東京都、神奈川県、埼玉県、大阪府、滋賀県で離婚・男女問題にお悩みなら
受付/月〜土10:00〜19:00 定休日/日曜・祝日
お問い合わせ
ラインお問い合わせ

事案解明義務

A社は、Y市内に産業廃棄物処理施設を設置する計画を立て、設置許可の申請を行った。Aの中間層は、専門家らで構成される産業廃棄物処理施設設置審議会での審査を経た後に、Y市長Bは事業の実施を計画に施設設置許可処分をした。設置予定地の周辺に在住するXらは、Yを相手に処分の取消しを求めて訴えを提起した。Bの設置許可処分が違法であると裁判所が認定するためには、Xはどのような事実を主張・立証しなければならないか。また、XがXの主張する事実を主張・立証することができない場合に、Yに対して、処分が適法でなかったことを主張・立証させる義務を課すことはできるか。●参考判例●最判平成4・10・29 民集46巻7号1174頁●解説●1 行政処分の取消訴訟における主張・立証責任本間の産業廃棄物処理施設設置許可処分のような行政庁の裁量処分は、裁量権の範囲の逸脱や濫用があった場合に、これを取り消すことができる(行訴30条)。一般に、行政処分の取消訴訟において、主張・立証責任が誰にあるのかは争いがあるが、裁量処分の取消事由については、原告が主張・立証責任を負うものと解されている。具体的には、原子力施設設置許可処分の違法性が認められるための裁判所の判断が争われる原子力発電所設置許可取消訴訟における判断は、原子力委員会(筆者注・現在では原子力安全委員会)若しくは原子炉安全専門審査会の専門技術的な調査審議及び判断を基にしてされた被告行政庁の判断に合理性があるか否かという観点から行われるべきであって、現在の科学技術水準に照らし、調査審議において用いられた具体的審査基準に不合理な点があり、あるいは当該原子炉施設が右の具体的審査基準に適合するとした被告行政庁若しくは原子炉安全専門審査会の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落があり、被告行政庁の判断がこれに依拠したと認められるときには右判断に不合理な点があるものとして、右判断に基づく原子炉設置許可処分は違法と解すべきである」。「被告行政庁がした右判断に不合理な点があることの主張、立証責任は、本来、原告が負うべきもの」とされる。そのため、原告としては、これらの要素を基礎づけるような具体的な事実を主張・立証しなければならない。このように、取消しを主張する原告に、取消事由を基礎付ける事実の主張・立証責任があるとしても、主張・立証に必要な産業廃棄物処理施設の安全性に関する資料のほとんどは行政庁側にあり、かつ、行政庁は安全性の調査に関わった多数の専門家を擁していることを考えると、専門知識のない原告が、上記事実を主張・立証することは困難を極める。そのため、本来であれば主張・立証責任を負わない行政庁側にも、一定の範囲で主張・立証の負担を課す必要性が認められるようになっている。2 事案解明義務とは本問のような行政訴訟に限らず、当事者間に、証拠や情報、専門知識の偏在がある訴訟において、本来の主張・立証責任を負う当事者(「立証責任者」)の負担を解消するために、一定の要件の下で、事案の真相を解明するために、明文の根拠のない法律構成を考える。その1つに、事案解明義務の議論がある。ただし、明文の根拠を持つ考え方の方が、より説得的である。事案解明義務が認められるのか。また、認められるとして、その根拠や要件、効果は何か、見ていきたい。事案解明義務を肯定する見解は、その根拠を、裁判所と当事者が協力して事案の真相を解明し、当事者が主張する権利保護を可能にするために、当事者が民事訴訟法上の一般的な義務であるとして、その義務が認められる要件として、①主張・立証責任を負う当事者が事件の事実関係から隔離されており、②その当事者が自己の主張につき具体的な手がかりを示し、③相手方当事者に事案解明を期待することが可能であり、④主張・立証責任を負う当事者が事実関係を知り得ずまたは事実関係から隔離されていることについて、非難されることがないことなどが必要である。