共同訴訟人独立の原則
Y₁はある土地をその所有者であるXから譲り受け,その上に建物を所有していた。その後,本件建物の所有権は Y₁ から Y₂,Y₂から Y₃ へと移転し,Y₂とY₃がそこに居住していた。Xは本件土地所有権に基づき,Y₃に対しては建物退去・土地明渡しを,Y₂に対しては建物退去・土地明渡しを,Y₁に対しては本件建物を所有していた期間の賃料相当額の支払を,それぞれ求める訴えを提起した。この訴訟でY₁・Y₃は本件土地の占有の適法性を主張し,本件土地の賃借権を有するとの答弁を提出したが,一方,Y₂はXに対する権原の存在を争った上で上記の請求はせず,口頭弁論を欠席し,答弁書も提出しなかった。このような審理状況において,Y₁・Y₃が,Y₂が賃借権を有することを推認させる間接事実として,Y₂が本件建物を取得して以降,自分たちがXに賃料相当額の支払を続けてきたことを主張し,裁判所は,Y₂が賃借権を有するとの理由でY₁・Y₃に対する請求を棄却しようとしているとき,Y₂に対する請求についてはどのように処理したらよいか。Xも上記 Y₁・Y₃の共同訴訟の支払の主張を明らかに争わなかった場合に,Y₂が建物を所有権を有していた期間,Y₁・Y₃が賃料相当額を支払っていたという事実を認定してXのY₂に対する請求を棄却することはできるか。[⚫] 参考判例 [⚫]① 最判昭和 43・9・12 民集 22 巻 9 号 1896 頁[⚫] 解説 [⚫]1 共同訴訟本問は,共同訴訟のうち通常共同訴訟に当たる場合である。このような訴訟において共同被告となった Y らの地位はどのようなものか,互いに関係するかどうかが,ここでの問題である。共同訴訟とは,1つの訴訟手続の当事者の一方または双方に数人の当事者がいる訴訟形態であり,訴えの主観的併合とも呼ばれる。共同訴訟は,各共同訴訟人 (共同原告,共同被告) につき判決がまちまちになってかまわない「通常共同訴訟」と,判決が合一に確定されることが要請される「必要的共同訴訟」に分けられる。共同訴訟のうち圧倒的多数は通常共同訴訟である。この訴訟では,合一確定の要請が働かず,共同で訴えまたは訴えられる必要さはない。一方,合一確定が要請される必要的共同訴訟はさらに2つに分かれ,全員が共同で訴えまたは訴えられなければならない「固有必要的共同訴訟」[→問題63] (合一確定の必要+「訴訟共同の必要」がある)と,共同で訴えまたは訴えられる必要はないが,そうなった場合は当事者間で合一的に解決されなければならない「類似必要的共同訴訟」[→問題68]とがある。2 通常共同訴訟この類型では,各当事者と相手方の間で一挙に勝敗を決する必要がなく,もともと別の訴訟で処理されても差し支えない性質の事件が1つの手続に併合されているにすぎない。そこで共同訴訟人は各自独立して係争権利ないし利益を処分する権能を認められ,訴訟追行上も各自独立の地位が与えられている。ただし,共同訴訟には,併合して審理するだけの妥当性・合理性が必要である。民事訴訟法はこの主観的併合要件として,各共同訴訟人の請求またはこれに対する請求が相互に一定の関連性・関連性がある場合を,次のとおり3つ示している (38 条)。① 訴訟の目的たる権利義務が共通であるとき (例:数人の連帯債務者に対する支払請求,数人に対する同一物の所有権確認)② 訴訟の目的たる権利義務が同一の事実上および法律上の原因に基づくとき (例:同一事故に基づく数人の被害者の損害賠償請求,主たる債務者と保証人に対する請求)③ 訴訟の目的たる権利義務が同種であって,事実上および法律上同種の原因に基づくとき (例:同種の売買契約に基づく数人の買主への代金支払請求),なお,当事者が複数になるということは請求も複数になるから,共同訴訟=訴えの主観的併合の前提として,請求の併合=訴えの客観的併合の要件を満たしていなければならない。すなわち各請求が同種の訴訟手続で処理されるものでなければならないし,共通の管轄権がなければならない (ただし上記①②の場合,請求相互に関連性が強い場合には,1人について管轄のあるところにも併合して提起できる。7 条ただし書)。以上をみると,本問では Y₁・Y₂ と Y₃ の関係は上記①②③に当たると考えられる。3 共同訴訟人の地位通常共同訴訟では,各共同訴訟人は他の共同訴訟人に制約されずに独立に相手方に対する訴訟を追行する。共同訴訟人の1人の訴訟行為,共同訴訟人の1人に対する相手方の訴訟行為は他の共同訴訟人に影響しない (39 条)。これを「共同訴訟人独立の原則」という。通常共同訴訟では共同被告 (または共同原告) が各訴訟につき単独で当事者の地位に立つことができて有利であるからである。そこで例えば,各自独立に請求の放棄・認諾,和解,訴えの取下げ,上告,自白などができ,その効果はその行為者と相手方との間にしか及ばない。1人についての中断・中止の事由が生じても,他の者には影響はない。裁判所は,ある共同訴訟人の訴訟についてだけ弁論を分離し (152条),一部の者につき判決をすることもできる (32 条 2 項)。1人の共同訴訟人が上告しても,他の共同訴訟人は上告人とみなわけでなく,上告の効果も及ばない。このように,通常共同訴訟では裁判の統一の保障上の保障はない。