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訴えの変更

XはYとの間で,Yの所有する甲家屋についての売買契約を締結したが,履行期になってもYから甲家屋が引き渡されないので,甲家屋の引渡しおよび所有権移転登記を求める訴えを提起した。Yは本件売買契約には要素の錯誤があり無効であるとしてXの主張を争い,争点整理の結果,契約の有効性が争点であることが確認されたが,証拠調べの前に,甲家屋は焼失してしまった。Xは,甲家屋の焼失はYの帰責事由によるものであるとして,従前の請求を履行不能による損害賠償を求める訴えに変更する旨の申立てを書面で行った。Xによってなされた訴えの変更は認められるか。また仮に,Xによる訴えの変更がその要件を満たしているとして,裁判所は従前の請求をいかに扱うべきか。[⚫] 参考判例 [⚫]① 最判昭和 32・2・28 民集 11 巻 2 号 374 頁[⚫] 解説 [⚫]1 訴えの変更訴えの変更とは,原告が,すでに係属している訴訟手続を維持しつつ,当初申立てていた審判対象 (訴訟物) を変更することをいう。これによって,原告は当初提起していた審判対象では被告との間での紛争解決にとって有効適切でないことに気づいたような場合であっても,あらためて別訴を提起する必要はなくなり従前の審理を無駄にすることなく利用することができる。しかし他方で,これが無制約に認められるとすると,被告にとっては防御・応答の困難等の不利益が生じ,また審理も長期化・複雑化するといった弊害が生じることから,民事訴訟法は,①請求の基礎に同一性があること,②著しい訴訟遅滞をもたらさないこと,という要件の下に訴えの変更を認めている (143 条 1 項)。(1) 請求の基礎の同一性 この要件は,従前の請求とまったく関係のない請求が既存の手続に持ち込まれることによって生ずる被告の防御の困難を防ぐため,すなわち被告の利益保護のために設けられたものである,と解するのが一般的である。いかなる場合に請求の基礎に同一性があるといえるのか,という点については諸説唱えられているが,判例・実務は,請求の基礎の同一性を,「旧訴訟物的な利益給付請求」におけると同一性,新旧両請求の主要な事実が「その間において共通する関連性」などと解し実体的関連性を重視する立場と,② 「新訴と旧訴の事実資料の間に審理の継続的施行を正当化する程度の同一性を有し,両者が肯定できる」場合といった,裁判資料の利用可能性に重点を置く立場,さらに,③両者をもとに考慮する立場 (併用説),などがあるが,具体的帰結においては必ずしも大差は生じていないとも言われている (上田 82 頁など)。また,併用説をさらに進めて,訴えの変更の時期が後になるほど①の側面 (実体的側面) からの請求の基礎の同一性を限定的に解すべきとする見解も存在する (谷口安平『民事訴訟法』〔改定2版・1987〕 183 頁)。(2) 著しい訴訟をもちきたさないこと 請求の基礎の同一性という要件に加え,民事訴訟法はさらに,訴えの変更を認めることによって著しく訴訟手続を遅滞させないことという要件 (143 条 1 項ただし書) を付加している。これは,訴えの変更を認めることによって生ずる訴訟経済の要請に対処するために設けられた要件とされる。よって,現実の訴訟追行の見地は,この要件を,被告の利益保護を図るためのものではなく,訴訟経済や審理の迅速性の防止といった公益保護を図るためのものであると捉え,この要件の判断は具体的状況に応じて裁判所が裁量で判定すべきとされ,また,被告の同意等があってもその判定には無関係とされる。ただし,ここでいう訴訟遅延が生じることによってもたらされる公益の侵害というものは,当該訴訟が長引くことによる抽象的な意味合いでの公益的要請(司法資源の無駄) といった点が考えられるが,上述の通説的見解も,訴訟手続に著しい遅滞が生ずるとして訴えの変更が認められないときでも別訴提起の余地は認められることからすると,限られた司法資源の有効利用という問題の解決には資さないようにも思われる。