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不当利得

賃借権にある本件ビルの所有者Aは、敷金なし、賃料月額80万円、期間3年とする賃貸借契約をXと締結した。この賃貸借契約においては、敷金なしなため賃料月額を約2割安く設定するかわりに、修理・改築の費用はXが全部負担することとされていた。本件ビルは築40年のため老朽化がひどく、畳と障子は一部雨漏りも見受けられた。しかし、Aは、Yから本件ビルを安く譲り受けて、本件ビルを最新デザインの商業ビルに生まれ変わらせたうえで、本件ビル内で飲食店・衣料品店を経営することにより、多額の収入を得ることを計画した。そこで、Aは、建物修理・内装工事の専門業者Xに本件ビルの修理・改築工事を3000万円で依頼し、承諾、Yは、この工事を完了し、Aに本件ビルを引渡した。ところが、Aは、当初の計画どおりにビルの収入を得ることができず、Xに報酬を支払うことができないままであった。その際、Aは行方不明となり、XのAに対する報酬債権は回収不能となった。Yは、賃料不払を理由にAとの賃貸借契約を解除する意思表示をしたが本件ビルの明渡請求を求める訴訟を提起し勝訴判決を得て、この判決は確定した。現在、本件ビルはYが占有しており、本件ビルの価格はXによる修理・改築工事によって3000万円上昇している。以上の場合において、XはYに対して増額相当額3000万円を請求することができるか。Yからの反論に留意しながら、理由を付して論じなさい。参考判例① 最判昭和45・7・16民集24巻7号909頁② 最判平成7・9・19民集49巻8号2805頁[解 説]1 転用物訴権の意義と経緯契約に基づいて給付が行われたが、この給付が契約の相手方だけでなく第三者の利益にもなった場合に、給付者はその第三者に対して利益の返還を請求する権利を有する。この権利を転用物訴権という。学説は、複雑な問題を指摘しながら、この転用物訴権を広く認めようと考える参考判例を大いに批判した。その後、参考判例②は、学説による批判を受け入れ、有償事例において転用物訴権を否定するに至る(学説の多くはこの参考判例②が参考判例①を実質的に変更したと評価しているが、異論もある)。また、現在の不当利得法の通説である類型論は、転用物訴権に対して否定的な立場に立つ。以下では、転用物訴権の成否について判例・学説を踏まえながら検討していくことにしよう。(1) 転用物訴権を最初に認めた参考判例①とその問題点Y所有の甲(ブルドーザー)を賃借していたAは、Xに甲の修理を依頼した。Xは、修理を完了しAに甲を引き渡したが、Aが倒産したためY所有の甲に関する報酬債権をAから回収することができなくなった。これに対して、YはAから甲を取り戻して転売し利益を得た。そこで、Xは、不当利得を理由にYに対して甲修理に関する報酬相当額を請求した。ただし、A・Yの賃貸借契約においては、Xの賃料を相場より安くする代わりに甲の修理費用はAが負担するという特約があった (この特約が最初に事実認定された参考判例①の忘れてはならない点である)。第1審・原審は、Xの損失はAが倒産したことによる報酬債権不履行に基づくものであって、Xの損失とYの利得との間に因果関係は認められないが、Xの損失とYの利得との間に間接的な因果関係を認め、Xの請求を棄却した。参考判例①は、Yの修理に要した費用および労務に相当する損失がXに生じた一方で、これに相当する利得がYに生じたため、Xの損失とYの利得の間には直接の因果関係があった、③XはAに対して報酬債権を有するがため、Yに対して不当利得返還請求をしないのが契約の原則であるが、Aが無資力のため報酬債権が無価値であることは、その限度においてYの利得はXの犠牲および負担において生じたものであることを考慮すると、甲の修理費用はAが負担するという特約がA・Y間にあったとしても、Xは、Aに対する報酬債権が無価値である限度において、Yの利得を返還請求できるものと解する、と判示して、原判決を破棄し差し戻した。