合、AはCに対してどのような請求ができるか。また、この取消判決の請求が容認された場合、Dが有していた貸付金債権250万円はどうなるか。あるいは同様の要件を満たさない場合はどうか。(2) 上記(1)の事案において、Dは甲土地取得の2024年12月7日、Eに甲土地を代金200万円で売却し、同日、その旨の所有権移転登記を経由していたとしたら、Aは誰に対してどのような請求ができるか。[参考文献]沖野眞已・百選Ⅱ80頁/茶園「詐害行為取消権の行使方法とその効果」(民事法研究・2020)106頁・174頁(富岡信一)
『Law Practice 民法Ⅱ【債権編】〔第5版〕』 千葉恵美子・潮見佳男・片山直也編者・2022年10月15日
ISBN978-4-7857-2992-9
財産処分行為と詐害行為取消権
2025/09/03
Aは、2031年10月5日、Bに対して商品を売却し、代金400万円の支払期日を2032年1月20日としたが(以下、両者間に係る売掛代金債権を「本件債権」という)、Bは2031年12月頃から、経営状態が悪化し、債務超過の状態に陥った。Bは唯一のめぼしい財産として2000万円相当の土地・建物(以下、「甲不動産」という)を所有していたが、2032年1月10日にBはお担保にするため抵当権が設定されていた。AはBに対する1500万円の貸金債権(被保全債権)については、翌月の支払に窮しない(利息・損害金については考慮しなくてよい)。(1) Bは、2032年1月10日、Dとの間で、甲不動産をDに500万円で売却する契約を締結し、C銀行甲支店の普通預金口座に振込送金された。Dは、E名義の口座に500万円の振込をし、甲不動産につき、売買を原因とするDへの所有権移転登記手続がなされた。AはDを被告として詐害行為取消訴訟を提起したいと考えている。AはDに対してどのような請求をすることができ、①被担保債権がまだ弁済されておらず当該普通預金口座がCの被担保債権を全額弁済し、当該抵当権設定登記が抹消されていた場合と②分けて、その当否を検討しなさい。(2) Bは、2032年1月10日、Cに対して、1500万円の債務の代物弁済として、甲不動産を譲渡し、同日、甲不動産につき遺贈を原因とする所有権移転登記手続がなされた。AはCを被告として詐害行為取消訴訟を提起したいと考えている。Cに対してどのような請求をすることができるか、その当否を検討しなさい。[参考判例](1) 最判昭和36・7・19民集15巻7号1876頁(2) 最判昭和54・1・25民集33巻1号12頁(3) 最判昭和63・7・19判時1299号70頁(4) 最判昭和42・11・9民集21巻9号2320頁(関連問題①)(5) 最判平成12・3・9民集57巻10号1532頁(関連問題②)(6) 最判平成12・3・9民集54巻3号1013頁(関連問題③)[解説]1 責任財産の範囲債務者の財産は、債権各種の引当てとなる責任財産を構成するが、債務者は、所有者としてその財産について処分権限を有するので、法律行為によって自由に財産を他者に処分することができ、それによって責任財産が減少して、債権者が対抗要件ほかを免れられないおそれがある。そこで、民法は、債権者が債権を害することを知りながらした行為について、債権者が、詐害行為取消訴訟を提起し、その行為を取り消して(424条1項・3項)、逸出した財産を取り戻すこと(424条の6)を認めた。すなわち詐害行為取消制度の射程範囲は、責任財産を保全するため、詐害行為(責任財産減少行為)を取り消して、責任財産の回復を図ることにある。本問において、甲不動産は、債務者Bの責任財産を構成するので、無資力(=債務超過)の状態においてその2分の1が不動産処分行為は、一体債務者を害する詐害行為として取り消される余地がある。ただし、甲不動産にCのために抵当権が設定されている点には注意を要する。判例・通説は、債務者の財産に抵当権等の目的物が設定されていた場合、その被担保債権を控除した残額部分のみが一般債権者の共同担保(責任財産)を構成としている(大判明治44・11・20民録17輯715頁、我妻栄『新訂債権総論』(岩波書店・1964)181・182・196頁など)。参考判例③が、「詐害行為の目的不動産に抵当権が付着している場合には、その取消は、目的不動産の価額から右抵当の被担保債権額を控除した残額の部分に限って許される」とするのはその趣旨である。本問においては、甲不動産の価額は2000万円相当であるが、そのうち1500万円分については、Cの抵当権によって優先弁済権(交換価値)が確保されており、Aを含めた一般債権者の責任財産を構成するのは500万円分ということになる。なお、財産分与行為によってなされたとして取消し請求できる場合であっても、詐害行為の成立には債務超過の要件を具備していなければならない(424条3項)。本問では、甲不動産の処分行為がなされたのは2032年1月10日であるが、Aが本件債権を取得したのは2011年10月5日であるので、この要件を満たしている。2 詐害行為の類型と要件詐害行為としては、贈与、売買、代物弁済、担保設定行為など種々の行為が想定されるが、2017年改正民法は具体的に、424条1項本文の「債権者を害することを知ってした法律行為」の解釈として、①詐害行為に当たることを知ってした相当な対価を得てした財産の処分行為、②特定の債権者に対する担保の供与もしくは債務の消滅に関する行為などを類型化して、その要件を明確化した。従来の民法の解釈との違いとして、「対抗要件具備行為」に至るとの把握が指摘されていたことから、1927年改正民法では、一般規定(424条1項)に2つ、類型ごとに特則を置いて、類型ごとの要件を満たすことを前提にさらに特則によって取消される要件を明示することとした。類型は、相当対価を得てした財産の処分行為の特則(424条の2)、特定の債権者に対する担保の供与等の特則(424条の3)、過大な代物弁済等の特則(424条の4)の3つである。小問⑴では、抵当権の負担のとれた甲不動産の500万円についてであるが、これを500万円でDに売却したというのであるから、相当価格の財産処分行為(424条の2)に加えて、特別規定である民法424条の2が適用される。Dに悪意や害意の要件がある場合は、同条1項のみの適用となるが、Dに害意はなく、②「隠匿等の処分」をするおそれを見抜けるものであり、かつ害意があること(2号)が要件となる。さらに、②一般規定(424条1項)に加えて(2号)が要件となり、受益者の悪意も害意も客観的な要件の有無で立証しなければならない(3号)。受益者の悪意も害意も、D名義の普通預金口座に代わる送金を望む。ように指示し、Dが指示どおり振り込んだというのであるから、「間接等の処分」のおそれおよびその意思が認定される可能性がある。小問②では、1500万円の債権に2000万円の不動産が代物弁済されている。この債権が唯一の債務である場合、1500万円の部分については、いわゆる偏頗行為(特定の債権者に対する担保の供与等)として、424条の3第1項の加重された要件(支払不能の時にされたものであり、かつ債務者と受益者とが通謀して他の債権者を害する意図をもって行われたものであること)が満たされ、500万円の過大部分については、民法424条の4によって、一般規定である民法424条により取消しの請求が認められることになる。しかし小問⑵では、Cは一般債権者ではなく抵当権によって優先弁済権が確保された債権者であるので、そもそも被担保債権の範囲(1500万円)においては、甲不動産は一般債権者の責任財産を構成しておらず、詐害行為が成立する余地がない。よって、500万円分(消滅した債権の額に相当する部分以外の部分)についてのみ、過大な代物弁済として詐害行為取消権を行使できることとなる(424条の4・424条)。3 取消しの範囲および取戻しの方法詐害行為取消権の法的性質については、2017年改正前民法が「取消しを請求することができる」(旧424条1項)とのみ規定していたことから、形成権説、請求権説、折衷説の対立が存在したが、判例は一貫して形成訴訟を採用し(大判明治39・9・28民録12輯1154頁など)、訴訟物は詐害行為取消権一個である(最判平成22・10・19判時2155号16頁)、旧民訴法の「形成訴権」および財産の「取戻し」の両方の請求が可能であり、取戻しの方法は、「現物返還」または「価額賠償」によるが、可能な限り現物返還を原則とすべしとしていた(大判昭和9・11・30民集13巻2191頁)。2017年改正民法は、以上の判例法理をリステイトし、424条1項・3項で「取消請求」を規定するとともに、424条の6第1項前段および2項前段において、取消しとともに「財産返還請求」ができるとし、同条1項後段および2項後段において、その返還の方法をとることができると規定した。財産返還(現物返還)によるか、価額賠償(価額賠償)によるかは、取消しの範囲の問題(全部取消しか一部取消しか)に連動している。判例は、取消しとともに金銭の支払(価額賠償を含む)を求める場合には、取消しの範囲は原則として取消債権者の債権額に限定されるとしてきたが(大判大正9・12・24民録26輯2024頁)、2017年改正民法は、行為の目的が可分である場合および価額賠償請求をする場合には、「自己の債権の額の限度においてのみ、その行為の取消しを請求することができる」と明記した(424条の8第1項および2項)。抵当権付不動産の譲渡行為を取り消す場合の取消しの範囲と取戻しの方法については、一定の最高裁判決によって判例法理が確立している。判例は、①抵当権設定が抹消されていない場合には、可能な限り「全部取消+現物返還」を認めるべきであるが(参考判例②)、②抵当権が消滅後に取消の訴訟が提起されている場合には、「逸出した財産自体を原状のままに回復することが不可能若しくは著しく困難であり」、また、「債権者及び債務者に不当に利益を与える結果になる」ので、「一部取消+価額賠償」によるしかないとする(参考判例③)。共同抵当の目的とされた複数の不動産の譲渡が詐害行為となる場合において、後の弁済により抵当権が消滅したときには、「売買の目的とされた不動産の価額から右不動産が負担すべき右抵当権の被担保債権の額を控除した残額の限度で右売買契約を取り消し、その価額による賠償を命ずるべきであり、一部の不動産自体の回復を認めるべきものではない」とした(最判平成4・2・27民集46巻2号132頁)。なお価額賠償における価格算定は、原則として、取消しの効果が生じる受益者において財産返還義務を負担する時点、すなわち取消訴訟の事実審口頭弁論終結時が基準となる(最判昭和50・12・1民集29巻11号1871頁)。以上の判例法理は、2017年改正民法は、424条の6第1項後段および2項後段の「財産の返還をすることが困難であるとき」の解釈論として承継されることになろう。小問⑴の①のケースでは、「全部取消し+財産返還(所有権移転登記の抹消)」となるが、小問⑴の②のケースおよび小問⑵のケースでは、取消しが困難であるとして、「一部取消し+価額賠償」となる。その場合、取消しの範囲は、さらに被保全債権の債権額(本問では400万円)の限度に制限され(424条の8第1項)、取消債権者への金銭の支払が命じられる(424条の9第2項)。[発問]Aは、2031年10月5日、Bに対して商品を売却し、代金400万円の支払期日を2032年1月20日としたが(以下、両者間に係る売掛代金債権を「本件債権」という)、Bは2031年12月頃から、経営状態が悪化し、債務超過の状態に陥った。Bは唯一のめぼしい財産として2000万円相当の土地・建物(以下、「甲不動産」という)を所有していた(以下の設問に解答しなさい(利息・損害金については考慮しなくてよい)。(1) Bは、母親の介護費用が必要となったため、2032年1月10日、金融業者Cから500万円の融資を得るため、甲不動産を担保目的でCに譲渡し、同日、甲不動産につき譲渡担保を原因として所有権移転登記手続がなされた。AはCを被告として詐害行為取消訴訟を提起したいと考えている。AはCに対してどのような請求をすることができるか、その当否を検討しなさい。融資額が2000万円の場合はどうか。(2) Bは、債権者からの執行を免れるため、2032年1月10日、妻Dと協議離婚し、財産分与として、甲不動産を譲渡し、同日、甲不動産につき財産分与を原因として所有権移転登記手続がなされた。AはDを被告として詐害行為取消訴訟を提起したいと考えている。Dに対してどのような請求をすることができるか、その当否を検討しなさい。[参考文献]森田修・庇護Ⅱ32頁/片山直也・百選Ⅱ38頁/森田修・庇護Ⅱ40頁/Before/After・第2版 166頁(稲田正毅)・170頁・179頁(福井信一)・182頁(稲田正毅)・188頁(高嶋一朗)・190頁(篠原菊)(片山直也)
『Law Practice 民法Ⅱ【債権編】〔第5版〕』 千葉恵美子・潮見佳男・片山直也編者・2022年10月15日
ISBN978-4-7857-2992-9
債権者代位権
2025/09/03
