不当利得
(1) 製紙会社Aの従業員Bは、Aの工場から市場価格500万円の製紙原料を窃取し、翌日に原料を特殊物品の販売業者Cに200万円で売却した。その1ヶ月後に、Cは製紙原料をDに500万円で売却し、Dはこれを利用して自分の材料も加えて紙製品を製造した(製品の時価は、1500万円)。Aは、Bに対して500万円の不当利得返還請求ができるか。さらに、Aは、善意・無過失のCに対して製紙原料の市場価格500万円を不当利得として返還請求できるか。Cが製紙原料をBの所有物と考えていたことに、善意だが過失があったときはどうか。(2) AはDに対して500万円の不当利得返還請求ができるか。(3) 小問(1)で、CのDへの売却代金が700万円だった場合に、AはCに対して700万円の返還請求ができるか。参考判例① 大判昭和12・7・3民集16巻1089頁② 最判昭和26・11・27民集5巻13号775頁③ 最判平成12・6・27民集54巻5号1737頁④ 最判平成7・12・19民録24輯2367頁[解 説]1 AのBに対する請求本問では、Aの動産(製紙原料)はBに窃取されている。だから、Cが動産をDに転売していなければ、Aは窃取から2年間はCに対して現物返還の請求が可能だった(民法193条)。その結果、最初はAのBに対する不法行為に基づく損害賠償を肯定していたが (大判明治43・6・9刑録16巻1125頁(注:後) 後に判例変更して、Cに対して現物返還の請求は認められるには「損害」はなく、Bの不法行為は成立しないとしている(大判昭和13・7・11判決全集6輯10号6頁[原審])。大判大正15・5・28民集5巻6号(土地))。そうすると、AのBに損害賠re償請求の根拠を認めるか、③XはAに対して報酬債権を有するがため、Yに対して不当利得返還請求をしないのが契約の原則であるが、Aが無資力のため報酬債権が無価値であることは、その限度においてYの利得はXの犠牲および負担において生じたものであることを考慮すると、甲の修理費用はAが負担するという特約がA・Y間にあったとしても、Xは、Aに対する報酬債権が無価値である限度において、Yの利得を返還請求できるものと解する、と判示して、原判決を破棄し差し戻した。以上からすると、参考判例①は、Yの利益獲得につき有償・無償の区別を前提とせず (すなわち有償性を捨象せず)、Xの損失とYの利得との間には直接の因果関係があることを前提に(前述①)、Xの報酬債権が無価値である限度において、XのYに対する転用物訴権を肯定したとみえる(前述②)。2 AのCに対する不当利得返還請求本問では、CはBに動産を転売しているから、AのCに対する動産の回復請求は不可能となっている。さらに、CがBに動産の占有を善意に取得したことによる損害のてん補の問題(709条)も成立しない。ただし、参考判例①は、Aの従業員BがAのブドウを窃取して、同様の物品の販売業者Cに転売し、CがDに転売しDが費消したというケースである。ただし、その前提に、まずBがそれらの内、Cの返還義務の範囲である。すなわち、BにはDへの動産の売却で500万円を利得しているので、Bに500万円200円を支払って、だから (動産を占有管理権があれば、民法193条で確定的に所有権を取得したはずの) 善意・無過失なければ、民法192条で確定的に所有権を取得したはずの) 善意・無過失そうすると、類型論の学説は、AのCに対する物権的請求に対して、CはBC間の積極的信頼を優先できないはずだから、占有離脱の物権が適当な解決には至らない。さらに、類型論はXは有効な取引行為の占有者(後述若しくは公の信憑において、又はYから甲建物の鍵を預かる購入者から、善意で買い受けたときに、占有者は有効に成立した社会の価値判断が可能であると規定している。だから、占有離脱の可能性は、占有者の優先、公の信憑、同様の類型を異にするから動産を買い受けた場合に限られる。そうすると、両者の利益が競合したら、盗人から盗品を買い受けたのは、たとえ善意・無過失でも、B(買主)に支払った代金の対価弁償(代金弁償)の請求はできないというのである。ただし、以上はAのCに対する財産権の主張が可能な場合であり、他方で、善意・無過失のCのDに転売したとき、つまり、AがCに対して不当利得返還請求するときは、CはAに対して対価利益が可能だと考える余地もある。