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民法177条の第三者の範囲

多数の資産を所有するAは、Yに、甲・乙2軒の家を貸していたが、家族構成の変化でYは甲が不要になっていることを知り、そのうち乙を自分の愛人Y₁に手切金代わりに譲与して住まわせることを思いたった。そこで、AはY₁と交渉し、乙から立ち退いてくれるなら、甲をY₁に譲与し敷地は使用貸借とすることを提案した。Y₁はこの提案を承諾して乙から立ち退き、乙にはY₁が入居した(敷地は同様に使用貸借)。しかし、Y₁らは移転登記の費用を用意できなかったので、登記名義はAのままとなっていた。その後数年の間、甲・乙両建物の固定資産税を課税され続けたAは、Yらにその償還と移転登記への協力を繰り返し求めたが、Yらは応じなかった。「移転登記をするまでは贈与は不完全で所有権はまだAにある」という誤った教示を信じたY₁がAに相談したところ、X₁はAに同情して、優良な賃借人Y₂が長年住んでいる甲なら買ってもよいといった。そこで、Aは、甲と乙の敷地をX₁に売り、他方、乙を妻X₂に贈与し、それぞれ移転登記をした。X₁がY₁に賃料を請求したところ、Y₁は甲は自分の物だと主張して支払を拒んだ。他方、X₂は、財産管理に興味がなく、そもそも乙の所在地にすら正確に知らず、乙の所有権移転登記手続もいわれるままに夫Aに任せていたが、Y₂が夫の元愛人と知って怒りを爆発させた。X₁らがY₂らに対してそれぞれ甲・乙からの退去を請求した場合、認められるか。●解説●1. 第三者無制限説 vs. 第三者制限説民法177条の立法趣旨は、当事者およびその包括承継人以外のすべての第三者に対し登記がなければ物権変動を対抗できないとする第三者無制限説を採用し、登記を画一的な紛争解決基準にしようとした。これによれば、本問では、XらがYらに勝つとの結論に至る。しかし、たとえば本問でA・X₂間の贈与契約が、X₂を第三者と装うための通謀虚偽表示(94条)であれば、どうだろうか。X₂は無権利者であるから、そもそもY₂への物権変動との競合が生ぜず、民法177条の出番はない。大判明治41・12・15(民録14輯1276頁)は、本条の第三者を「登記欠缺を主張する正当の利益を有する者」に限るとする第三者制限説を採用し、無権利者や不法行為者は第三者に当たらないとした。第三者制限説は、登記による物権関係の画一的な処理によって個別的取引の実体に適合しない不利益を回避するために、不法行為者も登記なくして損害賠償金を支払うべきかという点で所轄の機関に利害関係を有するから民法177条の第三者に含めるべきであると主張した。2. 第三者の主観的要件と主観的態様判例の「登記欠缺を主張する正当の利益を有する者」という基準は柔軟だが曖昧である。そこで、学説では、たとえば「当該不動産につき有効な取引関係に立つ者」などこれに代わる基準が提案されたが、見解は一致していない。また、具体的に、不法占有者や不法行為者が第三者に当たらない点では意見の一致がみられるが、賃貸不動産の譲受人が賃借人に対する場合の賃貸人が第三者に当たるかについては、見解が分かれている(→Ⅱ登記)。さらに、登記を要する物権変動の範囲という問題(→本章Ⅳ-Ⅻ)と第三者の範囲の問題を総合し、両立し得ない物権変動相互の優劣が争われている場合にのみ民法177条を適用するべきだとする対抗問題説では、そのような物権変動を主張する者が第三者となるから、第三者にとって登記を要する物権変動は必要ないことになる。しかし、対抗問題説は論理的に明快である反面、その演繹的な手法には強い批判がある。いずれにせよ、本問のX₁・X₂がAとの有効な売買契約または贈与契約によって所有権を取得できる地位にあるとすれば、Xらは第三者に該当する。しかし、学説の多くは、第三者が物権変動の効果を争える地位にあるかという第三者の客観的要件の側面と、そのような要件を備えている者は物権変動の存在を事前に知っていてもよいかという第三者の主観的態様の問題を区別している。本問でも主観的態様がさらに問題になる。3. 背信的悪意者排除の論理民法177条は、第三者に善意を要求した旧民法(財産編350条)を承継せず、意識的に第三者の善意を不問とした。善意悪意の区別が困難なこと、悪意排除を認めると登記の効力がなぜかゆらぎ取引が著しく阻害されることが理由であった。そのため、長い間、善意悪意不問説(悪意者包含説ともいう)が、判例・通説であった。しかし、学説では、立法直後から、登記は物権変動を知らない者を不測の損害から保護する制度であるから悪意者は保護に値しない説と悪意者排除が存在しており、大判明治41・12・15と結び付いて、悪意者は登記欠缺を主張する正当の利益を欠くとすると、見解が次第に有力化した。これに対して、本書の解説では、自己の利益を図るため、他人を害してもかまわないと考える自由競争下の取引社会で、悪意者排除を認めると、他人を出し抜いて所有権を取得したことをもって、それが未登記であれば、第三者においていっそう有利な条件を提供してゆるがせにできるというのである。昭和30年代民法学から、不動産取引における信義則違反を問題とし、背信的悪意者の概念を導入した。4. 背信的悪意者の認定基準典型的な背信的悪意者の認定基準としては、①第三者の側から働きかけた場合、②詐欺・強迫を手段とした場合、③社会的非難をうけるような場合などが挙げられる。5. 背信的悪意者排除の批判と判例のゆらぎ登記制度を不動産取引の観点から位置づける公信力説はもとより、近時の学説には、公信力説とは距離を置きつつも第三者を善意者(または無重過失者)に限定する見解が増えており、いずれも背信的悪意者の基準の限界が明確でないと批判している。また、自由競争下の契約当事者間の信義則の理論的基礎にも、契約侵害に対する第1買主の契約上の債権の保護の観点から強い批判が向けられている。6. 背信的悪意者排除の主観的態様の位置づけ対抗要件としての登記に関する立証責任については、二重譲渡の構成に対応してさまざまな見解が主張されている。7. Yの賃借権の問題甲についてのY₁の賃借権は、甲の所有権取得によりったん混同によって消滅するが(520条)、その所有権取得がX₁に対抗できない場合には、X₁に対抗関係では、消滅しなかったものと扱われる。X₁は賃貸借契約の解除を主張して争うことになる(この点も含めて参考判例①を参照)。●関連問題●(1) 本問において、X₁が背信的悪意者ではないと評価されるとして、X₁がY₁に対する訴訟を起こすことなく、この船の経緯を良く知っているZに甲とその敷地を転売して、Zがそれらの所有権移転登記を備えたとする。この場合、ZはY₁に甲からの退去を請求することができるか。(2) 本問において、X₂が背信的悪意者であると評価されるとして、X₂がY₂に対する訴訟を起こすことなく、この紛争の事情をまったく知らないZ₁に乙を転売して、Z₁が乙の所有権移転登記を備えたとする。この場合、Z₁はY₂に乙からの退去を請求することができるか。(3) 上記(1)と(2)の問題処は、共通する理論構成で解決できるか。参考判例③や⑦・復帰優秀文献を読んで、判例の理論構成とそれの問題点をしなさい。●参考文献●松岡久和・法教324号(2007)71頁・325号136頁七戸克彦・民法雑誌117巻1号(1997)104頁(参考判例①判批)