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債権者代位訴訟

Xは、リフォーム業を営むYに対して300万円を貸し付けている(以下、「甲債権」という。)。YはZの自宅の内装を請け負い、Zに対して200万円の請負代金債権(乙債権)を有していたが、ZはYによる塗装が、自己の思い描いていた色と微妙に違っており、その結果に満足しておらず、Yに対する支払をしなかった。ところで、その後、同様にYにリフォームを依頼した顧客から、リフォームの結果に対する苦情が殺到し、そのうわさを聞き付けた他の顧客からのリフォーム依頼が取り消されるなどした結果、Yの経営状況は次第に悪化していった。XはYに対して甲債権の支払を求めたが、Yには乙債権を除き、これといった財産はない。そこで、XはZに対して、乙債権の支払を求めて訴えを提起した(以下、「本件訴訟」という)。(1) 本件訴訟は、乙債権についてはZの異議によってすでに弁済がされていたと判断されて請求棄却判決が出され、確定した。その後、Yは弁済を受けていないと主張して乙債権の支払を求めてZに訴えを提起することはできるか。(2) 本件訴訟が係属している間に、Yが、甲債権はそもそも存在しないのでXの訴え提起は不適法であると考えて、乙債権についてZに対して給付を求める訴えを提起するにはどうしたらよいか。●参考判例●① 最判昭和48・4・24民集27巻3号596頁●解説●1 債権者代位訴訟の法的構造債権者は、自己の債権を保全するため必要があるときは、債務者に属する権利を行使することができる(民423条)。この権利を債権者代位権といい、これを訴え提起の方法で行使した場合を債権者代位訴訟とよんでいる。以下では、代位する債権者(本問ではX)を代位債権者、債務者(本問ではY)に属する権利の債務者を第三債務者(本問ではZ)と呼び、代位債権者の債務者に対する債権を被保全債権、債務者の第三債権者に対する権利を被代位権利と呼ぶ。債権者代位訴訟では、代位債権者が債務者に代わって被代位権利を訴訟物として訴えを提起することになり、その法的構造が、代位債権者が得た判決の効力が債務者に及ぶのかという問題と関連して問題となる。平成29年民法改正(以下、単に「改正」とする)前の通説の立場は、債権者代位訴訟は、訴訟物である被代位権利につき、債務者が責任財産保全のために自己の管理権を付与され、これに基づいて当事者適格を付与されて訴えを提起するものであり、法定訴訟担当(=訴訟担当について確定判決)であると位置づけていた。この見解によると、代位債権者が得た判決の効力は、民事訴訟法115条1項2号により代位訴訟の当事者のみならず、同項2項により債務者に及ぶことになる。もっとも、代位債権者と債務者とは、代位の要件をめぐって利害が対立することが多いにもかかわらず、代位債権者が得た既判力の効力が当然に債務者に及ぶことに対しては批判もあり、債権者代位訴訟のように訴訟担当者と本人との利害関係が対立する場合に、訴訟担当者が本人に及ぶ場合を訴訟追行について、自己固有の利益に基づいて訴訟を提起しているので、当然には債権者には判決の効力は及ばないと解する見解も見られた。また、訴訟告知をして債権者代位訴訟に参加する機会が与えられたにもかかわらずこれが利用されなかったという見解も示されていたが、改正民法では、債権者代位訴訟の既判力を債務者に告知することを義務付ける規定もなく、解釈論としては上記のような問題点を解決するために、債権者代位訴訟を提起した場合には、債務者も遅滞なく訴訟告知をした場合には、債務者に訴訟参加の機会を与えた(参加の方法については後述)。ところで、改正民法においては、債務者は代位権が行使された場合であっても、債務者は代位権についてその他の処分権限を失わない。また、債務者も代位訴訟が提起されても、債務者は代位権利についての当事者適格を失わないこととなる。そのため、管理処分権が代位債権者に移り、債務者が当事者適格を失うことを前提として(大審昭和14・5・16民集18巻557頁参照)、債権者代位訴訟を法定訴訟担当と構成するこれまでの考え方が維持できるのかは問題となる。しかしながら、訴訟物の帰属主体に当事者適格が移り、担当者と当事者適格が併存することは法定訴訟担当の成立を妨げるものではなく、法定訴訟担当という構成は維持できるものと考えられる。2 小問(1) ―― 債権者代位訴訟の判決効債権者代位訴訟の法的構造を法定訴訟担当と解すると、代位債権者が受けた判決が確定すれば、それが債務者判決であれ取立判決であれ、債務者に効力が及ぶことになる(115条1項2号)。そのため、本問のYには、Xの敗訴判決の効力が及び、Yは乙債権について給付の訴えを提起することはできなくなり、仮に提起したとしても棄却される。代位債権者が受け取訴訟判決を受ける可能性のある債務者の手続保障は、訴訟告知によって図られる(民423条の6)。民法改正以前から、債務者に訴訟参加の機会を与えるために訴訟告知をするのが望ましいと考えられていたが、これを義務付ける規定がなく債務者の手続保障が十分に図られてないとして、現行民訴法で訴訟告知を義務づける規定が置かれた。