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転貸借

Aは、所有する甲土地に地下1階・地上5階建ての乙ビルを建築し、親族が経営するB会社(以下、「B」という)との間で、乙ビル1棟を賃料月額700万円(毎月末日に翌月分前払い)、2020年10月5日から10年間賃貸する旨の賃貸借契約を締結した。その際、権利金および敷金は特に授受されなかった。また、乙ビルの利用方法についてはすべてBの判断に委ねることにした。上記契約に基づいて、乙ビルはBに引き渡され、Bは本社として乙ビル全体を利用していた。ところが、2021年夏頃、営業停止処分を受けたことから、Bの業績は急速に悪化した。そこで、Bは、不採算部門を縮小し、2022年4月1日に、乙ビルの地下1階部分について、居酒屋を営むC会社(以下、「C」という)との間で、賃料月額100万円(毎月末日に翌月分前払い)、期間を5年とする賃貸借契約を締結し、Cはその後に代金300万円をBに支払い、Cは同年5月1日に入居し、その後、約定どおりに賃料を支払っていた。しかし、Bの業績はその後も悪化し、2023年9月分からAへの賃料を滞納した。このため、Aは、2023年11月1日付けで、2週間以内にBが未払賃料を支払わない場合には、甲ビルの賃貸借契約を解除する旨の内容証明郵便を送付し、同月11月2日、Bに上記郵便が到達した。同12月15日、Bは事業を廃止し、未払賃料は結局支払われなかった。Cは同年12月分までの賃料はすでにBに支払済みであり、Bの同意を得、BのAへの賃料はBからAに直接支払うとしていたが、Aはこれを承諾しなかった。Aは、2024年2月2日に、Cに対し、甲ビルの地下1階部分の明渡しを求めて訴訟を提起した。Aの請求は認められるか。●参考判例●① 判例昭和36・12・21民集15巻12号3243頁② 最判平成9・2・25民集51巻2号398頁●判例●1 AのCに対する明渡請求の根拠と争点Aは乙ビルの所有者であるから、所有権に基づき返還請求を根拠にCに対して乙ビルの地下1階部分の明渡しを求めることが考えられる。Cからは、本件占有をAに対抗しうることを理由に、地下1階部分を占有する権原があると反論がなされることを考慮すると、Aとしては、A・B間の賃貸借契約が賃料不払を理由として契約が解除されており、もはやCは転借権を根拠に占有権原があると主張することはできないと再反論する必要があることになろう。また、A・C間には直接の契約関係がないが、民法613条1項に基づいて、転貸人が賃借人に対して負う賃貸目的物の返還義務を履行することが考えられる。賃貸借契約に基づく賃貸目的物の返還請求権を根拠に明渡請求を提起する場合には、A・B間の賃貸借契約が解除されており、したがって、CがAに対して賃貸目的物の返還義務を負っていることを主張することが必要となる。したがって、AのCに対する訴訟に基づいて訴訟物を特定する場合であっても、信頼関係の破壊を理由として賃貸借契約が解除された場合には、転貸借契約の効力がなくなりCからの明渡しを請求する余地がある。2 原賃貸借契約の不履行解除と転貸借Cは、賃貸人の承諾ある転貸借の地下1階部分の占有権原を有している可能性あり、したがって、所有権に基づく返還請求権を根拠とするAの請求は認められない。しかし、原賃貸借契約の債務不履行を理由として賃貸借契約が解除されると、それにともない転貸借も終了するのが原則である(最判昭和36・2・21民集21巻号326頁参照)。ただし、建物賃貸借などの居住用建物の賃貸借の場合だけでなく、事業用の建物の賃貸借においても、BがCに乙ビルの地下1階部分の引渡しを受けていることから、Bの賃借権も、対抗力のある賃借権である(借地借家法31条)。そこで、判例の中には、原賃貸借契約の解除を適法な転借人に対して主張するためには、転借人に対して、原賃借人の未払賃料の催告をなす必要があるとした上で、その後の代金の支払を催告する必要があるとする見解がある。これは、原賃借人の未払賃料について転借人に第二次的弁済の機会を与え、原賃貸借契約の継続を回避させようとするものである。しかし、判例(最判昭和37・3・29民集16巻3号603頁)は、賃料の延滞を理由として賃貸借契約を解除するためには、転借人に対して催告しなければならないが、賃料の支払の機会を与える必要はないとしている。原賃貸借契約の当事者ではない転借人に対する催告を賃貸借契約の解除をその要件として加えることを理論的に説明することは難しいこと、また、原賃貸借契約を承認したことによって、賃貸借契約上、原賃借人は原賃借人との関係で、転借人に賃貸目的物を使用収益させる義務を負っているわけではないからである。転貸借の承認は、原賃借人の使用収益権限の範囲内で、原賃借人以外の第三者が賃借人と独立して賃貸目的物を使用収益することを容認しているにすぎないものと解される。3 原賃貸借契約の終了と転貸借の関係原賃貸借契約は、契約の当事者を異にする別個の契約である。したがって、理論的には、原賃貸借契約が解除されたからといって、転貸借契約が当然に終わるわけではないことになる。契約の効力は、契約の当事者間でしか生じないのが原則であるからである(契約の相対効の原則)。