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筆界確定訴訟

Yは、2002年に前所有者から乙土地を買い受け、所有権移転登記を経由した。同年、Yは abcdで囲まれた部分(網掛け部分)に自宅を建て、以降中断することなくここに居住してきた。Yが買い受けた当時、不動産登記上、甲土地の所有権名義人はAであった。当時より甲地と乙地には建物はなく、Aが時々様子を見に来る程度であった。2020年にAが死亡し、Xが甲地を相続した。2022年、Xは、甲地・乙地の境界はcdを結ぶ線であると主張し、Yに対して筆界確定訴訟を提起した。Yは、筆界はabを結ぶ線であると主張し、仮に筆界がcdを結ぶ線であったとしても、abcdで囲まれた部分について取得時効が成立しているので、Xは当事者適格を欠くと述べた。裁判所が、網掛け部分についてYの取得時効が成立すると判断する場合、Xの当事者適格を認めてcdを筆界とする判決を出すことはできるか。また、仮にこのような判決が出され、Yが控訴したとし、控訴審がアイを筆界とする判断に至った場合、どのような判決をするべきか。●参考判例●① 最判平成7・3・7民集49巻3号919頁② 最判昭和38・10・15民集17巻9号1220頁③ 最判昭和43・2・22民集22巻2号270頁④ 最判昭和55・10・18民集37巻8号1121頁●解説●1 筆界と所有権界筆界は、不動産登記法上、「表題登記がある一筆の土地……とこれに隣接する他の土地……との間において、当該一筆の土地が表題登記された時にその境を構成するものとされた二以上の点及びこれを結ぶ直線をいう」(123条1号)と定義される。土地の所有権の境界(所有権界)とは異なり、不動産登記に公示された土地区画の区画(筆)を示す公法上の境界線である(登記所が不明の場合にも私人が筆界を定めることは許されず、裁判所が「発見」ないし「形成」すべきものとされる(最判昭和42・12・26民集21巻10号2627頁など参照)。判例は、このような公法・私法二元論を前提とし、筆界は、公法上の境界(現行法上の「筆界」)を確定する特殊な訴訟類型として、境界(筆界)確定訴訟のルールを確立してきた(参考判例①など。②参照)。ところで、一般的には筆界と所有権界は合致する(あるいは事実上そのように推認される)が、地図の未整備、筆界の目印とされた土筆の変動等により、あるいは、1つの筆の内部につき時効取得や所有権移転がされたが分筆がなされていない等の理由で、筆界と所有権界にずれが生ずる場合もある。このような場合、不動産取引においては、公法上の公示に基づき行われていることから、不動産取引による公信に基づき筆界が正しいということにはならない。結局、取引当事者たる権利者(登記名義人)の私的利益を害することになる。そのため、公示の原則からすると、法人に公示された筆界について、公法上のインセンティブが生ずるのである。上記のとおり、判例によれば筆界確定訴訟の結果と所有権の範囲は異なり得るが、その場合には、確定された所有権の範囲にあわせて分筆し、必要ならば隣接する区画(筆)と合筆することになる(ただし、後述のように、このような二重性を不合理とする批判もある)。2 筆界確定訴訟の特色と問題性第1に、当事者の処分権が制限される。まず、原告は筆界を定めるべき特定の場所を主張して申し立てを主張して確定を求めるのであるが、筆界の当否について特定した申立を認容(205条)は適用されない。同条の適用を認めると、原告の主張する筆界と裁判所が判断する筆界とがわずかでもずれる限り原告の請求は請求棄却判決をせざるを得ず、当事者の負担が重いばかりか、客観的に正確な筆界を画定するという公益も満たされないからである。そのために、当事者の主張にかかわらず真の筆界を発見すべきであり、訴訟の進行も裁判所の主導の下に進むことを要請する(これを実質的当事者主義ないし職権進行主義という)。また、当事者間の和解も、これで当事者の主張する事実を前提になし(実質的には、判決の効力を有する(267条))、当事者間に訴訟が終結する効力を認められないから、これに基づき訴訟が終了する効力も認められない。第2に、当事者の客観的な適格を担保するために、訴訟承継の規定も認められないから、これに基づき訴訟が終了する効力も認められない(承継主義の不採用)。第3に、判決の効力も当事者恒定主義も採用されない。つまり、訴訟の係属中に当事者が死亡し、またはその地位を譲渡した場合でも、判決の効力は承継人に及ばない。これに対して、筆界確定訴訟が実体権の所在を争うものであることを理由に、上記のような訴訟手続を緩和するべきであるとの見解も有力である。しかしながら、筆界確定訴訟は、あくまで公法上の筆界を確定するための手続であり、私法上の権利関係を確定するものではない。したがって、上記のような訴訟手続が妥当であると考えられる。(2) 筆界特定制度との関係2005年の不動産登記法改正により、筆界特定制度が創設された(不登123条以下)。これは、筆界に関する紛争を、訴訟によらずに、より簡易迅速に解決することを目的とするものである。筆界特定登記官が、土地の所有権の登記名義人等の申請に基づき、外部の専門家である筆界調査委員の意見を聴いて、筆界を特定する行政手続である(142条)。この筆界特定制度は、筆界確定訴訟とは別に設けられた手続であり、両者は併存する。したがって、当事者は、いずれの手続を選択することもできるし、一方の手続が進行中に他方の手続を申し立てることもできる。また、筆界特定の結果に不服がある当事者は、筆界確定訴訟を提起して争うことができる。ただし、両者の手続は、目的、手続、効力において、いくつかの重要な相違点がある。まず、目的については、筆界特定制度は、公法上の筆界を特定することを目的とするのに対し、筆界確定訴訟は、公法上の筆界を確定することを目的とする。次に、手続については、筆界特定制度は、行政手続であり、非公開で行われるのに対し、筆界確定訴訟は、司法手続であり、公開の法廷で行われる。最後に、効力については、筆界特定の結果には、既判力はなく、紛争解決の終局性がないのに対し、筆界確定判決には、既判力があり、紛争解決の終局性がある。3 本問の扱い本問では、Yは、Xの提起した筆界確定訴訟において、abcdで囲まれた部分について取得時効が成立しているので、Xは当事者適格を欠くと主張している。しかし、筆界確定訴訟は、公法上の筆界を確定する手続であり、私法上の権利関係である所有権の範囲を確定するものではない。したがって、Yの取得時効の主張は、筆界確定訴訟の当事者適格とは無関係であり、裁判所は、Xの当事者適格を認めて、本案の審理に入ることになる。そして、裁判所が、網掛け部分についてYの取得時効が成立すると判断した場合でも、筆界確定訴訟の目的は、公法上の筆界を確定することにあるので、裁判所は、当事者の主張に拘束されずに、真実の筆界を判断して、cdを筆界とする判決を出すことができる。また、控訴審が、一審判決を取り消して、アイを筆界とする判断に至った場合には、控訴審は、自らアイを筆界とする判決をすることになる。筆界確定訴訟は、形成訴訟であり、裁判所が新たな法律関係を形成するものであるから、控訴審が自ら判決をすることが相当である。