Aは歩行中にBの運転する自転車にぶつかられて転倒し、A所有の衣服が汚損する事故が起こった。A・B間で治療費や慰謝料、示談金としてAに対してBが800万円の賠償を支払うことで、和解が成立した。他方、個人事業主として工務店の営業をしているBは、常連の小売業者であるCに対し1000万円の売買代金債権を有していた。ところが、Bの製品について、世間に広く信頼を裏切るような事態が発覚して信用が地に落ちたため、CもBとの取引を打ち切った。このため、Bの経営は悪化して、CもBからの取立てを断念して債権は事実上焦げ付いた。その後、上記のようなBの窮状に関するニュースをインターネット等で知ったAは、BがCに対して有する売買代金債権について、AがBに対して上記和解金の支払を求めるため、Bは、「手元不如意な場合はCから回収してもらえれば自分の債権の全額を支払うので、そこから自由に取立ててもらってかまわない」と述べた。(1) AはCから取り立てるため、どのような手段をとることができ、AはBに代わって、どのような事実を主張する必要があるか。(2) (1)の手段に際して、Aの事実を証明する必要がある。(3) AがCに対する訴訟を提起した後、Bは確実な債権取立てをしてもらうべく、Cに発注元が同じであるDから仕事を紹介してもらい、DはCに発注元が同じであるために、CがDに発注した建設において代物弁済による納品では満足できないので、それはAに支払うようにと主張した。しかし、Aはこれによっても不足が生じると、Aは、Bに破産手続開始決定があり、Bの破産管財人Eが、Aの請求を否認した。Aが支払を拒むのに、どのような主張が可能か。[参考判例](1) 最判昭和40・10・12民集19巻7号1777頁(2) 大判昭和10・3・12民集14巻482頁(3) 大判昭和14・5・16民集18巻5号557頁[解説]1 債権者代位権の意義債権の効力として、債権者が債務者の財産を履行しない場合に、債権者は債務に対して請求し、それを強制する効力が認められている。ただ、債務者の消極財産(債務)の行使について債権者が関与することは原則としてできないとされる(債務者の財産管理権の尊重、特定財産の給付は可能であっても、債務者の無資力等の状態にありながら、自己の債権の行使を放置し、結果として債権者の権利の保全が図られないことは相当とはいえない)。そこで、民法は、債権者代位権の制度を用意し、そのような場合に例外的に債務者の債権行使に債権者が介入し、債務者に代わって自ら債権を行使することを認めている(本来の債権者代位権)。さらに、このような金銭債権の保全をこえ、債務者が有する債権の実現を図るため、当該債権と密接な関連を有する債務者の債権を債権者に代位行使することも判例上認められてきた。たとえば、ある不動産に関する債務者の登記請求権を債権者に代位行使する場合や、ある不動産に係る債務者の債権を実現するため、当該不動産を占有する者に対する所有者の妨害排除請求権を代位行使するなどである(転用型の債権者代位権)。そして、このような利用形態は改正民法によって一部明文化され、上記の登記請求権の転用型は規定された(423条の7)。ただ、登記請求権と観念されてきた転用型の一般原則の射程の問題を検討する。以下では、本問に即して、本来の債権者代位権、転用型の債権者代位権のいくつかの法律問題を検討する。2 債権者代位権制度の機能・保全執行制度との関係本来の債権者代位権の行使の場合において、債権者は債務者が第三債務者(第三債務者)に対して債権を有しているときに、債務者の金銭債権についてはどのような方法があるかを検討する必要がある。これについては、大きく2つの方法が考えられる。1つは、民事保全法に基づき、債務者に対して債務者の財産についての仮差押えの申立てをし、第三債務者に対しては当該債権執行を禁止する旨の仮差押命令がある。そして、そのうえで、債務者に対して給付訴訟を提起して債務名義を取得した後、民事執行法に基づき、その確定判決に基づき債務者の第三債務者に対する債権を差し押さえる方法である(その債権、当該債務あるいは転付命令〔一種の代物弁済〕によって自己の債権を終局的に実現することになる)。このような債務者の財産プロセスの予見の確実性を担保する方法も考えられる。Aは、BのCに対する売買代金債権を仮差押えしておけば、Bに対する800万円の判決を前提として転付命令の申立てあれば債権者Bは直接債務者に簡単な請求で第三債務者の資産を差し押さえ、その債権の取立てが代えって第三債務者に直接行使することが考えられる。もう1つの方法が債権者代位権を活用するものである。すなわち、債権者は、判例(後掲参考判例)に基づき、債務者の第三債務者に対する債権(被代位権利)を行使して、第三債務者に直接取立てることが認められ(4参照)、参考判例②のように債務者に代わって金銭債権を実現するため、あえて第三債務者に対し訴訟を提起して債務名義を取得し、その債権について取立て訴訟を提起したうえで強制執行をしても、その方法として債務者の債権(被代位債権)を債権者に代位して行使し、債権者(A)が自ら給付を受けることは何ら妨げるところではないと解されている。Aは自ら訴訟を提起して、債務者の800万円(423条の2参照)の代金債権の取立てを試み、その判決に基づいて直接800万円の弁済を受領し、Bに対する800万円の和解金債権と相殺することによって、債権回収を図ることができる。この2つの方法はいっかつの差があり、債権者代位権に利益が認められる部分がある。第1に、債権者代位権による債務名義が不要である。第2に、債務者代位権によって優先弁済が優先可能となる。第3に、債務者による取立て、債務者による処分、その他債権者による被代位権利の取扱いを制限するような手続規定という手続が不要となる。第4に、債権者代位権は費用も少なく、債権者にとっては、より少額の訴訟費用の負担ですむ(裁判外・裁判上、いずれも)。実際に実務で機能を果たしてきたことは大きな利点である。債権者代位権によって優先弁済が優先可能となる。債権者による取立て、債務者による処分が可能であり、その他債権者による被代位権利の取扱いを制限するような手続規定を前提に、債務者による取立て、債務者による処分も可能である。その結果、仮に他の債権者の存在に気づいたとしても、差押えと相殺による回収権限を第1順位にすれば、代位権者が優先権を得る結果となる。他方、民事執行による場合は、他の債権者が差押えに参加する配当参加(配当参加は期日指定の同時回収が原則)が可能であり、それが確定するまでには他の債権者の加入がありうる(民執159条3項)。第三債務者の無資力リスクを債権者が負担しなければならない。両者の手続は以上のような差異があり、債権者代位権に分があることは明らかである。かような背景から、ドイツ法的な保全執行制度とフランス法的な債権者代位権制度を融合させた現行法の「選択」主義であるとの説明もある(三ヶ月章「差し押えと証明」参照)。その後、今回の改正の過程では、本来の債権者代位権制度の存続をめぐって議論の対象となり、少なくとも上記の優位な点を制限する提案がされたが、結局採用されなかった。相殺による回収を制限する提案がなされたが、結局採用されなかった。債権者代位権で弁済が十分可能な場合に、他の債権者の協力を得られる機会が奪われる場合があることは問題だが、優先権がない債権者間の分配の機会をなくすこと、差押えによる参加の機会を与えるべきとの意見が多数を占めた。差押えは無意味である場合が多いことなども理由に、被代位権利の行使について債権者の処分の自由が禁止される旨の判例法理は否定されたため (4参照)。や第三債務者の債権者への弁済の可能性があるような事案では、実際上、仮差押えが不奏功に終わり、履行確保が困難となることがある。以上から、判例は間接強制をルートと履行確保を図るルートの選択に悩み、具体的事情いかんによってはどちらのルートをとるかを判断する必要がある。具体的には、本問においては、Aの被保全債権が優先回収されるとは限らず、債権者Bへの債権の回収不能のリスクが大いに伴うと判断される場合、優先回収をあきらめ、債権者Dの協力を得てBに請求することで強制執行を考えるべきである(参考判例②)。他方、小問⑵では、Aは複数のBに対し、債務名義をえてCから800万円の支払を受けることは可能だが、Bの資産状況が非常に悪化しているため、AがCから825万円の支払を受けるのは事実上困難である。他方で、Bに対するAの債権の回収は直接の債務の履行の確保に有効に寄与しうる(ただし、債権者による相殺権の行使(71条参照)が別途あることには注意を要する)。3 債権者代位権の要件債権者代位権の行使要件について、「自己の債権を保全するため必要があるとき」にその行使が可能とされる(423条1項本文)。単に主観的な保全目的だけでは不十分で、客観的な必要性があることが要求される。債権者無資力の要件が明記されたが、これは責任財産の保全の観点から当然の要件とされてきた(参考判例①)。「債務者がその資力で十分でない場合」に代位権が使えることを2017年改正民法は423条の2として明らかにした。判例もこれを肯定しており、無資力性の要件の要否をめぐる議論の蓄積があったが、債権者無資力の必要性について、責任財産の保全という要件として、明文の規定を設けることになった。この要件が充足されるとなると、無資力状態にあることを債権者が立証する必要があることになるところ、無資力(支払不能)一般の解釈に服せしめるのは妥当ではない。ただ、訴訟手続の通常事実では改正後も維持されると解されよう。事実上、被代位権利(債務者保護の対象となる「債務者に属する権利」423条1項本文)の価値では、一身専属権のほか「差押えを禁じられた権利」(代位行使が許されない(同項ただし書))、たとえば、年金受給権(同条4項など)等は債務者の責任財産を構成しないので、代位権行使の対象外となる。債権者代位権を行使した結果、本来差押えによる回収ができないような財産について、代位・相殺によって債権の回収を図ることは不当な抜け穴であるからである。他方、被保全債権関係(債権者代位権の根拠となる権利)の要件として、第1に、原則弁済期の到来(423条2項本文)について、裁判上の代位の制度(非訟旧85条以下)を廃止し、保存行為の場合だけに行使を限定している(423条2項ただし書)。これは、裁判上の代位は利用率が著しく低く、保存行為の場合、期限未到来の被保全債権も一般的に対象となる民事保全制度(民保20条2項参照)による保全が可能であることによる。ただし、転用型では裁判上の代位の利用があったようであり、期限未到来の場合の権利の行使については引き続き解釈に委ねられ、この要件は転用型には及ばないとの解釈の余地もあるであろう。第2に、強制執行により実現できない債権に基づく代位は許されない(423条3項)。この制度が債権の円滑な回収のための制度であることに鑑み、執行力・強制力のない債権(不執行の合意がある債権やいわゆる自然債務)にまで被保全債権としてその効力を及ぼすとの見解を明確化したものである。以上から、小問⑴後段では、以上のような要件を主張する必要があることになるが、本問では特にBの無資力の立証が問題となると考えられる。Aとしては、Bの財産状態が悪化して債務の履行が困難になっている状況についてたとえば、Bが手元に現金がない状況を自認しているのであれば、その陳述等を証拠として、立証していくことになろう。4 債権者代位権の行使代位権行使の方法について、被代位権が金銭の支払または動産の引渡しである場合には、自己に対する支払・引渡しを求めることができる(423条の3前段)。また、そのような支払・引渡しによって被代位権利が消滅する(同旨後段)。前段の趣旨は判例(参考判例①)の明文化であり、そのような直接給付が認められないと、債務者が給付を受領しないときには債権保全が全うできないことになり、債権者代位権の制度を没却することを根拠とする。立案段階では、債務者に対する給付のみを容認し、債務者による直接の給付請求を認めない旨の原案も検討された。これは債権回収機能を否定する最もドラスティックな提案であったが、代位権行使の結果の帰属と同様、債権者が受領した場合にも債務者の責任財産に帰属し、相当ではないとされた。後段では、以上のような直接の支払または引渡請求権の行使を受けて、その支払等による被代位権利に係る債務の消滅を対抗しうる。そして、訴えにより債権者代位権を行使する場合、代位権者は債権者代位訴訟の提起を遅滞なく通知をしなければならない(423条の6)。債務者が訴訟告知という民事訴訟法上の規定を介して債務者に対して判決効が及ぶと解されている(民訴115条1項2号)。しかし、債務者に対して訴訟係属が知らされないにもかかわらず、代位権者敗訴の既判力が及ぶことに対しては従来から民事訴訟法理論において根強く批判も、債権者代位訴訟の提起を被告に通知せず、代位権者(被告)の訴訟追行を放置すると(民事訴訟)など多くの議論を呼んできた(議論の錯綜により、旧民法時代の「主観的訴訟担当」 伊藤眞=山本和彦『民事訴訟法の争点』(有斐閣、2009)324頁以下など参照)。本改正は民事訴訟法における様々な提案を立法により解決するものではなく、あくまでも民事訴訟の特殊性ゆえに債権者代位権におけるもののみを解決するものである。また、債権者代位権の行使があったのち、債務者自らが第三者に対して取立てその他処分をすることは妨げられない(423条の5前段)。すなわち、代位権が行使されたとき、債務者が通知を受けたあと「不当な処分」行為等が禁止される(参考判例③)、債務者から第三者に対して訴訟を提起することは認められる。もちろん、債務者が代位権の行使に悪意ではないかぎりその効力を否定できないのであり、債務者の処分権を奪うことによってその地位を不当に害することになるからである。その結果、債権者代位権行使と債務者による直接処分が衝突する場合もある。その場合には、債権者代位権を行使する債権者はその被代位権利を仮に差し押さえることもできるし、譲渡や免除等の処分も自由に行える。そのため債権者が債務者の財産を管理することは許されず、別途、所定の要件の下に詐害行為取消権を行使することになる。て、第三債務者も被代位権利につき債務者に対して履行することを妨げられない(同旨後段)。第三債務者は有効な代位権行使かどうかを的確に判断できる保障はなく、判断を誤った場合の二重払のリスクまで債務者に負担させることは不当であり、履行禁止という効果を債務者に帰属させる等の申立てをすべきこととなる。以上から、小問⑵では、BのDに対する債権譲渡は民法の上下では有効であり、Cに対するBの責任財産ではBの責任財産ではなくなるので、Cの抗弁は正当なものとされ、Aの請求は棄却されることとなる。[発問](1) AはBに対して1000万円の売掛金債権を有していたが、Aは当該債権の取立てを怠っており、このままではX年X月X日に消滅時効期間が経過してしまう。この場合、Aに代位するBは、Cに対してX年X月X日を履行期とする1000万円の損害賠償債権を有するほか、債権者代位権を行使して、上記売掛金債権を取り立てることはできるか。(2) AはBに対して1000万円の売掛金債権を有していたところ、Cに対する1000万円の売掛金債権を有すると主張するBが債権者代位権を行使して、上記売掛金債権の支払請求訴訟を提起した。Cは、BのAに対する債権はすでに弁済済みであると主張している。上記訴訟は自己の債権の回収に充てたいと考えている。この場合、Dはどのような対応をとるべきか。[参考文献]潮見佳男/山本和彦「債権者代位権」NBL1047号(2015) 42頁(山本和彦)
