訴訟告知
債権者Xは債務者Zに対して貸金の返還を迫ったが、支払われないので、保証人Yを相手取って保証債務に基づく金銭請求をした。被告とされたYは、敗訴した場合の求償権を確保しようとZに訴訟告知をした。告知は、最初の口頭弁論期日においてXの訴状陳述、Yの答弁書陳述、次回期日を指定したという段階でなされたが、Zはこの訴訟に自ら参加してこなかった。その結果、Yの主張は認められず、Xの請求は認容され、Yの敗訴判決が確定した。その後Yは、Zに対して求償請求の訴えを提起した。この訴訟において、Zは主債務の存否を争うこと(XとZに消費貸借契約はないとの主張)ができるか。この場合、もしZとしては、借金したのは自分ではなくY自身であり、自分は仲介人にすぎない、訴訟告知があった当時も訴訟に参加する必要がないと考え、参加しなかったという事情があるとき、結論に違いはあるか。参考判例最判平14・1・22判時1776号67頁仙台高判昭55・1・28高民集33巻1号1頁解説1 意義と効果訴訟の係属中、当事者からその訴訟に参加できる第三者に対して、訴訟係属の事実を法定の方式によって通知することを、訴訟告知という(53条)。告知がなされる者(被告知者)は、補助参加(42条)できる者が典型であるが、それだけではない。共同訴訟参加(52条)をし得る者である。訴訟告知により、被告知者は訴訟に参加して自己の利益を守る機会を与えられ、告知者も被告知者の訴訟関与を期待できるが、現行制度の主な狙いは、告知者が敗訴後も日を待たないようにすることである(告知のための告知)。すなわち、告知を受けても当然に参加になるわけではなく、参加するかどうかは自由であるけれども、告知があると参加的効力が生ずるとされ、実際に参加しなくとも参加できたことに参加したこととみなされる(53条4項)。当事者(告知者)が敗訴すれば、第三者(被告知者)に損害賠償を請求できる見込みがあるとか、第三者から損害賠償の請求を受けるおそれがあるときに訴訟告知をしておけば、後日の第三者との訴訟で前訴の認定判断がなされることを防止できる。本問でも、Xはこれを狙ってZに訴訟告知をしたのである。しかし訴訟告知には、制度上のそれが残る。独立当事者参加できる者にも訴訟告知できるが、この場合は参加的効力は考えておらず、告知をなし得る範囲より参加的効力が及ぶ範囲は狭い。2 訴訟告知による参加的効力現在の多数説は、訴訟告知により参加的効力が生ずるのは、告知者と被告知者との間に告知を直接の原因として求償関係または賠償関係が成立するような実体法関係がある場合に限定する。このような実体関係がある場合には、被告知者がそれを見越して告知者に協力することが期待されるからである。したがって本問に示した保証人による主債務者への告知が典型である。逆に主債務者が被告である場合には、保証人も補助参加できるのであるからこれに訴訟告知はできるが、保証人は主債務者に協力すべきものでもないから訴訟告知による参加的効力は生じない(もっとも主債務者から保証人への訴訟告知が原因となる)。さらに、訴訟告知の告知を理由として専ら告知者の利益保護の制度と理解する前提に立つのは、反省も生じている。とくに告知者と被告知者が全面的に一致しないケースでは、被告知者が告知者側に補助参加して告知者(被参加人)と抵触する行為ができないので(45条2項)、被告知者(参加人)の利益保護として十分でなく、かといって両手続に補助参加することを無限定に期待できるものでもなく、告知を受けた第三者としては補助参加しないまままさに終わる場合もあり得る。このような場合に訴訟告知を受けたからといって、それだけで判決の効力を及ぼすのは、被告知者の主張を封じるあまりにも被告知者の立場を軽視している。そこで、訴訟告知による効力が及ぶための要件および範囲を厳格に解する必要が認識されるようになっている。3 拘束力の捉え方―主観的範囲と客観的範囲の限定この拘束力を、参考判例①は参加的効力であるとみる。Aの相続人Bによると、もともとAの所有権についてのCに対する移転登記抹消請求訴訟で、Cが「Aは代理人Dとの間で売買があった」と主張したため、甲がDに「代理権はなかった」と主張し、丙に訴訟告知した事案である。このとき、可能性としては丙は当事者のどちらにも補助参加の利益があったが(どちらから訴訟告知を受け得る)、代理人はCに免責が一切関与していないとして甲に参加したのではなく、実際には「代理権はあった」として乙に参加した。