以上からすると、参考判例①は、Yの利益獲得につき有償・無償の区別を前提とせず (すなわち有償性を捨象せず)、Xの損失とYの利得との間には直接の因果関係があることを前提に(前述①)、Xの報酬債権が無価値である限度において、XのYに対する転用物訴権を肯定したとみえる(前述②)。(2) 学説の反応 (参考判例①の問題点)このように転用物訴権を広く認めたとみえる参考判例①を、多くの学説が批判した。たとえば、転用物訴権の否定説は、契約の効力は契約の当事者の間にしか及ばないのが原則であり、その結果の財貨の移転リスクを負担するのはXである、また、その結果契約外のYが利益を得ようと、Yの財貨取得が契約全体からみて正当と認められる場合(以下、「有償事例」という)に無償で認められる場合(以下、「無償事例」という)などに分け、有償事例では、Yは利益獲得のために対価を支払っているから、Xに転用物訴権を認めるとYは二重に負担となってしまうのに対して、無償事例では、無償で取得したYはXの犠牲を優先すべきであるから、この無償事例に限ってXに転用物訴権を認めるべきである、と判示した。その後、参考判例②は、類型的な発想からか、有償事例においてはこの転用物訴権を否定するに至る。(3) 参考判例の内容と参考判例①との関係Y所有のビルを賃借していたAは、Xにビルの修理・改築を依頼した。Xは、修理・改築を完了しAに甲を引き渡したが、甲修理・改築に関する報酬債権をAから回収できず事実上倒産した(その後行方不明)。これに対して、YはAから修理・改築された甲を取り戻した。そこで、Xは、不当利得を理由にYに対して修理・改築に関する報酬相当額を請求した。ただし、A・Yの賃貸借契約においては、Xの賃料支払免除をする代わりに甲の修理・改築費用はAが少額負担するという特約があった。原審は、Y調査審は報酬を支払っていないXに損失がないとして、Xの請求を棄却した。参考判例②は、Aが無資力のためこの報酬債権が無価値である場合において、Yが法律上の原因なくXの財産および労務に相当する利益を受けたとみるのは、A・Y間の賃貸借契約を全体として、Yが利得を無償で受けたときに限られる、と判示する。なぜなら、Xの賃貸借契約において利益に対応する負担をしたときは、Yの利益は法律上の原因に基づくものであり、XがYにこの利益につき不当利得返還請求をするのはYに二重の負担を強いる結果となるからである。したがって、Yの利益はAの賃料支払免除の負担という負担に対応し、Yが法律上の原因なく利益を受けたとはいえない、と判示した。以上からすると、参考判例②は、特定物育成説を(必ずしも完全な形ではないが)受け入れ、Yの利益獲得には、Yの利益獲得に法律上の原因があることおよびYの二重負担を回避すべきことを根拠として、XのYに対する転用物訴権を否定したとみえる。(2) 参考判例②との関係参考判例②が転用物訴権を不当に広く認めたようにみえることから(前述2(1)②)、多くの学説は参考判例②を実質的に判例(参考判例①)を変更したと評価している。しかし、この判例変更の評価には、次の3つの理由から疑問がある。第1に、参考判例①は、Xの損失とYの利得の因果関係を否定した原判決を破棄したにすぎないから、参考判例①の先例的価値は、破棄の直接の対象にある主要な判断部分、すなわち、Xの損失とYの利得との間に直接の因果関係ありとする判断部分 (前述2(1)①) にとどまること。これに対して、参考判例②は、Xの損失とYの利得との間に因果関係なしと判示しているわけではない。第2に、XのYへの利得がXの損失により生じた(つまり、Yの利得がXの犠牲および負担により生じた)のは参考判例①の忘れてはならない点であり、参考判例②は、必ずしも有償事例を無償で取得したものではない。これに対して、参考判例②は、有償事例を前提としている。第3に、最高裁が大法廷を開き先例とは異なる判断を示す場合は大法廷での判断を前提とする(判例変更手続)。したがって、参考判例①は、有償・無償の区別を前提とせず(有償性を捨象せず)、Xの損失とYの利得との間に直接の因果関係ありと判示したにとどまるから、参考判例②は、参考判例①を形式的にも実質的にも変更しないと評価できる。