『Law Practice 民法Ⅱ【債権編】〔第5版〕』 千葉恵美子・潮見佳男・片山直也編者・2022年10月15日
ISBN978-4-7857-2992-9
債権者代位権
2025/09/03
AはB銀行にBの運転する自動車につけられた動産を譲渡した。Bが持ち逃げ、B銀行にこれを探すよう依頼したところ、A・B間で協議が話し合ったが、最終的にはBがAに対して800万円の代償金を支払うことで、和解契約が成立した。他方、個人事業主として自動車の製造をしているBは、常連の小売業者であるCに対し1000万円の売買代金債権を有していた。ところが、Bの製造した自動車について、BがCにこれを探すようと申し出ていたが、Cとの合意の内容が曖昧であったことで、Cが、Bから独立した常連にB銀行がなることもあり、Bは、Bからの独立した常連との間で、上記のような部品の交換に関する契約がインターネット等で広まり、Bの得意先が急速に悪化した。AがBに対して上記和解金の支払を求めたところ、Bは、「手元不如意なので十分な準備を行いたい。自分はすぐに車の代金を支払うが、その準備ができるまで自動車を自分で使うつもりだ」と答えた。(1) AはBから独立した常連との合意を理由として、どのような手段をとることができるか。AはBにその請求に際して、どのような事実を証明する必要があるか。(2) AがCに対する権利を行使した後、AはBから独立した常連との間で和解金の支払に代えてC銀行に対する債権を譲渡した。Cに確定日付のある通知をした上で、Cは、Aの請求した和解において訴訟物たる債権はすでに消滅しているものであり、Aの支払う義務はないと主張した。権利行使はどのような影響を及ぼすか。(3) AがCに勝訴し、それに従ってCが弁済した後、そのBに破産手続開始決定があり、Bの破産管財人であるDは、DがAに対して破産した。Aが支払いを拒んだため、Dは、どのような主張が可能か。参考判例と解説参考判例① 最判昭和40・10・12民集19巻7号1777頁② 大判昭和10・3・12民集14巻482頁③ 大判昭和14・5・16民集18巻5号557頁解説1. 債権者代位権の意義債権者代位の効果として、債権者の債務を履行しない場合に、債務者は債権者に対して、それを強制する効力が認められている。ただ、債権者の財産権(債権)の行使について債権者が(本来は原則としてできないとされる(債務者の財産管理権の尊重、破産手続との関係ではじめて認められる)。他方で、債務者の無資力の状態にありながら、自己の債権の行使を放置し、結果として債権者の債権の保全が図られないことは相当とはいえない。そこで、民法は、債権者代位権の制度を用意し、その債務者に代わって自ら債権を行使することを認めている(本来の債権者代位権)。さらに、このような金銭債権の保全を図る目的、債権者が有する債権の実現を図るため、当該債権と密接な関連を有する債務者の債権を代位行使することも判例上認められてきた。たとえば、ある不動産に関する権利の登記請求権を代位行使する場合や、ある不動産に係る所有権を有する者が妨害排除請求権を代位行使する場合などである(転用型の債権者代位権)。このような転用型は改正民法によって一部明文化され、上記登記請求権について、423条の7、たとえば、ある不動産に関する権利の登記請求権について転用型の一類型として解釈に委ねられている。以下では、本問に即して、本問後段の代位権の行使、他、BのCに対する債権の代位権に関するいくつかの法律問題を検討する。2. 債権者代位制度の機能・保全執行との関係本来的債権者代位権の機能として、債務者が責任財産の保全を図らない場合において、債権者は、債務者が第三債務者に対し、債権を有しているときに、債権の保全を図るについてどのような方法があるかを検討する必要がある。これについては、大きく2つの方法が考えられる。1つは、民事保全法に基づき、債務者につき、債権の仮差押の命令の申立てをし、第三債務者に対し、債務につき仮差押え執行をすることがある。そして、改めて、債務者に対して給付訴訟を提起して勝訴判決を得た後、債務名義に基づき、その確定判決に基づき、その債務者の第三債務者に対する債権を差し押える方法である(その際、当該債務者が転々譲渡あるいは転々命令された物権に伴って自己の債権を保全することになる)。このように債権者代位プロセスの手続きを要すると考えられる。小問(2)の前提についても、Aは、BのCに対する売買代金債権を仮差押えしておいて、Bに対する800万円の給付訴訟を提起して勝訴判決を得た後にあれば、通常債権者は単に債務名義に基づいて仮差押えを本差押えに移して、Cに対する代位請求が提起される方法が考えられる。もう1つの方法が債権者代位権を活用するものである。すなわち、債権者は、債務者に代わり、債務者の第三債務者に対する債権(被代位債権)を直接取り立てることが認められる(4条参照)。第三債務者の代位請求を実現するため、債務者に代わる支払請求権を実効あらしめるため、債務者の第三債務者に対する訴訟の判決を求めることができる。そして、その判決に基づいて仮差押えを本執行に代えて返還請求権を保全し、債務者の第三債務者に対する債権(被代位債権)の取立てによって、被保全債権の回収を図る。債権者は、自己の債務者に対する800万円の債権(被保全債権)を保全するため、訴訟の判決に基づいて800万円の債務名義を取得し、Bに対する800万円の金銭債権と相殺することによって債権回収を図ることができる。この2つの方法には、いくつかの差異があり、債権者代位権には利点も認められる部分がある。第1に、債権者代位による場合は債務名義が不要である。その結果、債権者に対して訴訟を提起しなくとも、直接、債権を行使することのできる可能性がある。強制執行の方法による場合は、前述のように、債権者に対する勝訴判決→債務名義の取得→差押え→第三債務者に対する取立訴訟等という手続が必要となるのに対し、債権者代位権では、①のプロセスが省略でき、特に少額の被保全債権の場合には(裁判外・簡易に)早期に実現が可能であることは大きな利点となる。第2に、債権者代位によって優先回収が可能となる。前述のように、代位回収による債権について債務者の債権について相殺による回収が可能となる。その結果、仮に他の債権者が債務者の第三債務者に対する債権に係る差押債権を差し押さえたとしても、差押えと相殺に関する優先関係(511条参照)を前提とすれば、代位権者が優先権を得る結果となる。他方、民事執行による場合は、他の債権者が差押えに加わって参加し、被差押債権に係る配当金が各債権額に応じて比例配分されることになる(配当は申告時点の債権額に応じて計算され、それが確定するまで配当金に相当する金銭が他の債権者の加入のおそれがある(民執159条5項、第三債務者の無資力リスクを債権者が負担しなければならない)。両者の手続には以上のような差異があり、債権者代位権には大きなメリットがあることは、かねてから指摘がある。ドイツ法的な保全執行制度とフランス法的な債権者代位制度を相続した明治初期の立法の選択」であると、この選択は、ある意味で日本的な事情を考慮した結果である(「三ヶ月債権」を指している)。そのため、今日の改正の過程では、本来の債権者代位制度の存在理由を改めて議論の対象となり、少なくとも上記の両者を並存させるため、第三債務者から取り立てた代位債権者による相殺を制限する提案がされたが、結局採用には至らなかった。その結果、代位債権を代位権者が強制執行した場合、その代位権者の任意の協力が得られる場合など強制執行によらない債権回収が有用とされる場面がなお存在すること、優先回収がなされるなど執行の機会を付与する従来の規定は維持されることとなった。差押えは無意味である場合が多いことなどによって、債権者代行権の行使によって被代位権利の処分が禁止される旨の判例法理は否定されたため(4参照)、債権者の処分や第三債務者の債務者への弁済の可能性もあるような事態は、実際には、仮差押えが有効に行われないかぎり、債務者への弁済がなされることになる。以上から、Bにどのような手段をとりうるか、上記のような債権者代位ルートと執行保全ルートの両方を並存させることになる。具体的には、債権者代位権を行使するAの場合、具体的には、Bからの財産分与を保全する必要がある。Aの債権回収がBの財産状態が悪化しているため、Aの債権回収が困難な場合には、債権者代位権を行使するに止まらず、Bが第三債務者であるCのBへの弁済のリスクを負うことを前提とすれば、優先回収を図るため、債権者代位権の行使を抑えてBに自己の債権を直接行使することも考えられるであろう。他方、小問(3)では、Aは複数の財産分与をめぐる対抗の優劣を争うことになる。債権者間では、AがCから800万円の支払を受けたものが、Bに対する債務を優先的に始動されたものと同じような効果を有することになろう(ただし、債権者はAを債権者代位権の行使を前提にすることになろう(ただし、債権者はAを債権者代Bに自己の債権を直接行使することも考えられるであろう)。3. 債権者代位権の要件債権者代位権の行使の要件について、「自己の債権を保全するため必要があるとき」にその行使が可能とされる(423条1項)、単に主観的な保全目的だけでは足らず、客観的な必要性があることが必要である。その客観的な必要性については、立法の過程では、債権者無資力の要件が明記されたが、この点は採用されなかった。2017年改正民法ではその例として「債務者がその資力で債務を十分に弁済できない場合」に代位権が認められることになった(参考判例①)。債務者が自ら資産を減らすことになるのであれば、これを423条の債務者の無資力と評価したところで、判例法理を明文化することの趣旨であったが、BとCの無資力は同一に判断してよいかという問題である。債務者と債権者が無関係なのでその点を重視するとすれば、無資力の認定を緩和し、債務者の財産状態に変化がなければこれを無資力とみなすことになろう。むしろ「保全の必要」という一般的な解釈にとどめるほうがよいとされている。ただ、上記判例の趣旨は事業では改正後も維持されると解されよう。また、被代位権利(債権者代位権の対象となる債務者に属する権利。423条1項本文参照)の面では、「一身専属権のほか」「差押えを禁じられた権利」(代位の対象とされない(民法423条1項本文))でなければ、年金受給権(24年3条など)等は債務者の責任財産を構成しないので、代位権行使の対象外となる。債権者が代位権を行使した結果、本来差押えによる回収ができないような財産について、代位・相殺によって債権の回収を図ることを認めては相当ではないからである。他方で、被保全債権(債権者代位権の根拠となる債権)の要件として、第1に、期限未到来の場合は代位権を行使できないが、保存行為の場合にはその例外を認めている(非訟事件85条以下)を廃止し、保存行為の場合に代位権を行使できると規定している(423条2項ただし書)。これは、裁判上の代位は利用が難しく、保存行為以外の46条2項ただし書、時効の利益の放棄・承認といった債務者の行為に代位して、その効力を否定することができる。以上から、小問(1)では、以上のような要件を充足する必要がある。特に、AがBに対してBの無資力の立証が問題になると考えられる。Aとしては、Bの経済状態が悪化して債務の履行が困難になっている状況について主張・立証していくことになろう。4. 債権者代位権の効果代位権行使の方法について、債権者が自身の財産に直接、債務者の動産を引渡しである場合には、自己に対して支払を求めることができる(423条の3前段)。また、そのような支払・引渡しによって被代位権利が消滅する(民事訴訟法)、訴訟の裁判例(参考判例①など)の明文化であり、そのように直接給付が認められないと、債務者が給付を受けない限りは代位権を行使する意味が全くないことになり、債権者代位制度の趣旨を没却することを重視する。立法過程では、債務者に対する給付のみを容認し、債権者による直接の給付請求を認めないとの提案も検討された。これは債権者代位権を否定する最もドラスティックな提案であったが、これは債権者間の調整と同程度、債務者が自ら受けた場合に債務名義の取得を済ませていないと、他者が優先して差押えによって回収を図られてしまう事態を回避するための工夫であろう。