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当事者能力

Yはいわゆる権利能力なき社団会のゴルフ場を運営する株式会社であり、Xは本件ゴルフ場の会員によって組織され、会員相互の親睦等を目指すことを目的とするクラブである(なお、Xには定款はあるが、規則等にもとづき活動を管理する方法について具体的に定めた規定もない)。XとYとの間には協約が締結されており、そこでは、Xは一定の要件を満たす場合に、Yの経理内容を調査することができる旨の規定がされていた。Yは、いわゆるバブルの崩壊を受けて経済状況が悪化の一途を辿っており、会員に対する預託金の返還が困難になり、預託金の返還猶予を求める状態にあった。そこで、Xは本件協約に基づき、Yの計算関係書類等の謄本の交付を請求したが、Yは応じようとしなかった。そこで、Xは訴えを提起して、上記謄本の交付を請求した。この訴訟において、Yは、Xは固定的資産を有しておらず、他にYの財産から独立して積立基金となり得るX固有の財産は存在せず、また経理書類の作成についても具体的に定めた規定がないので、独立した権利義務の主体たるべき社団としての財えい的基礎を欠くと主張して、Xには当事者能力が認められないとして、訴えの却下を求めた。裁判所はどのように判断するべきか。●参考判例●① 最判平成6・7・14民集56巻5号899頁② 最判昭和37・12・18民集16巻12号2422頁③ 最判昭和42・10・19民集21巻8号2078頁●解説●1 法人格のない団体の当事者能力ある法主体が民事訴訟において当事者となるためには、その者に当事者能力が認められることが大前提となる。民法上の権利能力が認められる主体(自然人・法人)については当然に当事者能力が認められるが(28条)、実体法上法人格を有しない団体が当事者能力を有するかがは1つの問題である。法人が一体となって社会に活動をしている以上、その団体を当事者として紛争解決を図ることが団体にとっても紛争の相手方にとっても便宜に資する場合も多い。そこで、法は、法人でない社団または財団であっても、一定の要件を満たす場合には当事者能力を認めることとしている(29条)。ただ、問題は、どのような要件を満たしていれば、このような団体にも当事者能力が認められるかである。この点について、一般的に団体の目的を主としたと考えられている判例として、参考判例③がある。これは、特定地域の住民によって構成される団体が当事者能力を有するかが問題となった事案であるが、判例は、実体法上の権利能力なき社団の要件を満たすには当事者能力を有するものとして、実体法上の団体と手続法上の団体を一致させたものである。この判決ではその点については理由は示されておらず、当然の前提であるかのように民事訴訟法46条(現29条)にいう「法人でない社団」とのみ規定しているので、実体法上権利能力なき社団を問題とすることに相当であるし、実体法上権利能力なき社団という概念の下で独立した目的を達成する、構成員から独立した団体という要件のほか、社団の取引相手等を保護する趣旨に鑑みると、その要件を満たすに足りる組織を備えることなども自然であるといえる。そして、そのような前提の下では、組合が民法上の要件を満たしているかどうかが問題となる。最高裁昭和39・10・15(民集18巻8号1671頁)がその要件を明示しているが、そこでは、①団体としての組織性、②多数決の原則、③構成員の変更に影響されない団体の存続(対内的独立性)、④団体としての主要な点(代表方法、総会運営、財産管理等の規定が挙げられている(これは民法学の通説の考え方を引用したものとされる)。参考判例③でとくに問題とされた点は、本問地方公共団体の下部組織にすぎないのではないかという点であった。仮に地方公共団体の下部組織にすぎなければ、団体としての組織性ないし対外的独立性を欠き、独立の主体とはいえず、権利能力なき社団としては認められないことになる。しかし、本件団体は、特定地域の住民を構成員とするが、それも住民が当然に構成員となるものではなく、加入には住民の承諾等を必要とし、現に加入していない区域内の住民もおり、その一定の住民を排除する規定も存在せず、行政区画とは異なり、そして、上記4つの要件についてはもはや問題ないものとされ、権利能力なき社団としての性質が認められたものである。これに対して、「訴訟法上当事者能力を有する」とは実体法上の権利能力なき社団であるという通説がある。この判例は、あくまで裁判所が報告を権利能力なき社団と認定したことの当否を論じているのであり、権利能力なき社団に当たるか否かを当事者能力を判断することで足りると考えていることを意味していないと思料されるからである。しかし、この点は、参考判例③においては、「民訴法29条にいう『法人でない社団』に当たるとうためには、団体としての組織を備え、多数決の原則が行われ、構成員の変更にかかわらず団体そのものが存続し、その組織において代表の方法、総会の運営、財産の管理その他団体としての主要な点が確定していなければならない」とされ、民事訴訟法29条の「法人でない社団」と民法上の権利能力なき社団の要件が完全に同一視されている。これにより、少なくとも現在は判例法理が民法上の要件を満たさない場合には、当事者能力が認められないとの判例が確立しているとみられる。