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文書真正の推定

XはYに貸し付けた300万円が期限になっても弁済がないとして、Yに対して貸金の返還を求める訴えを提起した。Xが金銭消費貸借契約の成立を立証するために借用書を提出したところ、Yは、当該借用書は、同居する義理の父であるAがYの印鑑を勝手に持ち出してなされたものであると反論した。ところが、借用書にY名下にある印影(実印などに印鑑を押した跡)は、Yの印章(印鑑)によるものであることは明らかであり、この点についてYは争っていない。Yがどのような事実を立証することに成功すれば、裁判所は借用証書が偽造であったと認定することができるか。●参考判例●最判昭和39・5・12民集18巻4号597頁●解説●1 文書の真正とは書証の対象となる文書は、原則として証拠能力は認められる。そのため、立証事実との関連性が認められる限りは、文書を取り調べ、その記載内容がどれほど事実認定に影響を与えるものであるか、裁判官が自由な心証に基づいて判断することになる(自由心証主義、247条)。証拠資料が裁判官の事実についての心証形成に与える影響の程度を一般に証拠力というが、文書の場合、この意味での証拠力を判断する以前に、形式的な意味での証拠力を満たしていることが必要である。本来的な意味における証拠力と実質的証拠力、後者の意味における証拠力を形式的証拠力という。書証手続においては、文書の証拠能力の調査は不要であるが、形式的証拠力の調査が必要であり、この評価が認められてはじめて実質的証拠力の調査に入ることができる。ここで、形式的証拠力とは、文書の記載内容が、作成者の意思(思想、判断、報告、感情等)の発現であると認められることをいう。文書は、文書が真正であること、すなわち、文書が作成者の意思に基づいて作成されたことが立証されれば、形式的証拠力は肯定される(例外は、写字のようにそもそも思想を表現したとはいえない場合)。したがって、書証の申出をした当事者は、文書が作成者の意思に基づいて立証しなければならず(228条1項)、最終的には自由な心証に基づいて文書の真正を判断するが、実際には、その立証は極めて困難であるため、いくつかの推定規定を置いている。2 文書の真正の推定例えば、公文書は、すなわち公務員がその職務の遂行として、権限に基づいて作成された文書については、その方式や趣旨により、公務員が職務上作成したと認められる外形があれば、真正に成立したものと推定される(228条2項)。これは、法律上の推定ではないので反証は可能である。本問の借用証書のような公文書以外の文書を私文書というが、私文書については、本人またはその代理人の署名または押印があるときには、真正に成立したものと推定される(228条4項、同趣旨の規定として電子署名法3条)。3 私文書についての2段の推定民事訴訟法228条4項による推定を受けるためには、本人またはその代理人の署名または押印があることの立証が必要である。これは、本人または代理人が自らの意思に基づいて署名、押印をした場合を意味するとされている。署名の場合には、筆跡が作成名義人のそれと一致すれば、自らの意思に基づいて署名したものと推定することはできよう。これに対して、押印の場合には、作成名義人以外の者であっても、作成名義人の印章を用いて、文書に印影を顕出させることができるので、作成名義人の印章と印影が一致したことから、ただちに、作成名義人が自らの意思に基づいて押印したと推定してよいか問題となる。この点、参考判例①は、文書の印影が、作成名義人の印章によるものと一致する場合には、反証がない限り、作成名義人の意思に基づいて印影が成立したものと推定されるものと判示した。これと民事訴訟法228条4項を合わせると、作成名義人の印章と印影の一致から、名義人の意思に基づく押印の事実が推定され、そこから、本人の意思に基づいて文書が作成されたこと、すなわち文書の真正が推定される。この推定は2段階にわたって行われるため、2段の推定といわれている。この推定を覆すか立証者に委ねられており、今後押印のない文書が増加すれば、推定を用いない立証が必要となる場面が増えることが予測される。4 2段の推定の覆し方このような推定により、私文書の真正の立証は極めて容易になるが、真正を争う当事者はこの推定を覆すことはできるのであろうか。まず、1段目の推定は、印章は慎重に扱われ、理由もなく他人に使用されることはないはずなので、作成名義人の印章で押印されていれば、自らの意思に基づいて押印したはずであるという経験則に基づく事実上の推定とされている(最判昭和45・9・8集民100号415頁、最判昭和47・12・12金法668号32頁)。したがって、参考判例①が覆されるように、反証により、この推定を覆すことは可能である。例えば、印章を人に預けたり共有したりして、Aが自由にYの印章を使えることができたため、印章が盗用ないしは冒用されたことを立証することにより、推定は覆され、文書の真正を否定することができる。これに対して2段目の推定、すなわち民事訴訟法228条4項の規定に基づく推定については、法定証拠と解すると法律上の事実推定と解する説に分かれている。前者によれば、推定を覆すには反証で足りるが、後者の場合には本証が必要となるとする点で違いがあるようであり、例えば、白紙に押印をしたとか、押印された後に文書が改ざんされたなど、文書の記載内容が作成名義人の知らない事項であったことの反証に成功する。すなわち、文書の成立の真正について当事者に争点があることを立証するとともに成功すれば、推定を覆して文書の真正を否定することができる。