数量不足を原因とする責任
Aは、自己の所有する土地にAの費用で建物を建設するのに適当な土地を探していた。不動産業者Bは、P市役所に勤務する自己の友人C(以下、「本件土地」という)をAに紹介した。Aは、Cとの間で本件土地の売買契約(以下、「本件契約」という)とともに、P市に申請するための公簿上の面積165.5平方メートルと記載のあった、AはCとの話合いで本件土地は閑静な住宅街にあり、Aが計画している建物を建築するのに好適であったが、Aは本件土地の購入後の測量の結果、5000万円で本件土地を買い受けることになった。そこで、Aは、本件土地に隣接する場所の建物を建築した場合の眺望を害しうるかたちで、借地権を取得を100万円にならないかなどと折衝した。Bはそれでもよいという趣旨の回答を得た。また、Aは、本件土地の実測面積をBに尋ねたところ、Bは公図の写しをAに交付した。この公図には、面積が50坪である旨が記載されていた。Aはこれをみて、本件土地の実測面積が50坪であると理解した。こうして、AとCとの間で、本件土地を5000万円でBから購入する旨の契約(以下、「本件契約」という)を締結して、登記簿には、本件土地について、実測面積の50坪(165.5平方メートル)と記載されていたが、地積測量図には記載されていなかったが、本件土地の引渡後、本件土地の実測面積が実際には47坪(約148.5平方メートル)しかないことが判明した。Aは、BにCを介して代金減額を主張し、さらに、地上建物の建築面積が小さくなることで建築予定よりも規模を縮小せざるをえなくなるなどと述べて、これによる損害賠償を求め、BもBがこれに応じないならば本件土地はいらないので契約を解除すると主張した。このようなAの主張は認められるか。●参考判例●① 判例昭和43・8・20民集22巻8号1692頁② 最判平成13・11・22集民203号743頁③ 最判昭和57・1・21民集36巻1号71頁●判例●1 数量不足の法的性質売主は、種類、品質または数量に関して契約の内容に適合した目的物を買主に引き渡す義務を負う。このため、引き渡された目的物が契約内容に適合していなかった場合、買主は、売主に対し、履行の追完を請求することができる(562条1項)。さらに、買主は、催告なしに、一定の要件の下で、代金減額請求(563条・541条)をすることができる。裏を返せば、契約内容に適合した目的物を引き渡さなかった売主は、これらの責任を負う。このような売主の法的性質をめぐり、2017年改正によってこの争いに終止符が打たれることになった。前述のとおり、売主は、契約内容に適合する目的物を引き渡す義務を負っているのであるから、この義務に違反することは債務不履行であり、したがって、売主が負う上記の責任は、債務不履行責任の一種と位置付けられる。このことは、買主の損害賠償請求権についても債務総則規定である民法415条が準用され、契約解除についても契約総則規定である民法541条および542条が準用されていることにも表れている。2 数量不足と契約不適合売買された目的物の数量に関する認識が契約の内容に適合していないことを、契約不適合という。契約書に目的物の数量に関する記載がある場合において、その数量を満たしていないことは契約不適合に当たりうるが、常にそうなるとは限らない。単に目的物の数量が契約の中で表示されているだけでは、当該目的物がその数量を有することが契約内容となると、言い換えれば、当該目的物が一定の数量を有する目的物を引き渡す義務を負うことを意味する。たとえば、当事者において目的物の数量に関する合意をすること、その一定の面積、容積、数量、員数または尺度があることを売主が契約において表示し、かつ、この数量を基礎として代金額が定められた場合に、はじめて、目的物がその数量を有することが契約の内容になったことを示す重要な事情となると解される(参考判例①)。土地の売買では、目的物を特定表示するのに登記簿の記載の坪数を掲げるのが不動産の取引における慣習であるため、登記簿記載の坪数は必ずしも実際の坪数と一致するものではない。このため、登記簿記載の坪数が売買契約書に記載されているだけでは、目的物たる土地の登記簿記載の坪数を有することを売主が表示したとただちにいうことはできない(最判昭和14・8・1民集18巻837頁)。たとえば、目的物たる土地を特定するだけの意味合いで、登記簿の記載がなされた坪数が契約書に書かれるにすぎないと解される場合もあるからである。他方で、契約書記載の公簿面積のみが記載されている場合でも、当事者において公簿面積の坪数を基礎として同じ価格で面積に比例して代金額が算定されることがある(参考判例①)。この争いは終結したが、土地の売買契約で数量不足の契約不適合が肯定されることがある(参考判例①)。本問では、契約書に公簿面積の記載がされているだけでなく、坪単価は記載されていない。しかし、本件土地は広大な山林等ではなく住宅街にある規模な土地であって、Bの仲介により行われた点に付随して代金交渉が行われている。これに照応して両当事者の交渉が行われたこと、Aは、本件土地の実測面積について価格交渉がなされたこと、および、Aは、本件土地の実測面積の公図に記載された坪数と同じと認識しており、Aは6坪も本件土地が公簿面積からずれると、単純にこの坪数を乗じて代金額を算定したのであることから、本件土地が公簿面積を有することが契約内容となったと解する。3 買主の権利本件土地が数量に関する契約不適合と評価される場合において、前述した買主の権利が認められるためには、さらにどのような要件が必要であろうか。