類似必要的共同訴訟
A県は,宗教法人B神社の挙行した例大祭に9回にわたり車騎する玉串料を公金から支出したので,A県の住民X₁~X₃が「政教分離を規定した憲法20条3項などに違反する」として,上記支出相当額の損害賠償の請求をすることをA県知事に対して求める住民訴訟を提起した。その後,A県住民X₄~X₆も,同様の主張をして玉串料の支出相当額の損害賠償を求める住民訴訟を提起した。この訴訟はX₁らの訴訟と別の手続として進行させておいた。X₁らの訴訟とX₄らの訴訟が併合されず,訴訟手続が1つとなった場合,その後X₁が死亡したとすると,訴訟手続はどのような影響を受けるか。第1審はX₁らの請求を認容したが,控訴審はそれを取り消し,請求を棄却した。X₂らは上告したが,X₃のみ上告しなかった。またその後のX₂は上告を取り下げた。X₃抜きの上告,X₂の上告の取り下げは適法か。適法としては上告の利益の帰属などはそれぞれ,なお,なお上告人,X₂とX₃はそれぞれ,なお上告人の地位にとどまるか。[⚫] 参考判例 [⚫]① 最判昭和 58・4・1 民集 37 巻 3 号 201 頁② 最判平成 9・4・2 民集 51 巻 4 号 1673 頁③ 最判平成 12・7・7 民集 54 巻 6 号 1767 頁[⚫] 解説 [⚫]1 類似必要的共同訴訟共同訴訟 (訴えの主観的併合) には各共同訴訟人 (共同原告,共同被告) につき判決がまちまちになってかまわない「通常共同訴訟」と,判決が合一に確定されることが要請される「必要的共同訴訟」に分けられる。後者のうち,共同で訴えまたは訴えられる必要はないが,そうなった場合は当事者間で合一的に解決されなければならない類型が,「類似必要的共同訴訟」である [必要的共同訴訟のうち,「固有的必要的共同訴訟」とその複合につき→問題63-64]。合一確定とは,同一人に対する判決効の効力の矛盾を避けなければならない法律的要請のある場合を指す。例えば,それは共同訴訟人の1人のみ受けた判決の効力が他の共同訴訟人にも及ぶ場合を指すとする。例えば数人の株主が提起する株主総会決議無効確認または取消しの訴え (会社 830 条・831 条),数人の株主による責任追及訴訟 (同法 847 条) 等がこれに属する。また反対効が生じる場合とされる数人の債権者の債権者代位に基づく訴訟 (民 423 条),数人の債権者の詐害行為取消訴訟 (民執 157 条 1 項),設備の訴訟 (地方自治法 242 条の 2 第 1 項 9 号) も類似必要的共同訴訟とされる。このような場合,ある住民との関係では違法な支出であると損害賠償の必要があるが,他の者との関係ではそうでないといったように,各共同訴訟人について勝敗をバラバラに決めてよいとする。各共同訴訟人自身が自己のつけた判決の効力と他の共同訴訟人に対する判決効から拡張される効力が矛盾衝突して収拾がつかなくなるからである。したがって,請求同一の理論による主張はもちろんのこと,そもそも異なる請求ができないとか (請求の数→複数の被害者への慰謝料請求),対立した利益の調整が必要というべき場合 (数人に対して特定物の引渡請求) があるわけでなく,類似必要的共同訴訟は判決効から論理必然的に要請されるものではないが,各共同訴訟人の訴訟上の利益を制限してでも一律的な解決をもたらさなければならないと考えるからである。以上みたように,本問の住民訴訟は参考判例①~③においても,類似必要的共同訴訟と解されている。X₁ らが欠けていても,X₄ らの訴訟は提起できる(他の住民と一様に訴える訴訟共同の必要はない)。また通常の類似必要的共同訴訟人と異なるので可能であるが,住民訴訟では,いったんX₁らの訴訟が提起された以上はX₄の別訴は許されず,当該地方公共団体の他の住民は当該訴訟を承継して同一請求をすることはできない旨の規定がある (地方自治法 242 条の 2 第 4 項)。2 必要共同訴訟に関する審判合一確定の要請が働く必要的共同訴訟では,通常共同訴訟における訴訟人独立の原則 [→問題63] を修正し,共同訴訟人間に関連を認めて訴訟資料の統一と訴訟遂行の統一を図る必要がある。民事訴訟法 40 条がこれを定めている。まず,共同訴訟人の1人がした有利な行為は全員のために効力を生じるが,不利な行為は全員そろってしない限り効力を生じない (40 条 1 項)。したがって1人でも相手方の主張を争えば全員が争ったことになるが,1人のした自白や請求の放棄・認諾は効力を生じず,固有的必要的共同訴訟の場合には共同でしなければならないが,類似必要的共同訴訟の場合には単独でできる (本問での上告の取下げが問題となる)。また相手方の訴訟行為は,相手の求めため,1人に対してなされても全員に対して効力を生じる (40 条 2 項)。共同訴訟人の1人について手続の中断または中止の原因があるときは,全員について訴訟の進行が停止する (同条3項)。弁論の分離は一部判決を認められず,判決の確定も全員について同時でなければならない。