固有的必要的共同訴訟の成否
XはYに対し,Y名義で登記されている土地について,それが訴外Aの遺産であることの確認および当該土地の自己の持分の所有権移転登記手続を求めて訴えを提起した。AにはXとYの他に,その死亡によりAのYとAの子らX,B,Cが相続人となったこと,Xの主張によれば,本件土地はAに渡り残されたものだが,便宜上Y名義の所有権移転登記がされていたのであり,本来はAの遺産に属するからXも法定相続分に応じた持分権を有する,という。この場合,XはYを被告として本件土地の遺産確認の訴えを提起することができるか。[⚫] 参考判例 [⚫]① 最判平成元・3・28 民集 43 巻 3 号 167 頁② 最判昭和 61・3・13 民集 40 巻 2 号 389 頁③ 最判平成 26・2・14 民集 68 巻 2 号 113 頁[⚫] 解説 [⚫](1) 遺産確認の訴え本問では,遺産に関するXの訴えが,関係者全員が共同で訴えまたは訴えられること (訴訟共同) を必要とする固有的必要的共同訴訟に当たるかどうか問題となる。これが固有的必要的共同訴訟であればY以外の相続人B,Cも当事者にしなければ当事者適格は満たされないX以外の訴訟は却下されることになる。従来,訴訟共同の要否については,実体法的観点と訴訟政策的観点から判断されており [→問題63],判例も同じく共同所有者が原告になる訴訟では,まず実体法的に,固有的必要的共同訴訟となるが [→問題63],過去の共同相続は合有または総有と解され,共同相続財産が合有または総有に帰属している場合には固有的必要的共同訴訟となる [→問題63],通常の共同関係の場合には各共有者は自己の持分権を単独で自由に行使できる。そこで,本問のモデルとした参考判例①は,Xの持分の所有権移転登記請求については,そのみを被告とする訴えを認めて請求棄却の本案判決を下していた。一方,遺産確認訴訟については,共同所有関係そのものをめぐる共同所有者内部の争いとして,その管理処分権は共同相続人の全員に属するという実体法的な観点,その判決の既判力により遺産分割の前問題である当該財産の遺産帰属性につき合一に確定させるという訴訟政策的観点から,固有的必要的共同訴訟に当たるとしたのが参考判例①である。この判例は,遺産確認の訴えの訴訟共同が参考判例②を引用して結論を引き出している。(2) 遺産確認の訴えの利益確認の利益が認められる利益が他の相続人の遺産に属することを確認,過去の事実ないし法律関係の確認として不適切とされないかが [→問題28],参考判例②は次の理由から利益を肯定した。まず,遺産の帰属が対象であり,これは「遺産分割前の共有関係」という現在の法律関係と解しうると,遺産確認の利益は紛争の抜本的解決に役立つ。具体的には,遺産確認の訴えはその後の遺産分割の前提につき当該財産の遺産帰属を争うことができなくなる。後者の後者について述べると,本件のような場合に土地が遺産であるかどうかを確定しないと相続放棄や限定承認の審判 (家事 284 条・191 条以下。同別表第2の12) [→問題28] が定まらない。あるいはその手続は進み,土地が遺産であるとしてなされた分割審判が確定しても,その前提となっている財産の帰属については争いを蒸し返すことができ [→問題111],訴訟による解決手続による終局判断が不可能とされていること [→問題111]。審判や判決に直すことになりかねない。分割土地は遺産でなく,その所有権で争うとした遺産分割手続の前提問題につき,その確定の既判力によって後の紛争を封じておく必要がある。というのである。この場合,X の持分を確認することも考えられるが,X が共有持分を相続したという理由での Y の持分確認がされても確定しても,X がそれを超える部分,本件土地が遺産であると主張して争うことの判決の既判力は生じない。それ以外の部分については争いが残され,結局は共同相続財産全体の遺産帰属の確認をしなければならない。したがって,遺産分割審判の手続においておよびその後の分割後の遺産帰属性に争うことを許さず,紛争の解決を図るには,当該財産が遺産の帰属に属すること,という共同相続の発生原因の具体的内容の確認を求める必要があるというのが判例の理由付けである。2 訴訟政策的判断上記のとおり遺産確認訴訟の手続に争いを既判力により封じるに足りるだけのその手続に関わる共同相続人全員を当事者として争わせ,合一的に確定しておく必要がある,というのが遺産確認訴訟の実際的要請から,参考判例①に示されている。そうすると,Xは,Yに共同相続人のうち原告に加わらない者を被告に加えるなどして,共同相続人のうち原告に加わらない者を被告に加えるなど,共同相続人が全員被告になる必要があるとしており [→問題64],判例に沿うならば,本問では,BとCが原告にならないならば被告に加えるべきことになると考えられる。