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定型約款の拘束力

弁護士Xは自己の事務所にコピー機を設置して弁護士業務に使用するため、 業務用コピー機のリース業務を行っているYとの間でコピー機のリース契約 (月額2万円) および、 同コピー機の保守契約を締結した。 保守契約は、 Yから 「本契約の詳しい内容は約款に定められております。 約款は当社のインターネットサイトに掲載しておりますので後で覧になってください」といわれたが、 Xは多忙であったため、 約款の内容をよく読んでいなかった。 契約締結から1年が経過後、 Xは最近の郵便役務サービスを検討する際に、 トナーとコピー用紙を1枚数円で購入するよう、 Yから求められた。 Xがこれを拒絶しようとしたところ、 Yから 「当社の約款に、保守契約を締結した者は、毎月トナーとコピー用紙を1万円分購入すること」 を義務づける条項が入っております」 といわれた。 納得がいかないXはYに対して本リース契約と本保守契約を解除したい旨を主張したところ、 Yから 「リース契約、 保守契約ともに最低1年間は契約すること、 および、 1年以内にリース契約および保守契約を解除した場合にはXはYに対して違約金として残期間の賃料を支払う」旨が定められた条項が約款に定められていると主張された。 Xはコピー用紙とトナーの購入を義務づけられるのか。 また、 Yとの間の本件リース契約および本件保守契約を解除することはできるのか。解説1 約款とは何か・約款の拘束力をめぐる従来の学説約款とは、一般に、 契約の一方当事者が多数の相手方との契約に用いるためにあらかじめ定式化された契約条項の一群のことをいう。 約款は契約の一方当事者のみ (本問ではYのみ)によって定められ、 相手方 (本問ではX)はそこに含まれる契約条項の内容の決定に修正に関与しないところが、個々の契約の契約条項を内容とし、吟味することが困難なままに契約を締結することも多い。その結果、 相手方が思いもよらないような契約内容の条項に一方的に不利な内容の契約条項が約款に含まれていることがある。そこで、学説では、 約款に含まれる個別の条項の内容に当事者が合意し、それらが契約の内容に組み入れられるためにはどのような場合にのみか、および、約款に相手方にとって不利益な内容の条項が含まれていた場合に、当該条項の効力はどのようになるのかについて、議論が展開されてきた。 最近の学説によれば、 約款が契約内容に組み入れられるためには、 約款が相手方に開示され、 それによって相手方が約款の内容について検討する機会が確保された状態にあること、 および、 約款を組み入れる旨の当事者の合意が必要である。そのうえで、約款の個別条項が組み込まれたとしても、 当該約款に定める個別条項の内容が不当なものである場合には、当該個別条項の適用が制限される。 これが不当条項規制であり、民法の規定であれば公序良俗規定などによる条項無効や内容の解釈による実質的な内容規制、消費者契約については消費者契約法8条以下が規定による内容規制がなされる。 また、 条項作成者の相手方にとって不利益な条項が約款に含まれている場合には、 約款に含まれる個別の条項について、 信義則に反するような場合には、 条項作成者の相手方にとって予期できない内容の契約条項が約款に含まれている場合も、 不当条項の排除という考え方も存在している。民法では約款のうち、 「定型約款」において、 「契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体」 を定型約款の定義に合致したものとみなしたうえ (548条の2第1項本文)、 当事者の定型約款の個別内容の合意をしたものとみなされる場合を規定している (同項1号・2号)。 定型約款の当事者が拘束される場合を明文で定めている (同条1項・2項)。 また、 定型約款の中に不当な内容の条項が含まれている場合には、 当該条項がそもそも契約の内容として組み入れられないという効果が発生するため、 不当な内容の条項を実質的に排除することが可能である (548条の2)。本問でYがXをはじめとする顧客向けに使用している約款が民法の「定型約款」に当たる場合には、 本件約款がXを拘束するための要件を満たしているか否かが民法の定型約款の規定によって判断されることになる。 これに対して、「定型約款」には当たらないのであれば、以上に述べた学説の考え方に基づいて当該約款の拘束力の有無が判断されることになる。2 定型約款とはそこで、本間ではまずXをはじめとする顧客に対して用いている約款が「定型約款」に当たるか否かが問題となる。