そのうえ、このような措置が講じられれば、代位権の請求は債権者代位権を行使した者が他に優先してその利益を享受することとなり、債権者平等の原則に反するとの問題意識があったからである。そして、訴えによる債権者代位権を行使する場合、代位権者は遅くとも債務者に対して訴訟告知をしなければならない(423条6項)。債務者の訴訟における利益を保護しつつ、債務者に対して当然に判決効が及ぶとされている(民訴115条1項2号)。しかし、債務者に対して訴訟告知が知らされていないにもかかわらず、代位権債務者の特別代理人が選任されることに対しては従来から民事訴訟法理論において賛否の強い議論がある。民事訴訟法の趣旨をどのように解釈するかにかかっている。また、債権者代位権の行使があっても、債務者の被代位権利の処分を禁ずることは認められない(423条の5前段)。すなわち、代位権が行使された後、それと債務者に通知または了知された場合でも、債務者の処分権までを禁ずることは認められない。債務者の責任財産は債権者による処分権の行使の対象となることは、代位権の行使によっては制限されない。もっとも債権者代位権の行使の通知の後には、債務者の被代位権利の処分を認める、債権者の責任財産は債権者による処分権を認めており、その後の処分も自由である。債権者による債務者の被代位権利をめぐる紛争を防止するとともに、債権者の優先回収の余地も残る。これに反する債権者代位制度の効果として、債権者代位権の行使が債務者の被代位権利の処分を禁ずることは判例上、別途、所定の要件の下に許可があれば債権者代位権を行使できることになる。て、第三債務者も被代位権利につき債務者に対して履行することを妨げられない(同条後段)。第三債務者は有効な代位権行使があったか否かを独自に判断できる保障はなく、判断を誤った場合の二重払のリスクを第三債務者に負担させることは不当であり、履行禁止という効果を否定する債務者は訴訟告知等の申立てをすべきこととなる。以上から、小問(2)では、BのDに対する債権譲渡は改正法の下では有効であり、Cに対するBの責任財産ではなくなるので、Cの抗弁は正当なものとされ、Aの請求は棄却されることになる。関連問題と参考文献関連問題(1) AはBに対して1000万円の売掛金債権を有していたが、Aは当該債権の取立てを怠っており、このままではX年6月末日に消滅時効期間が経過してしまう。この場合、Aに対してX年10月1日を履行期とする1000万円の貸金債権を有するCは、債権者代位権を行使して、上記売掛金債権を取り立てることはできるか。(2) AはBに対して1000万円の売掛金債権を有していたところ、Aに対する1000万円の貸金債権を有するCと主張するDが債権者代位権を行使して、上記売掛金債権の支払請求訴訟を提起した。これに対し、A・BはCに対する1000万円の貸金債権を有するのはCではなくDであり、上記売掛金債権は自己の債権の回収に充てたいと考えている。この場合、Dはどのような対応をとるべきか。参考文献道見健介/山本和彦「債権者代位権」NBL1047号(2015)42頁 (山本和彦)
『Law Practice 民法Ⅱ【債権編】〔第5版〕』 千葉恵美子・潮見佳男・片山直也編者・2022年10月15日
ISBN978-4-7857-2992-9
根保証
2025/09/03
A会社(以下、「A」という)は「甲弁当」の名で配達と持帰りを中心とした弁当の生産・販売を業とする会社であり、その調理に際して、弁当を生産するための食材を仕入れるためにB会社(以下、「B」という)と食材の供給を受ける基本契約を締結した(2024年4月)。その際に、BはAが代金を支払わないときのために、継続的に供給される食材の代金の支払のために保証人を2人立てることを求めたことから、Aの経営者である代表取締役Cは、Bと連帯保証人となるとともに、地元でスナックを経営している友人Dに依頼をして連帯保証人になってもらった(書面あり、また、民法465条の10の情報の提供も適切になされている)。B・C間の連帯保証契約は、A・B間の食材の供給によって生じる代金債務を、保証期間を定めずしかも保証の限度額なしに連帯保証するものであった。Dは、Dがスナックの常連であることもあり、Cに頼まれCに同行して連帯保証人になったのであった。B・D間の連帯保証契約は、保証期間の定めはないが、1000万円の極度額が定められている。Bとの取引が開始して1年間は、Aの営業は順調であったが、2025年10月に、Aが新たに支店を開きそこでの食材をBに注文をするようになり、A・B間の取引量がそれ以前の2倍になった。その後、競合する弁当店の相次ぐ出店、Aの実績が次期に悪化していった。そのため、Cは増資を受け入れるためにキアラから金を借りた。Aの代金の支払債務が目標に、2025年12月頃から次第にBへの代金の支払が滞りがちになっていった。AのBへの代金債務(月曜日が休日の場合には翌日)にBの口座に振り込むことになっていたが、2026年2月末にCはBに資金を工面しますので決済期を至急してほしいと伝達するようになった。しかし、同年9月頃から再び代金の支払が滞るようになり、Bは保証しないでいるのでというCと保証人外のDから何回も言われ続けた。両者の確執が続いていたにもかかわらず取引を継続してきた。しかし、過去の一部代金分が思い出されたように振り込まれるという状況になり、Bは、Aに対して、このまま代金の支払遅滞の続くようでは食材の供給はストップせざるをえないと通知し、この措置によりその取引も継続し、2027年2月末には未払代金総額が700万円にまで達していた。2027年3月からは、BはAへの食材の提供を停止したため、店を閉めたものと再開できていない。Bは、同年4月にA・C・Dに対して未払代金700万円と遅延損害金の支払を求める訴訟を提起した。Bの請求は認められるか。本問の検討に際しては、①Dの保証債務は既に消滅している(2026年10月に、Bに対して保証人としての辞任したい旨の申入れをしたが、Bがこれを拒絶していた場合)、②A・B間の供給契約に既に2年間の約定があったが、これが更新されて上記のような状況に至っている場合、および、同年11月分のBのAに対する金員債権のうち100万円分を、BがCにより偶発的に譲渡されている場合を備えよ(AではEのA・G・Cに対する請求)。参考判例① 大判大正14・10・28民集4巻656頁② 大判昭9・2・27民集13巻215頁③ 最判昭39・12・18民集18巻10号2179頁④ 最判平成9・11・13判時1633号61頁⑤ 最判平成24・12・14民集66巻12号3559頁序説1. 根保証(継続的保証)の意義と民法の適用範囲(1) 根保証(継続的保証)の意義根保証条文はないものの、個人の債務ごとに対する個別保証に対し、根抵当権の版のように、主たる債務を一定の基準で定めるところ将来の不特定多数の債務を保証する場合も、継続的保証と呼ばれてきた。②目的、民法465条の2において、根保証契約という用語が正式に採用されている(民法465条の2の用語の定義)。根保証契約、このようないわゆる「個人根保証」において定められている限定根保証と、このような限定のない本問のような事例の包括根保証とがある。狭義の根保証と継続的保証の区別については5で説明する。(2) 2004年民法改正および2017年民法改正根保証については、2004年の民法改正により貸金等の個人根保証について規制が設けられている(旧465条の3以下)。しかも、同法改正にあっては、必ずしも貸金等債務についてのみこの新保証が適用されず、同じ信用保証でありながら、本問のような売買代金債権の根保証については適用されず、従来の判例法理が適用されることになっていた。このような問題は合理的でなく、2004年民法改正に際して最高裁判所の付随決議により貸金等債務以外の個人根保証についても、そのための2017年民法改正に際しては、民法465条の2以下をすべての個人根保証へと拡大することが意図されていたが、実現された拡大は部分的なものにとどまっている。2. 根保証人の責任の範囲(1) 包括根保証禁止2004年民法改正では貸金等根保証については、包括根保証は禁止された(旧465条の2第2項)。本問の事案は貸金等根保証ではないのでその適用がなく、したがって包括根保証も有効であった。しかし、2017年民法改正により、民法465条の2の適用は「個人根保証」一般にまで拡がった。そのため、2017年民法改正法の施行期日である2020年4月1日以降の本問事例には民法465条の2の適用になり、保証極度額を定めていないCの根保証契約は無効になる。判例も経営者を例外としていない(法人格の否認の法理が適用される事例は例外を含めない)。Dの根保証には1000万円の極度額が定まっているので、たとえこれ以上には主たる債務の額が嵩んでも、保証契約は有効となる。(2) 信義則による責任制限(③の場合その1)限定保証の場合には、本問のように1000万円と極度額が決められているため、これ以外に特別の措置は不要と考えるのであろうか。しかし、極度額が1000万円程度であればそのような考え方になるが、もし、スナック経営者にとって、1000万円はかなりの金額であろうか。しかし、極度額がない場合と同様に責任を制限すると解することもできないであろう。中間的な解決として、信義則による責任制限を求める余地はある。その際に本問で考慮されるべき事情として、2点ある。まず、A・B間の取引量が、Dが保証契約をした当初の2倍になっている。その①に、おいて、Bは、Aの信用不安を危惧しないこと、および、②Bは、Aの信用不安が生じた後にも、これを断りつつ、保証人からはずればいいと考え、保証人の情誼を逆手にとってこれに安易に取引を継続したことである。情誼的保証人に対して本来自己が負うべき債権回収のリスクを課す。そうした事情のある場合にも、信義則は保証人に対して保証の限度額を認めるべきとの考慮があるべきである。保証人の責任を認めるには、700万円を限度額の範囲内として全部の責任を認めるのは酷であり、保証契約には信義則上の考慮があるべきである。相応の責任を認める場合その23. 根保証人の終了権の有無その2)包括根保証契約は主債務を発生させる基本契約が存続する限りいつまでも存続し、根保証人が拘束されるというのは酷である。そのため、判例・学説は、相当期間経過を理由とする解除を認め、保証人は一定の予告期間をおいて自由に根保証契約を解約することができる(参考判例①)。特別の解約権の認められる原因について、信義則に根拠を求める見解もある。保証人の主債務者に対する信頼関係が害されるに至った保証人として解約権を入れき相当の理由がある場合においては、右解約により相手方が信義則上看過しえない損失をこうむることなどの特段の事情がある場合を除き、一方的にこれを解約しうる」と述べている。これまで判例により特段の解約権が認められているのは、①主たる債務者の信用不安の際に、②主たる債務者による保証人に対する背信的行為が認められたとき、③主たる債務者の地位の相続など保証人が予期しなかった事情が生じたとき、④保証人が保証契約締結の際に予想しなかったほどに保証人の責任が拡大するおそれがあるとき、⑤その他保証の継続を不当とするような事情が生じたときである。Dは、①②③④⑤のいずれかにより保証契約を解約できるであろう。そのいずれであるかにより、保証契約の効力がいつの時点で消滅するかが問題となり、したがって保証人が責任を負うべき元本の範囲も異なってくる。4. 基本契約の期間の定めと保証契約(1) 期間の定めがない場合本問におけるDの根保証契約は期間が定まっていない。民法465条の3第2項は、貸金等根保証契約に、確定日を定めないと3年経過の満了で確定することになっている。この規定は2017年民法改正で個人保証一般に拡大されなかった規定である。当初、すべての個人根保証への適用拡大が意図されていたが、貸金等債権とは異なり、賃貸借契約の保証人には、保証人がいなくなったらといった不都合な事情が生じるからである。この結果、本問は貸金等債務ではないので、上記規定は適用にならず、期間の定めのない根保証も有効になる。また、5年を超える保証期間を定めても有効である。これは、極度額の適用が拡大されたのでその保護だけでよいと考えられたためである。(2) 基本的取引の期間の定めと更新ところが、A・B間の取引契約は2年という期間が定まっていないが、その基本たるA・B間の取引契約の期間が定まっていない。このことをどう評価すべきであろうか。この点、保証契約は、更新後の契約について保証人には責任がないものとされが(大判昭9・6・9大阪高判民集8巻42頁)、賃貸借契約の保証について、工事請負契約が更新されて契約更新後の保証について保証人は責任を負わないと判決が出されている(最判平成9・11・13判時1633号61頁)。正当事由制度が更新後の契約について保証人には責任を負わない。しかし、何か月か後に更新されることが普通と予定され、保証人もそれを覚悟しているという解釈が根強い。本問でも同様に考える余地がある。原則として、Dは更新後の債務について責任を負わず、現在の700万円の遅延している全債務について責任を負うことはないが、特段の事情をBが証明できれば更新後の債務についてDの責任が認められることになる。5. 根保証債権の取立権能⑥の場合には、未払代金債権700万円のうち、元本請求ができるのは100万円がBに譲渡されている。Bの債権者Aによる元本請求ができるのは当然であるが、根保証人Dに対しては契約しており、これが保証契約の範囲内でありうるか、これをどのように評価すべきかという根保証契約の解釈が問題となる(関連問題参照)。