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固有的必要的共同訴訟の成否

XはY₁に対し,Y₁がX所有の土地に権限なく建物を建てて不法に占拠しているとして,所有権に基づく建物の退去と土地明渡しを提起することにした。しかし,この訴え提起の準備中に,Y₁が死亡していて,第1審の被告になったのが,Y₁Y₂の共同相続人Y₁Y₂を被告にした。第1審ではXの請求が認容されたが,Y₂らが控訴したところ,控訴審の口頭弁論終結後,判決言渡しの直前に,Y₃が自分も共同相続人であるとして,弁論の再開を申し立てた。この場合,控訴審は弁論を再開しなければならないか。それも,これを行わずに,控訴を棄却し,X勝訴の判決を下すことはできるか。[⚫] 参考判例 [⚫]① 最判昭和 43・3・15 民集 22 巻 3 号 607 頁[⚫] 解説 [⚫]1 固有的必要的共同訴訟本問では,共同相続人が被告となる訴訟が固有的必要的共同訴訟に当たるかどうかが問題とされる。共同訴訟には,共同訴訟人 (訴えの主観的併合) には,各共同訴訟人 (共同原告,共同被告) につき判決がまちまちになってもよい「通常共同訴訟」と,判決が合一に確定されることが要請される「必要的共同訴訟」とがある。前者には,合一確定の要請がない。共同で訴えまたは訴えられる必要もない。一方,合一確定が要請される必要的共同訴訟はさらに2つに分けられ,全員が共同で訴えまたは訴えられなければならない「固有的必要的共同訴訟」[→問題63]と,共同で訴えまたは訴えられる必要はないが,そた場合は当事者間で合一的に解決されなければならない「類似必要的共同訴訟」[→問題68] がある。つまり,両者は,後者と同様に合一確定の必要のため審判規律 (40 条) を受ける上,関係者全員が当事者となっていなければならないという訴訟共同が必要とされる「合一確定の必要」「訴訟共同の必要」。したがって,本問の訴訟が固有的必要的共同訴訟とされれば,共同相続人全員を共同被告としなければ被告適格がないとして訴え却下となるから,Y₃ のため弁論を再開しなければならない。固有的必要的共同訴訟でないとすれば,Y₃を欠いたまま,他の被告には判決を下してよい (Y₃とはこれから別に訴訟する) ことになる。そして固有的必要的共同訴訟とされるのは,①他人間との法律関係に変動を生じさせる訴訟の場合 (例えば取締役の責任の訴えでの当該取締役と会社,会社 855条),②数人で管理処分・職務執行することになっている場合 (例:数人の受託者の信託財産関係訴訟の他の受託者,同一選定者から選定された数人の選定当事者) と,③共同所有形態における紛争に関する訴訟である。2 実体法による判断通説は基本的に,③の共同所有関係を所有権 (共有持分があり,処分権は共同でなくてよい) と合有に分け,さらに合有における保全行為や処分権・職務といった実体法上の規律と併せて固有的必要的共同訴訟かどうかを決めようとする。すなわち,原告側については,総有か合有の場合は権利者が共同して1つの権利を処分しなければならないので,その財産に関する訴訟は原則として固有的必要的共同訴訟だが,共有の場合は各共有者の地位の独立性から固有的必要的共同訴訟ではない。民法上の組合・共同相続財産の債務は各自の債務となるから,合有ではあるが固有的必要的共同訴訟ではない。総有に被告でも固有的必要的共同訴訟とはならない。判例は変遷があり,固有的必要的共同訴訟となる場合を制限していこうとする傾向があるが,そうでない例もみられ,錯綜している。実体法によってこう定めようとする点は基本的に通説と同じであるが,実体法理解において異なるため結論も通説と食い違うことがある。原告側では,通説と同じく総有は固有的必要的共同訴訟としたが,その後,入会権に基づく使用収益権については入会権者各自の権能であるから個別訴訟で確認できるとする (最判昭和 57・7・1 民集 36 巻 6 号 891 頁) など,実体法による判断に修正を加えている (入会権確認につき→問題65)。被告側では,総有の判断はないが,共同相続の例が多く,参考判例①がその例である。本問に即してみると,判例によれば,本問の分割前の共同相続財産は共有と解されている。建物の収去土地の明渡請求権も債務とされておらず,参考判例のほかにも類似訴訟が認められる場合には,もっとも請求が認められる場合には,個々の各相続人が各自の持分権割合の限度でしか負うので,XはY共同相続人各自に対して順次請求権を行使でき,必ずしも全員に対して同時に訴えを提起し,同時に判決を得なくてよい,と述べている。