そうだとすると、所有者の占有離脱の請求が可能だと考える余地もあり、不当利得返還請求のときも、動産が占有離脱物でなければ民法192条によって確定的に所有権を取得したはずの善意・無過失の第三者Cは、対価利益という形での安全が拡大されたことになる。3 不当利得の類型論不当利得の類型は、不当利得以外の法制度が挫折した場合、たとえば、本問のように、動産はDの下で加工され新奇になっているから、所有権に基づく動産の回復請求は不能で、しかも、Cが善意・無過失であれば不法行為損害賠償請求権も成立しないときに、所有権の保護を補完するのが不当利得だという考え方である。そこで、類型論は、個々の不当利得返還請求の性質を、挫折した法制度、つまり、具体的な法律上の原因の欠如の類型に即して具体化する。だから、類型論は、不当利得返還請求の当事者の利益を、不当利得以外の法制度との整合的・目的に応える一種の補助線であり、多論である。その結果、類型論は、価値の移転・契約の拘束力などによって価値の移転、債権の移転などの一方の給付の類型、費用・政策された他方の利益、以上について一体とみなし、広義の所有権を補完する制度(他人の財産から受けた利益の返還、他人の労働の対価を避けて利得を回避させ財産としてのものを有する者(479条)に対する利得請求権を認め返還請求権、知的財産権の侵害など)、債務管理を補完する「支出不当利得」(他人の債務の弁済による「求償利得」他人の物への費用支出による「費用利得」)に、不当利得を区別している(さらに、三当事者ではなく、3人以上の間で利用が移動する場合を、「対象三者関係」として区別している)。そこから、本問でのAのCに対する動産権の回復請求は、侵害利得であり、AのCに対する動産の回復請求を補完するものだと考える。4 AのCに対する不当利得返還請求本問は異なり、Bが動産を加工せず、動産が現物でDの占有下にあったときは、AはDに対して回復請求が可能だが、善意・無過失のBからCに支払った代金500万円の対価弁償をAに対して請求できる(194条)。本問では、DはBから500万円の動産を加工して1500万円の新物品、つまり、「新物」にしているから、動産の所有権を取得している(246条)。ただし、加工によって損失を受けた者はDは、不当利得の規定(703条・704条)に従い、所有権を取得した者(D)に対して償還請求が可能である(248条)。もっとも、本問では、Aの善意・無過失のCのDへの市場価格500万円を不当利得として返還請求できるかは、CがDに転売した500万円の不当利得をAに代位行使として返還できるはずである。だから、本問では、結論として、AのDに対する不当利得返還請求には意味がなく、それでは、後でCがDに500万円で動産を売却していたときは、Aは動産の市場価格(500万円) - 代償弁償(300万円) = 差額(200万円)をDに対して現物返還の請求ができるのか。AのDに対する差額のDに対して現物返還の場合と同様だと考えると、AはDに500万円の請求が可能だと考えること。しかし、参考判例③は、民法194条の回復請求権の存在を前提として成立し、回復請求に代わる不当利得返還請求も同様であるとして、動産の占有権によって取得したDに対する回復請求のみならず、差額の不当利得返還請求を斥けて差額を支持した。AのCを総合すると、ここでは、現物返還が不合理、既存の所有者がAに不当利得返還請求するときは、善意・無過失の占有者からの取引の安全を大きく害することになる。加えて、判例(参考判例③)は、BがAから窃取した自動登録機に他人の動産を販売する商人Cに売却し、無償のDに機械を転売し、Dがこれを使用して印刷物の複製、および、CのDから古物商からAへの返還でDが機械を使用していた間の使用利益(賃料相当)を不当利得返還請求したケースで、Dは機械をAに返還する必要があるが、使用利益の返還の必要はないと判示している。もちろん、善意の占有者Dは、Aから訴えを提起されても係属する訴訟は、費消の使用利益の返還の必要はない(189条1項)。