⑦まず、継続的契約関係にあることの保証債務であるので、主債務の成立に付随するものに対する契約を成立させることを目的とする継続的保証契約(根抵当権型)、この債務が履行されれば保証債務も随伴し、Bは保証人Dに保証債務の履行を請求できる。この場合も、契約の範囲内においてのみこの債務を保証できる(根抵当権型)、確定という概念を導入し、将来の確定の時期までを保証するにとどまる。確定という概念は裁判上認められていないので、根保証契約には適用されない。本問では、Bは保証人Dに保証債務の履行請求できるではないか。契約自由の原則からはDは保証契約の範囲でしか責任を負わないし、いずれとないし難定すべきか否かが論じられるべきである。この点、参考判例⑤は、「根保証契約を締結した当事者は、通常、主たる債務の範囲に属する個別の債務が確定すれば保証人がこれをその都度確認し、当該債務の弁済期が到来すれば、当該根保証契約に定める元本確定期日(……)前であっても、保証人に対してその保証債務の履行を求めることができるものとして契約を締結し、根保証債権が譲渡された場合には保証債務もこれに随伴して移転することを容認しているものと解するのが合理的である」として、(?)と推定した。この判旨によるとBの(?)と推定され、EはDに対して、保証債務の履行として100万円をBに請求できることになり、DがBの(?)と推定されたことを証明する必要がある。同判旨は「根保証」という用語を用いたが、上記の性質決定において根保証という概念をどのように理解すべきかは明らかでない。しかし、上記判決は、一般論を展開しているが、法人による根保証の事例である。(?)は根保証人に有利な判決であり、Bは個人根保証人Dに対して、(?)と解すべき特別事情の主張立証責任を負うと考えるべきである。関連問題(1) 本問後段において、A・B間の取引が続いている段階において、BはAの支払が滞ったならば、取引を継続したまま、C・Dに対して保証債務の履行として、代金を代わりに支払うよう請求することができるが異なるか。(2) 本問後段において、Dの根保証の限度額500万円であると事情が変更した場合、BのDに対する600万円の債権とその100万円の債権につき、BをEの債権を譲り受けたがDから300万円の支払を受けたときのBへの分配額について検討しなさい。参考文献阿部陽介・平成25年度重判77頁/斎藤由起・百選Ⅱ50頁 (中野邦之)
『Law Practice 民法Ⅱ【債権編】〔第5版〕』 千葉恵美子・潮見佳男・片山直也編者・2022年10月15日
ISBN978-4-7857-2992-9
連帯債務
2025/09/03
共同事業を営むAとBとは、2022年4月1日、C銀行から事業の運転資金として1800万円を借り入れ、連帯して債務を負った(以下、「甲債権」という)。同年3月にAの子DであるFの経営が悪化したため、Aは、C銀行に頼みこんでAの子Dも事業に参加した。A・Sの事業計画は順調であったので、C銀行は、まず追加融資を決定した。しかし、Dが経営状況が悪化するおそれがないとはいえないと考え、Bの甲債権の連帯債務者に加わること、そして、前年のDの負債には不幸も抱えないので、Dの母娘でありがつの家であるFをそのむ銀行に申し立てて担保提供するとのことで2つのことを条件に、同年4月15日、A・B・Dの連帯債務の形で1200万円を追加融資した(以下、「乙債権」という。なお、CとE間の連帯保証契約は有効に成立するものとする)。ところが、同年9月、円安によるコスト高の影響でA・Sの事業が急速に傾き、Aは、甲乙両債権の期限の利益を喪失した。さらに、Aが自己破産するという噂がたった。Dは、Fの母、妻E、子F、D(の妹)である。(1) C銀行は、Bに対して、甲債権の履行を請求できるか。Bの甲債権につき全額を弁済した場合、Bは、他にいくら求償できるか(以下、求償権の計算にあたっては利息等は無視してよい)。(2) C銀行は、Bから甲債権の全額弁済を受けるとともに、乙債権につきBに300万円の弁済を受け、Bに対し残債務900万円を免除する旨意思表示をした。Bは、他にいくら求償できるか。その後、C銀行は、Dに対して900万円の支払を求めて訴えを提起した。このC銀行の請求に対して、Dはどのような反論が可能か。(3) EがC銀行に対し現金(950万円)を有している場合、C銀行から甲債権につきEの弁済を求めたBは、いくら支払えばよいか。また、Cへの弁済後、他にいくら求償できるか。参考判例と設問参考判例① 最判昭34・6・19民集13巻6号757頁② 最判平10・8・10民集52巻6号1494頁設問1. 連帯債務の成立・態様・効力連帯債務は、主観的共同または当事者の意思表示により成立する(436条)。前者の例として、719条は、共同不法行為者が「連帯して」賠償責任を負う旨を定める(419条の規定は、「連帯して」は不真正連帯債務であるとされたところ、2017年の民法改正によりそのような解釈上の混乱は不要となった)。人間の乙債務のように、A・B・Dの1つの融資契約に対して(連帯の合意)をすることで連帯債務を成立させること(随時連帯)はもちろん、甲債務につきA・Bの契約とDの契約が別々に行われたように、別個の契約の中で、順次、連帯の意思表示ケースでも連帯債務は成立しうる(いわゆる共時連帯。連帯債務者の1人についてのみ時効が完成するような事態が生じうるのである)。また、連帯債務者が「連帯の合意」を保証したように、連帯債務者の1人についてのみの免除、または連帯債務の全部を免除したとしても可能である(448条参照)。これらについては、連帯債務者の数に応じた額についてのみの免除であって、437条(2017年改正後に438条に条項対応)は連帯債務者の1人についての法律行為の無効・取消しの他の連帯債務者への効力を妨げないとし、混同、消滅事由によると解される。つまり、連帯債務者の弁済とこれにつきA・B・Dをそれぞれ連帯債務者とするとAはB・Dの債務も連帯し、そのうえ、甲債務と乙債務を担保するのを目的として、Eの保証債務もしているといえる(AやBの債務の保証も含む)。連帯債務は、債権者との関係(対外的関係)では各自が全部給付義務を負担するが、その連帯債務者との関係(内部関係)では、自己の負担部分について最終的に責任を応じて負う。この負担部分は、連帯債務者の特約によって定まる。特約がない場合は各連帯債務者が受けた利益を考慮して決定されるが、この場合も、各自は平等とされる(442条1項)。本問ではA・B・Dの負担部分を3分の1として仮定した場合も、この割合で連帯債務に乗じることによって、各自の具体的な負担額(負担部分額)が算出される。つまり、A・B・Dは、債権者Cに対しては甲債権1800万円、乙債務1200万円の全部給付義務を負うが、他の連帯債務者との関係では、各自、甲債務について600万円、乙債務について400万円の範囲で、最終的に債務を負担することになる。小問(1)は、甲債権を弁済した結果、甲債権は全額のために消滅した(弁済の絶対効、消滅の規定はないが「債権の一体性から当然の効果であって、民事経済的効果もある絶対的効力をもつ)。これにより、自己の負担部分以外の1200万円を求償できることとなる。Aが自己破産しているため、連帯債務者Aの負担部分をD・Fにどのように相殺させるかを明らかにする必要がある。2. 連帯債務の相殺Aの甲債権はどのように消滅するのか、自分債務は、相続開始に応じて法律上当然分割され、各共同相続人がその相続分に応じてこれを承継すること(最判昭和29・4・8民集8巻4号819頁)を前提に、参考判例①は、連帯債務者の1人が死亡した場合、その相続人は、被相続人の債務の全部を承継したものと求償し、各自の負担した債務において求償される。Aの甲債務1800万円につき、相続分4分の1のDとFとEとがそれぞれ450万円(1800万円)を相続し、その結果、債権者とこの関係では、甲債務につきB(1800万円)・D(1800万円)・E(900万円)/B(1800万円)・D(1800万円)・F(600万円)/B(1800万円)・D(1800万円)ーDは相続開始前から甲債務につき連帯債務を負担しているのであるから、Aからの承継の結果を考慮する必要がないことについても参考判例①が明言しているという。なお、不真正連帯債務(一部連帯)は、自己の連帯債務者について求償の相手方と解される。これに対し、学説は、法律関係が複雑化すること、債務者の利益が低下することを懸念して、各共同相続人が共同の連帯債務者とともに全部の連帯債務者となるとする見解が有力である。注意すべきは、①共同相続人の間では連帯関係が生じないこと、②共同相続人間の最終的な負担部分の配分が相続人の間で決定されることである。甲債務に対して具体的にいえば、①AにはBおよびDとの内部関係で600万円を最終的に負担すべきであったから、この600万円がE、D、Fに200万円、DとFにそれぞれ分有承継される(ただし、Dは、Cに元来の自己の負担した600万円を払った場合も、Aの600万円を承継しなければならない)。②D・F・Eとの間では連帯関係も求償関係もないため、D・F・Eは連帯者となっている。これは、あくまでも連帯債務者間の求償関係をめぐる1人であってしまったからである。そこで、小問(1)のように、Bが甲債務の全額を弁済した場合には、主に示したとおりの1200万円をD、Eに750万円、Fに150万円の限度で求償権を行使することができる。なお、Dの相続として200万円と300万円は、D・Cの利害関係に立って、Bから求償権の全部または一部の弁済を受けることができる。BがD、Fから求償をうける債務者から900万円のうち400万円について、Dの連帯債務を承継させる方法もとりうる。「債務の一体性」として債権者の側に一切の負担がなかったとしても、500条の規定「自ら求償できる」にあたる(→本節解説)。3. 連帯債務者の1人による求償各連帯債務者の最終的な負担部分額は全連帯債務者を通して計算される。もっとも、甲債権のDから求償権の全部をD・Fに求償されたわけではない。なお、内田「自己の負担部分」の「免責を得たこと」と、その免責が「自己の出捐」によって得られたことのである(442条1項)。共同の免責とは、他の連帯債務者の債務の全部または一部)を免れさせることである。自己の財産をもってする免責とは、出捐(財産の犠牲、損失、喪失)を意味する。弁済はもちろん、代物弁済、供託、相殺(439条1項)、更改(438条)はこれに当たるが、免除や時効の完成による債権の消滅は、441条ただし書の特約により自己の出捐を肯定したとしても、自己の出捐を伴わないので、要件③を満たさないから、他の連帯債務者や保証人に対しその効力がおよぶことはない。小問(2)では、甲債務の全額と乙債務のうち300万円を弁済しているので、上の2要件を充足している。連帯債務者の内部関係では一部弁済でも可であるためである(442条1項)。Bが乙債務につき自己の負担部分400万円に満たない額しか弁済していない。もっとも、②と③の関係で問題とはならない。たしかに、弁済的に負担すべき負担部分を固有の債務と捉える相互保証説の考え方からすると、それを超えた部分をBのため不当利得をなすはずであるから、連帯債務に際してBは相互に一部分を返還することを要するという理解もなしえない。また、内部関係を一括して連帯債務に適用するとすれば、負担部分額を超えて弁済をするまでは求償できないとする批判がある。債務者の満足を優先させようとするのが原則だ。しかし、判例は古くから、負担部分額を超えない割合で自己の求償を認めており(大正元・6・3民録23輯863頁、大判昭和8・2・28新聞3520号)、これに賛成する学説が多数であった。2017年改正民法は、こうした判例・学説を踏まえ、442条1項に「その免責を得た額が自己の負担部分を超えるかどうかにかかわらず」という文言が挿入された。これにより、自己の出捐の意味が明確になったといえる。民法442条1項を本問に当てはめれば、次のとおりである。Bは、①乙債務の一部弁済によって、もしAが存命であればその負担部分の都合である3分の1を免じた100万円を求償し得るはずである。また、甲債務部分でBのDに対して6分の1の100万円の償還ができる。そこで、相続分2分の1のDとEに50万円、4分の1のFにD・Cの125万円(Aから相続した200万円と元来の負担部分100万円との合計額)、同じくそのFに25万円の合計25万円の求償ができることになる。他方、Bが乙債務について受けた900万円の免除による免責については、先に述べたとおり連帯債務の全部を消滅させたわけでない。求償権は一切発生させない。以上、Bは、小問(2)においてBが求償すべき小問(1)と同様の永続的債権が可能である。しかし、Dに対しては、975万円、Fに375万円の求償請求が可能である(B乙債務600万円と甲債務100万円を現時点で負担していることになる)。求償要件については上記のとおりであるが、事後・事前の通知を怠ると、求償権の行使が制限されることがある(443条)。事後通知を怠ると、債権者との間でした弁済を他の連帯債務者に対抗できない場合もある。また、事前通知を怠ると、他の連帯債務者が自己の債権を有する債権者に弁済する機会を奪うことになる。他方で、善意で第三者に対抗した弁済をすること目的とするとされている(関連問題参照)。ちなみに、同条について2017年改正前に条文がいくつか改正修正された。ちなみに、1項と2項にそれぞれ「他の連帯債務者があることを知りながら」の文言が追加された。