通常の訴訟であれば,X₁ が死亡すると,X₂,X₃ に訴訟代理人がいない限り,X₂ の相続人が訴訟手続を受継するまで手続は中断することになる (124 条) [当事者の死亡による中断と受継につき→問題72]。ただし住民訴訟では,原告の一人が死亡しその者に訴訟代理人がいない場合,他の共同原告が全員のために訴訟を追行するので,訴訟手続は中断しない。X₁ 以外の全体の訴訟は進行していくことになる (最判昭和 55・2・22 判時 962 号 50 頁)。3 共同訴訟人の一部による上訴上訴については諸説があるところ,1人が上訴すれば,全員に対して判決の確定が遮断され,全訴訟が移審し,共同訴訟人全員が上訴人の地位につくと解されている。このことから類似必要的共同訴訟においても,かつて参考判例③は,第1審の原告のうち,現に控訴した者だけを控訴人として表示し,自ら控訴しなかったが控訴審判決をなしえないとした原審判決を,第1審原告全員の利益を却下とすべきであったとして違法とした。しかし非上訴審での共同訴訟人は負担を伴い,一概に他の共同訴訟人に委ねられるものではない。上訴するかどうかは各共同訴訟人の自由な選択に委ねられるべきものであるとのである。そこで学説において,上訴しなかった者の上訴人の地位については現実には上訴した者に限られ,訴訟追行の権限は有するが上訴人としての見解も有力に主張されていた (民訴・1981, 204 頁)。参考判例①においても,上訴人は上告人から意思を表明した上訴人の地位につかないとする。本件裁判の反対意見もある。その後,本問に用いた参考判例②は,非共同訴訟人の1人が上告を取り下げた事案で,共同訴訟人の1人が上告すれば,上訴をしなかった共同訴訟人に対する原判決も確定遮断は生じるが,上告をしなかった者は上告人にはならないと判示し,参考判例①と変更した。続いて参考判例③は,株主代表訴訟につき,上告をしなかった共同原告は上告人にならないとした。したがって本問でも,X₃抜きでX₂らも許され,上告をしなかった X₃ は上告人にならないと考えられる (参考判例③)。上告をしなかった者が上告人と扱わないとすると,上告に関する訴訟費用の負担を負わない,期日呼出状等の送達が不要になる,上告の取下げは上訴人のみで可能である。上訴しなかった者に生じた中断・中止事由を考慮する必要がないなどの利点がある。本問の X₂ も 1 人で上告を取り下げることができ,上告審判決の名宛人となる。4 残された問題自ら上訴しなかった共同訴訟人は上訴人とは扱われないとしても,なお次の2つの問題がある。第1に,この考え方は,個々の住民や株主の個別的利益が直接問題とならない住民訴訟や株主代表訴訟 (参考判例①①②③) にのみ妥当する例外的扱いとして規定すべきか。参考判例②は,合一確定のためには控訴制度の上訴をすれば足り,住民訴訟と異なり,当事者間に利害の対立が生じ,控訴制度が複雑になることを挙げている。度で上訴の効力を生ずれば足る,住民訴訟の性質に鑑みると公益代表者とみるべきである。住民訴訟では共同訴訟人間の減少こそその審理の範囲,審理の態様・判決の効力等に何ら影響はない,という点を根拠にしている。つまり住民訴様や株主代表訴訟では,請求は本来,地方自治体ないし会社のものであり,個々の原告により請求内容が異なるわけでないから,請求は1個と観念することもできる。原告の数が減少しても審判範囲や審理態様等には影響がない,ということであろう。参考判例③も同様に,このような株主代表訴訟の性質を挙げるので,判例の射程はこれらに限定され,私益性の高い債権者代位訴訟が複数の債権者により提起された場合等には及ばないとみられている。一方,学説には,類似必要的共同訴訟一般を対象とするものが多く,さらに簡潔に有力説は必要的共同訴訟全般を視野に収めている。この問題は次の点にもつながる。第2に,このような訴訟で,上訴しない共同訴訟人の地位はどのようなものと考えられるか。参考判例①の木下反対意見は上告しなかった者は脱退し,ただ判決の効力だけを受けるだけの地位となると論じたにとどまり,参考判例②③は,この者がいかなる立場につくか明確にしていない。けれども,上訴している途中の訴訟に移審して確定未確定残存しているとみるみる限り,上訴審は上訴しなかった者の請求をどのように扱えばよいかが問題となる。共同訴訟人は上訴しない者は最終的には上訴した者に自己の請求について訴訟追行を委ねたもの (手続法上の訴訟担当) とみており,1つの理論上の指針となろう。もっとも,最近,類似必要的共同訴訟と解される養子縁組無効確認訴訟において,共同原告の1人の上訴により他の共同被告にも上告となることを前提とする判例が現れている (最決平成 23・2・17 判時 2120 号 6 頁)。[⚫] 参考文献 [⚫]伊藤眞・平成9年度重要判例 (1998) 129 頁/高橋宏志・私法判例リマークス 23 号 (2001) 116 頁/井上治典「多数当事者の訴訟」(信山社・1992) 94 頁(安西明子)