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債権譲渡禁止特約

金属加工業を営むA社は、取引先の自動車メーカーBに対して、継続的に供給しているエンジン用バルブの売買契約に基づく売掛債権αを有している。債権αには、売買契約締結時に交わされたAR間の取引協定書において、「Aは、Bのあらかじめ書面により承諾した場合を除いて、債権αを譲渡・質入れしてはならない」旨の特約(「本件特約」)が付されていた。その後、Aは、金融機関Cから事業資金の追加融資を受けるに当たり、Cの貸金債権を担保するために、Bに事前の承諾を得ることなく、債権αをCに譲渡し、同日債権譲渡登記ファイルに登記をした。Cは、債権αをAから譲り受けるに先立ち、A・B間の契約書の内容をチェックしており、債権αに本件特約が付されていることを知っていたが、Bから譲渡の内諾を得ているというAの説明を信じ、それ以上にBに確認しなかった。他方、Dは、Aに対してバルブの製造に必要な金属類の供給契約に基づく売掛債権γを有していた。債権γの弁済期が到来しても、Aが弁済をしなかったので、Dは、債権γの弁済に代えて債権αを譲り受け、Aは、翌日に確定日付ある証書によりDへの債権譲却をBに通知した。Dは、債権αを譲り受ける際に、A・B間の契約書の内容を確認しておらず、債権αに本件特約が付されていることを知らなかった。債権譲渡通知書を受領したBは、Aに事情を問い合わせ、このときにはじめて、Aが債権αを事前の相談なしにCおよびDに譲渡していた事実を知った。AがCから融資を受けることはAの経営上不可欠であることから、Bは、債権αをAがCへ譲渡したこともやむを得ないと判断し、Cへの譲渡を書面により承諾した。Bは、CとDのいずれに債権αを弁済すべきか、少し判断に迷ったものの、債権譲渡登記の日付がDへの債権譲渡通知の到達日時よりも早かったこともあり、Cに対して債権αを弁済した。その後、DがBに対して債権αの履行を請求した。Dの請求は認められるか。[参考判例](1) 最判昭和48・7・19民集27巻7号823頁(2) 最判昭和45・4・10民集24巻4号240頁(3) 最判平成9・6・5民集51巻5号2053頁(4) 最判平成21・3・27民集63巻3号449頁[解説]1 債権譲渡制限特約とは(1) 特約の意義債権は、財産権であり、その性質が許さない場合を除いて、自由に譲り渡すことができるのが原則である(466条1項)。債権譲渡制限特約とは、それにもかかわらず、債権の譲渡を禁止し、または債権譲渡の効力を生じさせるために債務者の承諾を要するなどの方式により、債権の有する譲渡性を制限する趣旨の意思表示を含む債権者・債務者間の特約をいう(同条2項)。預貯金債権は譲渡制限特約が付されていることが通常となっている。建設業請負契約に基づく請負人が報酬債権の処分により譲渡制限特約が付されていることが多い。特に、近時は、本問のように、売掛債権にも譲渡制限特約が明記されている。この特約の目的は債権の発生を阻害する要因として問題視されるようになっている。いずれにせよ、譲渡制限特約の効力については、主に金銭債権を念頭に置いて議論がされてきた。(2) 特約によって保護されるべき利益債権譲便制限特約は、債権者が本来有する譲渡性を制約する趣旨の意思表示を含む合意であり、譲渡されると困る何らかの事情がある債務者の利益譲を目的として交わされ、すなわち、債務者は、①(相殺)相手方を固定することにより、②将来に同一の当事者間で反対債権が発生した場合の相殺の期待権の確保、③相殺に対する期待権の確保、④A間の金銭の授受に関する債権として債権αを固定することにより、債権の一元化による事務処理の煩雑さを避けることなどを目的とするものである。譲渡制限特約の定め方は一様ではない。本件特約のようなもののほか、「債権者は一切譲渡・質入れをしてはならない」とか、「債権者は書面による債務者の承諾があれば債権を譲渡できる」といったものがある。後者の特約であれば債務者が自己の判断で譲渡を有効に譲渡することができない、という観点において共通することから、民法466条2項もこれらを譲渡制限特約として一括して規律している。2 特約の第三者に対する効力(1) 債権的効果民法466条2項は、譲渡制限特約の効力を物権的に捉えている。すなわち、債務者の財産権としての性質を重視し、その譲渡を当事者が任意に制約することはできず、特約付債権の譲受人はその意思・悪意にかかわらず、譲渡制限特約の効力を有効なものとして主張しうるとしている。譲渡制限特約の譲渡は少なくとも第三者との間においては一切影響を受けない。譲渡制限特約には経済的な効力を阻害しないという債務者の保護に必要な範囲で一定の効力が認められるにすぎないと考えられている。