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組合の法律関係

大学の同期である医者A・B・Cは、コストの削減を図るために、A・B・Cが同様に使う固定資産や消耗品を共同で購入することを目的にとしてABC医院を設立した。その際、出資された財産はABC医院代表を名乗るAの預金口座で管理することが約束され、また、物品の購入―Aをその権限とすることも取り決められた。ただし、このAの物品購入権限は、金額にして20万円に限られ、これを超える物品の購入についてはB・Cの事前の同意を要すると取り決められていた。Xは、ABC医院と日頃取引のある業者である。A・B・C間での権限の取決めについては周知することはなかったものの、普段はAが単独で医院を代理して取引しており、また、パソコンなどの高額物品の購入の際にはAのみならずB・Cを同席して取引していたので、A・B・C間に何らかの取決めがあることを、Xは何となく察していた。このような状況のもと、Aが単独でXのもとを訪れ、ABC医院による100万円の医療機器の購入を申し入れた。Xは高額物品の購入に関してB・Cの同席がないことを不審に思ったものの、Aからは医院の預金残高の預金通帳を見せられ、Aが対外的な取引の一切を取り仕切っていると信用し、X-A間でAが医院を代理して100万円の医療機器の売買契約が締結された(代金支払が先履行とされている)。その際には、XからB・Cへ、代理権の有無についての問合せは行われなかった。Xは、Bに対して、民法675条2項に基づき医院開設の出資金の割合に応じて30万円の支払を求めることができるか。[参考判例]① 最判昭38・5・31民集17巻4号600頁② 最判昭和35・12・9民集14巻13号2994頁[解説]1 組合契約当事者とする場合の組合員に対する責任追及の前提:組合代理Xとしては、A・B・C間の契約が組合契約であるとして、当該組合を契約当事者としてAが代理によって契約したことの責任を、民法675条2項に基づいて請求していくことが考えられる(ここで、同項本文によれば、組合が契約当事者として負った責任につき組合員は原則として平等の割合で責任を負うが、損失分担割合を選択することもでき、また、同項ただし書によると、損失分担割合を知っていたことを相手方から立証された場合、この損失分担割合に基づいて組合員は責任を負う。この損失分担割合は民法674条1項により出資割合で定まるのが原則である)。そして、組合が契約当事者として責任を負うための要件事実は、①A・B・C間の組合契約の締結、②Aの代理権の発生原因事実、③Aの代理行為(A・X間の売買)、④Aによる署名、となる(ただし、後述のように組合契約に基づいて代理権が発生する場面もあり、この場合には①③④に吸収される。なお、本問では問題としていないが、民法675条1項により組合に対して責任追及することも可能である)。このような法的構成において、大きな問題となるのはAの代理権の有無である。そこで、その他の付随的問題について、まず1で論じ、その後、代理権の有無にかかわる問題について2と3で論じることにする。(1) A・B・C間に組合契約は成立しているか上記①の要件事実に照応する、この要件事実の充足性は、「出資」と「共同の事業」の合意が必要であると定める民法667条の解釈から導かれることになる。ここで、「出資」とは、財産的価値のあるものであれば何でもよく、民法667条2項で定められた労務の出資可能性は確認規定にすぎないと考えられている。本問では金銭での出資が、ここでいう「出資」に該当することは問題ない(669条参照)。また、「共同の事業」についても特段の制限はない。これに該当しない例は、判例によれば、たとえば、共有物の単なる共同使用ではこれに該当しないとする(最判昭和26・12・18民集5巻12号2590頁)。特別の理由づけがあるわけではないものの、組合の財産は民法668条により共有とされている一方で、これは民法676条など特別の財産拘束を受けることとされているから、学理上は、自由な処分を原則とする共有とは区別するために、何らかの共通目的があって、このような特別の財産拘束が課されるのである。また、学説上には、単なる共通利用は共同事業からは除かれる。また、学説上には、組合員の債権実行の困難を回避すること(民法673条の定める検査権を失わせること)、または、利益分配のすべてから特定の組合員を排除すること(いわゆる獅子奮迅組合)は組合契約の性質を失わせると考えられている。