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種類債務の履行の提供と受領遅滞

2022年6月10日、X会社はY会社との間で、Xが製造するICチップをYが7月から向こう6か月にわたって1000枚ずつ、毎月25日にXがYの倉庫に搬入し、Yが代金総額600万円を各月の納品後12月25日にまとめて支払う旨の契約を締結した。その後に製品価格が急落していたところ、7月25日にXが製造したICチップをYの倉庫まで運送したが、Yは、製品価格の急落を理由に荷引き取りをすることができないので、7月分を8月と一緒に8月25日に引き取ることを申しいれた。やむなく、Xは当該製品を自社の倉庫に戻して、8月25日になって再度、Xは、取引先のA会社に納入する同種製品と一緒になってYの倉庫まで製品を運んだが、Yからは、XがYに不良品質の契約を製造しているにもかかわらず、Yはそのことができないので、Yは受け取りを拒絶した2か月分の製品とその日にA社に入荷する同種製品3000枚をトラックで、それぞれの会社を仕分けせずに、A会社に納品するために進んでいたところ、対向車線を走っていたトレーラーが突如車線をはみ出して、半回転して衝突した。それからトレーラーが発生した火災によって運搬中の製品のすべてが焼失した。XはYの不誠実な対応に失望していたため、Yとの今後の取引をとりやめたい。あるいは、Yとの取引を継続しうるとしても2か月分の製品代金200万円を請求したい。XはYにどのような根拠に基づき主張が可能であるか。●参考判例●① 最判昭30・10・18民集9巻11号1642頁② 最判昭40・12・3民集19巻9号2090頁③ 最判昭46・12・16民集25巻9号1472頁●解説●1 受領遅滞と契約解除(1) 受領遅滞の意義以下では、まず、Yとの売買契約をとりやめることができるのかどうかを検討しよう。債権者は、債務の履行に向けた自身の果たすべきすべての準備を終えて、その旨を債務者に通知すれば、債務の履行のために必要なすべてのことを終える。これが履行の提供といわれる(493条参照)。債務者は、原則として、債務者のもとで給付結果を提示しなければならないが(現実の提供)、債務者の協力を要する場合に債務者の準備をすれば足りる(口頭の提供)。債務の履行が提供されたにもかかわらず、債務者が債務を受領しないことによって生じる責任を負わない(492条)。その反面、債務者が債務の履行を怠った場合には、その後に債務者に責任が生じることになる。これが受領遅滞と呼ばれる(413条)。債権者に受領する義務を負うと考えれば、債務者の受領遅滞に応じないのは、債務者による受領義務の不履行を意味する(債務不履行責任説)。しかし、債権者に受領する義務を科すかには、問題に受領する義務を負う)との明確な定めがあるため、債務者の受領義務の違反を観念しがたい。したがって、受領遅滞は、債権者が理由なく受領しない事実がある場合に、履行の実現しないことによって生じる不利益を債務者から債権者に転嫁する法定の責任を意味するとされる(法定責任説)。もっとも、債権者にとって目的物の保管が莫大な負担となるため、あるいは、債権者が債権者に対する信頼を呈したため、契約関係を解消することを望む事態も想定できる。たとえ受領が権利であって義務でなくとも、目的物の給付の移転に応じる行為を「引渡」と「引渡」から区別した上で、目的物の引取りが重大な問題となりうる売買契約である。この見解によれば、引取りは義務であるから、引取りに応じなければ、買主は受領遅滞に陥ることはもちろん(413条)、それに加えて同時に、信義則上の引取義務の不履行に基づく責任も負担しなければならない。この場合、売主や引取人は買主や受注者に対して、債務不履行に基づく損害賠償はもちろん(参考判例②)、契約を解除することもできる(541条以下)。本問において、Yは不当に目的物の引取りに応じようとしなかったため、Xは、Yの引取義務の不履行に基づいて、契約全部を解除することができる(542条)。Xは併せて、Yに対して引取義務の不履行に基づいて発生した損害(売買代金額と目的物の時価との差額:参考判例③参照)の賠償を求めることもできる(415条1項)。2 種類債務の特定と危険負担(1) 種類債務の特定の効果次に、XがYとの売買契約を継続しつつ焼失した2か月分の商品代金の支払を求められるのか、検討しよう。本問におけるXのICチップの引渡義務のように、一定種類に属する一定数量の引渡しを内容とする債務を種類債務という(401条参照)。XはYとの売買契約に基づいて、定められた品質のICチップを定める義務を負うが、履行日にYに引き渡すべき債務を負う。その後に品質保証価格といったリスクは、すべて売主が負担しなければならない。しかし、売主がいつまでも買主への引渡義務に拘束され、その目的価格の下落ないしは商品の品質低下といったリスクは、売主にとっては過酷な状況となるうる。そこで、売主が市場から商品を仕入れ、あるいは自から商品を生産する場合に、当該製品をBの引取りに向けて、それ以後も売主の市場の商品に代え、その危険ないしは費用が債務者の負担に移転される時点(401条2項)は、当事者が契約によって目的物を特定する場合、当事者が契約で債務者に特定できる権利を付与する場合(401条2項後段)のほか、債務者が「給付をするのに必要な行為を完了」することによっても認められている(同項前段)。問題となるのは、種類債務の特定をもたらす「給付に必要な行為の完了」が何を意味するのかである。