本問において、Cは、特約の存在を知っていても、債権αを取得し、かつCへの譲渡につき債権譲渡登記により第三者対抗要件も具備されていることから(譲渡制限特約4条1項)、その後に債権αを本件特約の存在を知らずにDが譲り受けた第三者に対抗要件を備えたとしても、Cが確定的に債権αの第一次的な権利者である。Bは、特約の存在を理由として、債権αがCに帰属している状態で、従前どおりAに対して弁済その他の債権消滅行為を行うことができる余地を確保することができれば足り、債権譲渡の譲渡が無効であるという主張までBに許すのは、特約の目的を超えた過剰な効果を与えることになるといわざるをえない。なお、当事者間で譲渡を禁止ないし制約する合意をすること自体は有効である。本問において、債務者の交替に伴ってBが負担する弁済費用が増加した場合などには、Cに債権の譲渡に伴う事務処理費用が増加したときは、BからCに請求しうる可能性がある。今の譲渡制限特約付債権の譲渡によって債務者が負担を生じる余地がないという特約の定め方を工夫して(2) 物権的効果他方、契約自由の原則を重視する場合、当事者による内容形成の自由の一環として、債権者と債務者の合意のみにより譲渡性を制約された債権を創出することができうると考えられる。この場合、意思表示による譲渡の効力は物権法上の譲渡と同視しうるので、その意思表示による譲渡の効力も譲渡制限の意思表示に反して第三者に対抗することができる」と判断した。判例は、善意の第三者についても譲渡が無効であると解することができる(参考判例①)、同項ただし書の「善意」を「無重過失」と解すべきかについて、同項の趣旨が譲渡契約の有効性と譲渡人の契約上の地位を明確に区分したものであること(物権的効果説)と解してきた(参考判例②)。よって、2017年改正民法では、Cへの譲渡は①無効であり、無効な譲渡に関する譲渡制限特約登記も法務上有効である。他方、善意のDに過失がなければ、Dへの譲渡は有効である。Dへの譲渡があることによって債務者に対する関係では、本件特約付債権も譲渡されることとなる。本件では、Dの無重過失も問題となるが、譲渡制限特約の存在につき悪意・重過失であった場合はBがDへの譲渡についても無効であると主張できることになり、第三者対抗要件の先後によるのでは(467条1項)、Dの権利が優先すると考えられる。このように第三者の保護が優先されるのは、2017年改正民法は466条の2で抗弁の付着性の観点から自己の権利の有効性を判断できるためである。3 債務者の利益保護(1) 悪意・重過失の譲受人に対する履行拒絶民法466条2項は、債権譲渡を保護する方針で、つまり譲渡制限の保護を重視する利益を立てた(2(1))。反面、債務者は弁済の相手方を譲渡人に固定することによって生じる利益を有しているから、そのような債務者の利益にどう配慮すべきか、次に問題となる。譲渡制限特約に対抗することのできる場合の第三者の主観的態様に応じて区別する考え方は、2017年改正民法466条2項において採用されており、そうした考え方自体は民法466条3項にもそのまま承継されている。すなわち、Cが譲渡制限特約の存在について悪意の場合、Bにも応力を主張するまでもなく、BがCに弁済することを拒否し、代金を全額Bに持参して供託することも許されよう。そこで、Cが譲渡制限特約がある場合は悪意と推定され、Bは、Cへの請求において、譲渡を承諾してCに対して弁済をしてもよいし、特約に基づき自己の債務を履行するように絶えず促したうえで、Aに対して弁済その他の債務消滅行為(相殺など)をしてもよい。このように、債権の履行拒絶特約は、譲受人の悪意・重過失の限度で、債権の帰属・収支機能を弁済請求の債権者の分離と承認を促すものとして再構成されており、従来の物権的効果を精緻化したものといえよう。(2) 供託債務者Bは譲受人の主観的態様を窺知しうる立場にはない。そうすると債権者譲渡の事実を知ったBとしては、そもそも譲渡制限特約のもとに主張できるのかどうかかわからない不安定な立場に置かれる。また、本問のように債権者がCとDに二重に譲渡されていることもあり、いずれに支払うべきか迷うことも考えられる。そこで、債務者はBのような場合に供託をして免責を得ることができるとされている(466条の2)。2017年改正民法は、悪意・重過失の譲渡人は無効となるため、A・C・Dのいずれかの者も過失なく知ることができない場合に該当し、非弁済供託の一般規定(旧494条後段)に従い供託することができる。ところが、譲渡制限特約付債権の譲渡が常に有効とされ、債務者が債権を譲渡することができない事態が生じないことになったため、特約の存在を知るか否かが重要な要素である。4 債務者の抗弁権の主張が制約される場合(1) 悪意・善意で譲渡Cは、悪意で債権αを取得してもBが譲渡制限特約を主張してAに弁済すればCに対して不当利得返還請求ができる。この点は改正民法上も大きな違いはなく、債権の譲渡性を高めるうえで重要な改正点と評価されている。もっとも、これだけでは譲受人の利益保護というわけではない。