これは、共同の不法行為関係に基づく連帯債務である場合は通常、他の連帯債務者の存在を知らないことから求償権を行使できない不都合を回避するためである。共同不法行為が民法479条(470条2項)によっても連帯債務を負うとされており、共同不法行為者間における求償権を否定する趣旨であると解される(同条3項)。他の連帯債務者も善意で第三者に弁済した場合にはこれを認めるべきである(→本節解説)。本問では、甲債権の弁済にあたり、BがD・F・Eに事前の通知をしたか否かは明らかでないが、仮にBが通知をしなかった場合、D・F・Eは小問(1)におけるD (1)(3)の合意があることを主張してBに求償権の全部を払うことを請求できる。Eからの事後通知を怠った場合、Bからの求償権を否定しうる。Eが乙債権につき300万円の弁済をしても有効にD・Fに求償できるか否かの問題となる。求償権を放棄した場合でもBがAの死亡による相続を知らなかったとすれば、通知をしなかった過失を連帯債務者に帰責する。したがって、D・Fは求償請求を拒絶し、Bに求償権をもって対抗されてしまう。もちろん、Eから求償を得られなかった300万円に関しては、同項後段の「相殺によって消滅すべきであった債権」の履行として最後までCに請求できるから、弁済後の求償にまで相殺が有効に行えない。しかも、本問のように債権者が金融機関であれば、ともかく、一斉に弁済する債権の場合、回収不能のリスクが相殺権を有したにもかかわらず、Bへと転嫁されることを意味する。この点に注目すると、求償権の機能には、他の連帯債務者の権利行使の機会を保障するだけでなく、求償権の無効な相殺の危険もあることがわかるであろう。なお、ここでは事前通知についてやや詳しく述べたが、小問(3)において、Bの事後通知の懈怠に注意を要する。CがDと乙債務の履行について請求をしていることから、速やかにDによる弁済がなされると思われるからである(関連問題③、最判昭57・12・17民集36巻12号2399頁参照)。4. 連帯債務者の1人に対する免除の効力小問(2)について、乙債務につきBが900万円の免除を受けたことは、他の連帯債務者Dたちの乙債務にどのような影響があるのか。連帯債務者の1人に対する債務免除の効力について、2017改正前の437条は、当該連帯債務者の負担部分についてのみ他の連帯債務者も債務を免れると定めていた(免除の絶対効。求償の関係も複雑でメリットがある)。そのような規律を前提に、一部免除の効力をめぐって考え方が分かれていたところ、大審院(大判昭和16・9・21民集19巻1701頁)は、全部免除の場合に比例した割合で他の連帯債務者の債務も免れるとする考え方を示した。具体的には、債務額を負担部分平等の連帯債務者3人のうち、1人が免除された場合、免除を受けた場合、免除者の負担部分(3分の1)である400万円について他の2人の連帯債務者にもその効果が及び、それらの者の債権額は800万円に縮減する(内部関係では、被免除者の負担部分はゼロ、残りの2人は各400万円)。全額1200万円の一部である300万円の範囲で免除をされた場合は、4分の1すなわち負担部分の割合で減額を認めるべきであると考えられる。しかし、同判決は任意規定であるため、これと異なる内容の免除(たとえば、他の連帯債務者には免除の効力を及ぼさない旨定めてもいわゆる「相対的免除」)も可能であり、また、免除という表現を用いながらも債務の消滅を意図せず、単に以後請求しないという趣旨の「不訴求合意」にすぎない場合もあると考えられてきた。通常、債権者は無償の債権回収を欲するであろうことから、連帯債務者に対し債務を免除する誘因を欲した。このように、連帯債務者の1人に対してなされた免除の効力を他の連帯債務者に及ぶことについては、その免除の意思解釈が要求されていたのである。これに対し、民法437条は、2017年改正により「その連帯債務者の負担部分の限度において、他の連帯債務者の債務も消滅する」とされ、従来の判例・学説における全部免除の場合に比例した割合で他の連帯債務者も債務を免れるという考え方が採用され、いわゆる「相対的免除」は2017年改正民法437条に条文が適用されうるようになった(437条参照、445・2・3条項参照。最判平成8・11・28民集52巻11号1991頁)。参考判例によって、不真正連帯債務者間においても免除の意思解釈いかんによっては絶対的効力が認められるとされたことで、いわば免除の意思解釈が重視されることが示されることとなった。このような状況を踏まえ、2017年改正民法437条を削除することで、免除を相対的効力とする見解が採られた。ただし、相対的免除の原則を定めた441条(2017年改正法440条に対応)には、反対の意思表示があった場合は例外が付された。特約によって他の連帯債務者に対しても効力を及ぼすことが明らかにされた。つまり、現行法下では、原則として免除は相対的効力をもつにとどまるが、免除者が他の連帯債務者の債務による「絶対的免除」もありうるから、やはり意思解釈が必要である。以上を本問に当てはめると、CがBに対する乙債務の免除は残額の900万円であるとしても、Bの負担部分400万円をD、Eに及ぶことをCは意図しておらず、すでにDに441条ただし書の「特約」が認められる。そこで、絶対的効力を及ぼすことが考えられる。Dは求償の限度で、DとEが乙債務の900万円のうち、相対的効力により、Dは求償の限度で免除を受けられることになる。しかし、CはDに900万円の履行を請求できる。Dから求償を得られないであろう。5. 連帯債務者の1人による相殺弁済の効果のある行為が同じく連帯債務者について、求償権が発生した場合も有効である。すなわち、相対的効力は、1人による相殺の場合も有効である。すなわち、相続により、弁済者が債権者に対する債権を有する場合でも有効である(相殺の絶対効、439条1項)。求償権を発生させてからである。小問(3)では、Bが履行請求を受けた場合、Bが有しているかの問題である。このことを検討する前提として、E自身が相殺した場合の処理をまずは明確にしておくというであろう。本問では、EがCに対して950万円の普通預金債権を有しているので、Eがこれを自働債権として、Cの甲債権(ただし、Aを共同相続したDの対抗にあうことになる900万円を限度とする参照)を受働債権として相殺の意思表示をすれば、対当額900万円につき相殺の効力が生じる。つまり、Eの預金債権が50万円になる一方で、CのEに対する甲債権900万円は消滅する(505条)。また、相殺に絶対的効力が認められるゆえに、上記のようにEの負担部分も900万円は消滅する。そして、Eの最終的な負担部分300万円も求償できるから、連帯関係にあるBやD)との間で各300万円の求償関係が生じる。このように連帯債務者の1人が相殺をなしうることは、その者が自ら相殺しない場合に他の連帯債務者にとってどのような意味があるのか。小問(3)においてBが相殺の権利を行使できるか否かにつき、改正の前後で処理が異なる。まず、2017年改正前民法は、対外関係を有する債権者が債務を負担するものの、他の連帯債務者の利益を援用することを許容されていた(2017年改正前436条2項)。この「援用」の意義をめぐって争いがあったが、判例(昭和32・12・13民集11巻14号1945頁)は、他人の相殺権を行使できるという意味合いの意義に解していた。これによれば、Bは、Eの負担部分(300万円)の限度で相殺権を行使でき、甲債権は連帯債務者全員のために1500万円に縮減する。ただ、甲債権につきBにさらに求償されることはないから、B・Dの合計1500万円を弁済すれば、Dに750万円、Fに150万円(Dは相続分から自己負担分+150万円(Aから相続した負担部分))、Fに750万円の求償ができる。このように、改正前民法は、負担部分に関して債務を絶対的に消滅させることで、相殺によるつもりの連帯債務者への求償を回避する構造であった。しかしながら、従来、他人の相殺権を援用する者の意思に反しないか等の批判があったことから、2017年改正民法436条2項の性質を見直す気運が高まり、現行法では、他の連帯債務者が有する相殺権を援用できるかについて、この点、他の連帯債務者の負担部分の限度で他の連帯債務者に履行を拒絶するルールが採用された(439条2項)。したがって、Bは、Eの負担部分である300万円につき履行拒絶を主張して1500万円を弁済すればよい。その結果、CのBおよびDに対する甲債権は、相殺を主張しても消滅せず、Eの負担部分300万円をDに求償することができる。この場合にBが弁済した1500万円のうち、自己の負担分600万円とBおよびDのそれぞれに300万円(Dのそれは600万円、Bのそれは300万円)につき、BはDに対して600万円の求償権をもつことになるという。相殺権を有する連帯債務者の利益や意思を保護しつつ、相殺権を援用する連帯債務者にも一定の利益を確保するというバランスのよい解決策であろう。Eが相殺権を有するだけで、他にいくら自己の負担部分に対応する求償権を放棄したとしても、Bからに対する総合的な求償を認める処理もありえよう。いずれにしても、先に述べたとおり、資力のある連帯債務者がいないと、求償権のリスクが伴う場合、Bにとっては民法440条の事前通知の意義がある。関連問題(1) E自身が相殺権をもって求償権を放棄した場合、連帯債務についてどのような問題が生ずるか説明しなさい。(2) C銀行がDに甲乙両債権の履行を請求した場合、B・E・Fにとっても、同時履行の抗弁権(447条1項1号)が生ずるか。(3) 小問(2)において、Bが債務超過を負っている場合に、DがCに900万円を弁済したとしても、DがBに求償権を認めていた場合の処理について検討せよ。参考文献篠田雄介・法教205頁/篠田雄治・126頁/平野裕之・リマークス19号(1999)35頁 (宇高克己)
『Law Practice 民法Ⅱ【債権編】〔第5版〕』 千葉恵美子・潮見佳男・片山直也編者・2022年10月15日
ISBN978-4-7857-2992-9
三者間相殺
2025/09/03
運送会社Cの従業員であったEは、2016年にC社から独立して、運送会社Eを設立した。E社の独立時より両社とC社との間には継続的な取引関係があり、C社が請け負った運送に関する積荷・倉庫作業を、B社がC社から受託して代行していた。また、B社は普通銀行に主要な燃料を、C社の本社である会社AからB社に購入していた。2022年6月1日の時点で、これらの取引から生じた債権の残額はそれぞれ、B社に対するA社の売掛代金債権につき400万円、C社に対するB社の報酬代金債権につき600万円である。そのほか、2021年にB社が自動車販売業者D社から乗用車を購入した際の売買代金債権につき、500万円がまだ支払われていない。2022年6月13日、D社がβ債権を差し押え、その差押命令が同月15日にC社のEのもとに送達された。その後、A社がB社に、「β債権をα債権で相殺する」と連絡した。(1) 2016年4月1日、B社がC社・A社との取引を開始する際、将来発生するα債権を被担保債権として、A社所有のa社とc社敷地内に第1順位の根抵当権が設定され、その旨の登記がされていた。D社が上記差押えによる債権取立権に基づき、β債権の弁済をC社に請求してきたとき、これに対してC社はどのような反論をすることができるか。(2) 2016年4月1日、B社がC社・A社との取引を開始する際、C社の指導のもと、A社・B社間の取引基本契約書のなかで、「B社において手形不渡り・差押えの申立て・破産手続の開始等所定の事由が生じた場合に、B社はα債権について期限の利益を喪失し、A社はα債権とβ債権を相殺することができる」と定められていた。D社が上記差押えによる債権取立権に基づき、β債権の弁済をC社に請求してきたとき、これに対してC社はどのような反論をすることができるか。参考判例と設問参考判例① 大判昭和8・7・7民集12巻2811頁② 大判昭和8・12・5民集12巻2818頁③ 最判平成7・7・18判時1570号60頁④ 最判平成28・7・8民集70巻6号1611頁設問1. 二当事者間の債権譲渡を対象とする注意相殺民法は一定の要件のもと、2人の者がお互いに対して負っている債務を対当額について消滅させ、いずれかの当事者に残る差額の債務についてのみ履行すればよいものとしており、この制度は「法定相殺」と呼ばれている。法定相殺が認められている趣旨は、双方による弁済に代えて差引計算後の残額のみを現実に履行し、2回の弁済を1回に省略する形での簡易・安全な決済を可能にするとともに(「簡易決済機能」)、一方のみが債務を弁済して他方が弁済しないという事態を当事者の間で回避させ、当事者間の公平を図ることにある(「公平保障機能」)。また、当事者の公平な処理の結果、一方の当事者が無資力であっても、相殺が認められれば、他方の当事者は自己は実質的に自己の自動債権を優先的に回収できるため、法定相殺には「担保的機能」も働くと言われている(→本節解説)。法定相殺の規定を基本とするには、二当事者間に存する債務が「相殺適状」にある(当事者の一方からの「相殺の意思表示」を待つだけをよい)こと、また、相殺の意思表示が相手方に到達したことにある。相殺適状が存在するには、①2人の間に対立した債務が相互に存在すること、②両者の意思表示の時点で双方の債権が現存していること、③双方の債権の目的が同種であること、④債務の性質が相殺を許さないものでないこと、⑤双方の債務の弁済期が到来していることが要件とされている(505条1項)。