2 訴えの変更の態様訴えの変更には,次の2つの態様があるとされる。1つは,従前の請求 (旧請求) を維持しつつ,新たな請求 (新請求) を追加する場合であり,訴えの追加的変更と呼ばれる。これに対し,旧請求と交換して新請求を定立する場合を訴えの交換的変更と呼ぶ。訴えの交換的変更を,独自の類型として捉えるかどうかについては争いがある。多数見解は,訴えの追加的変更と,訴えの追加的変更と旧請求についての訴えの取下げとが結合したものと捉えている (複合行為説)。もっとも判例は,相手方が異議なく応答すれば旧請求の取下げについて黙示の同意ありとする (最判昭和41・1・21 民集 20 巻 1 号 94 頁)。一部の学説はこの考え方を支持し,訴えの変更の態様としては追加的変更のみを認めれば足り,訴えの変更の一態様としての交換的変更という独自の概念を定立する必要はないとする (三ヶ月 139-140 頁など)。他方で,学説の多くは,旧請求の訴え提起による時効の完成猶予の効果の新請求変更後における持続や,新請求の審判のために旧請求についての従前の審理 (裁判資料) の流用を説明するためには,訴えの交換的変更を独自の類型として位置付けるべきとする (独自類型説。新堂 771 頁,伊藤 646-647 頁,松本=上野 727 頁,上田 530 頁など)。この両説の実際的相違は,旧請求の訴訟係属が消滅するためには,訴えの取下げ,とりわけ被告の同意を要するかという点に現れてくる。しかしながら,独自類型説に基づく見解も,被告の利益保護という観点から,交換的変更の場合には被告の同意 (261 条 2 項類推) を要すると解している (独自類型説のうち,被告の同意を不要とするのは,伊藤 647 頁)。ことに鑑みると,結論において両説に大差はないともいえる。3 本問の検討本問の訴訟については,Xによってなされた訴えの変更の申立てが,訴えの変更の要件を満たしているかどうかが問題となる。まず,甲家屋の引渡請求という従前の請求と履行不能による損害賠償請求という新たな請求との間には,請求の基礎の同一性があるといえるかについて検討する。従前の請求原因は,X・Y間での売買契約の成立でありその有効性が争われていたところ,新請求における請求原因においても,Yについて本来の債務 (甲家屋の引渡義務) が成立していることが前提となることから,実体法的にみれば,両請求の基礎の同一性があるといえる。また,手続法的な側面に着目しても,売買契約の有効性に関する審理が有る程度まで進んでいたのであれば,これを新請求にも流用する実益は大きく,同様に請求の基礎の同一性が肯定されやすいといえよう。もっとも,旧請求についての審理が裁判をするのに熟するにいたり,新請求の審理のために新たな裁判資料の収集を必要とするといった,訴訟手続を著しく遅滞させると判断される場合には,訴えの変更は認められないことになる。このような場合には,Xとしては履行不能による損害賠償請求の訴えを提起せざるを得ないことになるが,1 注でも指摘したように,果たしてこのような区別によらせることが真に訴訟経済に適うことになるかについては疑問の余地があろう。本問の後段については,Xによる訴えの変更がいわゆる訴えの交換的変更に当たるものであることから,その同意の要件が問題となる。この点,複合行為説に立つと,訴えの交換的変更という独自の概念を認めないことから,旧請求については訴えの取下げがなされない以上,単に追加的変更として扱われることになり,旧請求についても本来判決を求める対象(判決事項)となる。他方,独自類型説に立つと,これが訴えの交換的変更を許容するに際しては訴えの取下げは必要とはされないものの,独自類型説の多くも被告の利益保護の観点から,交換的変更の場合であっても被告の同意を要すると解していることを踏まえると,Yの同意がないかぎり X による訴えの変更は単に追加的変更として扱われることになる。[⚫] 参考文献 [⚫]沢津浩・百選 66 頁(畑 宏樹)