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訴訟承継の効果

地主Xはその土地上に建物を所有するYに対し、建物収去土地明渡しを求める訴えを提起した。訴訟係属後、Yは建物をZに譲渡し、現在は上記建物をZが占有している。XはZに訴訟を引き受けさせることができるか。Zの訴訟承継が認められた場合、その承継以前にYが、少なくとも土地の賃借権の抗弁は成り立つと判断し、Xの土地所有権を自白(権利自白)していたとする。このとき、Zは、Xに無断で建物をYから譲り受けているので、Yの賃借権に頼るのでは不安を感じ(民612条、借地借家19条)、Xの所有権を争うことはできるか。参考判例最判昭52・3・18金法837号34頁最判昭41・3・22民集20巻3号484頁解説1 訴訟承継の効果――実体法上の効果訴訟承継とは、訴訟の係属中に当事者が死亡したり、係争物が譲渡されたりした場合に、それを訴訟手続に反映させ、当事者を交替させて新当事者は旧当事者の訴訟上の地位を受け継ぎ、手続を続行させる制度である。訴訟承継があれば、承継人すなわち新当事者は旧当事者が追行した訴訟の結果を承継し、それに拘束されるものとされている。口頭弁論終結後の承継人には既判力が及ぶのだから(115条1項3号)、その中間過程ともいうべき訴訟係属中に死亡、係争物の譲渡等があった場合にも、既存の訴訟の形成過程である訴訟状態を相続人等に引き継がせるのが合理的と考えられてきた[→問題71]。判決も、訴訟承継の効果として、承継人は既存の訴訟状態を全面的に引き継ぐとしている。参考判例①は、かつて権利承継人には参加承継、義務承継人には引受承継の規定しかなかった旧法下で、権利承継人に引受承継が認められるとした事案である(現在は権利承継人の引受承継、義務承継人の参加承継が明文で認められている、51条)。この判決理由の中で、引受承継が命じられた承継人は被承継人と相手方との間の既成の訴訟状態をそのまま利用することができる地位に立つものであるから、被承継人の訴え提起による時効中断の効力は承継人についても生ずる、と述べられた。しかし、その後、訴訟承継の効果について議論が深まり、旧当事者の訴訟状態を全面的に引き継がなければならないのか、疑問が投げかけられるようになっている。この訴訟承継の効果は実体面と手続面に区別でき、前者については、旧当事者による時効完成猶予、期間遵守の効力は新当事者の下でも維持されることが規定されている(49条)。問題は後者で、訴訟承継の手続的効果として、旧当事者による従前の弁論や証拠調べの結果に、新当事者が拘束されない場合はあるのではないか、と考えられるようになった。さらに特定承継については、参加承継にしても引受承継についても、訴訟承継を認めたからといって、新当事者がそれまでの訴訟状態を全面的に引き継ぐ必要はないとし、承継の範囲と効果の将来を切り離す分離説が出てきている。2 訴訟承継の効果――審理原則本問で、まずはXは承継人となれるか。XはYだけを相手に訴訟していてもZとの間で紛争が残り、Zに対して新たに建物収去請求の訴訟を提起すれば、これまでの訴追行の結果を無駄にすることになる。このような場合、Xの申立てによる引受承継によりZにX・Y間の訴訟にYが参加する承継の効果が生ずると解され、学説による介入訴訟による承継を認めるならば、ZはY(紛争の主体たる地位)を承継した者として、訴訟承継が認められるであろう[→問題71および参考文献]。この場合、引受承継であるから、従前の当事者X・Y間の訴訟に引受申立人と引受人(承継人)Zとの訴訟が共同訴訟の形で追加されたことになる。民事訴訟法50条3項は同法41条および48条を準用しているので、同時審判の申出がなされた共同訴訟と同様の処理が妥当し、分離の分割部判決は禁止されるが、その限りで審理の統一が図られるだけで、基本は通常共同訴訟である。