こうした相殺適状の要件にあると、法定相殺の対象は基本的に二当事者間の関係に限定され、3人以上の間に存在する複数の債権関係では「相殺」の効果も発現することはない。ここでは、AがBに対してα債権を有し、BがCに対してβ債権を有している状況を考えてみる。このときに①CがAからα債権を自働債権として相殺しようとする場合(他人の債務による相殺)、②Bが自働債権として相殺しようとする場合(他人の債権による相殺)、または③Aが自動債権として相殺しようとする場合(他人の債権による相殺)、また、④Cは、Aに対して有するγ債権を有していて、3人のうちのどの当事者が3つの債務を相殺しようとする場合、いずれの場合も上記①の相互性要件が充足されないため、相殺適状は生じない。2. 法定相殺の期待の拡張(1) 求償に対する相殺の抗弁もっとも、三当事者間の債権債務について相殺が認められる場面がある。上記の状況で、二当事者間の法定相殺の期待への保護が対第三者関係に拡張される場合である。たとえば、Bに対するCのγ債権について、AがBと連帯債務者、または、Cの債権について保証者Bから保証を受けたCが保証人であるとして、CがAにこの保証債務の弁済を請求するに至りCに弁済するにすぎない。この場合に、この弁済等の時点でBがCに対して債権を有していたのならば、Aからの求償権α’の請求に対して、BはCに対して主張し得たはずのβ債権による相殺を対抗することができる(443条1項・459条1項)。これにより、この相互的な債権を法定相殺することでへのBの求償権に対する担保において保護されている。(2) 債権譲渡の際の譲受人に対する相殺の対抗また、Bに対するα債権をCが承継していて、これをAに譲渡したときに、Bは民法469条の定めるところにより、Cに対するβ債権による相殺をもってAに対抗することができる。この場合でも、Cとの債権を譲り受けたAに対するBの法定相殺への期待が、一定の要件のもとで債権譲渡の譲受人Aに対する関係に拡張されている(→本節解説)。3. 相互性要件を欠く「三者間相殺」の許容性(1) 相互性要件を欠く「三者間相殺」の肯定的解釈しかし、相互性要件を欠く三者間の債務の相殺について、三者間相殺を一般的に許容する規定はない。この場合、Bが債権譲渡について決済を一般的に許容する規定はない。この場合、Bが債権譲渡について決済をしても債権者の債務者に相殺を対抗されないだけでなく、両者の合意で不当な処理がされる危険性があるから認められないため、法定相殺における利益状況と付合しており、利益状況を保護するような事情の法定相殺への期待は認められない。しかし、三者間の合意のもとで一体的に決済できる場合でも、法定相殺の適用を通じた処理も考えられる。そうした正当な計算が期待できるとすると、これを認めても、慎重手続きの中で「相殺」としての法論理を説けるわけはない(参考判例①)。(2) 自働債権者の意思の尊重と選択これに対して、例外的に、三者間相殺を認めるべき主張もある。Aがβ債権を被担保債権とする抵当不動産の所有権(物上保証人・第三取得者)である場合に、Bに対するα債権を自働債権とするAの相殺を肯定する見解がある(上記の状況)。ここでの相殺には、Aが主債務者Cに代わってβ債権を弁済するのと第三者弁済の効果と、Bが本来の弁済に代わる物上保証を失う代償の請求の二つの側面がある。このうち第三者弁済について物上保証人等であるAは、求償権を正当な範囲で自己の不動産の所有権を保全できるはずである(474条1項)。BとCに共通して「相殺」の請求をした場合、Bが債権の弁済に代えて物上保証の利益を享受したと評価して相殺を認めてよいというのである。他方で、代位弁済の効果との間の契約を要件とするため、Bの弁済をするとなる。ただし、物上保証人が有力であるとみる三者間相殺を認めれば、AはCとの関係を理由として有効な抗弁を主張できることになるが、Aにとっては、本来的にはβ債権の消滅を阻止した債務者を自己の債務者に優先して実現できることとなる。このとき、Bの債権者の第三者弁済的扱いが認められて、Aの有するα債権と相殺し、Dを債権者とするβ債権の履行とを認めるものとする。また、これとは別に、三者間相殺を認めると、AとBとの間で相殺が有力であると、無資力Aに対するBの反対請求が担保を許容する。そのため、抵当不動産所有者による三者間相殺を認めると、こうした追加的な事情のない場面に限定されるべきこととなる。さらに、物権における債務者の保護問題も問われている。三者間相殺を許容する見解の中には、このように限定された場面でのBの代理権行使に期待する見解もある。参考判例②によれば、権利濫用にすぎないとする主張もある。本条の弁済による消滅の管理に介入する権限を有しているわけではないとはいえ、Bによる相殺の管理に介入する権限を有しているわけではない。相殺性要件を欠く2つの債権について相殺の処理を含む合意の効力が否定的な意味で裏書に反するか否かは問われてはならない。(3) 取引関係の関連性を重視する見解次に、近時、計算の基礎とする債権を発生させた取引に何らかの関連性がある場合に、三者間相殺を許容する見解がある。α債権に関するA・B間の取引とβ債権に関するB・C間の取引が関連して行われているときに、約定によって債権債務を一括処理することへの当事者の期待を保護しようとするものである。しかし、三者間の債権の取引関連性を認めることにも消極的見解もある。むしろ、こうした見解においても、もとより上記BのAの解除もそうである。Bの他の債権者との不平等の問題など。また、法定相殺の期待への信頼は保護されてしかるべきだと、よく、両債権の相殺に付随効果があることも認められている。保証するに、当事者間の合意による相殺の期待もまた尊重されるべきであるが、取引関連性よりもむしろ取引当事者間での一般的な法律関係に付随することの根拠となりうるか否かについては、判例の動向に左右されず論理的に説明しうるとも思う。その意味で、この見解もまた取引関連に関して、これを肯定する判例を求められる。(4) 当事者間の合意に先行する相殺期待の重視当事者が関連して取引を行っているときに、その一体性を認めることから、これらの者による取引全体の合意に基づく相殺を許容する。たとえば、A・Bが企業グループを形成し、BとCの取引的に整理して抗弁しうるような場合である。これに対して、判例①は、A・C間に親子会社関係がある事案において、AやCによる相殺を認めていない(参考判例①の射程)。この見解についても、三者間の特殊性を前提にする客観性のほか、上記訴訟における判例の射程とは異なり、三者間の合意による相殺を肯定する判例③の射程としても、かかる判例の射程が限定的に解釈されるべきであると指摘されている。さらに、判例は独立した法人格を別人格として扱っているのであるが、当事者の期待に沿った通常の一体性を主張するのは困難ではなかろうか。全般による相殺期待の確保(1) 範囲を画するこのときに三者間相殺を正当化するのは難しい。三当事者間にある複数の債権債務によって相殺しがたいのであれば、むしろ、三者間の相互的な債権債務関係によって相殺が期待できるとみるべきである。その基準としてまず考えられるのが、保証である。上記法定の状況でA・B間に、α’債権とβ債権という相互的な債権債務関係が存在する。このとき、これらを相殺すれば、A・C間にα’債権とγ債権という相互的な債権債務関係が存在することとなり、これらを相殺すれば結局は、Bが直接Cに弁済することになる。このグループ内にBの債務者となるような者がいない場合にも同様である(参考判例④)。AがそれぞれのBとの取引について保証を一本で締結しておく方法もまたあるだろう。すべてをグループ内で決済処理に一本化するコストは大きくなる。そのため、実質担保は図られる。(2) 債権譲渡を利用する方法次に、債権譲渡を利用することもできる。たとえば、AがBに譲渡すれば、BとC間にβ債権とγ債権という相互的な債権債務関係が形成され、法定相殺が可能になる。あるいは、CがAに譲渡した場合も「相殺」を認めるべきであろう。これらの債権譲渡の利用の容易さからすれば、三者間での「相殺」への期待は保護に値すると評価されることは少ないだろう。ただし、この場合には対抗要件が問題とならなければならない。Bの債務者Dがβ債権を差し押えたときに、この差押えでAにCの債権を確定的に譲渡したわけではない。β債権譲渡の第三者対抗要件(467条2項、譲渡担保特約1条1項)を欠いていれば、Dの差押えでAは譲渡を対抗できず、相殺の担保的機能は無に帰する。(3) 複数引受を用いる方法さらに、債務引受によって二当事者間の相殺適状を作り出すことも可能である。たとえば、免責的債務引受(472条)によりAがBの債権者となれば、Cに免責的債務引受させれば、A・B間のみの債権債務関係になる。(4) その他の方法その他に代物弁済や更改、混同なども選択肢となる。とりわけ、上記のように債権が環状に存在しているときには、いくつかの方法を組み合わせる必要がある。たとえば、AがBの債務引受によりAとBの債務を免除するとともに、Cが対抗要件の範囲でγ債権にAの債務を免除するという具合である。ただし、債権者や引受参加者がさらに多数になれば、このような操作は非常に複雑になる。そこで、こうした状況では、独立した当事者X(集中決済機関、セントラル・カウンターパーティー(CCP))を参加させ、取引参加者の債権債務をすべてXとの二者間の債権債務に調整する方法がある。あるいは、取引参加者が互いに対抗する債務をすべてXに売却し、Xがその代金債権を相殺して処分する契約をすれば、これも決済の一方法である。債権の環状とXに対する債権が相互に反対方向の債務となり、これを相殺するとともに、Xが債務者となる。債権の環状とXに対する債権が相互に反対方向の相殺となり、また、AがB・Cに対して有する債務すべてについてXが免責的債務引受をし、その対価として反対方向にある二当事者間債権関係を形成できる。関連問題甲駅から乙駅までの鉄道、乙駅から丙駅までの鉄道、丙駅から丁駅までの鉄道をそれぞれ運営するA社・B社・C社は、2016年に甲駅から丁駅まで各社の車両を相互に乗り入れ直通運転を開始した。C社は、運送区間を含めた乗客からの運賃収入を管理する。運営協議会が占い、各社に生産に係る運賃の生産高を毎月末締めて清算することとしている。(1) 2022年6月1日の時点で前月分の運賃清算を清算した後に、A社にはB社に対する3000万円のα債権、B社にはC社に対する2000万円のβ債権、C社にはA社に対する1000万円のγ債権が残っている。同月13日、C社はB社の債権者D社からγ債権を差し押え、その差押命令が同月15日にA社からB社に送達した。D社がこの差押えによる債権取立権に基づき、γ債権の弁済をA社に請求してきた。A・B社がγ債権をα・β債権で相殺するとの合意を理由としてD社に対抗するとの合意を理由としてD社に対抗できるか。(2) 2016年の直通運転開始時に、A社はB社に運送区間の管理のために共同でX社を設立し、A社とB社は直通運転に関する債権債務を集約して決済することとしていた。2022年6月13日、B社の債権者D社が運賃代行取立分に当るB社に対するX社の債権を差し押え、その差押命令が同月15日にXのもとに送達された。D社がこの差押えによる債権取立権に基づき、δ債権の弁済をX社に請求してきたとき、A・C社は、X社が他の債権者との間に前月にどのよう合意をしていたかによれば、X社は対抗を拒絶することができるか。参考文献山本和彦・法教 2016年(2016)69頁/白石大・法教29年(2017)96頁/中田裕康「合意当事者間の相殺契約の効力」(日本評論社・2019)135頁/中田・債権総論464頁 (高木和彰)
『Law Practice 民法Ⅱ【債権編】〔第5版〕』 千葉恵美子・潮見佳男・片山直也編者・2022年10月15日
ISBN978-4-7857-2992-9
請負における所有権の帰属
2025/09/03