(4) 参考判例での問題点と公平説参考判例②の結論は支持されるべきであるが、無償事例で転用物訴権を肯定するその理論的構成には、検討の余地があろう。すなわち、参考判例②は、無償事例においては、Xの利益獲得に法律上の原因がなくYに二重に負担することもないから、Xの転用物訴権を肯定するものとみえる。しかし、この公平無償説によると、無償事例において、Yが当該財産を売却するなど、客観的価値を主張できる。また、Aに無償のリスクを負担するのはXとAとの間の契約で解決すべき問題であり、Xの無償リスクを肯定することはAとの間の契約でその取得の対価関係がなかったことによるものである。次に、Yの利益獲得には法律上の原因あり、その結果、無償事例においても、民法703条の要件(法律上の原因の欠如要件)は満たされず、転用物訴権は否定されるべきである。すなわち、「法律上の原因の欠如」というための根拠が明らかでない。(2) 公平説に基づく参考判例①ところが、参考判例①は、これら2つの問題点があるにもかかわらず、あえて無償事例においてXの転用物訴権を肯定しようとする。この理由としては、かつて不当利得法における通説でありかつ最近の判例が採用する公平説が考えられる。この公平説は、「結果的に」一般的には正当視せられる財産的価値の移動が実質的に相応的には正当視せられない場合に、公平の理想に従ってその矛盾の調整を試みんとすることが不当利得の本質である、と主張する。また、公平説の中でもとりわけ当事者の利益の考慮を重視する説によって当事者の範囲を決定するという、このような公平説によれば、XとYを比較してXのほうが保護に値するときは、たとえ前述の2つの問題があったとしても、Xに転用物訴権を認めることができよう。以上からすると、参考判例①は、XがAの無資力により修理等に関する報酬債権を回収できなくなったのに対して、YがXの修理等による利益を無償で得たときは、公平説に基づき、Xの報酬債権が無価値である限度において、Xの保護を重視しXの転用物訴権を肯定する、という一般論を述べたといえよう。(3) 公平説の問題点しかし、参考判例②が公平説を採用したとしても、後述の2つの問題点を克服できるわけではない。また、もし公平説に立ったとしても、そもそもXのほうが保護に値するといえるのか。(1)で述べたように、本来ならばAの無償リスクを負担すべきはX自身である。それにもかかわらず、偶然にXのAに対する給付が無償で第三者の利益になったことを理由に、Xのほうが保護されて良いのか。さらに、Yの利益取得という行為に違法性があるわけでもなく、むしろAとの合意という法律上の原因がある。以上からすると、XとYを比較した場合、Yの利益取得が無償であったとしても、Xの転用物訴権の肯定は、Xに対する過度な保護といわざるを得ないであろう。したがって、公平説に立ったとしても、転用物訴権は否定されるべきという結論になる。関連問題Xは、父親から相続した広大な土地甲とその上に建てられた建物乙(甲と乙を合わせて、以下、「本件不動産」という)を所有していたが、本件不動産は郊外にあるため、長い間放置したままであった。ところが、Xは、近時本件不動産に住むようと考え、本件不動産の修理・改装を始めた。イノシシの庭を荒らすため、本件不動産と隣人Yが所有する不動産の間には、Xの父とYの2人で建てた見事な塀があったが、Y所有の塀との間は一部朽ちていることは明らかだった。Xは、維持・保存のためその塀を塗装したが、長年住んでいなかったために、Yとの境界がわからず、Yの塀まで塗装してしまった。Yの塀の塗装費用は、ペンキ・労務を合わせて30万円であった。以上の場合において、XはYに対して塗装費用相当額30万円を請求することができるか。Yが自己所有部分の塀を塗装する予定があった場合とそうでない場合とに区別したうえで、Yからの反論に留意し、理由を付して論じなさい(裁判例の分析)。参考文献松岡久和・百選Ⅰ 150頁 / 加藤雅信・百選Ⅱ(第6版)(2009)148頁 / 田中豊・最高裁判例平成7年度(下)900頁 / 潮見佳男「基本講義債権各論Ⅰ契約法・事務管理・不当利得(第4版)新世社(2022)」332頁・371頁・383頁(油給第一)