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消費者契約における不当条項

Xは、2024年8月21日、Yとの間で首都圏市内にあるマンションの一室(本件建物)を契約期間2年間、賃料1か月9万8000円で賃借する旨の賃貸借契約(本件契約)を締結し、本件建物の引渡しを受けた。本件契約には、本件契約締結と同時に、XがYに対して保証金40万円を支払う旨の定めがあり、Xは保証金40万円をYに支払った。また、本件契約には、保証金をもって、家賃の支払、損害賠償その他本件契約から生じるXの債務を担保する旨の定め、および、Xが本件建物を明け渡した場合には、Yは契約解除から再度入居までの経過年数に応じた額の割合(経過年数1年未満は18万円、2年未満は21万円、3年未満は24万円、4年未満は27万円、5年未満は30万円、5年以上は34万円)を控除したうえでXに返還するが、Xに未払家賃、損害金等の債務がある場合には、上記控除額から同債務相当額を控除した残額を返還するという特約(本件特約)があった。本件契約には、さらに、賃借人が集合住宅として通常の使用をした場合に生ずる損耗や経年により自然に生ずる損耗(通常損耗)については貸主側に負担し、Yは、本件契約に原状回復義務を負わないとする旨、および、Xは本件契約に2026年4月30日に終了し、XはYに対して本件建物を明け渡したが、Yは本件特約に基づいて、保証金から敷引金21万円を控除したうえで19万円をXに返還した。そこで、Xは本件特約が消費者契約法10条により無効であるとして、Yに対して保証金の残額21万円の返還を求めた。この請求は認められるか。[参考判例]① 最判平23・3・24民集65巻2号903頁② 最判平23・7・12判2128号43頁③ 最判平23・7・15民集65巻5号2269頁④ 最判平17・12・16判1921号61号[解説]1 不当条項の無効消費者契約法は、消費者と事業者の間の情報、交渉力の格差に着目し、消費者に一方的に不利益な契約の条項の有効性を認めず消費者を守るために、以下のような不当条項の全部または一部を無効とする規定を置いている。2 不当条項リスト(1) 事業者・責任制限条項① 事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除する条項および当該事業者にその責任の有無を決定する権限を付与する条項は無効とされる(消費者契約8条1項1号)。また、事業者の債務不履行により消費者に生じた責任について、事業者の故意・重過失による損害賠償責任の一部を免除する条項および当該事業者にその責任の限度を決定する権限を付与する条項は無効とされる(同項2号)。有償契約において契約の目的物に隠れた瑕疵がある品質に関して契約に適合しないことにより消費者に生じた責任について、損害を賠償する事業者の責任を免除する条項および当該事業者にその責任の有無や限度を決定する権限を付与する条項は、消費者契約法8条2項1号・2号の定める例外を除き、無効とされる(同条1項1号・2号)。② 事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為により消費者に生じた損害賠償責任の全部を免除する条項および当該事業者にその責任の有無を決定する権限を付与する条項は無効とされる(消費者契約法8条1項3号)。また、事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為により消費者に生じた責任について、事業者の故意・重過失による損害賠償責任の一部を免除する条項および当該事業者にその責任の限度を決定する権限を付与する条項は無効とされる(同項4号)。③ 損害賠償責任の一部を免除する条項は、事業者の軽過失による行為にのみ適用されることを明らかにしていないときには無効とされる(消費者契約8条3項)。⑤の施行日は令和5年6月1日である。(2) 解除権を放棄させる条項事業者の債務不履行により生じた消費者の解除権を放棄させ、または当該事業者にその解除権の有無を決定する権限を付与する条項は無効とされる(消費者契約8条の2)。(3) 消費者の後見的利益等の保護を目的として無効とされる消費者契約の条項事業者が後見的利益を有し、現在は開始または補助開始の審判を受けたことのみを理由とする消費者の契約を解除できる条項は無効とされ(消費者契約の目的となるものを提供することとされているものを除く)(同法8条の3)。