本問は、いずれの事情もないとしても、むしろ、費用節約のための共同購入を目的としている点で、「共同の事業」にむしろ該当する積極的事情がある。したがって、A・B・C間に何らかの組合契約がある。(2) 組合の名を称しうるか組合には、法人とは異なって権利能力を認めないとの見解が一般的であるため、組合契約の当事者も法人のような存在とはならない。そこで、組合の代理の場合には、組合員全員の名前を記すことで連名になる、組合の名を称するもの、組合名義での書面をもってこれに代えることができるかどうか、が上記①との関係で解釈上問題となりうる。そして、このような場合名義での署名を認めるにつき、否定説は無用である。したがって、Aが医院の名義を語ったとしても、有効な代理と考えることができる。2 業務執行者の代理権次に、上記①の代理権発生原因について検討する。本問でまず考えられるのは、業務執行者としての代理権である。(1) 業務執行者とはこれを根拠づけるためには、代理行為をした者Aが業務執行者であるといわねばならない。条文上、民法670条3項では、組合業務の執行の委任を受けた者を業務執行者と呼ぶと定めている。ただし、業務執行者の意義上、このような委任を受けたことが必要なのかは必ずしも明確でない。仮に、業務執行者の定義を、包括的な業務執行の委任を受けた者としよう。この定義を採用する場合の問題は、業務執行に一定の制約が付されている場合である。つまり、本問のように、対外業務執行権の一部の内部的制約に加えて、包括的な業務執行の委任とはいえないのではないか、という疑問が生じる可能性がある。しかし、判例は、対外的な業務執行権の一部に制約を加えられている者であっても、業務執行者であることを前提に議論を進めているのである(参考判例①参照)。このような業務執行者の定義の難点は、商法上の支配人の業務執行権と同様の問題である。つまり、支配人には、①営業所の営業に関する包括的業務執行権が授与されたという定義と、②当該営業所の主任とするという定義とがある。もっとも、対外的業務執行権の一部制限がある者は支配人になくなってしまい、したがって、支配人と取引をした相手方の保護を定めた商法の規定が適用されなくなる、という①の説からは批判されている。この説が説得力があると考え、この定義に照らすと、業務執行者を定義する場合には、組合の事業主たる地位の有無から、業務執行者を定義することになろう(事業権限委譲の任意性に関する業務執行者の認定について、直ちに問題とならない)。もっとも、いずれの定義を採用するにせよ、包括的な業務執行委任を前提とするならば、委任の範囲の程度の問題は、主催者による事情を総合的に評価し、事業主たる地位の有無を判断する、程度の問題となろう。本問では、Aの権限の包括性の程度、Aの対外的な組合目的との関連性を主たる根拠として、Xが業務執行権を裏づけることになる。(2) このようにして定義される業務執行者の代理権に関する内外の業務執行権の権限のうち、代理権の行使および範囲については、2017年民法改正により民法670条の2第2項が設けられた。そして、本問のように業務執行者が1人である場合について、業務執行者が代理権を有することに争いはない。問題は、本問のように業務執行者の代理権に内部的な制限が加えられている場合の処理である。これについて、学説と判例で考え方が分かれている。まず、学説には多様な立場があるものの、主要な学説としては、民法110条を前提とするものと、一般法人法77条5項(2008年改正民法54条)を用いるものに分かれている。民法110条説であったとすると、Xの側がBらの「正当の事由」つまり、越権代理についてないことについて自らの善意かつ無過失を主張立証しなければならない。これに対して、一般法人法77条5項説だと、Bの側が、Xの悪意または重過失を主張・立証しなければならない。その2つの説を比較すると、主観的要件の程度(無過失か、重過失か)、および、主張・立証責任(Xの側か、Bの側か)の2つの点で、一般法人法77条5項説のほうが民法110条説より有利となっている。これに対し、参考判例①は、上記いずれの学説とも異なった立場を採用している。つまり、一方、②の説の保護要件として、善意かつ無過失を要求するという意味で、一般法人法77条5項説よりは民法110条説に近い。他方、判例はこの主張・立証責任をBではなくXの側に課している。この意味では、民法110条説から程遠いのである。