その結果、権利能力なき社団の要件を満たしているといえるかは、法人でない社団の組合について当事者能力が認められるかが問題となる。当事者能力については、参考判例②がある。これは、民法上の組合について当然に当事者能力を認めるものではない。この判決と後述判例との関係については、さまざまな見解がありうるが、少なくとも現在では、民法上の組合については…2 財産的基礎の必要性以上のように、現在は当事者能力の権利能力なき社団の要件を満たすかどうかが当事者能力を認める判断基準になると解されるが、その際に団体の財産との関係は、財産に関する要件である、判例も「財産的基礎のしっかりした団体として財産を管理していること」が求められてくる。本問のように、団体の財産管理の方法についても具体的に定めがないような場合に、当事者能力が認められるかという問題である。この点について判断した判例として、参考判例①がある。これは、財団の財産について、上記判例②の判断枠組みによれば、必ずしも固定資産ないし基本的財産を有することは不可欠の要件ではなく、そのようにみなしうる実質的な基礎をおいてもよい。具体的には、団体の目的、内部的に活動するための必要に応える財産を保有し、かつ、その収支を管理する体制が備わっているなど、他の諸事情と併せ、総合的に勘案して、判例も「法人でない社団」として当事者能力が認められる場合があるとしたものである。判例では、実質的な財団的基礎の存在、つまり財産面での構成員からの独立性(財産の独立性)が独自の要件となるとは明確ではない。学説は、構成員から独立して管理される独自の財産の存在を必要とする見解もあったが、金銭請求の場面となる場合は要件となるが、それ以外の場合には独立の基礎とはならないとする見解や独立の財産を特定する見解もあった。参考判例①は最後に見解を援用したものとみられる。ただ、参考判例①も、財産的基礎をまったく不要とするものではなく、「固定的資産ないし基本的財産」までは必要なく、「必要な収入を得る仕組み」や「収入を管理する体制」などが備わっているといった総合的な考慮をすべきものとしており、財産の財産的基礎はやはり必要と考えているものとみられる。団体固有の財産を完全に欠如して団体の運営が可能であるとは考えにくい。参考判例①の下でもやはり財産的基礎は団体性を検討する重要な要素の1つであることは否定されず、本問の場合には、Yの主張どおり、そのような財産を取得する見込みを管理する法人格を前提とする必要がある。仮に、そのような判断を変化するものを、代表者がいるか、法人格を管理する団体があるかなどが備わっているといえるか、さらに判断を要するものと解される。3 当事者能力の実体―当事者適格最後に、実体法上権利能力が認められない主体に当事者能力が認められる場合、その判断はどのようなものであろうか。当事者能力が認められても、その者に判決効が及ばない以上、その者の実体権が帰属することを前提とした判決はすることができないと解されるからである。この点について、当事者能力が認められる以上、当該訴訟手続の限りで権利能力も認められるべきであるとする見解も有力に存在する。しかし、それは判例の採用するところではないとみられる。例えば、最判昭和47・6・2(民集26巻5号957頁)は、権利能力なき社団に帰属する不動産に係る登記請求をする場合には、社団の名義の登記請求はできず、代表者個人名義の登記を求めるべきことを示唆する。この判決は、登記請求の場面において、権利能力なき社団に当事者適格を否定する趣旨とも解されるが、一定の場合に、当事者適格を認める判例として、最判平成6・5・31(民集48巻4号1085頁)は、入会団体が当事者能力を前提に、「財産権が法人格団体を形成し、それが権利能力のない財団に当たる場合には、構成員全員の総有に属する不動産につき、これを争う者と被告とする共有権確認請求訴訟を提起する資格を有するものと解するのが相当である」とした。入会権の対外的な主張における原告適格についてであるが、権利主体である村民全体の共有に関する場合についても、権利の帰属主体である村民全体の共有に帰属するとするものであるが、共有である(最判昭和41・11・25民集20巻9号1921頁)、本判決は手続上の便宜から団体自身にも当事者適格を認めたものである(最判平成26・2・27民集68巻2号192頁も、社団の原告適格を認めるが、登記名義については信託法上も同様と解する)。これは、実体権は団体構成員に総有的に帰属することを前提にしながら、団体に訴訟担当(法定訴訟担当か任意的訴訟担当かは議論がある)としての当事者適格を認めたものである。以上のように、権利能力なき社団に当事者能力を認めるか、問うかだちに解決するわけではなく、そのような主体に実体権を認めるかどうか、実体権を認めない場合にどのような論理で当事者適格を認めるか、その場合にどのような要件や訴追添付を認めるか、などさまざまな派生問題が生じることに注意はしなければならない(さらに権利能力なき社団を被告として判決をした場合に、その強制執行がどのようになるのかも問題となる。1つの判決を示した判例として、最判平成22・6・29民集64巻4号1235頁参照)。●参考文献●中島弘雅・争点58頁/栗原伸輔・百選18頁/酒井博行・百選20頁/工藤敏隆・百選22頁/山本弘「権利能力なき社団の当事者能力と当事者適格」新堂古稀849頁(山本和彦)