民法548条の2によると、 定型約款とは、 「定型取引において、 契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体」である。要件は以下のとおりである。(1) 要件① 「定型取引において」 用いられるものであることまず、「定型取引において」 用いられるものでなければならない。当該取引が「定型取引」に当たるか否かは、次の2つの要件のもとで判断される。第1に、「ある特定の者が不特定の者を相手方として行う取引」でなければならない。ここでは「多数」ではなく「不特定多数」であることが要件とされているが、これは相手方の個性にに着目した取引か否かが問題とする要件であると理解されている。このことから、相手方の個性に着目して締結される労働契約は「定型取引」ではない。もっとも、一定の範囲に属する「特定多数」の者との間での取引であっても、相手方の個性に着目せずに行う取引であれば、この要件を満たしうる。第2に、その内容の全部または一部が画一的であることが当事者双方にとって合理的なものであることが要求されている。すなわち、当事者が交渉によって契約条項を修正することにまったく予定されていない場合や、交渉作成者の都合(大量取引の定型性や迅速性)や事実上の力関係の差から交渉が想定されていないという場合ではなく、その取引の客観的な様相及びその取引に対する一般的な認識を踏まえて、契約相手方の交渉を待たずに一方当事者が準備した契約条項の総体をそのまま受け入れることが合理的であるといえる場合、言い換えれば、多数の人々に対して物やサービスが平等な基準で一律に提供される取引が、「定型取引」として想定されている。この場合に、当事者が事業者か消費者の区別はない。リース契約および保守契約はコピー機を日常的に利用したいと考える不特定多数の顧客を対象として、それらの顧客の個性を問わずに一律に締結される契約である。そのうえで、これらの契約が顧客ごとに討論等を重ねることなく一律の内容で提供されるものであることが通常ということができるかどうかかが問題となる。(2) 要件② 「契約の内容とすることを目的として」 特定の者により準備された条項の総体「契約の内容とすることを目的として」、すなわち、契約内容に組み入れることを目指して、当該定型取引を行うその特定の者により準備された条項の総体であれば、「定型約款」に当たる。本問のように、一方当事者 (Y) が複数の条項を掲載した約款をあらかじめ準備しているような場合がこれに当たる。(3) 民法の定型約款に関する経過措置定型約款に関する民法の規定については、原則として、2017年改正民法(以下、「改正民法」という)の下で締結された契約に係る定型約款についても全体としてこれを適用する (附則33条1項)。 ただし、改正前民法の規定によって生じた効力は妨げられない。 また、施行日の前日までの間に当事者の一方が準備または電磁的記録によって反対の意思(すなわち、同法の規定を適用しない旨の意思)を表示した場合に限り、当該契約については引き続き改正前民法によるが (附則33条2項・3項)、 「契約又は法律の規定により解除権を現に有する」 ことによって民法の規則を望まる場合に当該契約から離脱することができる者は、反対の意思を表示することができない (同条2項第一段後段部分)。3 定型約款のみなし合意(1) 問題の所在本問のように、約款に含まれる個別の条項の内容を相手方(X)が認識・理解していたとはいえない状態で契約が締結された場合に、Xはこれらの条項の条項に拘束されるのだろうか。従来の学説によればXが約款の内容を認識することができるよううえで、当該約款に合意したことが求められるかが民法の解釈としてどうなるのだろうか。(2) 定型約款へのみなし合意が認められる場合民法548条の2第1項によれば、以下の2つの場合には、定型約款準備者の相手方が定型約款の個別の条項に合意したものとみなされる。第1に、 定型取引を行うことの合意 (「定型取引合意」) をしたが、 定型約款を契約の内容とする旨の合意をした場合である (548条の2第1項1号)。合意は明示または黙示はもちろん、 黙示の合意もこれに当たる。第2に、 昔のような定型約款を契約に組み入れる旨の合意がない場合であっても、 あらかじめ (すなわち、 契約締結前に)、 「その定型約款を契約の内容とする」 旨を相手方に表示 (548条の2第1項2号) していた場合にも同様に定型約款に含まれる個別条項に合意したものとみなされる。 「約款に基づいて作成した」 旨を記載した契約書面もしくは契約に用いるために準備した者も含まれる。