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遺産分割と登記

Aは、2015年7月7日に、従前から所有していた土地甲に建物乙を新築し、それ以来、妻Bと子Cとともにそこに居住していた。A・BにはCの他に子Dもおり、Dはすでに独立していた。2018年3月3日、AはDのために分譲マンションの1室丙を購入し、自らを所有者として所有権保存登記をしたうえで、同年4月1日に丙をDに無償で譲与し、それ以来Dはそこに居住していた。なお、Dは、Aとの折り合いは良かったが、B・Cとの仲はかねてより悪かった。2020年5月5日、Aが死亡し、B・C・Dが相続人となった。そして、B・C・D間において遺産分割協議がなされ、甲と乙をB・Cの共有とし、丙をDの単独所有とする旨の合意が、同年12月1日になされた。そこで、2021年1月15日に、BとCが甲と乙の登記を確認したところ、Dが法定相続分に基づいて甲乙の所有権の持分を4分の1の割合で共有している旨の相続登記が2020年6月1日付けでなされていたことが判明した。しかも、Dは、その甲乙に関する持分をEに対して同月10日に売却していた。これに対して、Cは、2021年2月1日、丙の所有権の持分を法定相続分に基づいて4分の1の割合で共有している旨の相続登記をし、同月15日にその持分をFに売却した。現在は、甲乙について、B・C・Dの法定相続分を共有持分割合とする共同相続登記がなされている。E・Fはいずれも、それぞれが取得した共有持分について移転登記を経由していない。以上の事実関係に基づき、BがCに対して甲乙の所有権が自らにあることの確認を、DがFに対して丙の所有権が自らにあることの確認を、それぞれ求めた。これら請求は認められるか。●解説●1. 相続における遺産分割の意義被相続人が死亡し、相続人が複数存在する場合に、遺産は共同相続人全員によって共有されている状態となる。しかし、この共有状態のままで相続が生じることは、各相続人が遺産を管理したり利用したりするに当たって不都合が生じうることは、明らかである。そこで、この遺産共有状態を解消し、遺産に含まれているそれぞれの財産が具体的にどの相続人に帰属することになるのかを決める必要である。遺産分割はそのための手続であり、共同相続人間の協議によってなされる。遺産分割は、遺産に属する物や権利の種類や性質、共同相続人の年齢や職業や生活状況など、一切の事情を考慮して行われる(906条)。したがって、遺産分割の内容は、共同相続人の意思によって原則として自由に決めることができる。相続開始後いつまでに遺産分割をしなければならないかについては、特に定めがない。むしろ、遺産分割協議は、共同相続人いつでも遺産分割協議を行うことができる(907条1項)。もっとも、相続開始から10年以内に遺産分割をしないと、その後は特別受益(903条・904条)や寄与分(904条の2)を遺産分割において主張することができなくなる(904条の3)ことには、注意を要する。なお、共有物分割協議の場合には、裁判による共有物分割(258条)をすることができるが、遺産分割手続によらねばならない(258条の2第1項)。ただ、相続開始時から10年が経過すると、遺産に属する共有持分についても裁判による共有物分割を行うことができるようになる(同条2項)。そして、遺産分割の効果は、相続開始時に遡及する(909条本文)。遺産分割に遡及効があることから、民法は、原則として、共同相続人は相続による相続人の遺産から遺産に属する個別財産を直接取得したと理解していると考えられる。2. 遺産分割前に登場した第三者遺産の共有状態がなかったことに、これを前提に、遺産分割、遺贈、死因贈与は、権利の移転における第三者の権利を妨げることはできない(909条ただし書)。判例は、遺産分割前の第三者との関係においては、共同相続人による遺産共有状態を経て、これらによって分割された個別の物権変動が生じた場合(参考判例①)、これに鑑みると、状況に応じて、信義則主義ではうまく移転主義の考え方が採用されているともみることができる。また、相続の放棄をすると、その相続人ははじめから相続人ではなかったものとみなされる(939条)。つまり、相続の放棄にも遺産分割と同じく遡及効がある。しかし、遡及効から第三者を保護する規定は存在しない。