(4) 損害賠償額の予定・違約金条項損害賠償額の予定・違約金条項としては、第1の類型に伴う損害賠償額の予定・違約金条項がある。すなわち、消費者契約の解除に伴う損害賠償額を予定し、または違約金を定める条項がある場合に、これらを合算した額が、当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるものは、その超える部分の規定は無効とされる(消費者契約9条1号)。たとえば、大学の入学辞退の場合の授業料の不返還特約につき、判例(最判平成18・11・27民集60巻9号3427頁など)は、消費者契約法9条1号の類推として解説を試みる。損害賠償責任の履行に係る損害の賠償額の予定の条項そのものとして、金銭債務の不履行に伴う損害賠償額の予定の条項がある。すなわち、消費者が金銭債務の全部または一部を支払期日までに支払わない場合に、損害賠償額の予定または違約金を定めた条項は、当該支払期日の支払の遅延の支払期日に年14.6パーセントを乗じた額を超える部分は無効である。じた額を超えるときは、その超過部分が無効とされる(消費者契約9条2号)。3 「不当条項」の一般条項消費者契約法10条は、上記のような個別的リストに該当しない場合であっても、「消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなすその他他の法律中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって」「(第1要件)民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」(第2要件)は、無効とする旨を定めている。例外として、次のような特約の有効性が問題とされている(このほか、同法10条に関する最高裁判決としては、生命保険の支払免責条項を有効とした判決(最判平成24・3・16民集66巻5号2216頁)などがある)。(1) 敷引特約敷引特約(敷金の一部から一定の金額を控除して残額を返還する旨の特約)の有効性につき、参考判例①があり、本問はこれをモデルとしている。この判決は、①居住用建物の賃貸借契約に付された敷引特約は、契約当事者間にその趣旨について別異に解すべき合意等がない限り、通常損耗等の補修費用を賃借人に負担させる趣旨を含むものというべきであり、本件特約についても、このような趣旨を含むことが明らかである。②敷引金の額が、通常損耗等の補修費用の額として、社会通念上相当と認められる程度のものを超える場合には、賃借人の義務を加重するもので消費者契約法10条1項に該当し無効と解するのが相当である。③賃貸借契約に敷引特約が付され、賃借人が取得することになる敷引金の額が契約書に明示されている場合には、賃借人は、賃料の額に加えて、敷引金の額についても明確に認識したうえで契約を締結するので、通常損耗等の補修費用は、賃料にこれを含ませてその回収が図られているのが通常だとしても、それに充てるべき金銭を敷引金として授受する合意が成立している場合には、その反面において、上記補修費用が含まれないものとして賃料の額が合意されているとみるのが相当であって、敷引特約によって賃借人が上記補修費用を二重に負担するということはできない。これに続けて、④もっとも、消費者契約である賃貸借契約においては、賃借人は、自らが賃貸物件に生ずる通常損耗等の補修費用の額について十分な情報を有していないうえ、賃貸人との交渉によってその額の変更を協議することも困難であることが多いことから、敷引金の額が賃料の額から見て高額にすぎると、賃借人が一方的に不利益な負担を余儀なくされるものとみるべき場合が多いといえる。そうすると、消費者契約である居住用建物の賃貸借契約に付された敷引特約は、当該建物に生ずる通常損耗等の補修費用として通常想定される額、賃料、礼金等の額と比べ、敷引金の額が高額にすぎると評価すべきものである場合には、当該賃貸借契約の更新料の額に比して大幅に低廉であるなどの特段の事情がない限り、敷引金の額から通常損耗等の補修費用の額として通常想定される額を控除して消費者契約の利益を一方的に害するものと認められる場合に当たり無効になると解した。このような判断のもとで、⑤本件では、本件敷引特約が締結されてから契約の終結までの経過年数に応じて敷引金の額が変動するが、2年ないし3.5年程度の経過後に契約が終了した場合に、敷引金の額が賃料の2倍ないし3.5倍強にとどまっていることなどから、本件敷引特約は消費者契約法10条により無効であると評価することはできず、本件特約を消費者契約法10条により無効であるということはできないとして、第2要件適合性を否定した。