このように共同相続に固有の実体法上の性質から固有的必要的共同訴訟かどうかを判断するという方法がとられてきた。3 訴訟政策による判断上記の実体法的観点に加え,参考判例①は,次のとおり訴訟政策的観点からもこの訴訟は固有的必要的共同訴訟ではないとした。すなわち,もし固有的必要的共同訴訟とすると,①建物収去土地明渡請求訴訟が遅延すること (争う意思のない一部被告が訴訟を遅延させ,または原告が他の被告に訴状を送達することができない),②さらに建物の共同相続登記が未了で所有者が誰であるか不明であるとか,一部の所在が不明であるなど,共同相続人すべてを被告とすることを原告に期待することが困難な場合がある。一方これを通常共同訴訟と解すると,①土地所有権者が建物所有者に対し明渡しと損害賠償をすることができ,②各共同相続人各自に対して債務名義を取得するか,その同意を得る必要があるから,被告の権利保護に欠けることはない。参考判例①は,実体法的観点よりもこれら訴訟政策的観点を決め手として判決した。共同相続への訴訟を固有的必要的共同訴訟とはしなかったのでこの最高裁判決であり,多数説と一致する。しかし,このように個別訴訟を許すことに対しては,実質的に1つの訴訟を省略し,一部被告は紛争を完全に解決できないとの批判がある。上記①のとおり,Xが建物収去土地明渡しの強制執行をするには Y₃に対する請求権も必要であり,いままでY₁・Y₂らに請求したとしても,もし Y₃に敗訴すれば執行できず,前の勝訴判決が無意味になりかねない。また,XがY₁Y₂に対する勝訴判決を取得しないうちに Y₃らに対する勝訴判決を債務名義として強制執行をしてきたときに,Y₁Y₂らの債務名義が足りないことが執行裁判所に明らかにならないと,不当に執行されるおそれもある。この批判に多数説は反論して,実際には Y₃らへの勝訴判決が影響して Y₁に敗訴するような複雑な判決矛盾は生じず,もし不当執行が行われた場合は Y₁から第三者異議の訴え (民執 38 条) をして防げばよい,とする。けれども,そうだだとすれば Y₁が欠けたまま Y₂に事実上少なからぬ影響を与える訴訟を許すことになり,それでよいかという再反論もある。結局,抽象的な訴訟政策としては,固有的必要的共同訴訟の範囲を限定して個別訴訟を許す判例・多数説が妥当であるが,問題も残っている。4 個別訴訟への柔軟な対応の必要具体的な事案の処理としてはどうすればよいか。判例は,全員だと思って訴えたところ被告の一部が欠けていた場合の処理として妥当である。とくに,本問に用いた参考判例①の実際の事案では,当初の被告 (X によれば不法占拠者) が多数であった上,Y₁ が外国人であったために相続関係が調査困難であった (さらに,訴訟係属中に Y₁ が死亡し,さらに Y₁ の訴訟代理人が辞任したために,共同相続人による訴訟手続の受継が問題となった。この訴訟手続の受継については問題が複雑になるのでこちらでふれない) など,相続人や他にも存在していたことが不明確であった。ここまででなくとも,X のほうから不法占拠者である Y₃ らを把握できない事情があり,X の被告選択に責任がないというような事案では,不利な判決を受けた後,あるいは受ける直前に Y₃ が欠けていたことを主張することは,X との関係で公平とはいえない。この後,X は新たに Y₃ に対する訴訟を提起し,勝訴しなければならないが,これに Y₁Y₂ に対する勝訴判決が X に事実上有利に影響を及ぼすとしても,あなたが公平ではない。以上のような考慮も踏まえ,学説においては,全員を相手に訴えることが困難でなく,かつ将来の再訴可能性が高い場合には全員を相手にすべきであるとの説や,共同訴訟となった以上は類似必要的共同訴訟 (訴訟共同の必要はないが合一確定の必要はある) と解すべきであるとの説,通常共同訴訟,類似必要的共同訴訟,固有的必要的共同訴訟の境界を流動的に捉え,個別事案にあった柔軟な処理を唱える説なども主張されている。つまり近時の学説においては従来のように,訴訟共同の必要性があるかないかの問題に置き,後者に固有の必要的共同訴訟では1人欠けても却下であり,後者の通常共同訴訟ではまったくの個別訴訟を許す,というような両極端の発想では足りないと考えられている。固定的な枠組みにとらわれない柔軟な思考,弾力的な処理の必要性が認識されるようになっているといえよう。[⚫] 参考文献 [⚫]重点講義II 329 頁/中島弘・百選 196 頁(安西明子)