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訴訟代理人の代理権

Xは、Yに対して、建物収去土地明渡しを求める訴えを提起した。Xは地区では、Yに対して、建物収去土地明渡しを求めたのであるが、Yが代金を支払わないので、建物収去土地明渡しを求めたのである。Xには訴訟代理人としてA弁護士が、Yには同じくB弁護士が代理しており、それぞれの弁護士に対して訴訟はどの段階についても委任がされていた。この訴訟において、以下の内容の訴訟上の和解が調停された。(1) YはXから係争物を金1億円で買い受ける。売買代金は、5年間の分割払とする。(2) 上記売買代金の支払を担保するため、係争地および建物にXのために抵当権を設定する。AやBは、以上のような和解をする権限があったものといえるか。●参考判例●① 最判昭和5・5・17新聞3561号10頁② 大判昭和08・2・21民集17巻1号182頁③ 最判平成12・3・24民集54巻3号1126頁●解説●1 訴訟代理人の権限民事訴訟手続における代理としては、法定代理と訴訟代理があり、訴訟代理にはさらに、個別の訴訟委任によって代理権が発生する任意代理と、会社の支配人のように、本人の意思に基づき一定の地位に就いたことから当然に代理権が生じる法定の訴訟代理とがある。訴訟委任に基づく訴訟代理となることができるのは、原則として弁護士に限られる(54条1項)。訴訟委任に基づく訴訟代理の代理権の範囲については、法律の定めを置いている。すなわち、委任を受けた事件について、反訴、参加、強制執行等に関する訴訟行為をし、弁護士である訴訟代理人については、当然にその権限を有し(55条1項)、弁護士である訴訟代理人については、それを制限することができない(同条3項)。他方、反訴の取下げ、和解、請求の放棄、上告、控訴等の訴訟行為については、特別の委任を受けなければすることができない(同条2項)。民法において、任意代理権の範囲については、代理権授与の意思表示である授権行為の意思解釈に基づくものを定める。これに対して、訴訟代理権の範囲については当事者の意思そのものに規定するものである。この趣旨は、民事訴訪では画一的で定型的なものが多く、代理権の範囲を法定して、①手続の明確性・円滑性を確保する趣旨、および、②弁護士に資格を有する代理人に対する信頼に基づくものとされる。他方、和解などの一定の行為については、特別の授権事項としているが、これらの行為が通常当事者(本人)の重大な意思決定に属するものではないことや、当事者に対しても重大な結果をもたらすものであることを、委任契約とすることからである。実際上は、特別授権事項の不動産明渡しと解される一定の委任状を作成し、相手方名、事件名等を記入して弁護士に交付する委任状作成の一般化が見られる。したがって、実務上、特別の委任があることが通常である。ただ、とりわけ訴訟上の和解の権限を巡って、それがどのような範囲に及ぶかと問題とされる。訴訟上の和解にあっては、その内容が非定形的なものであり、また訴訟物である権利義務関係をその内容とすることが多く(和解における互譲の対象として訴訟物以外の法律関係を取り込むことが当然に考えられており、そのような和解の射程(機能の柔軟性をもたらしている)、その点で訴訟代理人の和解がどこまで及ぶかが問題になるからである。2 和解の権限に関する訴訟上の範囲訴訟代理人の権限が訴訟物の範囲に限定されるかどうかの点について、は、学説上、以下のような考え方がある。(1) 同一性説訴訟代理人の明示の授権がない限り、訴訟物またはこれと同一の権利関係の範囲で処理することしかできないとする見解がある。これは、訴訟代理人が訴訟物の権利義務を処分する権限を有すると考える。したがって、訴訟代理人がおよそ無関係な財産を処分することになる。そして、特別授権の実施、上記のような一定の委任状によってされている状況も援用される。しかし、実務上は、訴訟物以外の権利についても和解の対象とすることは日常的であり、その際に常に個別授権を必要とすることは煩雑に堪えないとの批判がある。(2) 無制限説これは、いったん訴訟代理人の代理権が授与された以上、その代理権の範囲は本人の権限と同様、無制限であると解する。訴訟物以外の権利関係をも含めて和解することができると見る見解である。これは、上記のような実務をふまえた実務上の便宜に加え、訴訟代理人について、ほぼ無制限の内容についてまで裁判所のチェックもあることから、その範囲を制限しても、当事者本人の利益が害されることはないという。しかし、弁護士代理と裁判所の監督に過度に期待することは相当でないという立場からは、なお本人の利益の観点から、何らかの制限が必要であるとの批判がある。