参考判例では、他に、参考判例②も、参考判例①そのまま踏襲して敷引特約を有効としている。参考判例では、他に、通常損耗等の補修費用を賃借人に負担させるものとして敷引金の合意を有効としながらも、合意された額が賃料の額の割合で算定されており、敷引特約によって補修費用を二重に負担しないことが特段の有効性の根拠の1つとされているが、参考判例③では、敷引金が通常損耗等の補修費用である旨の明確な合意がなく、敷引金と別に通常損耗等の補修費用を徴収している。そこで、参考判例②③は、当該敷引金の額に対して賃料がその算定の基礎になっているか否か、参考判例②において敷引金の趣旨を正当化するに参考判例①と異なる理論構成が必要である。いずれにせよ、参考判例②③が参考判例①をそのまま踏襲していることは疑問であるが、敷引特約は、本来賃料に含まれるはずの通常損耗の補修費用を賃料と別に徴収する趣旨であることを踏まえると、賃料・交渉力の格差に乗じて賃借人に明確な判断を許さない。その下で敷引金の相当性については、より慎重な判断が必要であろう。なお、通常損耗の発生は賃貸借契約の性質上当然に予測され、その投下資本の原状回復は賃料によって行われるべきだから、賃借人に通常損耗についての原状回復義務を負わせるのは、建物の賃借人に予期しない特別の負担を課することになる。そこで、通常損耗について賃借人が原状回復義務を負うためには、賃借人が補修費用を負担することになる旨の特約、賃貸借契約書自体に具体的に明記されているか、賃貸人が口頭により説明し、賃借人がその旨を認識して、それを合意の内容としたものと認められるなど、その旨の特約が明確に合意されていることが必要であり(最判平17・12・16判時1921号61号参照)、民法(債権関係)改正によって、通常の使用および収益によって生じた賃借物の損耗(通常損耗)と賃借物の経年変化が、賃借人の原状回復の対象外であることが明記された(621条)。参考判例①の要件は、消費者契約法施行後のであったが、同法施行後、敷引特約の効力は消費者契約法10条によって争われるようになり、参考判例①が登場した。(2) 更新料特約更新料条項についても、参考判例③が、消費者契約法10条に反せず有効であると判断した。この判例は、更新料が「一般に、賃料の補充ないし前払、賃貸借契約を継続するための対価等の複合的性格を有するもの」であり、「更新料の支払にはおよそ経済的合理性がないということはできない」とし、たとえ賃貸借契約書に一義的な記載がなされれば、更新料の額が賃料の額、契約が更新される期間等に照らし高額にすぎるなどの特段の特段の事情がない限り、消費者契約法10条後段に当たらないとし、これを本件についてみると、本件更新料条項に最初に一義的に記載されているところ、その内容は、更新料を賃料の1か月分とし、それが賃貸借契約が更新される期間を1年間とするものであって、上記の特段の事情が存するとはいえず、これをもって同法により無効とすることはできないとした。関連問題Y(携帯電話の移動通信サービスを提供している電気通信事業者)は、消費者Xとの間で、「XはYから移動端末の提供を受ける、毎月その利用料金を支払う」旨の携帯電話利用契約を締結した。Yは、携帯電話利用契約において、通常料金プラン2月の後、各料金が安く設定されている割引料金プラン2のいずれかを選択できるサービスを提供しており、Yは、いつでもいつでも解約でき、解約料は発生しないが、大部分の消費者が選択している割引料金プランの場合には、契約期間が2年間であり、この期間内(当初の契約日から2年後の月の翌月)中に解約すると、9975円の解約料が発生する契約条項となっている。そして、更新後の契約期間も2年間であり、中途解約については同様の内容となっている。このような状況で、Xは、中途解約にかかる本契約の定めが平均的な損害の額(消費者契約9条1号)を超えて無効であると主張した。この場合の平均的な損害の額はどのようにして算定されるべきか。参考文献丸山絵美子・平成23年度重判64頁 / 千葉恵美子・判例時報640号(判時2145号)(2012)154頁 / 大島・前掲・超過128頁 / 後藤巻則・判例時報644号(判時2157号)(2012)148頁 / 沖野眞已・消費者法判例百選(第2版)(2020)58頁(後藤巻則)