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訴訟承継の範囲

YはXから土地を賃借し、その土地上に建物を建築した。その後、YはXに無断で上記建物の2階部分をZに賃貸したため、XはYに対し、賃貸借契約の解除に基づく建物収去土地明渡訴訟を提起した。しかし、第1審係属中にYが死亡した。またYは、第1審係属中、死亡前に建物をZに賃貸しており、いまも上記建物はZが占有していることがわかった。このときX・Y訴訟は手続を続行できるか。できるとすれば、誰がどのような手続をとればよいか。参考判例最判昭41・3・22民集20巻3号484頁解説1 訴訟承継の制度訴訟はその開始から終了まで、それなりの歳月を要するので、訴訟係属中に当事者が死亡したり、係争物の譲渡その他の処分がなされることは、あり得る。本問のように在来の当事者Yとの間で訴訟を続行することはできないし、紛争は残存するであろう。またX・Y訴訟を無にして、相続人または係争物の譲受人に対して新たに訴訟を提起させなければならないとすれば、Xの負担は大きい。また、口頭弁論終結後の承継人には既判力が及ぶのだから(115条1項3号)、その中間過程ともいうべき訴訟係属中に死亡、係争物の譲渡等があった場合にも、既存の訴訟の成果をある程度引き継がせるのが合理的である。そこで、訴訟係属中の当事者の死亡等に訴訟手続に反映させ、当事者を交替させ、かつ新当事者は旧当事者の訴訟上の地位を承継することとして、訴訟の続行を図ったのが、訴訟承継の制度である。訴訟承継には、当然承継と参加/引受承継の2種類がある。前者は、当事者の死亡等の一定的原因により旧当事者の地位を新当事者が包括的に承継し、当然に当事者の変更、訴訟承継が行われる場合である。後者は係争物譲渡等の承継原因が生じたときに(上記の包括承継に対して特定承継という)、譲受人等の承継人となるべき者が訴訟への参加を申し出るか(51条・49条)、またはその者が訴訟を引き受けるよう相手方が申し立てるのではなければ(50条)、当事者の変更すなわち訴訟承継が行われない場合である。狭義の訴訟承継とは後者を指す。特定承継について訴訟係属中にはそもそも係争物の譲渡を禁止する、当事者変更を判決の効力も譲受人に及ぼすと考え方もあり得るが(当事者恒定主義)、係争物の譲渡を自由に反映させ、承継人自身に手続を保障する現行制度(訴訟承継主義)のほうが優れている。他方、それではXとしてはYから第三者への譲渡や賃貸を見過ごしていればならないのではない困るので、訴訟承継主義の下でXには対抗措置として当事者判定のための処分が用いられる。しかし、Yから第三者に係争物が譲渡されないよう処分禁止の占有移転させないよう占有移転禁止の仮処分を申し立てることができる(民保53条・55条〜64条)。訴訟承継があれば、承継するとする新当事者は旧当事者が追行した訴訟の結果を承継し、それに拘束される。時効完成猶予、期間遵守の効力は維持され、係争物の譲渡を証拠調べへの結果は新当事者を拘束する。これは当然承継と参加・引受承継との違いではない。2 当然承継本問のYのように当事者の死亡すると、その地位が相続人に当然に承継される、と解されている。当然に当事者が変動するときは、新当事者の裁判を受ける権利を保障するため訴訟手続を中断させ、新当事者に受継させることになるのだが(124条以下)、訴訟代理人がいるときは中断・受継の手続を踏まなくてよいとされているので(同条2項)、訴訟代理人がそのまま手続を続行するのです当事者変更を申す必要はない。なお民訴規52条)、そのことが当然の承継を表している、というのである。しかし、代理人か当事者が旧当事者の死亡の事実と承継人であることを届け出なければ相手方当事者も裁判所もわかりようがない。当事者が全く届け出なければ訴訟の変更もわからない。このような場合に当事者が誰も届け出ないうちに訴訟が変更も変わっていたとみるのは、不自然である。本問でいうと、Yに訴訟代理人がなくYの死亡が判明すれば、その相続人の訴訟承継をするべく中断と受継を求めるか(124条1項1号)、訴訟代理人がそれをするか(126条)、裁判所が続行を命ずるか(129条)、Yに訴訟代理人があり、Y死亡の事実を知るときは、あらためてZの相続人から受任を受けて、以後は相続人の名で手続を進めるべきである。Zや裁判所が独自にY死亡を知ったときはYの訴訟代理人にそのように促すよう努力ができることであろう。