その後、「代理権の存在は確定できないが、表見代理にあたる」との甲の敗訴判決が出た。そこで甲が丙に、丙の無権代理行為により所有権を喪失したと、損害賠償請求を提起した。このように現実の訴訟告知による訴訟では、単なる訴訟告知による効力でなく補助参加の効力(呼ばれたことでなく実際に出てきたこと)を考えるべきである。すると、この効力は、参加人丙と被参加人乙(告知書面でなく)の間に生じ、「代理権の存在は確定できない」との判断に及ぶようにみえる。参考判例①は、「代理権はなかった」と主張し、甲の申出の根拠を裏付ける主張をしなかった。そしてその結果「代理権はなかった」との主張は「代理権はなかった」との判断は表見代理が成立するという判断の前歴は「代理権はなかった」でも「主張は認められなかった」でも、Cの主張は前訴における当事者の主張・立証代理でも乙の主張を受けたいとの程度であったと考えられるので、学説は拘束力を認めるべきこの反動か、参考判例①は逆に訴訟告知の効力を肯定した。甲側からの乙に対する代金支払請求訴訟で、乙が「本件商品の買い主は丙である」と主張したが、甲丙に訴訟告知したが、丙は参加しなかったというものである。この訴訟で請求棄却判決が確定し、その理由中に「本件商品の買い主は丙である」とされ、甲は丙に代金請求の訴えを提起した。参考判例①は、告知者の告知が参加利益を有する場合にのみ及ぶところ、参加利益は判決効が参加者の私法上、公法上の法的地位または法的利益に影響を及ぼすおそれがある場合に認められるとした上で、甲・乙訴訟の結果により丙の代金支払義務が免ぜられる関係にはないため、丙の参加的利益はなく甲・乙訴訟の判決の効力は及ばないとした。参加的効力の客観的範囲については、最判昭45・10・22(民集24巻11号1583頁)[→問題68]を引用し、参加的効力が判決の主文の判断および主要事実に係る口頭弁論の判断に及ぶとした上で、「本件商品の買い主は丙である」旨の甲・乙判決の記載はこれに当たらず、参加的効力は発生しないとした。参考判例①に対しては、学説の反対が多い。まず、契約当事者が乙か丙かという択一的関係から甲が乙に敗訴すれば丙は買い主と認定されて補助参加の利益を肯定する説がある。また、甲・丙間に訴訟追行上の協力を期待する関係があるとして補助参加の利益を肯定する説もあり、少なくとも「本件商品の主は乙ではない」との判・訴訟の判断に協力を求め、丙・訴訟にも共同して行うべきである。4 制度運用の問題点判例を読解する中で、学説では訴訟告知制度の運用のあり方についても検討を深めていった。訴訟告知は、被告知者が実際に参加する利益だけでなく必要がなくても、しかも訴訟告知が現実に参加しても十分な主張・立証を尽くすことが期待できない場合に対処となるべきである。告知をするタイミングは、判決言渡し時までにいつでも学説があるが、この点は問題ない。また実務では、訴訟告知の申出があったとき、裁判所が参加の利益・訴訟告知の適法性につき深く検討することなく、訴訟告知をさせているようである。ただし、本問の後半のような被告知者の置かれた立場の現場は考慮すべきである。被告知者Zはどちらの側に参加しても、主債務者はYではない自分は仲介者という主張が主たる争点(被参加人)の主張と抵触して訴訟上の効力は生じない(45条2項)。ZがYに補助参加して上記の主張をしてもその主張が効力を生ぜず、最新ではZは自分は主債務者でないと主張できるので(民事訴訟法45条の除外例に当たり参加的効力が及ばない)[→問題68]、その意味で補助参加の効力はある。けれどもそれが目的で行わざるを得ず、補助参加を受けて告知者が補助参加(独立当事者参加)申立てをしても、後者の告知について見(訴訟告知に拘束ない訴訟関与の意思あり)を述べ、後の拘束力が及ばないことを明らかにする手続が必要である、とする学説がある。このようにみてくると、本問でZが主債務者であることが前提にされ、認定されていたとしても、Zは自分が主債務者でないと考えている本問後半のような場合、誰が主債務者であるかについて十分争われたかが問題となる。これはZ固有の言い分である以上、主要な争点を形成したとは言えにくく、Zとしてもこちらに補助参加してもうまくいかない事情があるので、結論として訴訟告知による拘束力はなく、あらためて自分は主債務者でないとの主張ができると解するのが妥当であろう。参考文献井上治典『実践民事訴訟法』(有斐閣・2002)201頁/重点講義民訴477頁/松井・百選206頁(安西明子)