抵当権の効力の及ぶ範囲
Aは、甲土地とその地上にある乙建物を所有する。甲土地には、AがXに対して負う債務を担保するための抵当権が設定され、その旨の登記がされている。甲土地の一部は日本庭園となっており、Aは、その眺望を売りの1つとする料亭を乙建物で営んできた。2、3年ほど前までは経営は順調であった。ところが、近隣に建てられたホテルに客を奪われるようになったため、Aは、甲土地を駐車場として貸し出す等の対応を講じた。そこで、必要な経費の追加をXに願い出たところ、Xは、改めるべきは料理であるとの考えを示し、Aからの申出を断った。料亭に積極的でないと固く信じていたAは、Xからの借金を、父からの借金の手配に切りかえた。具体的には、甲土地に大きめの石灯籠と小さめの石灯籠(以下、それぞれ「石灯籠大」「石灯籠小」という)の2つを設置した。ところが、このような対応は客に受け入れられず、客足を回復するまでには至らなかった。やがて資金繰りに窮するようになったAは、石灯籠を2つとも、やはり料亭を経営する友人に売ることにした。石灯籠大は、後日、Aが引渡しに必要な手配をすることとされていたが、まだなお甲土地上に置かれたままである。石灯籠小は、契約を結んだその日にYが自らトラックで持ち去った。以上の場合において、Xは、Yに対し、石灯籠小の引渡しを請求し、石灯籠大につき甲土地に属することを請求することができるか。●解説●本問の抵当権者Xによる石灯籠の搬出禁止と原状回復の請求は、物権的請求権の行使による。石灯籠が甲土地に付合したものであること、XがこれをYに対抗できることが前提となる。1. 抵当権の効力が石灯籠に及ぶか抵当権は、土地・建物といった不動産に設定することができる(369条1項)が、その効力の及ぶ範囲は土地・建物それ自体に限られない。民法370条本文により、抵当不動産に「付合して一体となっている物」に抵当権の効力が及ぶことを規定し、同条本文が規定するように、建物は土地の付加物と一体とみることができる。ただし、土地に設定された抵当権の効力が建物に及ぶことはない。土地・建物は別個の不動産であり、建物自体の取引観念も自立している。抵当不動産に付合してその一部(構成部分)となっている物(付合物)を抵当権設定後に甲土地に樹木が植えられたならば、抵当権の効力は樹木にも及ぶ。これに対して、本問の石灯籠のような従物はどうか。主物と同一の所有者に属し、物の独立性を保ちながら、主物の経済的効用を高めるという(87条1項)、独立性を保ちながら、主物の経済的効用を高めるという特徴から、抵当不動産の従物は「付合して一体となっている物」に当たるとした判例があり、実際には、民法370条本文の付合に及ぶ効力とみている。2. 石灯籠につき抵当権の効力を第三者に対抗できるか抵当権は、石灯籠の取引の目的を妨害しないと解されているが、その他、抵当権の効力が及んでいることに対抗できるか(参考判例①)。●発展問題●Aは、Bから賃借している甲土地上に乙建物を所有し、これをコンサート会場として甲土地において利用していた。Aは、運搬資金を調達するための抵当権が設定・登記されている。乙建物の現在の評価額は1億円であり、甲に対する賃借権は2億円と評価する。(a) 10年以上前から使ってきた舞台装置(B)があったが、流行の演出をすることができなかったので、Aは、新しい舞台装置(B)をDから4億円で購入した。Bの現在の評価額は3億円であり、乙建物から容易に取り外すことができる。(b) 抵当権に基づく競売がなされ、Eが乙建物を買い受けた。Bが、「自分が土地を買い戻した」のでAのBであり、Eは抵当権の実行がないと、乙建物に対する占有の明渡しをEは、これを拒むことができるか。(c) DがGの舞台装置の所有権を自己に留保してAに売却したところ、Aから売買代金の支払を一切受けられなかったため、Gは引き上げた。Gは、乙建物に対する譲渡を譲受けることができるか。(d) Bの舞台装置は、Fに対して担保設定の趣旨で譲渡された。所有建物の登記にFの建物にも戻すことができる。これら、乙建物の価値に属するよう請求することができる。(e) Aは、事業がうまくいかなくなり、生活苦にすら困るようになったため、後片付けのことを考えず、Gの舞台装置をGに預けず、Gは、AがC以外の者からも生活資金の援助を頼っている事情を知り、これにつけ込んで、Bを2000万円で買い叩いた。Gは、乙建物に抵当権が設定されていることも知っていたが、これが過失なく知らなかったAに好機に乗じておりBの3億円で転売し、Bは、今自己の建物に持ち去った。Bは、GおよびHに対し、いかなる請求をすることができるか。●参考文献●吉積健三郎・百選Ⅰ 172頁青木則幸・百選Ⅰ 182頁