けれどもY死亡と訴訟承継を明らかにするYの訴訟代理人がYの名で手続を進めると、中断・受継その他の手続もとらずに、このまま訴訟代理人が出て処理したことが問題とされている。しかしY死亡とYの名であっても実質を承継人(相続人)に対して判決されたものとみるとみるべき、とされている。3 参加・引受承継――承継人の範囲他方、本問のZについては参加/引受承継が問題となる。Zが自ら独立当事者参加(47条)[→問題70]の形式で追加参加してくるか(参加承継)、Xが訴訟引受けを申し立てることになる(引受承継)。通常、参加承継は、原告勝訴の見込みがなくなったとき(Xが勝てばZに引き渡されることが権利承継人の場合、49条)、本問のように被告側でできる(義務承継人の参加承継、51条)。現行法は、権利承継人の参加承継と義務承継人に対する引受承継に加え、権利承継人にも参加(最判承継人)を認め、権利承継人にも引受けさせることを明らかにした(同条)。しかしそもそもZが参加し、引受けを求める承継人と認められるか参加/引受けの範囲が問題となる。学説は、承継人は訴訟/引受承継の範囲は口頭弁論終結後の承継の範囲(115条1項3号)と同じであるとし、かつては訴訟物内容と連動して承継を解する説(訴訟物承継説)をとっていた。典型的には、建物収去土地明渡請求訴訟中に建物の所有権を取得する場合、当事者適格の移転、承継を認めた。しかしそれは本問のように、XはYに対し契約解除による建物収去土地明渡しを請求するが、Zに対しては契約関係はないので所有権に基づいて、しかし建物を違法占拠する請求という、承継人に対する請求内容と旧請求が一致しない場合には対応できない。本問とした参考判例①の事案では、XがZに対し所有権に基づく建物退去請求を立て、訴訟引受を申し立てたもので、Zは、X・Y請求は債権的請求権、X・Z請求は物権的請求であるから両者は別個で、Zは「訴訟の目的である義務の全部又は一部を承継した」(50条)とはいえず、承継ではないと結論した。しかし、従来、判例は物権的請求権に基づくかどうかで区別していなかった。さらに本問とした参考判例①は、承継人との間の新訴訟と旧訴訟と異なる場合にも訴訟引受けができることを明らかにし、その根拠を実体法的な観点からだけでなく訴訟法的な観点から実質的に考慮するとした。すなわち、Xに対するYの契約終了に基づく地上建物の収去義務は建物から立ち退く(義務も含み、この退去義務に関する紛争は建物の占有を承継するZに移行し、Zは「紛争の主体たる地位」をYから承継したとする。実質的にみても、Zの地位はYの主張と証拠に依存する。Zの訴訟引受けにより紛争の実効的解決が図られ、Xの保護になるので、XがZに新たに訴訟提起する代わりにZにX・Y訴訟を承継させたい、と)。したがって、本問ではZは訴訟引受けの申立てができる(Zから参加承継も可能)。なおここでは承継といっても、旧当事者と新当事者が交替するのではない。X・Z訴訟はZに承継されるとともに、旧当事者Yへの訴訟は前述2の通りYの相続人にも承継され、Y相続人に対しては建物収去土地明渡請求(Yが死亡していなければX・Y請求は残ったまま)、X・Z間では建物退去請求が併存することになる。4 学説の展開学説は、本問のような訴訟物から派生する権利関係に対応できないことを認識するようになり、従来の「訴訟物承継の連続」ではなく、「紛争の主体たる地位」の承継に賛成している(新堂幸司『訴訟物と争点効』(有斐閣・1988)207頁)。さらに一部の学説は、すでに審理を終えた後の口頭弁論終結後の承継人と比べ、これから審理が続く訴訟承継の場合は、関連する新紛争を取り込むことで、承継の範囲が広くてよいと考えるようになっている。また参加承継と引受承継では考慮要素が異なり、前者のほうがより広くてよいという考え方も生じている。参加承継は自発的であるのに対し、引受承継では、自分の関与していない訴訟状態を引き継がされるので、承継人の手続保障をより厳密に考える必要があるがある、というのである。ただし、参加承継にしても引受承継にしても、訴訟承継の効果について旧当事者の訴訟状態を全面的に引き継ぐと考えてよいか、疑問が向けられるようになっている。訴訟承継はあるが、その効果として旧当事者による訴訟記録に反映されない部分があったものではないか、というのである[→問題72]。参考文献重点講義民訴563頁/日比野泰久=争点90頁/厚=百選216頁(安西明子)