参考判例③も,同じく遺産確認訴訟と遺産分割後の地位の不存在確認の訴えを固有的必要的共同訴訟とした判例 (平成 16・7・6 民集 58 巻 5 号 1319 頁) も,共同相続人全員が当事者となる必要があるとしており,Y がほかの共同原告と共同で訴えを提起しなければならないと述べてはいない。遺産確認や相続人の地位の確認では争っている共同所有者であるから,共同所有者以外の第三者と訴訟する訴訟共同訴訟と異なり,訴訟を複雑にする。より方法に違和感がない。また最高裁は,遺産確認訴訟での共同所有関係の確認と違い,原告と被告の間で当該財産がAの遺産であることを確認するという結論は主観の共同所有に帰結するもので,共同相続人全員が当事者のどちらかに入っていれば足りるという考え方になじみやすい。さらに参考判例①の事案では,BらがYに加担している状況であったので,このような場合には紛争の総合的解決のため,遺産確認訴訟では常に共同相続人が加わらなくてはならない。この訴えが固有的必要的共同訴訟であることは前提としたうえで,新たなルールを加えたとされるのが参考判例③である。この事案では当初,相続人全員が当事者となっていたが,遺産係属中にその相続人の一部の他の共同相続人に譲渡したことから,原告は譲渡人に対する訴えを取り下げた。固有的必要的共同訴訟である遺産確認の訴えの一部に対する訴えの取下げは認められないが,参考判例③は,相続分全部を譲渡した者は,遺産分割手続等で遺産帰属財産をめぐる判断を前提とすることはなくなり,つまり両者の間で問題である遺産帰属性を確定すべき必要性がなくなる (紛争解決の余地がない) から,遺産確認の訴えの当事者適格を喪失するとして本件訴えの取下げを認めた。3 残された問題以上のとおり,判例は既判力による紛争解決を強調するが,従来の考え方に立てば既判力は被告と原告の間に生じるのであって,請求の立てられていない共同訴訟人間には生じない。Y・B・C間では土地の遺産帰属性が確定しても,Y・B・C間では既判力による確定はなされない (そこで,学説には共同訴訟人間に既判力を生じさせる効果のある提案もある)。[→問題64]。笠井正俊『遺産確認における確定判決の既判力の主観的範囲』[伊藤眞古稀記念論文集『民事手続の現代的使命』(有斐閣・2015) 155 頁等]。また,同じ遺産分割の前提問題であるのに,遺言無効確認訴訟は固有的必要的共同訴訟ではなく通常共同訴訟であるとするのが判例である (最判昭和 5・6・11 民集 35 巻 6 号 1013 頁) [→問題68]。現状では,この種の訴訟につき訴訟共同の必要を強く説く方が有力であるが,このほかにも,原告に加わらない者を被告にすることに,原告被告のどちらにつくか,あるいは消極的な第三者の地位にとどまるかの選択を認めようとする学説もある [→問題62]。他方,被告の判決で同時確定の利益が重視されることは,事案に応じた対処も考えられてよいのではないか。例えば,参考判例①の事案では第1審がYのみを被告とするXの各訴えに請求棄却判決をしたが,控訴審が遺産確認訴訟は固有的必要的共同訴訟であるとしてこの部分の判決のみを取り消し,訴えを却下した。B,Yに利害なしを共通することが現実的でないと判断される却下以上,あえてそのまま実体判決をすることが便宜性を優先するXの申立てに訴えの主観的追加組合せか [→問題60] を認める。Yのみに対する遺産確認訴訟で請求棄却が確定しても,XがBらを相手にさらに遺産確認訴訟を提起する余地は残るが,それに対しておおきな意味がある。Xによる遺産確認訴訟がYに自己の所有権確認訴訟を提起して (Xに対しては反訴,Bらも当事者にする場合,訴えの主観的追加組合せか [→問題60] だが),判例によれば別訴として提起されて併合されるか [→問題60],裁判所の裁量によることになる) 認容判決を確定させればよい。この事態の負担分担もありうる。なお,判例によれば自分による自己の所有権確認で棄却判決が確定した後でも遺産確認の訴えがされることを許している(参考判例③の場合と異なり,その後の訴訟が残る)。その意味で及ぼされる既判力にも疑問がある [→問題68]。笠井正俊「共有物分割訴訟と既判力」 [→問題68]。山本克己「ほか固有必要的共同訴訟の現代的課題——共有物分割手続と民事再生手続の交錯を契機に」[民事訴訟雑誌 62 号] (2017) 25 頁等。[⚫] 参考文献 [⚫]山本克己・ジュリ 946 号 (1989) 49 頁/山本弘「遺産分割の前提問題の訴えの利益に関する一考察――遺産確認の訴えの当事者適格を中心として」同『民事訴訟法・倒産法』(有斐閣・2019) 175 頁/高田・民法7 (有斐閣・2015) 198 頁(安西明子)