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賃貸借契約の終了―信頼関係破壊の法理

2006年5月、Aは、期間を定めないで、甲建物をBに月25万円で賃貸したが、甲建物の賃料は、指定の口座から2018年12月以降は振込みがなかった。ところが、12月は、2021年1月分から同年8月分までの賃料合計96万円(月額12万円の増額)を支払わないので、Aは、同年9月21日付で、夏22日到着の書面をもって、上記延滞を同年8月25日限り支払うべく、もし支払わないときは同日をもって賃貸借契約を解除する旨の催告ならびに停止条件付契約解除の意思表示をした。ところで、2022年3月、Bは、上記契約を更新しなかったとして、建物明渡しと未払賃料および損害金の支払を求める訴えを提起した。これに対して、Bは、Aが2020年10月頃、BからCが賃料を月額15万円に値上げすることを求めたが、Bがこれを承諾せず、2021年9月22日に同内容の書面をもって、25日限り支払うことを求めた。これを受けて、同年9月22日、Aは、Aの指定口座に25万円を振り込んだが、Aは、その受領を拒絶したので、同月以降2021年4月分までの賃料12万円の返還とともに同年8月に支払う義務を負うと主張した。Bは、2008年から2016年8月までの間に、甲建屋につき、Aのなすべき修繕を怠らないし、その修繕費として合計82万円を支出したから、これがAに対する償還請求権をもってAの主張の損害金請求権と対当額において相殺すると主張している。③無断増改築後に48万円が支払われたこと、およびAは、建物明渡しに要する費用を請求することができると主張している。以上のような事情のもとで、Aは、建物明渡しをBに請求することができるか。●参考判例●① 最判昭和39・7・28民集18巻6号1220頁② 最判昭和27・4・25民集6巻4号451頁③ 最判昭和28・9・25民集7巻9号979頁●判例●1 債務不履行を理由とする賃貸借契約の解除の根拠まず、賃料不払による債務不履行を理由とする契約解除を主張している。すなわち、Bは2021年1月分から同年8月分までの賃料合計96万円(月額12万円の増額)を支払わないので、Aは、同年9月21日付、「第、2021年8月22日到着の書面をもって、右賃料を同月25日限り支払うべく、もし支払わないときは同日をもって賃貸借契約の解除ならびに停止条件付契約解除の意思表示をした」という。AのB間の賃料について、Bは履行遅滞に陥っており、民法541条によれば、相当の期間を催告すれば契約を解除することができるのであるから、一応、同年8月をもって、その本来の給付である、620条前段)、2021年9月22日に同内容の書面をもって、25日限り支払うことを求めており、この31日間の「相当」の期間があるか、問題があるものの、相当か否かは、すでに履行を完了していることを考えると、特に催告後の行動を勘定する必要があることも考えられると、特に問題はない。しかし、そもそも賃貸借のような継続的契約関係では、民法541条を適用してよいかという問題がある。解除、雇用契約にはない特約がない限りいつでも解約の申入れができるのであるが(626条)、継続的契約関係という共通性を重視し、この規定を類推適用し、やむを得ない事由があれば継続的契約を解除できると考える考え方もある。だが、判例は、民法541条を適用している。2 債務不履行を理由とする契約解除権の制限判例では、民法541条の要件を満たしているときでも、賃貸借契約という継続的契約関係を基礎とする信頼関係を破壊するに至るものでなければ、解除を認めない。むしろ、法律の水準であるBの賃貸借契約であるから、かかる信頼関係を裏切って継続的な契約関係を存続させるには不当な行為がなければ、契約を解除するまでもないと考えることができる。これに対し、参考判例①は、「賃貸借は当事者の信頼関係を基礎とする継続的法律関係であることにかんがみ、かかる信頼関係の破壊と認めるに足りない特段の事情ある場合には、契約を解除することができない」として、かかる違反(信頼関係破壊の法理)を債務不履行解除に適用することを明らかにしたものと解される。賃貸人の無断譲渡を理由とする契約解除を理由とした(民法423条参照)。ただ、これにより同条による解除権が一般的に制限されたものというとそうではない。すなわち、よほどの事情であれば、解除を認めてもよいとし、信頼関係が破壊されていれば、解除は認められる。例えば、賃料滞納の事例において、旧来、判例による条文は緩和されていると認定されれば賃貸借契約が債務不履行であると必ずしもいえない場合も、契約を解除できることになる(民法417条)。契約を解除できない場合もある(最判昭和47・11・16民集26巻9号1603頁参照)。この上、信頼関係破壊があったか否かの判断の独立性を検討することは注意すべきである(訴訟上の請求原因と抗弁の関係にある)。こうなると、賃貸借契約の終了が信頼関係破壊があったか否かの判断については、債務不履行があった場合、賃借人からの反論(抗弁)として信頼関係が破壊されていないことが解除権行使を阻止する動きをする(賃借人主張・立証責任がある)。