ここでは、動産は占有離脱物だが、民法192条ではなく民法194条のDに対する代価賠償はDは、民法189条以下の規定は、占有離脱物を前提によって取得した善意の第三者に対して、果実・使用利益の返還義務を免除し(189条1項)、損害賠償義務も負わない(191条)という形で、所有権取得には至らないが、物の使用利益の安定の要請が第二者の場合に限って、第三者が占有者Dから動産の返還請求を訴えたときは、訴訟係属後に与えられたものの占有者からみされる(189条2項)。だから、民法189条2項の規定を文言どおり適用すれば、Dは訴訟係属後の使用利益の返還の必要があるが、ところが、参考判例③は、①被害者はAに回復請求する、回復をためらうかどうか。の選択肢があるが、Aの選択によって使用利益の返還義務の有無が決まるのは、民法194条の目的である善意の占有者の保護と占有物との間の投下資本を安定させる、代金弁償にはほぼ合致しないこととの均衡上、占有者の利益、両者の利益を比較衡量して、善意・無過失の占有離脱物の転得者でも、使用利益の返還を認めている。だから、CがDに300万円で動産を売却していたときに、AのCに対する200万円の侵害利得の請求を認めるか否かは、AのCに対する請求権のあり方(対価利益)の問題として、判じ・学説の方向性にかかっていると考えるべきであろう。5 CのDへの利益小問(3)では、CはDに対して動産の時価500万円と高額な700万円で動産を売却している。ただし、Cに故意・過失があっても、Aの不法行為による損害賠償は、Aの損害のみの填補が目的だから、賠償額は時価500万円である。Aの不法行為返還請求も、侵害利得はCのDへの転売でもAの損失の補填が目的だから、Aの損失の補填の範囲である500万円でも、侵害利得(不当利得)が効果はAに最終的に帰属した客観的価値(市場価値)の客観性である。以上の基礎となると、市場価値500万円以上の200万円は、侵害利得ではなく投機的に得た有利の機会にすぎなく、このてん補・予防を治療するという評価できる。ただし、Cが故意にAの動産を処分して高額の売却益を取得したときは、不法行為の予防的効果を認めることが公平に合致するとする考え方もある。その結果、判例は、不法行為とは別に、不当利得請求権をAは行使できると考える。その結果、判例はAは行使できる物権の追及権から派生する、物の所有権に付着する人格権から、他人に物を管理させる意思(697条1項「他人のために」には事務を管理する意思)、不当利得の事務についてAの事務を事務管理(不法行為・666条)を前提に、事務管理の事務を事務管理するという意思(参考判例①)。ただし、学説は事務管理を支持するものの②は存在(参考判例①)、ただし、学説は事務管理を支持する。ものは必ずしも多くはない。他方で、不法行為の効果も、損害のてん補のはずである。しかし、故意の不法行為では、損害額を慰謝料額に評価して、加害者の利益を相殺すると考えるという説が、特に、侵害はあっても発生が困難で必ずしも賠償が確保されるとは限らない知的財産権の分野で有力に主張されている。現に、たとえば、特許法102条2項は、特許権者の損害額を侵害・過失による侵害者の利益の額と推定している。ただし、以上の知的財産権の侵害での損害額を、不法行為の分野にも一般化できるかは問題である。もっとも、この2つの具体的な処分は客観的処分(相当額)と推定されるべきであろう。この理は処分された物の一般的な客観的な処分ないし代替的な特定物の処分の客観的な処分の場合には特に妥当する。つまり、処分益は客観的価値の算定の出発点であり、損失者が処分価格が客観的価値より安価と考えるときは損失者が、利得者が処分価格が客観的価値より高価と考えるときは利得者が、客観的価値の証明責任を負担することになる。関連問題Aが死亡し、Aの子B・Cが2分の1ずつの遺産を相続した。AにはDに対して200万円の現金債権があったが、BはDから200万円全額の弁済を受けた。CはDに対して100万円の弁済を請求できるか。さらに、CがDに請求せず、Bに対して100万円を不当利得として返還請求することは可能か (最判平成17・9・11判時1911号97頁を参照)。参考文献好美清光・判例387号 (1979) 22頁 / 沖野都・民数219号(1998) 58頁 / 窪田充見「新注釈民法(16)有斐閣(2017)」126頁・195頁(藤原正則)(藤原正則)