(1) A・B間で、A所有地への建物の建築をBが請け負う契約が締結された。Bは、自己の提供した材料で全工程の4分の1まで終えたが、そこで中断した。Aは、Bとの契約を解除し、工事の続きをCに請け負わせた。Cは、自ら調達した材料で建築を完成させ、Aからの残額の支払いをAにこれを引き渡した。また、A名義での保存登記がされた。この建築物で、出来形部分は基礎のむき出しであった。建物の価値は3000万円になったのに対して、完成した建物の価値は200万円だったのに対して、完成した建物の価値は3000万円である。AからのBへの報酬は支払われていない。以上の事実関係のもと、Bの債権管理会社A'は、建物の所有権はBにあると主張して、登記の抹消および使用相当額の支払いをAに求めた。認められるか。(2) (1)と異なり、BはAに無断で工事を中断してDに下請けに出した。Dは自己の提供した材料で全工程の4分の1まで終えたが、Bが倒産したため工事を中断した。その後の工事の帰趨や事実関係は、(1)と同じである。しかし、(1)と異なり、A・B間には、建築途中で契約が解除された場合には出来形部分はAの所有物とするとの特約のほか、報酬も工事の進捗に応じて分割して支払うとの特約があり、Aは進捗状況に応じた額の報酬をBに支払っていた。B・D間にはそういった特約はなく、BからDへの報酬も支払われていない。以上の事実関係のもと、Dは、Bの時に、完成建物の所有権に基づき、登記の抹消、建物の明渡し、使用相当額の支払をAに求めたほか、認められなかった場合に備え、二次的に、民法248条に基づき出来形部分の価額相当額700万円を支払うよう求めた。認められるか。(3) (1)において、下線部の特約がなかった場合はどうか。さらに、下線部①の特約および支払もなかった場合はどうか。参考判例と設問参考判例① 最判昭54・1・25民集33巻1号26頁② 最判平5・10・19民集47巻8号5061頁設問1. はじめに本問は、建築請負契約において完成建物や出来形部分の所有権が誰に帰属するのかという問題を基礎として、出来形部分に第三者が手を加えて完成させた場合の処理、および、下請負人が登場する場合の処理について問うものである。2. 未完成建物を第三者が完成させた場合の所有権の帰属(1) 検討の対象と順序小問(1)で完成建物の所有権がBにあるといえるためには、第1に、そもそもBの作った出来形部分の所有権がBにあったといえるのか(→(2))、第2に、それが認められるとして、建物を完成させたのがCであってもその所有者がBだといえるのか(→(3))、という2つの段階を経る必要がある。(2) 出来形部分の所有権の帰属(a) 前提ー不動産に劣る従物の扱いと報酬の効果本問では、出来形部分はまだ土地の不動産ではない(建物の要件が不動産になる要件については、大判昭和10・10・14民集14巻1671頁)。そのような状態で所有権の帰属がどうなるか。参考判例②も、不動産になるまでは土地の一部にすぎないと考えるが、そこにBの所有権は認められない。しかし、同旨大判昭和10・10・1は、不動産になる前でも独立の動産として債権の客体となることを認めている。また参考判例①も、それを前提として(「土地に定着しているが独立の不動産とはいえない状態の建物」といわざるを得ない)。建築途中であっても、いずれそれが建物になることを考えると、独立した動産として扱うことは問題がある。次に、本問ではAが報酬を前払いしている。そのため、出来形部分についてBに原始取得後(505条1項)が生じるようにも思われる。しかし、建築工事は可分であり、かつ、出来形部分はその給付によって注文者が利益を受けるものであるため、民法634条2号により、そこに報酬の対象とはならない(→本節設問の最判昭和56・2・17判時996号61頁も参照)。以上を踏まえて、出来形部分の所有権は誰に帰属するのだろうか。(b) 建物所有権に関する請負人帰属説建物の完成の段階で所有権の帰属が問題になるのは、変則的な事態である。通常の経過を辿った場合に遡及し、完成建物はいつから注文者の所有物となるのかを考えよう。ありうる構成は2つである。1つは、建物の所有権はずまず請負人に帰属し、その後どの段階で注文者に移転するものである。もう1つは、初めから注文者に帰属するものである。このどちらをとるかの基準として、判例は、古くから、材料の全部または主要な部分を提供した者に建物所有権も帰属するとしている(材料主義)。注文者が材料の大部分を提供した場合は、特約がない限り、建物は原始的に注文者の所有物となり(大判昭和7・5・9民集11巻854頁)、請負人が材料を提供した場合は、特約がない限り、建物所有権はまず請負人に帰属し、引き渡しによって注文者に移転する(大判明治37・6・28民録10輯961頁、大判大正3・12・26民録20輯1284頁など)。建物請負契約では通常は請負人が材料を提供するため、この判例によれば請負人帰属説と呼ばれる。参考判例①は、この考え方が出来形部分についても妥当することを示唆している。このために、材料の所有者がそのまま目的物の所有者になるのは、原則的には飲み込みやすい。材料と労力の提供によって目的物の所有権を定めることは、物権法の付合(246条)や加工(248条)の制度趣旨にも合致する。また、この立場は実質的な意義として、十分な担保手段をもたない請負人に、建築費確保の機会を確保に資するという点も強調される。(c) 注文者帰属説これに対して、当事者意思や契約の趣旨を根拠として、材料の提供者が誰かにかかわらず、建物所有権は原始的に注文者に帰属するとする説(注文者帰属説)が有力に主張されている。注文者帰属説は、建物を注文者が自ら使用するために建築を建てることにあり得ず、初めから注文者のための建築なのだから、請負人が所有権を取得することもないというのがその主張の骨子である。この考え方は、物権変動の意思主義(176条)ー対価の支払目的物の引渡しがなくても、所有権は当事者の意思のみで移転するーに合致する。また、たとえ請負人帰属説の立場でも目的物引渡しがなされたり対価支払を負うことになるし、報酬請求権の確保には他の手段があるはずだと注文者帰属説を支持する。注文者帰属説に従えば、本問における出来形部分の所有権はAにあることになり、BやBの債権者は所有者となることはない。(d) 特約の認定もっとも、いずれの説でも、当事者の異なる特約を認めることには妨げられない。請負人帰属説に立つ判例も、当事者間に、建物の完成と同時に注文者に所有権を帰属させる旨の合意があるときは、完成建物所有権は原始的に注文者に帰属すると解する(大判大正2・12・13民録22輯2417頁など)。この合意は契約当事者の自由の原則の当然の帰結であるから、裁判所は、たとえ明示の合意がなくても、合意の存在を比較的緩やかに認める傾向にある(そこには、注文者帰属説の影響があるだろう)。とりわけ、建物完成前に請負代金が報酬の全額または大部分を支払っていた場合には、特段の事情がない限り、建物完成時点で所有権を注文者に帰属させる黙示の合意を推認することを判例は確立しているといってよい(大判昭和17・3・27民集22巻960頁、最判昭和46・9・13判時573頁25頁、最判昭和46・3・5判時628号48頁など)。報酬の支払は目的物の引渡しと同時履行の関係に立つのであるから(633条本文)、注文者が前払いするのは目的物の所有権を早めに取得することと当事者の間で了解しあっているから、この場合には請負人の報酬債権確保の必要性も小さい。したがって、黙示の合意の存在を緩やかに認めることには根拠がある。もっとも、小問(1)の事案では、Bの求めではないのにAの方から報酬が支払もされていないため、黙示の合意に基づく所有権帰属を認めることは無理だろう。(e) 第三者による完成の効果建物所有権について請負人帰属説に立つ場合には、出来形部分の所有権を請負人に帰属したことになる。その場合には、第三者のCが手を加えて建物を完成した場合、その所有権は誰に帰属になるのだろうか。B・C間に完成物はないため、物権法、特に添付のルール(242条以下)に従って判断することになる。もっとも、それをどのように用いるかは丁寧に考察する必要がある。1つの考え方として、建築物の土台にあたる出来形部分を「主たる動産」と見て、そこにC所有の材料が付合したことから、出来形部分の所有者が全体も所有権を取得し(243条)、不動産になった後もこれに対応した材料の所有権をBが取得する(242条)という構成もありうる。参考判例①の請負人は、このような主張を展開した。しかし、付合のルールでは、この判断を評価することができない。本問では、Cはまだ土地の不動産ではない状態から独立の不動産へ仕上げている。このような場合に材料の価値だけで判断してBの所有権を無視するのは適切でない。そのような観点から参考判例①は「材料に対して施される工作が特段の価値を有し、仕上げられた建物の価格が原材料のそれよりも相当程度増加するような場合には、むしろ民法の加工の規定に基づいて所有権の帰属を決定するのが相当である」と述べた。これに従えば、本問でも、加工の規定(246条)に従って建物所有権をBが認めるべきである。(4) 当てはめ以上を小問(1)に当てはめると、請負人帰属説に立つ場合、出来形部分の所有者はBとなる。しかし、出来形部分の価格が700万円であり、Cの材料・工作の価値は2000万円(3000万円−700万円)なので、仕上げられた建物の価格が、原材料である出来形部分の価格を相当程度上回っていると評価できる。そのため、建物の所有権はCに帰属し、引渡しによってAに移転することになる。Bの主張は認められない。3. 下請負人による建築と注文者・元請負人間の特約の存在(1) 検討の視点小問(2)の事案では小問(1)と類似しているが、下請負人が登場し、民法248条に基づく償金を主張している点、および、建物の帰属や報酬の支払についてB・C間に特約がある点で違いがある。ここでも、まず出来形部分や完成建物の所有権の所在を問うことは、小問(1)の場合と変わらない。しかし、契約当事者の争いであった小問(1)とは異なり、小問(2)では、Dが、建物または出来形部分の所有権を根拠として、自身の契約の相手方Bではない建物の最終所有権者であるAから直接回収することの是非も問題となる(この点については特に(2)で検討する)。出来形部分や完成物の所有権の帰属を考えるうえでの請負人帰属説と注文者帰属説の考え方は、下請負人がいる場合にも当てはめて考えられている。したがって、注文者帰属説に立てば、建物所有権はAに帰属する(→2(2)(c))。他方、請負人帰属説に立てば、特約がない限り出来形部分の所有権はBに帰属するが(→2(2)(b))、Cが建物を完成させAに引き渡したことで建物所有権はAに帰属することになる(→2(3))。そうだとすれば、いずれにしてもDに建物所有権は帰属せず、主位的請求である所有権に基づく各請求は否定される)。もっとも、請負人帰属説に立つ場合、さらに二次的主張の当否も検討する必要がある。(2) 償金請求と特約の存在(a) 償金請求請負人帰属説に立つ場合、所有権の帰属について特約がなければ、Dは出来形部分の所有権をCの加工によって失ったことになる。そのため、本来、民法248条に基づいて、現在の建物所有者をAに対して償金請求ができるはずである。(b) 注文者・元請負人間の特約の効力しかし、小問(2)では、注文者Aと元請負人Bの間に出来形部分の所有権の帰属について特約が付されている。もしこの特約が、下請負人Dをも拘束するのであれば、Dは出来形部分の所有権を取得せず、特約がDを拘束するなら、原則として効力は第三者に及ばないので、A・B間の特約はDに影響しないようにも思える。現に、参考判例①もそのように考え、下請負人から注文者への償金請求を認めた。しかし、元請負人と下請負人の関係の履行は目的とする契約である。そうであれば、元請負人が契約内容から離れた独自の立場にいないではないか。実際、参考判例②は、そのような観点から、「下請負人は、注文者との間では、元請負人の下請けという立場に立つものであり、注文者の信頼しうる特約を信頼するのが通常であり、元請負人と注文者間の特約がある場合はその特約を信頼して、元請負人と注文者間の特約に反する主張はできない」と判示した。これによれば、A・B間の特約はDをも拘束するため、出来形部分の所有権はDには帰属せず、Aに対する償金請求も否定されることになる。(3) 明示の特約・報酬の支払がない場合(a) 明示の特約がない場合では、小問(3)のように、報酬時に出来形部分をAに帰属させる明示の特約がなかった場合はどうなるだろうか。この点についての明確な判例はないが、報酬の支払いが黙示の合意による特約を認定する基準になっていることからすれば(→2 (2)(d))、明示の特約がなくても、Aからの報酬の支払さえあれば、黙示の合意が認定されて出来形部分をAに帰属するとしたうえでDは償金請求できないとするのが整合的であると思われる。(b) 報酬の支払いがない場合ではさらに、AからBへの報酬の支払いがない場合はどうだろうか。あまりにDの犠牲のうえにAの所有権の保護が図られることは許されないのではないか。この場合には、Dからの償金請求を認めるべきではないか。しかし、Dは契約相手方Bから報酬を得られずAに請求することはできないだろうか。仮にAがDに償金を支払っても、AのBに対する報酬債務が消滅するわけではない。Aの解除によっても民法634条1号により出来形部分についての報酬債務は消えず、また、民法248条の求償はあくまで請求のなされた所有権の範囲であって報酬債務に影響するものではないためである。そうすると、Aは、出来形部分についてはBとDに二重払いするおそれがある。Dが人的担保機能をもつようになると、債権の確保として機能すればそれのような機能も正当化しうるかもしれないが(ただし、その場合には、AからBへの償金の支払を、BがDに負う報酬債務の第三者弁済と評価されるかという問題があるーそれができなければ、AはBに対する求償もできなくなる)。すでにBに報酬を支払っているAの場合との整合性も問題となるだろう。もっとも、Dの償金請求を封じる法律構成は複雑だ。①元請負帰属の原則として、事後的にでもAがB(D)に報酬を支払えばDは所有権を遡及的に失うと考えるか。または、②下請負人と請負人の関係の独自性(→コラム)を重視し、BーD間の下請契約の結果Dに帰属した出来形部分はBに帰属されるべきであると解して、(請負人帰属説によって)Dは所有権をもたないと考えうるべきではないかと思うが、問題解決がむずかしい。元請負・下請負の構造の解明が待たれる。関連問題と参考文献関連問題下請負人が自身の報酬債権を確保するための手段として、約定(担保および相殺)あるいは、法定(担保)によるものがどのように考えられるか。また、それらの実現に関連し、どのような問題が生ずるか、解説しなさい。参考文献●大村敦志「最判平成5年度民法(下)886頁/中村知・「ゼネコンの倒産と民法」13頁(有斐閣、2007)113頁/宮川雄一郎「請負契約における所有権の帰属」民事法Ⅲ164頁/澤勢信・百選Ⅱ140頁/宮崎裕・百選Ⅲ140頁 (村田大樹)
『Law Practice 民法Ⅱ【債権編】〔第5版〕』 千葉恵美子・潮見佳男・片山直也編者・2022年10月15日
ISBN978-4-7857-2992-9