所有権留保
甲土地を所有するAは、Bに対し、2021年10月6日、期間を3年とし、賃料を月10万円として同土地を貸した。Bは、工作機械を販売する事業を営む株式会社であり、仕入れた機械の一時保管場所として甲土地を借りた。工作機械の製造業者Cは、2022年1月9日、製造した製造Cを代金300万円で、また動産Dを代金200万円でBに売り渡す旨の契約をし、いずれらが代金を完済するまでCが所有権を留保することが約された。同月20日、CがBに対し動産乙・丙を引き渡し、Bは、これらを甲土地上に置いたが、動産乙は、同年3月20日に代金450万円としてDに売り渡す旨の契約が成立し、同月28日に甲土地から搬出されDに引き渡された。この頃、BのAに対する賃料の支払の滞りがちになったことから、Aは、Bに対し、同年1月分から3月分までの賃料の支払を催告し、また、同年4月14日に甲土地の賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした。(1) この場合について、Dは、Bに対し、動産乙の返還を請求することができるか。Bに対し返還請求が開始したときに、Cは、Bの債務に対し、動産丙の返還を求めることができるか。Cは、Dに対し、Bに支払うべき代金のうち300万円をDに支払うべきことを請求することができるか、という点を考察せよ。(2) B・C間の売買契約に、代金完済まで所有権を留保するという約定がなかったとする場合に、Dは、Cに対し、どのような主張をすることができるか。Dに対し破産手続が開始したときに、Cは、Bに対し、どのような権利行使をすることができるか。Cは、Dに対し、Bに支払うべき代金のうち300万円をDに支払うべきことを請求することができるか、という各点を考察せよ。●解説●1. 譲渡状況経済的取引から生じる動産の売買において、しばしば動産の売主が買主から代金の支払を受けないまま、買主に目的物を引き渡すことがある。これは、売主と買主との間に売買信用が設定されることによるものであるが、この間に買主が倒産するなどした場合には、売主は代金の回収が困難となりかねない。そこで、この間に買主から売主への代金の支払を確保する目的で、動産に何らかの担保を設定する必要がある(333条)。また、この間に買主から第三者に目的物が譲渡されて引渡しとなる場合も考えられる。2. 所有権留保(1) 意義所有権留保は、売買において所有権が移転する時期を当事者の合意で定めることは可能である。この時期を前提として、買主が代金を支払うまで所有権を売主に留保する趣旨の特約が結ばれることが許容される。所有権留保は、代金の支払の担保のために売買の目的である動産に所有権を留保する趣旨の合意(所有権留保特約)がなされる場合である。(2) 実行所有権留保による代金担保の実行は、上述のとおり、留保されていた所有権の目的物の返還請求による。所有権留保の構成にもとづけば、単に所有権移転時期に関する特約として存在したことを前提に、これによって目的物を返還するにとどまり、これによって目的物を返還することを意図する。所有権留保の場合は、これに対して目的物を返還するにとどまり、これによって目的物を返還することを意図する。3. 留保所有権者の権利行使動産の売主が有する留保所有権は、買主との間では完全な所有権としての効力を有するが、第三者との間では担保権としての効力しか有さない。そのため、第三取得者が即時取得の要件を具備した場合には、留保所有権は消滅する(即時取得の対象)。4. 転得者との関係売買目的物の所有権が第三者に移転し、かつ引渡しもされた場合には、もはや当該動産の上へは先取特権を行使することはできないものとされる。民法333条の定めるるところであり、第三取得者の善意・悪意を問わないとするのが伝統的な解釈である。5. 物上代位売買目的動産について売却・賃貸・滅失・損傷があった場合において、売主は、それらにより買主が取得した債権の上に物上代位をすることができる(304条)。いまだ完全に代金を支払っていない買主が第三者に目的物を転売した場合において、売主は、民法304条1項および民事執行法193条1項後段に従い、買主の転売主に対する代金債権に物上代位をすることができる。●関連問題●B・C間の動産丙の売買契約において、本問のとおり、Bが代金を完済するまでCが所有権を留保する旨が約されていたとする場合ににおいて、本問のAは、Cに対し、動産丙を甲土地から撤去することを求めることができるか。また、B・C間の動産丙の売買契約において、Bが代金を完済するまでCが所有権を留保する旨の契約条件がなかったとする場合において、Aは、Bの未払賃料を取り立てるため、丙動産を差し押えることができるか。それができるとする場合におけるA・Cの権利関係は、どのように考えられるか。●参考文献●田髙寛貴・判タ1305号(2009)48頁(参考判例①判批)和田真一Ⅰ(第8版)(2018)204頁(参考判例③判批)