しかし、参考判例①は、「賃借人がその債務の不履行により賃貸人から賃貸借契約を解除されたときは、賃貸借契約の終了を転借人に対抗し得た。そもそも、賃貸借の終了を目的とするものを相当とする」と判示した判決の趣旨を汲んで、土地賃貸借の転貸人に対する土地明渡請求を認容している。2017年民法改正によって、上記判例理論は、承諾のある場合に、賃貸人が賃借人の債務不履行を原因として解除権を有しているときは、原賃貸借の解除をもって転借人に対抗できるとする規定によって明文化されることになった(613条3項ただし書)。この結果、転借人は、債務不履行解除を原因とする原賃貸借契約の終了によって、転借権に基づいて占有権原があるとはいいえないことになるが、なぜこの場合に転貸借契約も当然終了するのかについては、改正後も判例理論として解されることになる。この点、参考判例②は、原賃借人が転貸人の賃料不払を原因として原賃貸借契約が解除された場合に、転借人が転借権の消滅を承諾せざるを得なくなるかどうか問題となった事案において、原賃借人が賃借人の債務不履行を理由とする契約解除により終了した場合、転貸借は、原則として、賃貸人が転借人に対して目的物の返還を請求した時に終了すると判示した。これらの判例の考え方からすると、原賃借契約が終了した場合の転貸借契約の効力については、以下の2つの説明の仕方があるように思われる。①一つは、原賃借契約の転貸借の承認を、「賃借人が転借人を使用収益するだけでなく、賃借人が第三者に使用収益させることも可能とする権能と捉え、転借権は原賃借権の債権(賃貸目的物を使用収益する権能)に内包されていると説明する法が考えられる。この見解では、原賃貸借契約が転貸借契約とは別の契約であるため、賃貸借契約を解除した場合には、転借人は賃貸借契約がないから、転借人は転借権を有効に主張できないとする理解が前提となり、承諾転貸であっても原賃貸借契約が終了すれば転借権を原賃貸人に主張できなくなると解することになる。つまり、上の見解では、民法613条の「承諾」は、賃貸人による転貸借契約を承認するという効果を生じていることになる。もう一つは、原賃貸借契約の終了が終了したとしても転借人に対して、転貸人は対抗しうるとしても転借人に対抗しえない結果、転貸人の転貸借契約の履行が不能となると考え、転貸借契約の債務不履行を構成する(転貸人の担保責任)との理解もある。転貸借契約を解除するに足りるほどの債務不履行であれば転貸借契約は解除しうる。第1の見解では、原賃貸借契約が信頼関係の破壊を理由に終了した場合、これに準じて、第2の見解では、両契約が別個の契約であることを前提としながら、転貸借契約も、転貸借による使用収益させる義務の不履行を原因として転貸借契約自体が終了すると構成されており、このことが判例の立場である。参考判例②でも、賃貸人から請求された時点で転貸借契約は終了することになるから、賃貸借契約の終了により転貸人の義務が消滅することになる。もっとも、転貸借契約につき転借人の解除の意思表示が必要かどうか、また、転貸借契約において転貸人に帰責される債務不履行の理由を何とするのかをめぐっては、第2の見解に立つ学説内部でも見解の対立がある。参考判例②の事案と異なり、賃貸人が転借人に賃貸目的物の返還を催告する見解と、賃貸人が事業上転貸人に使用収益させることができなくなったと判断する見解、転貸人が不履行を原因として転貸人に解除の意思表示をした時点であると解する見解がある。原賃貸借契約の合意解除をもって転借人に対抗できないとする判例(最判昭和32・2・21民集11巻1号219頁、最判昭和34・12・17民集13巻3号460頁など)が民法613条2項本文として明文化されたこと、原賃貸借契約ではあっても、信頼関係が破壊されていることを理由として民法612条に基づいて原賃貸借契約を解除できる場合には、原賃貸借契約の合意解除をもって転借人に対抗できないとする判例(最判昭和62・3・24判時1235号61頁)があること、さらには、サブリースの事案ではあるが、原賃貸借契約の期間満了をケースについても、原賃貸借契約が当然に終了するわけではないとする判例(最判平成14・3・28民集56巻3号602頁)からすると、個々の事情に基づいて判断されるものと解される。なお、建物賃貸借が終了に伴って転貸借契約が終了する場合には、転借人を保護するために、賃貸人は転借人に対して通知をしなければ対抗できない(借地借家法34条1項)。通知したときは、建物転貸借はその通知がされた日から6か月の経過をもって終了する(同条2項)。◆設問問題◆AがBから自転車を月額1000円で1年間(4月1日から翌年3月31日)賃借し、通勤に利用していた。ところが、CがBからAの自転車がCの所有物であることを聞いた。Cと交渉したが、Cから遠く返還を求められたことから、AはCから8月1日に自転車を返した。AはBから9月分までの賃料合計3000円をBに支払っていたものとする。(1) Cは、AとBがBに支払うべき7月分から9月分の賃料相当額4000円の返還を求められるか。(2) BがCに対して7月分の賃料1000円の支払を請求してきた。AはBにこれを支払わなければならないか。●参考文献●*吉田克己=高見沢=大久保=物権法=143頁/山下純司=契約法=平成9年(2)220頁/千葉恵美子=民法Ⅰ=30頁/中田=431頁 (千葉恵美子)