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抵当権と利用権の関係

Aは、自身の所有する共同住宅(以下、これを「本件建物」という)を賃貸していた。2024年10月7日、Aは、B銀行から融資を受けるに際し、その担保として本件建物にBのための抵当権を設定し、同日、その旨の登記を了した。 2029年頃からAのBへの返済が滞りがちになり、2030年11月からはほぼ返済がなされなくなった。そのためBは、2031年3月15日、本件建物について抵当権の実行による担保不動産競売を申し立てた。同月29日に、担保不動産競売開始決定がされ、同月31日に差押登記がされた。同年12月3日、Xを買受人とする本件建物の売却許可決定が確定し、翌2032年1月13日にXからの代金納付がされたことにより、Xが本件建物の所有権を取得した。 Xは、本件建物に居住する者たちに対して、ただちに明渡しを求めたい。2032年1月14日現在、本件建物の居住者Y₁〜Y₄が次の(1)〜(4)の状況にあるとすると、Xの請求は認められるか。 (1) Y₁は、2024年9月1日、本件建物の1号室を賃借している。 (2) Y₂は、2026年4月1日から本件建物の2号室を賃借している。 (3) Y₃は、2031年4月1日、本件建物の3号室を賃借している。 (4) Y₄は、2026年9月1日から本件建物の居住者Y₂から、本件建物の4号室を転借し、2027年4月1日以降Aに無断で、この部屋を転借し、1人で使用している。 なお、民事執行法83条の引渡命令にはふれないでよい。 ●参考判例● 東京高決平成20・4・25判時2032号50頁 ●解説● 1. 前提:抵当不動産の使用 抵当権は非占有担保である。抵当不動産の使用は、抵当権が設定された後も、抵当権者に占有が移転することなく(369条1項参照)、このように設定者が抵当不動産を利用できることから、設定者にとっても利益である。 なぜなら、抵当権者は、抵当不動産に対する担保価値を把握するにとどまり、抵当権が実行されるまでは抵当不動産を自由に使用収益できるほか、賃貸するなどの活動を継続できることで債務の弁済原資も高まるからである。 他方で、抵当不動産の使用収益においていくつかの調整を必要とする。たとえば、抵当不動産の使用収益が第三者である場合には、その妨害を排除する手段を与えられる(このような側面については→本章VⅢ参照)。したがって、抵当不動産が設定された不動産を使用するとしても、設定者による使用収益が一定の制約を受けることがある。 逆に、抵当権の設定が抵当不動産を使用収益する第三者との関係で、抵当権の設定が抵当不動産を使用収益する第三者との関係で、抵当権の設定登記後に賃貸借契約を締結する第三者との関係では、結論、抵当権設定登記後に賃借権が設定された不動産自体への帰属となる。 2. 抵当権と利用権の関係の調整 (1) 2003年改正前 利用権保護の方法については制度の変遷がある。2003年に担保執行法の改正がされるまでは、契約期間が比較的短期でかつ対抗要件を備えた賃貸借(短期賃貸借)を保護する制度が採用されていた。短期賃貸借と呼ばれる賃貸借の対抗力は、建物の賃貸の場合の期間は3年以下)。 (2) 2003年改正後 執行妨害を助長するため、短期賃借権を保護する制度は廃止された。抵当権設定登記後の賃貸借は、原則どおり抵当権者に対抗できないことになった。しかし、突如として買受人から退去を命じられる賃借人の不利益は大きい。そこで現在では、賃借人が建物の明渡の場合に限り、所定の要件を満たした者には、競売による買受時から6か月間、賃借物の明渡しを猶予することとし(395条1項)、建物賃借人の利益を最小限にとどめようとしている。その要件は以下のとおりである。 占有者に明渡猶予が認められるには、①抵当権設定登記後に建物を賃貸借し、②現に使用収益している占有者であること、③現に使用収益している占有者であること、④買受人の買受けの時から6か月を経過するまでは建物を買受人に引き渡す必要はないからである。 (3) 本問への当てはめ 以上の前提を前提に本問のY₁〜Y₄に対するXの明渡請求の可否を確認すると、次のとおりとなろう。 Y₁は、Bの抵当権設定登記がされた2024年10月7日以前の同年9月1日から、本件建物を賃借している。抵当権設定登記後に賃貸借契約が締結されている場合は、そもそも明渡猶予の対象にならないことから、Y₁の占有権原として基づく賃貸借契約は、Y₁の占有として考えられるのは、占有権原としての賃貸借契約の存在である。すなわち、Y₁の賃貸借が対抗力を有していれば、それを買受人にしても対抗することができる。 Y₂は、2026年4月1日から建物を賃借しているが、これはBの抵当権設定登記後にされるため、短期賃貸借の保護を排した法改正では対抗力を得ることはできない。したがって、買受人の明渡請求に6か月は対抗することができない。 3. 転借人の扱い 以上みたY₂およびY₃に対する明渡猶予の可否は、民法395条1項の文言どおりである。転借人であるY₄について明渡猶予が認められるかは、条文の文言からはただちには明らかとならない。現在のところ、この点について最高裁判例はなく、また民法教科書で一般的に取り上げられる問題ではないが、明渡猶予制度の趣旨を考えるうえで1つの素材にはなるだろう。 4. 抵当権設定後の賃貸借の対抗力 以上述べたように、明渡猶予制度は抵当権設定後の賃貸借に対抗力を与えるものではなく、猶予期間経過後は、賃貸人は退去を拒むことができない。しかし、抵当権者の利益の観点からみると、賃借人は退去を拒むことができない。このように、賃貸借に対抗力を付与して、その存続を保障する制度と、2003年の改正では、抵当権設定登記後の賃貸借への対抗力の付与が認められている(387条)。 ●関連問題● 本問において、B銀行以外にAも本件建物上に抵当権を有しているとする。また、Bは、Bの抵当権上に抵当権(転抵当)を有している。Bが本件建物の所有権をAに代物弁済として、Aの抵当権を付与したとしているとき、法律上Bがとるべき手順を答えなさい。 ●参考文献● 片山直也・金法1876号(2009)29頁 三上威彦・民事執行管理(第2版)(2012)82頁