改正民法の下では、代位債権者は訴え提起後、遅滞なく告知することが必要である。仮に訴訟告知の規定がなかった場合には、明文の規定はないものの、代位債権者の当事者適格の基礎が欠けるとして、訴えは不適法とされる。また、訴訟告知をしたにもかかわらず、債務者が訴訟に参加しなかった場合であっても、代位判決の判決の効力は債務者に及ぶ。さらに、訴訟告知の効力である参加的効力(53条4項・6項)もあるため、例えば、代位債権者が敗訴した場合にも、債務者が代位債権者の不当な訴訟行為により、被代位権利が消滅したでなくたと主張して不法行為に基づく損害賠償請求訴訟を提起することはできない。3 小問(2) ―― 債務者が訴訟参加する方法債権者代位訴訟が提起されても被代位権利について処分権を失わず、当事者適格を有すが、単独で被代位権利を請求することは重複訴訟に該当して許されない(142条)。他方で、債務者が代位訴訟に参加して、審理が併合され、分離される可能性がなければ、重複訴訟禁止の趣旨に反せず許容される。参加の仕方は、債務者が代位債権者による代位権行使を争って自己への給付を求めるのか、あるいは代位債権者側に加わるのかによって異なる。まず、債務者が代位権行使について争わず、代位債権者と共同戦線を張りたいと考えた場合、債務者には補助参加の利益があるため債務者補助参加をすることができる(42条)。債務者は判決効を受ける立場にあるので、補助参加の従属性(45条1項ただし書・2項)の制限を受けない共同訴訟的補助参加をすることもできる。加えて、債務者には代位訴訟が提起された後も被代位権利について処分権限と当事者適格を有し、さらに判決効を受ける立場にあるため、当事者として共同訴訟参加(52条)をすることもできる。共同訴訟参加の被参加適格は必要共同訴訟となりそうである(40条)。もっとも、代位債権者の請求と債務者の請求は、訴訟物は同じであるものの、給付の相手が異なるため、請求の趣旨は異なる。そのため、訴訟物を給付の相手が同じであることを前提とする。通常の共同訴訟参加・類似必要共同訴訟とはやや異なる形にはなることが必要である。なお、債務者が訴訟参加をして権利行使をした場合に、代位の要件が欠けるのかが問題となるが、債務者が実際に訴訟追行をするとは限らないために、債務者の訴訟参加によって直ちに債権者による代位権は妨げられるものではなく、代位訴訟は維持されない。そして、被代位権利があると判断された場合には代位権者と債務者の双方の請求が認容されることになる。参加者の訴訟行為の効力は、共同訴訟の類型が類似必要的共同訴訟であると、民事訴訟法40条の規準による。そのため、当事者の1人が単独で行った有利な訴訟行為は、すべての当事者との関係で効力を有するが、不利益な訴訟行為は、すべての当事者のみならずその他の当事者に対しても効力を有しないこととなる。だし、被代位権利の本来の債権者である債務者が単独で行った自己の権利の行使の結果は効力が生ずるとする考え方も示されている。これに対して、本問のように債務者が代位債権者による代位権行使について争いたい場合に、債務者が第三債務者側に補助参加、ないしは共同訴訟的補助参加することも可能であるが、加えて、民法改正前は、独立当事者参加(権利主張参加)をすることが認められていた(参考判例①)。この判例では、独立当事者参加を認めた訴えと代位訴訟との併合審理が強制され、訴訟の目的は合一的に確定されるため、重複訴訟の禁止に反しないとした上で、代位債権者が訴訟追行権を独占していれば、債務者は訴訟追行権を有しないため、当事者適格を欠くものとして訴えは不適法となり、債務者が訴訟追行権を有しないことが判明したときは、債務者は訴訟追行権を失わず、訴えは適法となるとも判示していた。本来、権利主張参加人の請求が原告の請求と論理的に両立し得ない場合に認められるが、この判例は当事者適格を両立しない場合にも独立当事者参加を認めたものであり、権利主張参加の制度を活用した判例と評価することもできた。改正民法の下では、代位訴訟が提起されても債務者は被代位権利について当事者適格を失わず、代位権行使が違法である場合でも、債務者による訴え提起は適法となるため、上記判例がそのまま妥当するかは問題となりうる。上記判例はもはや適用されず、債務者は独立当事者参加をすることはできず、共同訴訟参加のみであるという考え方もありうるが、片面的に当事者適格が両立しない場合がある。つまり、債務者の主観により被保全債権が存在しない場合には、債務者の当事者適グが否定されることに加えて、被保全債権の存否をめぐって争いがあれば、債務者が債権者による訴訟追行をけん制する必要があるので、権利主張参加を認めることもできよう。●参考文献●山本和彦「債権者改正と民事訴訟法ーー債権者代位訴訟を中心に」判例タイムズ2327号(2017)121頁 / 越山和広「債権者代位訴訟における債務者の権利主張参加」法時60巻8号(2016)35頁 / 垣堺聰・百選214頁(杉山悦子)