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当事者適格(紛争管理権)

X会は、A湾の近辺に在住する20名 (α~ω。 以下、 「Xら」とい う)を会員とした、A湾の環境保護を目的とするNPOである。法人格 はない。会の規約において代表はX1とされ、 代表の選出方法や会の 意思決定方法(多数決)、 会費の管理方法が定められている。5年前、Y電力会社がA湾の一部海域を埋め立てて火力発電所を 建設する計画を立て、地元の漁業者・農業者との間で環境保全および 損失補償について協議を開始した。X会は、この頃から反対の住民 とともに計画の撤回・見直しを求めてYおよび行政当局との話し合 いを継続し、環境評価 (アセスメント) に係る情報開示の請求、環境 保護計画の提案などを行った。 しかし、Yは漁業者・農業者との間で 環境保護協定および損失補償について合意に至った時点で埋立てに 着手し、今春、火力発電所が完成し、操業を開始した。そこで、X会は、Yの行為によって生活環境が侵害されると主張して、Yに対し、火力発電所の操業差止めと周辺区域の 原状回復を求めて提訴した (なお、Xらは、Xら各人の債権に基づく請求はしていない)。 Yは、X会の構成員はA湾付近で漁業や農業を営 む者ではないから、X会は原告適格を欠くと主張した。 X会は、A湾 付近の環境保護という会の目的のために地域住民として本事案を提起・追 行しているのだから、原告適格がある と述べた。裁判所は、X会の当事者適格を認めることができるか。■参考判例■① 最判昭和60・12・20民集11巻11号1778頁② 最判昭和45・11・11民集24巻12号1854頁●解説●1 拡散利益と当事者適格環境の保護、景観の保持、消費者の利益の保護のように、不特定多数の人が享受する利益を拡散利益と呼ぶ。実体法上、どのような拡散利益がどのような要件で認められるかは困難な問題であるが、訴訟法上は、誰に当事者適格を認めて訴訟追行させることが適切な紛争解決のために必要かが1つの重要な論点をなしてきた。伝統的には、当事者適格を裏付けるのは実体法的な管理処分権だと考えられてきたが、拡散利益に関しては、そもそも請求権が誰に帰属するのかが明確でないため、管理処分権者の範囲を確定できないからである。一般的に、環境保護を訴訟で目的とする差止請求がなされる場合、その法的構成として、所有権等の物権に基づく妨害排除請求権、人格権に基づく差止請求権、不法行為に基づく差止請求権、環境権に基づく差止請求権などが考えられる。前三者は、それぞれ物権の権利者、人格権者、不法行為により侵害を受ける権利・利益の主体が権利者であり、各人が管理処分権者として当事者適格を有する(福永・後掲227頁)。末尾の住民や人格権が認められる限り、各人が当事者適格を有するはずである。もっとも、この場合、理論的には、反対の住民の数だけ訴訟が提起されることになる。つまり、仮にXがYに勝訴しても、Xに敗訴すれば訴訟を起こしうる。反対派住民全員に敗訴したと同じ結果となるから、応訴の負担が大きく、法的安定性も損なわれる。しかも、このような人格権は、その性質上、極めて広い範囲の(理論的には日本中の) 人に認められる可能性があり、原告適格者は膨大となる。これらに対して、環境権は、より集団的な性質を有するとの考え方が有力に主張されている。良い環境を享受する権利・利益は、土地の所有権や漁業権のような個別の利用状態とは別に、環境を共有する人々に(個別の被害がなくとも)平等に認められるべきであり、したがって、環境をどのように利用・支配するかは(例えば地域住民全体のような)集団に属する利益と考えうるからである。具体的な内容については議論が分かれており、地域住民全員に加入会の権力に的に対する利益であり、当事者適格は、固有的共同利益(→問題・69・15)に準じて認めるときとする考え方、各人が実体的な処分権はなく、多数人が集団的に主張してはじめて訴訟の利益が認められる本質的集団訴訟とする考え方 (谷口安平 「集団訴訟の課題」 青木英一=三ヶ月章監修『新・実務民事訴訟講座[3]』日本評論社・1982) 175頁)、一定の範囲に固有の利益とする考え方 (塩崎・後掲233頁) などが論じられてきた。これらを前提とすると、本問のXが近隣住民に固有の当事者適格が認められることになり、上述のYの訴訟負担等の問題は回避できる。もっとも、総有権的な構成を採る場合にはA湾付近住民の全員的な共同訴訟が住民全員による訴訟担当者への授権や団体の構成 (任意的訴訟担当 [→問題16])が必要となり、その実現可能性は小さくなる。集団的利益権とする場合には、その範囲や集団の単位などの確立も問題となり得る。2 紛争管理権説の登場(1) 紛争管理権説の登場と批判 1で述べた隘路を解決するために、訴訟提起前の紛争交渉過程で紛争原因の除去に重大な役割を継続的に果たしていた者に「紛争管理権」を認め、その後の訴訟追行権を与えるべきとの考え方が提唱された(伊藤・後掲『民事訴訟法』90頁)。実体法上の管理処分権によって当事者適格を基礎付ける伝統的な考え方の下では、環境権のような生成中の権利については当事者適格を特定できないことに鑑み、紛争交渉課程における経験や取組みという事実的側面にに着目し、このような考え方は誠実な訴訟追行を期待できる者として当事者適格を認めようとする考え方である。この考え方によれば、本問のXないしX会は固有の当事者適格を得ることになり、地域住民による集団訴行権の構造(任意的訴訟担当) という構成を採る必要はない。その点でも実体法的なアプローチを排除した考え方であるといえよう。しかし、紛争管理権は、本問のようにXらが団体を構成していなくても、Xらの原告適格を個々に認める。