すなわち、このときのBの意思が大切であり、Bは債権者ではないA・Bに対して債務を履行して弁済する。そうすると、Bは、Cの故意・重過失による無効を主張してCに対して債務の履行を拒絶しないことになるとも想定しておかねばならない。B間に履行の履行を強制できないという不利益が生じることがないという状態が続くのが問題である。そこで、このような事態の早期収拾に苦慮した譲受人は相当の期間を定めて譲受人に履行を請求するよう催告することができ、債務者は、相当の期間の経過後もAに履行がないときは、債務者は譲渡制限特約を主張することをできなくなる(466条4項)。特約の存在により債権を譲渡するべきでないと考える場合であっても、譲渡されるべきでない利益を守るべき手続きにすぎずにおり、債務者が履行によって保護されるべき債権の譲渡の効力を否定して譲受人へ履行を拒絶する正当な利益はないという趣旨が問題である。よって、悪意・重過失のCがAに履行するよう催告をして相当期間が経過した後はBがCにAの履行しない場合、Cの請求・催告義務違反の場合と同じ法律関係に転換し、Bは、譲渡制限特約の存在を無視して自己の債務を請求することができることになる。(2) 倒産・転付命令等による債務者が破産等により任意に債務の履行を期待することを認め、債務者の主観的態様にかかわらず、譲渡制限特約付債権を譲渡することによる。Cが譲渡制限特約付債権の譲渡を得意とする場合にも、転付命令、命令によって取得することができる(466条の5第1項)。本問において、仮にCが債権を譲り受け、代物弁済・転付命令を得た場合、B・重過失であっても、Bは客観的に主張されることはない。また、仮にCに対する一般債権者Eが差押命令を得た場合は、すでにCに確定的に帰属しているから、Eも、その主観的態様にかかわらず、債権αを差押・転付命令により取得することができる。もっとも、Bがよりも有利な地位に置かれるべき理由はない。Bは、Cの故意・重過失に由来する履行拒絶特約を主張しうる場合は、Eに対してBも同様にその特約を主張して履行を拒絶することができる(同条2項)。5 預貯金債権の特則(1) 物権的効果の維持これまで述べてきた譲渡制限特約に関する原則的ルールは、債権の種類や譲渡制限特約の当事者の属性、譲渡の回収行為の有無等を問わず、一律に適用して妥当する。唯一の例外は預貯金債権に関する譲渡制限特約に関する譲渡制限の物権的効果(2(1))が引き続き認められる。すなわち預貯金債権の譲渡の譲渡は原則として無効であり、善意・無重過失の譲受人への譲渡も無効である(466条の5第1項)。例外承認の正当化根拠として、①民法466条2項の適用に対応したシステムを構築し、それに伴って管理しようとすれば、コストが著しく増大すること、②頻繁に入出金が行われる膨大な数の預託口座の管理において円滑な払戻業務に支障が生じかねないこと、③預貯金債権はその性質上現金化されているも同然であり、差入人の資金調達の便宜を図るために譲渡性の障害となる特約の効力を制限する必要性に乏しい、などと説明されている。譲渡制限特約により譲渡が禁止される債権については、無効の譲渡であってもその後の譲渡(466条の5第2項、参考判例③、参考判例②)は有効に扱われ、Cに対して預金債権を譲渡した場合にも、Dはその後の善意・悪意にかかわらず債権αを差し押さえ転付命令により取得することができる。(2) 物権的効果の下での解除譲渡制限特約に物権的効果が認められるが、かつ譲受人が悪意・重過失である場合には問題となる(無効の主張権者の範囲である。原則として債務者による解除が常に有効であると考えると、原則として主張権者が債務者に限定されると考えられる(相対的無効説))。他方で、債務者の他に無効を主張することにつき独自の利益を有する者は無効を主張することができるという考え方(相対的無効説)もありうる。判例は、少なくとも譲渡人および譲渡人の他の債権者が物権的効果を主張しうる根拠を認めていない(参考判例①)。次に、債務者が譲渡を承諾した場合、譲渡が承諾時から将来的に有効になるのかどうかも問題となる。判例は、処分行為それ自体は無効だが、処分権限なき者のした法律行為について権利者のした追認に関する民法116条ただし書の法の法意に依拠し、債務者は、債権譲渡の事実を承諾より前に知っていたために有効になるものを、譲渡承諾後に出現した包括承継のような事由により譲渡債権の対抗的効力を有する第三者の利益を害することはできないと解している(参考判例④)。[関連問題]Aに破産手続が開始し、Eが破産管財人に選任された。CがBに対して債権αの履行を求めた場合、Bは本件特約を主張することができるか。また、Cは債権αを確実に回収するためにはどのような請求をするべきか(466条3項)。[参考文献]野澤正充・百選Ⅱ52頁/角紀代恵・平成21年度重判53頁/第一法規株関係159頁/講義207頁(小野美恵)/Before/After252頁(篠崎)(石田 剛)