民法548条の2第1項では、 約款の内容そのものを契約締結時までに事前に相手方に示すことや、 相手方が合理的な行動をとれば約款の内容を知ることができる状態が確保されていることは要件とされておらず、 同項2号のように、定型約款を準備した者が 「その定型約款を契約の内容とする」旨を相手方に表示していた場合にも、 相手方の約款に含まれる個別条項への合意があったとみなされる。 本問では、 XとYがコピー機のリース契約と保守契約という定型取引を行う旨の合意をしていることを前提として、 Yの 「本契約の詳しい内容は約款に定められております。 約款は当社のインターネットサイトに掲載されておりますので後でご覧になってください」という言葉が、 本件契約に約款を契約の内容とする旨を相手方 (X) に表示したものと判断できるかどうかが問題となる。しかし、これでは定型約款準備者の相手方からすれば、 何が契約内容になるかをあまりたどらない状態の約款に拘束されるおそれがある。特に、 民法548条の2第1項2号については、 相手方の定型約款への 「ここにでは個別の条項まで具体的に定型約款を準備する者と合意する」 との合意までない場合は、 相手方は合意していない定型約款に拘束されるおそれがある。 これについて、 同号についても、 定型約款準備者が定型約款による旨を表示したことに対して、 相手方が異議をとどめずに定型取引についての合意をした (すなわち、 黙示の合意があった) という点に定型約款の拘束力の根拠を求めるものであるとの見方が有力に主張されている。しかし、 約款の表示が相手方に対する契約内容についての情報提供の機能を も果たすべきことを踏まえると、 以上の要件だけではこの機能が十分に果たされないおそれがある。そこで、民法548条の3が 「定型約款が契約の内容とされる」 という条文の前に 「定型約款準備者が定型約款を契約に組み込む旨の意思表示をしたとき」 あるいは 「定型約款準備者が定型約款の開示義務を負う」 といった文言を挿入して解釈したうえで、 「相当な方法としては、 定型約款準備者が契約条項を記載した書面を現実に相手方に渡したり、 定型約款準備者が運営するホームページで表示するといった方法が考えられているが、 相手方に契約上の権利義務の記録が確保できるよう、 契約締結後も可能な限り相手方の定型約款の記録が確保できるのが望ましいとの見方も有力に主張されている。ただし、定型約款準備者がすでに相手方に対して定型約款を記載した書面を交付し、 またはこれを記録した電磁的記録 (CDの交付やメールでのPDFファイルの送信など) を提供していたときは、 相手方の手元に定型約款があっていつでも相手方が内容を確認できる状態となっていることから、 その後の請求を認める必要がない (548条の3第1項ただし書)。民法548条の2が適用されない、 当初定型約款の契約に組み入れは、 一方的、 通信販売等が発生した場合その正常な場合がある場合には、この限りでない。その一方で、 定型取引の請求が円滑さを著しく害するおそれがある場合には、信義則上、許容の限度で当該表示の規定が適用されることもある。 開示の正当な理由なき場合は継続した役務の提供の記録・残存物の返還請求権に関する損害賠償請求、 残存物の価額に相当する額の支払を請求することができると考えられる。以上の視点に基づけば、 約款の内容の開示請求があった場合の、 定型約款の開示が円滑性に著しい支障が生じるおそれがあるため、 定型約款の開示請求権が認められると解される。 したがって、 定型約款準備者は、 契約の締結後においても相手方からの請求があったときには、 定型約款の内容をいつでも情報提供できるよう準備しておく必要がある。 少なくとも約款使用者が相手方の約款の内容についての認識をできるだけ容易に結論に同意を得ているといえることが、 約款の拘束力を肯定するうえでも求められるのではないだろうか。4 みなし合意の例外規定以上のように、 民法所定の規定によれば定型約款へのみなし合意が比較的緩やかに認められるが、 定型契約内の個別の条項の内容によってはみなし合意が否定されることがある。 民法548条の2第2項によると、 同条1項の各号の場合のうち、 「相手方の権利を制限し、 又は相手方の義務を加重する条項であって、 その定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして第1条第2項に規定する基本原則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるもの」 については、 合意をしなかったものとみなされる。