第1に、追完請求権については、追完が可能であること、契約不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものでないことである(562条2項)。これに対し、契約不適合が売主の責めに帰すべき事由によるものであることは必要ない。本問のように目的物が土地の場合、隣地が他人の所有地であることの理由から不足分の土地を引き渡すことができず、追完が不可能と評価されることが多いであろう。第2に、代金減額請求については、追完が可能な場合は、買主は、相当期間を定めて追完を催告し、この期間内に追完がない場合にはじめて代金減額を請求することができる(563条1項)。追完が不可能な場合は、催告は無意味であるから、無催告で代金減額を請求することができる(同条2項)。第3に、契約解除についても、買主は、追完が可能な場合は催告を経由して解除することができ(541条)、追完が不可能な場合は、民法542条1項各号の要件を満たせば無催告で解除をすることができる(542条2項)。本問が後者の場合に当たるとすれば、残存する部分だけでは契約目的を達することができないこと等の解除の要件となる(同項3号)。本問では、本件土地の面積が不足してもその程度が小さく(有効なもの)として使用する建物の建築ができること、Aは本件土地の面積よりもむしろ立地を気に入り購入に心をもっていたことがうかがえることから、この要件を満たすとは考えにくい。第4に、損害賠償請求については、債務不履行に基づく損害賠償に関する通則に従う(564条参照)。したがって、契約不適合が、契約および取引上の社会通念に照らして債務者たる売主の責めに帰することができない事由によるものである場合は、買主は損害賠償を請求することができない(415条1項ただし書)。本問では、本件土地の公図に50坪という記載があり、Bはこれを実測面積と同じであると認識したとみられる。しかし、Bは不動産業者であり、一般的には登記簿面積が実測面積と異なることがありうることを知っていたはずであるともいえる。さらに、本件土地の面積が契約内容に適合していないことによって、Bがどのような損害を被ったのかも問題となる。不足分である3坪の価値相当額(300万円)については損害に含まれるとしても(代金減額請求する場合を除く)、当初予定よりも土地が少なくならざるを得なくなったことによる損害については、なお検討すべき問題がある。なぜなら、費用の項目は、客観の数だけでなく、現実される損害の質や価値によって大きく左右されるものであって、地上建物の費用の内訳を当初予定よりも少なくせざるを得なくなったからといって、予定どおりの客観数であった場合に比べて費用が低くなるものとは直ちになりえないからである。もっとも、当初の事業それ自身の価値を観念することは可能であり、その事業価値は建物の規模、すなわち客観の数によって変わる可能性がある。この観点から損害を観念するならば、上記の問題を克服できるかもしれない。4 損害賠償の範囲本問において、数量に関する契約不適合を理由にAがBに対して損害賠償を請求することができるとした場合、賠償の範囲はどのように算定されるのであろうか。前述のとおり、数量に関する契約不適合は債務不履行と位置づけられるので、賠償の範囲は、民法416条に準じて算定される。すなわち、数量不足によって買主が被った損害のうち、数量不足によって通常生ずべき損害、およびBが可能性のある特別事情から生ずべき損害が、賠償されるべきことになる。その結果、履行利益も、それだけで一律に賠償が否定されるのではなく、賠償の範囲に含まれることがある。本問では、不足分である3坪の価値相当額が賠償の範囲に含まれることは明らかであるとしても(416条1項)、本件土地の価値が3坪分不足していたことによる減収(このような事態を認識することができたとした場合)ないし費用の内訳の事業価値の減少については、特別事情によって生じた損害(同条2項)と解されるため、Bにおいてこのことを予見できた可能性があると評価するか否かによって結論は分かれる。その際、Aが本件土地に建物を建設して利用する意思を予見することをBが負っていたこと、Aは本件土地が50坪の面積を有することに特に重要な意味であると認識していたか疑わしく(BがAの意思をどのように理解していたかといったように見受けられるといった事情が考慮されることになるだろう)(参考判例②)。◆関連問題◆和歌山県内でスーパーマーケットを営むAは、マグロの刺身を特売品として販売することを予定し、3月3日の折り込み広告に「和歌山産マグロの刺身を限定200パック」と記載して宣伝した。同日早朝、Aは魚市場に赴き、水産業者Bに折り込み広告のことを伝え、200パック分の刺身がとれる大きさのマグロが欲しいが適当なものがあるか否かを尋ねた。Bは、100キロ超級でないと200パックの刺身はできないと答え、これに見合うマグロ(以下、「本件マグロ」という)をAに示した。本件マグロのいれられた箱には「100キロ、和歌山産、キロ3000円」と書かれていた。こうして、Aは、Bとの間で、本件マグロ1本を購入する旨の契約を結んだ。代金額は、30万円と合意された。Aが本件マグロをスーパーマーケットに持ち帰り調理したところ、その重量は90キロしかなく、これを刺身にしたところ180パック分しかできなかった。契約から2日後の3月5日の時点において、Aは、Bに対して、どのような法的手段を講ずることができるか。なお、Aはまだ代金を支払っていない。●参考文献●*森田宏樹・百選Ⅱ 106頁/田中洋『数量に関する契約不適合と損害賠償の内容』岡山大学法学会雑誌70巻3号(2021)271頁/中田・契約法 326頁 (松井和彦)