これに対し、Z自身が参加承継した場合にも、参加の方式も参加形態も独立当事者参加になるので、同法47条1項による40条1項から3項の準用により、必要的共同訴訟の手続法理が妥当するとされている。このように、参加のイニシアティブが異なるだけで、一方は合一確定、他方は任意で訴訟資料を規定するのは極端であるので、問題とされている。解釈上、Z・Xの形成した従前の訴訟状態に拘束されるか考えたとき、ZがYの形成した従前の訴訟状態に拘束されるはずで、ZがYの自由に将来されるいのではないかとの疑問がわく。3 訴訟承継の協議従来、原則的には、訴訟承継があれば承継人は前主の訴追行為に基づいて形成された訴訟状態を全面的に引き継ぎ、弁論および証拠調べの結果を含めて、前主の自由に行えるべきである。時機に後れた攻撃防御方法など前主がすでにできなくなった行為はできないとされる。しかし、訴訟状態を承継することの実質的根拠が、承継人の利益が前主によって代弁追求されることに求められるとすれば、この前提を欠く場合に、訴訟状態を承継しない場合があってよいと考えられるようになっている。そこで、例えばX・Y間で馴れ合い的な訴訟が行われたことを知らずに係争物の譲渡を受けたような場合にその第三者の主張を許すとか、係争物の譲渡後、引受けがなされるまでの間に前主がした自白には拘束されないなどとする立場がある。これは訴訟承継の効果は無制限ではないとし、限定的にZの拘束されない場合を認める説である。また、本問のように、自己の争い(自己の所有権の主張やこれを基礎付ける攻撃防御方法の提出は妨げられない。そして、Yは自己の自由に将来される訴訟状態の全面引継ぎに疑問を提示する学説も生まれた。そうして、より一般的に、承継人固有の攻撃防御方法の提出はそれまでの手続形成の状態にかかわらず制約されないことはもちろん、前主によって承継人の利益が十分に反映されていない場合には、承継人に独自の立場から主張・立証の機会を与えるべきであり、承継人がどのような場合にどの程度これまでの手続形成に縛られて新たな手続追行が是認できるかは、当該手続の具体的段階と承継人の紛争内容の実質によって弾力的に判断すべきである。この立場、参加承継・引受承継の性格が特定されて訴訟を引き受けたかどうか、訴訟承継の引継がなされなければならないという(旧法11条1項など)、必ずしも一致せず、当事者が肯定されても被告は部分的にしか肯定されないことを認める学説である。これを受けて、訴訟承継の要件の面では、「紛争の主体たる地位」を承継した承継については手続を混乱させない限り参加引受けも広く認め、参加承継の訴訟状態の承継については完全に否定する学説も現れている(新堂・後掲355頁)。4 本問について本問についても承継人Zは従前の訴訟状態をそのまま引き継ぎ、Xの所有権について自己の権利(権利自白)を争うことはできないという立場である。けれども、本問は訴訟承継の学説が、Yが前訴行為を行う必要のなかった訴訟の承継人Zは拘束されないとして許される、有力な説である(藤永・最判「参加承継と引受承継」三ヶ月章ほか『新民事訴訟法講座3』(有斐閣・1983)47頁)。承継人Z固有の攻撃防御方法は、従前の訴訟状態に拘束されずに提出できる。訴訟承継の根拠が、口頭弁論終結後に係争物の譲渡があった場合、譲渡人のX・Y訴訟追行の結果がZに及ぶ(115条1項3号)、Zに固有の攻撃防御方法がある場合には(執行力が及ぶ)承継人に当たらないとの判断であり、逆にZは承継人に当たり既判力が及ぶとする説もある。固有の攻撃防御方法は既判力に遮断されないと解せる。いずれにせよ譲受人に固有の攻撃防御方法を前の既判力に抵触させず、自由にできるべき根拠はない[→問題99]。ここから訴訟承継の場合、承継人に固有の攻撃防御方法はどうしても許されるところで、前主の自白に拘束されず、承継人Zに固有の攻撃防御方法を認めても、Xの利益を守るため独自の立場から、主張・立証が許されると解するのが支配的である。前主Yを主張・立証の機会があったが、その攻撃防御方法のもつ意味がY・Zで異なる場合である。