(2) 種類債務の特定の効果と危険負担債務者がその履行のためにするべきすべての行為を行えば履行の提供をしたことになるため、履行の提供と種類債務の特定の時期が問題となるが、成立債務(種類債務を履行するための具体的な行為は何か)を別に分析し、①債務者が準備を完了し、②債務者が分離して、③債務者が引渡場所まで運搬して給付の準備を完了したこと、をそれぞれ意味するとされる。このような見解によれば、債務者が特定の準備を完了するため、持参債務であれば引渡場所で準備を完了した時点で、本件と異なり取立債務の場合には、送付場所で債務者が準備を完了すればよい。これに対し、債務者が債務者の住所地で現実の引渡をするという(大判大正11・11・4民集1巻629頁)。このように、持参債務であっても、現実の提供に必ずしも目的物の分離は必要とされないのであるから、現実の提供があっても、なお種類債務の特定の時期が生じない事態も生じうるはずである。(3) 種類債務の特定の効果と危険負担種類債務の特定と、それ以後、その目的物だけが引渡債務の対象となるため、その時点から、原則として特定物債務のためのルールが適用される。したがって、特定された目的物について契約に従った善良な管理者の注意義務が発生し(400条)、その特定された目的物の所有権が買主に移転する(最判昭30・6・24民集9巻8号1528頁)。もっとも、種類債務の特定によって危険が買主に移転するか否かが問題となる。たとえば、取立債務であれば、売主が目的物を分離・通知して種類債務が特定しても、いまだ引き渡されていなければ、危険は買主に移転しない(567条1項後段)。売主は、当該目的物が滅失した場合にも、もはや目的物の調達をする必要がなくなるにすぎない。これに対して、従来、目的物の支配の移転と同時に危険が移転するのであれば(→本節2節)、種類債務は引渡しによっては特定物と解するとの見解も主張されてきた。しかし、引渡後に目的物が偶然燃焼によって滅失したときにも危険も移転するとされてきた(567条1項前段)、引渡後の場合はこれに基づく論述も可能である。もっとも、特定後に目的物が滅失した場合にもなお履行が請求できるとする見解もある。したがって、引渡後に目的物が偶然燃焼によって滅失しても、売主は引渡債務を免れる。(4) 受領遅滞と危険の移転引渡によって種類債務が特定するとすれば、売主が引渡しを履行したにもかかわらず、買主がその受領を拒絶した場合にはどうなるのであろうか。この場合に売主が危険を負担するというのでは不合理であるから、引渡後は、目的物の引渡しだけでなく、受領遅滞によっても債権債務の特定が生じるとする。たとえば、履行期間内に売主が引渡しを申し出たところ、買主がその受領を拒絶し、その後に商品が不可抗力で焼失したとすれば、やはり受領遅滞によって種類債務が特定し、危険は買主に移転するというのである。しかし、本問においては、Yが運送していたYのための製品は、Aに引き渡すべき製品から仕分けされずに一緒にされていた等の事情がないため、現実の提供が行われて受領遅滞が生じていてもなお種類債務の特定は生じていない。履行の提供によっても、目的物の分離がなく、種類債務は特定されていない以上、もし買主に受領するにいたる危険が移転する可能性があるならば、善管注意義務にも反して特定された商品の危険を考えなければならない。しかし、民法567条2項は、目的物が「特定」されていることを要件としており(同法567条2項後段)、受領遅滞による危険の移転を認めることから、目的物が分離・特定されていない本問には適用できない。したがって、本問では、より一般的に受領遅滞による危険の移転を定める民法413条の2第2項、536条2項によって、受領遅滞がある売買に買主が危険を負担すべきであるであろうか。結局、本問において、Xは7月・8月分の製品について、8月25日にYが受領を拒絶して受領遅滞に陥った後、Xの責めなく当該製品が焼失したため、受領遅滞に基づく危険の移転を根拠に、Yに対して当該2か月分の製品代金200万円を請求することができる。●関連問題●2022年6月10日、X会社はY会社との間で、Xが製造するICチップをYが7月から向こう6か月にわたって1000枚ずつ、毎月25日にYがXの倉庫に引取りに来ることで製品をYが納品し、Yが代金総額600万円を各月の納品後12月25日にまとめて支払う旨の契約を締結した。その後、7月25日の引渡に備えて、Xは製造したICチップを当社倉庫に投入して、他の会社に納入する同種のICチップと一緒に保管していたが、その後に製品価格の急落した際、7月25日にYが引取りに来ないので、翌日、Yに連絡をとった。Yは、製品価格の急落を思うと当面は思わしくないため、7月分と8月分を一緒に8月25日に引き取ると返答した。8月25日になってYが引取りに来ず、Xが翌日にYに連絡をしたところ、Yはそもそも当初より契約内容に納得しておらず、無効であると主張した。その後、8月27日に、Xの倉庫が不可抗力により製品とともにすべての製品が保管とともに燃焼してしまった。XはYの不誠実な対応に失望していたため、Yとの今後の取引をとりやめ、あわせて焼失した2か月分の製品代金200万円を請求したい。XはYにどのような主張が可能か。●参考文献●滝沢・38頁/宇野=45頁/宇野=1112頁/中田=47頁/43頁/村田=16頁「民法でささえる法」(有斐閣、2021)143頁/村田=43頁/滝沢=43頁「ケースで考える民法改正」(有斐閣、2022)283頁(大澤)/(北居功)