(3) 折衷説訴訟代理人の権限は無制限説の中間的な見解で、訴訟代理人の和解権限は訴訟物たる権利関係に限定されるものではないが、一定の基準に基づき、なお当事者本人の利益の利益を害すべきでないとの要請がある。判例は、制度の趣旨を重視し、個別的な利益を考慮した上で、本人の利益を害しない範囲で、訴訟物に関連した権利関係にまで和解の権限を認めるべきものとするようである。(4) 一致説当事者がどのような和解を望むかについて、一定の意思表示に基づいて和解する旨の意思表示が表明された場合には、その内容を基準に判断すべきであるという見解もある。本問で問題となるのは、訴訟上の和解の内容である。具体的には、①YはXから係争物を買い受ける、②係争地にXのために抵当権を設定する、という2つの点である。まず、①についてであるが、これは係争物の売買契約であり、訴訟物である建物収去土地明渡請求権とは異なる権利関係である。しかし、Yが係争物を買い受けることによって、Xの建物収去土地明渡請求権は消滅し、紛争が解決されることになる。したがって、これは訴訟物と密接に関連する権利関係であり、訴訟代理人の和解権限の範囲に含まれると解するのが相当である。次に、②についてであるが、これは係争地に対する抵当権設定契約であり、訴訟物とは直接関係しない。しかし、これは①の売買代金の支払を担保するためのものであり、①と一体となって紛争を解決するためのものである。したがって、これも訴訟物と密接に関連する権利関係とみることができ、訴訟代理人の和解権限の範囲に含まれると解するのが相当である。以上より、AおよびBは、本問の和解をする権限を有していたと解するのが相当である。以上のような学説の対立があるところ、この点についてはいくつかの判例がある。まず、参考判例①は、一部請求訴訟において、請求されていない残部を含めた全部について和解を認めた。その理由として、訴訟代理人は訴訟追行のための代理権を有するにすぎず、訴訟物である債権の分割払の合意をすることは、元来の債務とは異なる新たな債務を負担させるものであり、本来の訴訟物の範囲を超えるものとして、特別の授権を要するとした。その根拠として、訴訟代理人は訴訟物について訴訟を追行するための代理権を有するにすぎず、訴訟物以外の権利関係についてまで処分する権限はないとしたものである。3 本問の取扱い以上の判例、学説の立場は必ずしも明らかものではないが、本問で問題となるのは、①係争地の賃貸借の終了による土地の明渡し請求において、訴訟物となっていない土地上の建物に抵当権を設定する権限をBが有するか、という点である。仮に厳格説を採るとすれば、①および②ともに、訴訟代理人の和解権限は否定されることになり、和解は無権代理となって無効と解されることになる。したがって、XおよびYは、ともに訴訟上の和解に強制執行を負うことはない。Yは請求異議の訴えによって争うことができ…る。しかし、判例の採用するところは前述のとおりである。他方、無制限説によれば、①および②ともに、訴訟代理人の和解権限は当然に認められることになる。問題は、折衷説による場合で、この場合は、結局、当事者本人の意思の観点と和解の趣旨の観点からさまざまな要素を考慮すべきことになるが、本問のような場合には、特に当事者本人への意思確認をすることになるように思われる。係争関係の紛争に関連して、他人間における買受けのことや紛争が終結することはしばしばみられるところであるし、和解で合意されることが一般であるからである(後者については、参考判例②において、判例上和解が認められうる場合にも当事者、本人にその利益が帰属する、と解してよいであろう)。なお、以上のように、和解権限が認められるとしても、本問におけるなお問題となるのは、訴訟代理人の行為の観点である。すなわち、弁護士・依頼者間の問題を生じる。しかし、当事者本人の意思が明確ではない場合には、判例内容がきわめて多様なものであり、本人の意思が反映する可能性が否定し難いことにも問題がある(Xの本件では、係争地はXの父の代からの所有であり、どうしても所有権を維持したいと考えていたかもしれない)。和解が紛争の解決に内容に及ぼす影響が甚大であることなどを考え、和解における本人の意思確認を徹底させることの重要性も、さらにその点を一定の程度で和解の効力に反映させることも考えられよう(国内・後掲新堂古稀117頁以下参照)。ただ、このような問題は、他方で和解の円滑性を害するとの懸念もあろう。結局、民事訴訟法上の和解の性質とそのようにどのようなものと考えるか、検討を要しよう。●参考文献●福沢潤・百選38頁/国内秀夫・争点68頁/国内秀夫「訴訟上の和解と代理権の範囲」新堂古稀417頁(山本和彦)