3 信頼関係が破壊されたか否かの判断基準信頼関係が破壊されたか否かを判断する基準は、債務不履行の態様を主観および客観両面から検討し、総合的に考慮して判断するということになろう。すなわち、賃貸人が不履行を理由とする契約解除権を行使しうる特段の事情があるといえることとなる。具体的には、①賃料不払の期間(当然なければ主観的である)、②またその不払の期間が契約成立から現在までの全期間に占める割合(長期の間、不払の事実が続く、今回の支払いをすることですむとする認定される場合には、不払の賃料額(不払期間が長期にわたるにもかかわらず、金額が大きければ許される方向には傾く)、③賃料不払の支払に至った事情および不払の理由(賃借人の資力や誠意など)、④賃借人に対する賃料額の支払を求めている(賃貸人の資力や誠意など)、⑤賃借人に対しそれを受け入れて賃貸人が賃借権の対抗要件を備えなければならない、あるいは、⑤それを受け入れて賃貸人が賃貸借契約の存続を信頼しているから、といったような事情を考慮して判断される。これに対し、③賃貸人の不払に対する態度(寛容な態度)、④これまでの賃貸借関係の経緯(円満な関係)、⑤賃借人の反対債権の存在およびその行使の状況(相殺の意思表示がなされたか否か等)、⑥賃借人の違反行為に対する態様(信頼関係の破壊の程度)のような事情が総合的に考慮される。こうしたことから、改正民法のもとでも、信頼関係を理由とする同時履行の抗弁権の主張として解除権の行使を妨げることはできない(542条1項の趣旨参照)。また、無催告解除の場合(542条1項1号など)や催告解除の不存在(同条2項)の判断基準としても信頼関係が考慮されることになる(中田・契約法428頁、ただし、用法遵守義務違反を前提に損害賠償請求が認められる。)。本問においても、2006年の賃貸借契約成立から8年間の賃貸借契約の期間のうち不払が少なくとも1年近くに及んでおり、賃料の不払も相当な額に達している。供託も有効な弁済の提供といえるものではない。供託されているのは1か月分48万円であり、全てというわけではない。そもそも信頼関係が破壊されており、不払も今後も続くことは否定できないであろう。他方、AとCによる修繕の理由は、従前の賃料の支払を怠るもので、その恣意的な態度に対してBの態度も悪かった。ましてや、Bは、本来のなすべき修繕義務を怠ったのであるから、AとBとの間では、お互いに信頼関係を破壊するような事情がある。4 補論:賃貸借の無断譲渡・賃貸物の無断転貸を理由とする解除と信頼関係破壊法理前述のように、賃貸借契約における債務不履行解除を制限する理論である信頼関係破壊法理は、契約における賃料不払を理由とする解除であるとか、無断転貸(612条)を制限する理論として判例上確立したものであるが、信頼関係の理論と異なっている(参考判例①)。多数説と判例の理論については、民法612条1項によって、賃貸人の承諾が必要とされており、かかる承諾がないときは、原則として、賃貸借契約を解除することができる。なお、賃借人は、賃貸人との間で契約を解除することができず、賃借権譲渡・転貸が契約解除の理由とならない特約を結ぶことができる。これに対し、判例は、参考判例②では、無断譲渡を理由として賃貸借契約を解除するには、信頼関係を破壊するに至らない特段の事情がないことを要するとし、例外的に、解除権の行使を制限されるべきであると判示した。信頼関係が破壊されない「特段の事情」とは、①譲渡が同居の親族に対してなされたとか、②法人の代表者が交代したにとどまるとか、③個人営業が法人成りしたにすぎないといった事情などが挙げられる。注意すべきは、当事者間の信頼関係により賃貸借契約が解除されるという論理構成であり、当事者間の信頼関係が破壊されない「特段の事情」という判断枠組みが形成されている点である。したがって、信頼関係が破壊しないものとして、例えば、無断譲渡・転貸を知ったにもかかわらず、特段の事情なくして、賃借人から、転借人、転貸借契約の期間・賃料、転借人の資力・人柄などを確認することなく、解除権の行使を認めることができる(参考判例①、最判昭和61・1・27集民138号129頁)。なお、賃借人からする解除の要件としても、信頼関係が破壊されていないことが、客観的な事情によって判断される。参考判例②・③は、賃貸借契約における信頼関係の重要性を強調し、形式的な契約違反があったとしても、信頼関係を破壊するに至らない特段の事情がある場合には、解除権の行使を制限されるべきであると判示した。8・10・14民集50巻9号2891頁。◆設問問題◆(1) Aは、Bが2018年ごろに無断で甲工場を建てて甲敷地の全面をAとBとの間で賃貸借契約を締結し、その後BはCに甲工場の従業員用の宿舎として甲敷地の南側に乙建物を設置して、その建物をCに賃貸した。(2) Bは、Aより甲土地を賃借し、地上に乙建物を建築して、Aより1000万円の融資を受け、乙建物にAのために、抵当権を設定し、その登記をした。(3) Aは、Bとの間で賃貸借契約を締結し、BはCに建物を賃貸した。Cは、建物の所有権をBから買い受けることを申し込み、Aに、Bとの間で甲土地の賃貸借契約を締結し、Bに建物の撤去、甲土地明渡しを求めている。●参考文献●*渡辺達徳・百選Ⅱ 122頁/西村和雄・石田剛「新民法講義1」(1974)102頁/潮見佳男「契約法(2003)223頁 (久保大三)