本条は、緩やかな要件で合意したとみなされる定型約款に紛れ込んでいる不当条項や不意打ち条項を契約から除外するものである。 もっとも、 消費者契約法10条の同法の公序良俗規定による不当条項規制は、 問題となる条項に対する合意が成立していることを前提としたうえで不当な条項を無効とする規定であるのに対して、 民法548条の2第3項はこの要件に該当する不当条項については合意はしなかったものとみなすという規定である。(1) 要件① 「相手方の権利を制限し、 又は相手方の義務を加重する条項」みなし合意が否定される条項は、 「相手方の権利を制限し、 又は相手方の義務を加重する条項」である。 具体的には、 当該条項がなければ認められるであろう相手方の権利範囲が制限・加重されている場合には、 この要件を満たす。本問では、 毎月トナーとコピー用紙を購入させるという条項の内容、および、 最低1年間の契約期間を定め、 途中で解除する場合には違約金を課すという条項の内容が、 相手方の権利義務を制限・加重したものといえるかどうかが問題となる。(2) 要件② 「その定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして第1条第2項に規定する基本原則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるもの」当該「定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念」 を考慮したうえで、 当該条項が信義則に反して相手方の利益を一方的に害するといえるかが問題となる。具体的には、まず、 「定型取引の条項」 は、条項が記載された書面性や定型約款の条項が予測しない条項が存在する可能性があるという点で、契約の相手方を考慮するための要件であること、 相手方にとって予測し得ない内容が定型約款に存在場合には、 信義則に反することとなると判断される可能性がある。 また、 「定型取引の実情」 は 「取引上の社会通念」 という要件では、 当該条項そのものが取引の慣習に合致することができない事情によるものであるとか、 産業界の慣行に合致するなど、 様々な取引慣行や取引全体にわたる実態を考慮して判断することが予定されている。本問では、 トナーとコピー用紙を毎月購入すること及び、 違約金条項が定型取引の相手方 (X) にとって予測し得ない条項であったり、 コピー機のリース取引における慣行等を考慮した結果、 信義則に反する条項といえるかどうかが問題となる。 なお、 仮に本条に基づいてみなし合意が否定されたとしても、民法の公序良俗規定に照らしてこれらの条項が無効となるかどうかも検討する必要がある。5 定型約款の変更民法の定型約款の規定には、 定型約款準備者が個別に相手方と合意をすることなく定型約款の変更ができる場合の要件を定めた規定が存在する。 本章であれば、 契約内容を変更する場合には相手方との合意によらなければならず、 これは民法契約による契約の場合も同様である。 しかし、 定型約款のように相手方が契約内容を熟知せずに契約に個別的に相手方との合意を得ることは困難ではないことから、 民法において契約の変更に関する規定が設けられた。具体的には、 民法548条の4によれば、 「定型約款の変更が、 相手方の一般の利益に適合するとき」 または、 「定型約款の変更が、 契約をした目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、この条の規定により定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無及びその内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき」 (同条1項2号) には、 定型約款準備者は個別的に相手方と合意をすることなく契約の内容を変更することができる (変更の効力発生時期の定めをおく必要がある)。 ただし、 定型約款の変更をするときは、その効力発生時期を定め、かつ、 「定型約款を変更する旨及び変更後の定型約款の内容並びにその効力発生時期をインターネットの利用その他の適切な方法により」 (548条の4第2項)、 効力発生時期到来までに周知しなければならない (同条3項、 定型約款の内容変更のための手続的要件)。関連問題本問で、Yが保守契約を締結した顧客が支払う毎月のメンテナンス料金を値上げするために定型約款の内容を変更することは法的に可能か。可能な場合、どのような要件に基づいて認められるか。 メンテナンス料金の値下げのために変更することは可能か (548条の4)。