しかし,弁論および証拠調べが共通の期日に行われるので,一種の共同審理的に効力行為はしない限り,同一の合議体による統一的な裁判が期待され,事実上は裁判の統一がもたらされる。4 共同訴訟人間の主張共通・証拠共通上記の事実上の統一の帰結を,より実質化しようと,判例・通説は共同訴訟人間に「証拠共通」の原則を認めている。すなわち,共同訴訟人の1人が提出した証拠はこれに対して他の共同訴訟人が意識しなくても,他の共同訴訟人に関連する係争事実につき,とくに使用されなくても他の当事者の主張事実を認定する資料とすることができる,とする (ただし本問では証拠・証明の問題となる主張が出ていないことが問題となっている。前提を欠いているので,証拠共通の適用はない)。この原則は「自由心証主義の歴史的所産」といえる事実認定のあり方そのものを根拠として生まれたもので,そこから「当事者が自覚していない事実をも裁判の基礎資料とすることができるか」 (心証形成の基礎資料をすべて弁論に顕出させること) の当否など弁論主義との相克も問題となりうる (弁論主義の第1テーゼ。自己に不利益な事実の承認「裁判上の自白」もしかり得ない) と裁判官の心理に事実認定を委ねることによる弊害を指摘する声もあるが,共同訴訟人全体の証拠資料を統一的に一体処理をしなければならないという点では,現在ではその合理性が認められている。そこで,理論的には,共同訴訟人の一方が提出した証拠は証拠能力を有するものとして他の共同訴訟人にも有利に斟酌されうるが,他方で不利に斟酌されることはない。このような証拠共通の原則を認めることから,一方の共同訴訟人の主張を他の共同訴訟人の主張と共通に扱うこと (「主張共通」) ができるかどうかについてである。この点につき,かつて判例は,主張共通の原則を認めたが (大判大正10・7・4民録7輯1302号),その後,否認するかどうかも各共同訴訟人に任せられるべきである,として主張共通の原則を否定した (最判昭和41・3・22民集20巻3号547号)。しかし,この最判は,必要的共同訴訟の事案であり,通常共同訴訟について判断したものではないとして,このほか,通常共同訴訟においても共同訴訟人間で主張事実が認められることを要件として「当然の補助参加」を認める学説がある。当該補助参加の認められるときの主張共通の原則を認めるのは,上記の判例と異なり,後者が主張の食い違いに寛容であることと対照的である。本問に用いた参考判例①は,当然の補助参加を否定した。すなわち第1審 (名古屋地判昭和 42・4・12 判時 481 号 18 頁,民集 22 巻 9 号 1912 頁参照) が第2審 (名古屋高判昭和42・4・28判時481号18頁) において,Y₂はいわゆる共同訴訟人間の補助参加関係にある,自己の利益を守るために Y₁ を補助させるといった形で,補助参加を認めたて参加している関係にあるため [補助参加については→問題65],Y₂ と Y₁・Y₃ 間の資料相当額の支払の事実について X の自白 (明らか争わない以上,自白成立) は Y₂・X 間にも妥当するとして Y₂ の請求を棄却した。これに対して,参考判例①は,通常共同訴訟では,たとえ共同訴訟人に共通の利害関係がある場合も,共同訴訟人独立の原則が働くのであって,共同訴訟人の1人の行為はその相手方との間のみで効力を生じ,他の共同訴訟人との関係で効力を生ずることはない。Y₁・Y₃ が支払の事実を主張しても Y₂ がこれを援用しない限り Y₂ のための補助参加とみることはできない,として原判決を破棄した。参考判例①は Y₂ について補助参加を認めても,Y₁・Y₃ の主張と X の自白を Y₂ のための補助参加人の主張として,その効力を認めた原判決を否定したものである。参考判例①についてはそもそも,Y₁・Y₃ が Y₂ に補助参加する利害関係を有するのかどうかが,疑問視する見解もある。この点,主張共通ではなく補助参加関係がなくても,Y₁・Y₃ の主張の資料が X の自白で認められれば Y₂ にも有利な事実が得られるという意味で共同訴訟人間で利益に働く同一の事実主張といえ,Y₂ が積極的に反しない限り,この事実の認定に影響を及ぼすとして X は Y₁・Y₃ に対して自白をしないとして,欠席した Y₂ に対しては,Y₁・Y₃ の弁論の利益を自白して請求棄却を導くこと (新堂・後掲 53 頁以下)。しかし,学説の多くも,当然の補助参加や主張共通を認める少数説に対し,共同訴訟人の一部がした訴訟行為が他の者に「利益」かどうかは単純に決められないとし,その訴訟行為に対して積極的に積極的に行動をしないからといって,その者の訴訟行為に自動的に同調させてしまうことはできない,などと批判している (判例と結論は同じく,本問では Y₂ の主張がない以上 Y₁・Y₃と X 間の自白を用いて当然の補助参加は認められない)。ただし,少数説により,通常共同訴訟だから当然の補助参加は認められないとして,共同訴訟人独立の原則を形式的に一律に判断することに対する疑問,問題提起がなされていることは同様に認識されなければならない。[⚫] 参考文献 [⚫]新堂幸司『訴訟物と争点効』(有斐閣・1991) 33 頁/三ケ月章・百選 188 頁(安西明子)