この判例を理論的に説明することは難しいものの、主観的要件や主張・立証責任については、会社法における内部的手続違反の判例(最判昭40・9・22民集19巻6号1656頁)との類似性を指摘できるかもしれない。つまり、会社の代表取締役が、取締役会の決議を経ることを要するとする対外的な個々の取引行為を、上記決議を経ないでした場合でも、上記取引行為は、相手方において上記決議を経ていないことを知りまたは知ることができたときでない限り有効である、とされている。ここでは、一般法人法77条5項と同様の要件効果を定める会社法349条5項は処理されていないような、法令上の内部的手続違反が問題となっている。そして、これらの規定のような特別の保護がない限り、内部的手続違反については、相手方の主観的要件は無過失、主張・立証責任は団体の側と考えたうえで、団体と取引した第三者の保護が図られているのであるが、判例の現状だといえよう。本問では、日常の取引慣行に照らしてXの側がやや不審に思っていることや、B・Cへの問合せの不存在が重過失・重過失の評価根拠事実となり、逆に、Aから示された預金通帳がその評価障害事実となろう。3 組合員としての代理権本問では、Aが業務執行者であると考えたほうが考えやすいものの、Xの側としては、あえてAが業務執行者であると主張せずに攻めていく方法も考えられる。つまり、Aが組合員であることを理由に、組合員としての代理権を利用する方法である。(1) 組合員の代理権はどのような基準から決まるのか最も厳格な裁判例は、業務執行規定に従う場合に限り代理権を認めてきた。つまり、2017年改正民法670条の規定によらないと組合代理権ではないとしている(最判昭40・6・15民集13巻6号648頁)。ただし、多数決によることなく組合員の多数決による代理を認めた参考判例②も参照)。民法670条の2は、このような最も厳格な解釈を避けている。したがって、A、B、Cの同意がなくても、常務の範囲であれば代理権を有することとなる。(2) 常務とは何かそこで、常務とは何かが、問題となる。この問題につき、2つの定義がある。まず、組合の事務の軽重性から常務を定義している。これに対し、少数説としても、組合員の日常的な範囲内から決める見解もあり、軽微なものといえなくても組合の事業の執行に軽微なものとみえていく(たとえば、物品販売の取引に照らしてみても)、通常の在庫の範囲とそれほどはかい離がないとすると、通常の定義だと常務とはいいがたい支出であっても、少数説の定義だと常務と、売買対象物が組合目的の履行から、常務に当たると評価される可能性がある。(3) 常務に関する代理権を基本代理権として民法110条の適用は可能か上記通説の立場に立ったとしても、常務にする代理権を基本代理権として、民法110条を適用する余地もある。ただ、民法110条の適用に関しては、相互に関連する2つの問題に注意する必要がある。第1に、基本代理権の発生根拠は、任意代理に近いものだと考えるのか、それとも、法定代理に近いものだと考えるのか、という問題である。民法670条の2という法令により、代理権の範囲が定められていることとの関係である。ここで、第1の問題について法定代理に近いものだと考えた場合に、その決議について安易に民法110条を適用して相手方保護の範囲の拡張を図ることは、法令により代理権の範囲が限定されている趣旨を損なう解釈論である(民法761条から生じる基本代理権を民法110条による拡張につき慎重な態度を示した最判昭和44・12・18民集23巻12号2477頁参照)。したがって、民法110条による代理権の範囲の拡張は、民法670条の2第3項による常務についての代理権の発生根拠につき、組合契約当事者の意思解釈にどう認められるものだと解する場合に限って(つまりは、任意代理権に近いものだと考える場合に限って)、適合的な解釈となろう。関連問題本問について、次の場合について検討せよ。(1) 「ABC医院」にとってXから日常的に仕入れている医薬品を、AではなくCが「ABC医院」を代理する形で、Xとの間で代金1万円と定めて購入する契約を締結した場合、XはBに対してその一部の支払を求めることができるか。(2) 組合員ABCの出資額がそれぞれ2000万、900万、900万であった場合に、Aは単独で有効に「ABC医院」を代理することができるか。参考文献中田568-572頁・577頁 / 菅野・山下『民法Ⅲ講義ノート[契約法・事務管理・不当利得](第3版)』(有斐閣・2006)752-772頁。特に766頁注3) / 森木「組合契約に関する判例法理の展開(三・完)」立命館法学362号(2007)93頁(内海幸人)