しかし、理論的には、紛争管理権に基づく差止請求訴訟はXらの権利として確立していないことを理由に訴えを却下したのに対して、最高裁判所は職権で原告適格の当否を採り上げ、①法律上の規定がないためXらは訴訟担当に当たらない、②Xらの授権が存在しないためXらは任意的訴訟担当に当たらなく、③紛争管理権論は「そもそも法律上の規定のない」 当事者の要件から、法律に根拠のない訴訟追行権を是認するに帰するものであり、にわかに採用しがたいと判断し、④Xらには自己固有の差止請求権に基づく訴訟追行権も認められない、との理由でXらの原告適格を否定したのである。このように、紛争管理権は判例上明確に否定された。学説からも、紛争管理権の要件が実体法上の判断と異質の事実的判断を求めるとか、紛争管理権の主体が不明確である、提訴前の紛争管理の要件が示されていない、訴訟遂行における判決が他の住民に及ぶことを正当化する根拠が示されていないなどの批判がなされた。なお、最後の点に関しては、同説は、判決の対世効は有利不利を問わず他に及ぶが、紛争管理権者と路線を異にする住民は別途提訴することができるとしていた。したがって、原告ではない住民は紛争管理権者の訴訟追行を黙示的に承認していると説明していないのではなかったといえよう。とはいえ、確かに、紛争管理権説を本問のXらに適用して、当事者適格の問題を判断しようとするならば、訴訟担当の要件とのバランス上、その専門性の程度、住民および相手方との利害関係、紛争交渉への関与の態様など誠実な訴訟追行を期待し得るかの要件や、Xらのうち一部の者が欠けた場合の当事者適格の有無やX会への訴訟授権を検討する必要があり、要件の不明確性は否めない。なお、紛争管理権説自体は、実質的には法定訴訟担当構成を採っていたことにも留意すべきである (後に、一種の任意的訴訟担当構成へと改説された。 [2]参照)。(2) 紛争管理権説の再構成 上記のとおり、参考判例①は、Xらの原告適格を任意的訴訟担当に当たるか否かの観点で検討した。その要件は、判例(参考判例③ [→問題16]) によれば、①弁護士代理原則・訴訟信託禁止の潜脱に該当せず、②担当者の訴訟追行の許容が必要であると認められることであるが、これらと紛争管理権の要件との関係は明確ではなかった。これらの批判を受けて、紛争管理権説は、一種の任意的訴訟担当として再構成された(伊藤・後掲『新民事訴訟法再考』203頁参照)。すなわち、本問のX会のような環境保護団体が住民の包括的授権を得ており、上記の任意的担当の要件を満たす場合には、住民のための訴訟追行が認められるべきである。その際、紛争管理権の要件であった提訴前の紛争交渉における重要な役割を果たしていることが、弁護士法違反の潜脱ではないことを基礎付け、②訴訟追行の承認がなければ住民の権利が実現されないという事情が、訴訟追行の許容性判断を肯定する根拠となる。そして、紛争管理権者には任意的訴訟担当が認められる。このように、任意的訴訟担当という伝統的な枠組みによって紛争管理権を組み込む考え方は、当初のように紛争管理権によって直接当事者適格を基礎付けるわけではなく、その意味で後退したともいえる。が、環境訴訟のような拡散的利益を訴訟で追求する権利・利益が有機的に結びつかない場合に、当事者適格を考える手がかりを提供する点で、重要性は失われていないといえよう。また、同じく拡散利益とされる消費者利益の保護のために、2006年の消費者契約法の改正により、事業者の不当行為の差止めを求める消費者団体訴訟制度が創設された。この種の訴訟の当事者適格を考える上で参考になる(消費者契約法48条以下)。その後、この制度を手続的に対応して、特定の適格消費者団体に差止請求権を認めることを可能となった。この制度の制定により、特定の法人格、過去の実績・組織、専門性、法律家の関与等を満たした内閣総理大臣により認定された消費者団体について、不特定多数の消費者の利益のために事業者による不当行為の差止めを求める訴訟を提起し追行する法定訴訟担当者たる当事者適格が認められる(同法)。消費者契約全体、判決確定後は、他の適格消費者団体が同一事業者に対して同一請求について訴訟を求めることはできない。適格消費者団体への当事者適格の付与をめぐる問題は、差止請求の趣旨に鑑みしても、個別法で差止請求が認められている場合があるが、消費者団体訴訟のように、立法的に解決しなければ、司法判断には限界がある。拡散利益を蓄積する実現方法として、環境団体訴訟の制度を立法的に検討することも考えられうる。さて、この任意的訴訟担当として再構成された紛争管理権説によれば、X会は法人格がないが、規約上の代表があり、メンバーの出入りによって団体としての同一性が保たれ、会の意思決定方法や財産の管理方法が定められていることから、民事訴訟法29条により当事者能力を認めることができうると考えられる(「→問題27」)(最判昭和39・10・15民集18巻8号1671頁、最判平成14・6・7民集56巻5号899頁参照)。次に、規約上、環境保護に関するA湾地域住民からの包括的授権を得ていると考えられる場合で(あるいは、現実にわたり住民の個別的な授権を得ている場合もあろう)、かつ、上記①②の要件を満たすべく、X会の紛争交渉過程における継続的で重要な役割を果たしたことの実績、X会の提訴によりはじめて住民の権利実現・紛争解決が可能となること、X会が本件訴訟の追行において少なくとも住民と同程度の専門性を有すること、などが認められれば、任意的訴訟担当として当事者適格が肯定される可能性があろう。■参考文献■伊藤眞「民事訴訟の当事者」(弘文堂・1978) 90頁 / 伊藤眞『紛争管理権再考』(有斐閣・2004) 219頁 / 山本和彦・重要判例250 (2022) 74頁(山田・文)