求償と代位
2024年4月1日、YはXとの間で1年後に返済することおよび利息を年10パーセントとすることを約定して、Xから5000万円の貸付を受けた。また、その契約によるYの債務を担保するために、AおよびBはいずれも法人がXとの間で書面により連帯保証契約を締結した。Cのその所有する土地甲に1番抵当権を設定した(同日、登記)。Xのその保証と物上保証とを受けたものであり、AとYの間では求償権の保証割合(以下単に「割合」という)を年10パーセントと約定している。さらに、A・B・Cの3者合意によって、Aが弁済した場合にその全額につきBに対する保証債権やCの1番抵当権を行使できること、およびBやCが弁済しても代位しないことを合意している。2026年4月1日にYはXに支払をしなかったので、同日、Aは利息と損害金を含めた3600万円をXに支払った。それに先立って、Dが甲に2番抵当権を取得しており(2025年2月15日登記)、その被担保債権は2000万円の現金債権である。(1) 2030年4月2日、それまでに債権を回収できていなかったAがXおよびBに対しYの求償金の支払を求めてきた。この場合にAは依然としてどのような請求ができるか。請求原因を整理して、それぞれの要件を充足するかどうかを説明せよ。また、その請求に対してはどのような反論をすることができるか。(2) Aの申立てによって甲の競売手続が開始し、執行裁判所は2028年4月2日に配当期日を指定した(民法85条1項本文、民執59条1項参照)。その配当原資は4000万円であった。この場合に執行裁判所がDに配当すべき金額はいくらか。その時点でDからCに対する現金債権について利息や損害金は発生しておらず、また、AからYに対する求償権の総額は4320万円(AがYに支払った3600万円および2年分の遅延損害金720万円の合計額)であり、求償権の総額は4200万円(元本3000万円、利息300万円、損害金900万円)である。(3) 2025年3月1日に、EがCから甲を購入し、所有権の移転登記も経ている。その事情は本問における配当に影響を及ぼすか。●参考判例●① 最判昭和59・5・29民集38巻7号885頁② 最判昭和61・2・20民集40巻1号43頁③ 最判平成23・11・22民集65巻8号3165頁●判例●1 弁済者代位の要件弁済された被担保債権は原則として消滅するが、その例外として、弁済者は債務者の承諾を強制している。これにより、本来は消滅するはずの被担保債権は、その求償権を確保するために存続するのである(504条1項)。これは、弁済者が債務者の承諾を得て代位したことによる。すなわち、弁済者は、第三者である(499条)。②代位に対する求償権の基礎となる権利が必要となることがある。ただし、弁済するについて正当な利益を有する者(保証人、物上保証人、抵当不動産の第三取得者など)は弁済者として当然に代位する(法定代位、500条)。そうすると、事前に求償権を放棄していたといった特段の事情のない限り、保証人は弁済するについて正当な利益を有しないことになる。弁済者代位に関する求償権(459条~462条)のほか、弁済者は代位によって求償権を担保するために被担保債権に付着した担保権も取得する(これには物上保証人の相互間の問題を含む。)。2 弁済した保証人と主たる債務者の間における代位の効果Yの受託した保証人であるAが弁済すると、その弁済額についてYに対し求償する。2つの権利は別の債権であって、いずれを行使するかはAの選択に委ねられる。本問では、求償権の損害金の支払いが年10パーセントである。しかし、かわりに求償権の損害金の割合が債権者のそれより高かったとしても、Aがその全額を主張できるわけではない。これは、弁済者代位による権利行使の求償権の範囲に制限されるからである(501条2項)。3 法定代位権者相互の関係弁済者代位によってAはXに対する原債権とともに、その担保権を取得する。もしXに弁済者が複数いる場合には、それぞれ代位することができる(501条3項)。AとBおよびCは保証人と物上保証人の関係にあり、AC間では弁済者代位が問題となるからである。Bに対する求償権の額も、AがYに対して有する求償権の範囲に限られる(501条2項)。◆発展問題◆資金繰りに苦しんでいたY会社は、2024年秋以降、従業員(以下では、Yの従業員を「X」とする)への給与支払が滞り、債務が社内に広がっていた。Yは、Yの兄のA会社に対し、「来客に振る舞うお茶菓子を買うため」と称して、Xに対する弁済を目的とする借入れを依頼し、これを引き受けたAから借入れをした。これを受けたAは、Yの代表取締役であるBと、Yがただちに営業を中止するという事態は避けがたかった。そのため、同年12月28日、YとAは2025年1月分から3月分までの給与債務に関して包括的な根保証契約を締結し、AはXの承諾を得た。そのうえで、各月の給与支払日には総額1000万円の平均的な給与をXに支払った。その後の2025年3月1日にYは経営破綻の危機を申し立てており、同月20日には破産手続開始決定を受け、Bが破産管財人に選任された。Aは破産管財人Xの給与債権を代位行使し、Bに対して1000万円の支払を求めた。この請求は認められるか。●参考文献●*森光・百選Ⅱ 74頁/関「民法(債権関係)改正法の概要と要点」(令和元年)11頁/千葉「民法(債権関係)改正法の概要と要点」(平成24年度重要判例解説)77頁