この理由として、相続の放棄を申請するためには、相続人が自己のために相続が発生したことを知った時から3か月の熟慮期間がある(915条1項)ことが挙げられる。このことから、相続の放棄の絶対効は、遺産分割よりも徹底されているとみることができる。遺産分割前に登場した第三者の保護について正面から論じた判例はまだないとされているものの、このような考え方を前提に、書斎のDが法定相続分の範囲内の持分をEに譲渡されたもので、遺産分割の効力がDに及ぶとされていることから、法定相続分を超える部分について、民法909条ただし書の適用がある。Eに譲渡されたのはDの法定相続分の範囲内の持分であり、この点については、Eが保護されるべきである。3. 遺産分割後に登場した第三者これに対して、事例における丙は、B・C・Dによる遺産分割の合意がなされた後に、FからEに対して売却されている。したがって、Fは遺産分割後に登場した第三者ということかできる。民法909条ただし書は、遺産分割の遡及効を制限する規定であるから、そこで定められている第三者としては、遺産分割前に登場していることが前提とされている。このため、遺産分割後に登場した第三者を同条ただし書を適用して保護することはできない。しかし、判例は、遺産分割後に登場した第三者につき、遺産分割の性質について、「相続により共同相続した財産につき、遺産分割により法定相続分と異なる権利を取得し、または、これと異なる割合の持分を取得した相続人が、その旨の登記を経由しない間に、右財産につき権利を取得した第三者に対し、自己の権利の取得を対抗しえない」と解し、民法177条を適用した。4. 対抗の法理と無権利の法理以上の記述によると、遺産分割について第三者については民法909条ただし書を適用し、さらにその解釈として第三者を遺産分割前に登場した者に適用し、判例と異なり、遺産分割後に登場した第三者について対抗要件法理を適用しており、結局は両者において民法177条を適用しており、この両者における扱いの異同は、現在においては民法899条の2の適用により解決されることとなる。この点において、遺産分割前に登場した第三者については民法94条2項を類推適用して保護されるため、第三者との間の関係には登記の要否が求められることとなる。第三者の善意の登場場面には登記上の主張を信頼した者との関係についても同条2項が適用されるからである。もっとも、学説においては、遺産分割の遡及効(909条本文)を重視して、遺産分割によって当該権利を取得した相続人を無権利者と解して、その無権利者から相続人を通じて取得する行為に当たって第三者を保護する。5. まとめ遺産の登記に基づく権利取得の場合には登記がなくても第三者に対抗できると解していたが、判例はこの解釈を改めていた。もっとも、遺贈がなされた場合に第三者が現れたケースに対しては、民法899条の2ではなく民法177条が適用されると解するのが有力である(民法899条の2を適用するにせよ、民法177条を適用するにせよ、これらはいずれも問題を対抗関係でみて登記をもって優劣を決するという点においては変わらない。すなわち、対抗の法理の採用である。)。改正後の判例ではあるが、最判昭和39・3・6民集18巻3号437頁(→本章VⅢ)は、2021年の不動産登記法改正(2024年4月1日施行)により、所有権の登記名義人について相続が生じた場合(相続登記と申請することが義務化された(不登76条の2第1項))、相続により所有権を取得した者は、自己について相続が生じたことを知り、かつ、当該所有権を取得した日から3年以内に、所有権移転登記の申請をしなければならない(同条1項)。●発展問題●不動産丁を所有していたGが死亡した。Gの妻HはGとともに丁に数年前より居住していた。G・Hには子Iがおり、Iはすでに独立して別の場所に居住していた。HとIの話し合いの結果、Hが丁に住むことになり、IはHが相続放棄をしたが、丁の所有権の登記はG名義のままになっていた。しかし、その後Iの債権者JがIに代位して、Iが丁の所有権の持分を2分の1の割合で共有している旨の相続登記をしたうえで、その持分の仮差押えをし、その登記がなされた。以上の事実関係に基づき、HはJに対して仮差押えの登記の抹消を請求することができるか。●参考文献●作内良平・百選Ⅲ 146頁(参考判例①)山本敬三・百選Ⅲ 148頁(参考判例②)