この要件を満たす場合には、主張・立証責任を本来は負わない当事者が、具体的な主張・立証をする一般的な訴訟法上の義務を負い、これに違反した結果、要証事実が真偽不明に陥った場合に、当該当事者に訴訟上の不利益を課するとする (a説)。同じく事案解明義務を肯定する別の見解によれば、①証明責任を負う当事者が事象経過の外部におり、②事実を自ら解明する可能性を有しないが、③それに対して相手方は容易な事実解明をすることができる者であり、かつ、④具体的事情からみて、解明を相手方に期待し得る場合には、相手方は、信義則(2条)に基づく事案解明義務を負う。そして、証明責任を負う当事者の概括的な事実主張に対しても、期待可能な範囲で具体的な事実を挙げて否認したり、これを説明するための証拠提出義務を負う。これに応じない場合には、相手方の主張事実を有効に争ったものと認められず、自白が擬制されて、相手方の主張事実がただちに判決の基礎となる(b説)。もっとも、上記見解が必ずしも広く支持されているわけではない。一般に、当事者が信義則に基づく事案解明義務を負うことは肯定されているが、これに違反した場合に、真実擬制や証明責任の転換のような強い効果まで認めることは、明文の規定がない以上困難である、せいぜい、弁論の全趣旨(247条)として、違反者に不利益な事実認定をすることが可能であるという見解が散見されるにすぎない。3 最高裁判所の立場この点、参考判例①は、「原子炉施設の安全性に関する専門的調査審議等すべての過程において、被告行政庁が保持していることなどを考慮すると、被告行政庁の側において、まず、その依拠した前記具体的審査基準並びに調査審議及び判断の過程等、被告行政庁の判断に不合理な点のないことを相当の根拠、資料に基づき主張、立証する必要があり、被告行政庁が右主張、立証を尽くさない場合には、被告行政庁がした右判断に不合理な点があることが事実上推認される」としており、一般論として、被告に行政事件訴訟法上の事案解明義務があることを肯定したものといえる。ただし、結論として、被告行政庁は十分に主張・立証をしたため、原告は立証に成功しなかったと判断しており、被告がどの程度の主張・立証をすれば、義務を果たしたと評価できるかは明らかではない。また、先に紹介したa説、b説のように被告が事案解明義務を果たさなかった場合に、どのような訴訟上の効果が認められるかについても触れることはなく、被告の主張・立証が不十分であると裁判所が判断した場合に、原告の主張する事実を真実と認定できると解するにとどまる。さらにこの判例は、国賠法違反の場面として、要証事実が事実上立証を困難とする場合にも、事実上の推定を認めるには、一方の当事者が主張や証拠提出をしない場合には、その事実が当事者にとって不利益なものであるという経験則が機能する必要があるが、そのような経験則があるかは疑問である。そこで、判例のいう事実上の推定とは、単なる経験則に基づく事実上の推定ではなく、a説のように、それを超えた裁判規範を認めたものと解される。4 本問の検討このように、学説で主張されている事案解明義務の要件・効果が判例によって採用されているかどうかは明らかではない。仮にa説に従うと、本問では、原告は、行政庁での審査からYによる許可処分に至る一連の事実経過の外に置かれており、行政庁の判断の不合理性を基礎付ける具体的な事実の主張・立証責任が不可能であり、それについて、Xには非難可能性がある。これに対して、Yは審査に要した資料、専門家を擁しているYに判断の不合理ではなかったことを主張・立証させることは可能であり、また、期待しても不当ではない。そこで、XがYの判断の不合理さを基礎付ける具体的な手がかりさえ示せば(判例によれば、それさえ不要ともいえる)、Y側で、自己の判断が合理的でなかったことを基礎付ける具体的な事実を主張・立証する必要があり、それを怠った場合には、Xの主張する事実を真実であると擬制することができる。