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共有物の登記

Aは地方都市の資産家である。Aに配偶者はおらず、子X・B・C・Dがいる。Aの子Bは、運送業をするなどして生計を立てていたが、賭博等により生活が乱れ、困ったあげく、2018年10月、中等学校の先輩であり、かつ、暴力団の副会長であるYから3500万円を借り入れた。2021年9月9日に登記され、居宅が差押えされた。Aの死亡により、Aの唯一の相続財産であった本件土地は、Aの子X・B・C・Dが共同相続した。Bは、2021年9月18日付けで、本件土地につき、同月9日相続を原因として、X・B・C・Dの持分を各4分の1とする所有権移転登記を行った。さらに、Yに対して、同月9日代物弁済を原因とするB持分移転登記が行われた。なお、本件土地のY持分の時価は約9億円であった。2022年9月24日、BがAに対する殺人および現住建造物等放火の容疑で逮捕された。Bの供述によれば、動機は、返済に行き詰まったBが、Yから強要されたものであり、2020年10月頃、父A死亡によって法定相続された場合にBが取得する本件土地の持分を借入金の弁済に充てて弁済する旨の約定書類をあらかじめ準備していたとしていた。Bの刑事裁判は現在係属していない。なお、Bには子Eがいる。Xは本件土地の共有持分権に基づいて、Yに対して、BからYに対する持分移転登記の抹消登記手続を請求できるか。●解説●1. 共有者の1人による抹消登記手続請求共有者の1人は、共有物について、共有持分権を有する。共有持分権は所有権の一種であることから、共有者は共有持分権に基づいて物権的請求権を行使することが認められる。しかしながら、共有持分権に基づく抹消登記請求が認められるかという問題は、次の2点に留意して検討する必要がある。第1に、相手方が第三者であるか。それとも当該目的物の共有者であるか。第三者の登記原因として、その登記が無効であることと解されている。第2に、共有者による登記原因として、その登記が無効であることと解されている。これによれば、共有者の1人は、登記原因が無効であることと解されている。2. 本問における抹消登記手続請求参考判例①からすると、本問におけるYは共有者の1人ではないため、共有者Xによる保存行為(252条5項)も、考慮するべきである。ただ、従来の判例によれば、抹消登記手続を請求した共有者は、他人名義登記によって自己の持分権を侵害されているという事情がある。これに対し、本問で登記手続請求を訴える者は、自己の持分権を侵害されているわけではない。なぜなら、共有者X自身は、自己の持分登記を備えているからである。そのため、Xは、自己の持分部分の抹消登記を請求することはできないのである。しかし、参考判例③は、本問におけるXからの請求を認めた。その理由は、BからYへの不実の移転登記登記が、「共有不動産」に対する妨害状態を生じさせているから、とされている。共有者の1人は、持分権に基づき、物権的妨害排除請求権を行使できる。すなわち、不動産の共有者は1人でも、第三者に対して、物権的請求権(妨害排除請求)の行使として、自己の持分を超える部分について抹消登記手続を請求することができるわけである。この判例は、当該請求が物権的妨害排除請求権の行使であり、いわゆる保存行為(252条5項)に属するものであることを、請求の理論的根拠を表している。3. 抹消登記請求権の根拠参考判例①は、共有持分権に基づいて、共有物の妨害排除請求権の行使として、保存行為(252条5項)に属するものであることを、請求の理論的根拠を表している。これに対し、参考判例②は、共有持分権と登記手続請求権を区別して、共有者の1人は、共有物について登記手続請求権を有しないと解するのが相当であると判示し、共有者の1人は、共有物について登記手続請求権を行使できないと解するのが相当であると判示した。これによれば、共有者の1人は、共有物について、登記手続請求権を行使することができないと解するのが相当であると判示した。共有者の1人による抹消登記手続請求が、保存行為という根拠を用いた理由の1つとして、第三者に対する場合に共有者の1人による抹使登記請求の理論的根拠を、第三者に対する場合に共有者の1人による抹消登記請求を認めるか。4. 関連事案についての検討共有者の1人が、第三者に対する抹消登記手続請求であれば、常に共有者の1人だけで請求が可能といえるか、という点である。共有者の1人が、第三者に対する抹消登記手続を請求することができるわけではない。参考判例③は、X・A共有の不動産について、X・A・Yが、Yに対して抹消登記手続を請求することができるわけではないとした。●発展問題●Aは、長期で旅行した60代の女性。いろいろな社会事業を行っていた。Aは2022年10月27日に死亡した。Aの相続人は、妻のY、子のX・B・Cであった。長男のXは東京で生活していた。YはAの死亡後まもなく、本件不動産(土地・建物)について、相続を原因として、Y単独名義での所有権移転登記手続を行った。ところが、Aは、2019年12月23日、XにB・C等の割合(各3分の1ずつ)で、本件不動産を遺贈するとの公正証書遺言をしていた。Yが遺言書を偽造し、隠匿を原因とする上記所有権移転登記手続を行ったとして、Xは、Yに対して、本件不動産につき、Yへの所有権移転登記の全部抹消登記手続を請求できるか。●参考文献●七戸克彦・百選Ⅰ 152頁鎌田薫・リマークス29号(2004)14頁